2022.12.14
バイオマス発電の仕組みとは?メリットや燃料の種類・課題をわかりやすく解説!
脱炭素社会の実現に向けて、CO₂を排出しない再生可能エネルギーに注目が集まっています。今回ご紹介するバイオマス発電も、そんな再生可能エネルギーの一つ。バイオマス発電には、エネルギーをつくり出す際に「燃料を必要とする」という特徴があります。この点が太陽光や風力など、他の再生可能エネルギーと大きく異なる点です。
今回のY mediaでは、バイオマス発電の仕組みやメリット、今後の課題など、バイオマス発電の基本をわかりやすくお伝えします。
バイオマス発電とは?
バイオマスとは、生物(bio)の量(mass)を表す概念で、動植物などから生まれた生物資源の総称です。2002年に閣議決定されたバイオマス・ニッポン総合戦略においては「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されています。バイオマス発電では、建築廃材や食品廃棄物など、本来捨てられるはずであった生物資源を直接燃焼またはガス化して電気をつくります。
バイオマス発電の特徴
バイオマス発電の特徴は、大きく2つあります。1つは再生可能であること。先ほども述べたように、バイオマス発電の燃料の中心は、捨てられるはずであった廃棄物や未活用資源です。これらの資源は人間の手で繰り返し再生できるため、将来的にも枯渇の心配がないと言われています。
もう1つはカーボンニュートラルであることです。カーボンニュートラルとは、CO₂の排出量と吸収量が均衡している状態のことで、大気中のCO₂量を差し引きゼロにするという考え方です。
バイオマス発電では、間伐材や建築資材廃棄といった木質系の燃料が多く使用されています。有機物を燃焼するとCO₂が排出されますが、植物から排出される炭素は、もともと植物が成長の過程で光合成によって大気中から吸収したものであるため、トータルで見れば大気中のCO₂の量は変わらないと考えられているのです。
バイオマス発電の燃料
①木質系:林地残材、製材廃材
②農業・畜産・水産系:農業残渣(稲わら、トウモロコシ、もみ殻、麦わら)、家畜排泄物、糖、でんぷん、菜種、パーム油(やし)
③建築廃材系:建築廃材
④食品産業系:食品加工廃棄物、水産加工残渣(残りかす)
⑤製紙工場系:黒液(木材パルプを作るときに出る液体)、廃材、セルロール(古紙)
⑥生活系:下水汚泥、し尿、厨芥ごみ(台所から出る野菜のくずや食べ物の残りなどのごみ)
バイオマス資源は、木質系や農業・畜産・水産系などさまざまな種類があります。
これらの資源は、固体燃料、気体燃料、液体燃料などに変換され、発電や運送燃料に利用されます。ここでは代表的なバイオマス燃料の種類をご紹介します。
バイオマス燃料|①木質ペレット(個体燃料)
乾燥した木材を粉砕し圧力をかけて圧縮した固形燃料です。バイオマス発電の燃料の他にストーブの燃料としても活用されます。
バイオマス燃料|②バイオガス(気体燃料)
家畜の排せつ物や家庭や飲食店から出る食品廃棄物を微生物の力(メタン発酵)で発酵させて得る気体燃料です。燃えやすい性質があり、ボイラーの燃料やバイオガス発電などに使用されます。
バイオマス燃料|③バイオエタノール(液体燃料)
サトウキビやトウモロコシ、藻などの糖質やでんぷんを発酵・蒸留させてつくる液体燃料です。ガソリンと混ぜられ、自動車の燃料などに活用されます。
バイオマス燃料|④バイオディーゼル(液体燃料)
菜種油や廃食用油などをメチルエステル化して精製される液体燃料です。バイオエタノールと同様に化石燃料の代替燃料として期待が集まっています。
バイオマス発電の仕組みと種類
バイオマス発電では、動植物など化石燃料以外の生物由来の有機性資源を燃やし、その熱で発生した水蒸気によってタービンを回して発電します。基本的な仕組みは、火力発電と同じですが、燃焼させる燃料が異なります。
火力発電が石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料を使用するのに対し、バイオマス発電では農業廃棄物や間伐材、製材端材、食料廃棄物、家畜の排せつ物などのバイオマス燃料を使用します。
バイオマス発電の仕組みは、燃焼の方法や燃料によって大きく「直接燃焼方式」「熱分解ガス化方式」「生物化学的ガス化方式」の3つに分けられます。
バイオマス発電の仕組み|①直接燃焼方式
直接燃焼方式では、バイオマス燃料をボイラーで直接燃やして蒸気をつくり、その力を使って蒸気タービンを回して発電します。
発電の燃料となるのは、間伐材、残材、可燃ゴミ、精製した廃油などです。間伐材や残材は発電効率を高めるために、粉砕・圧縮され、木質ペレットや木質チップとして燃焼されます。
直接燃焼方式は、燃焼温度が上がりにくく、比較的大規模な設備に適した発電方式です。木質ペレットや木質チップのほかに、一般家庭や飲食店から出た可燃ゴミも燃料として活用されるため、発電所の近くにごみ処理施設が併設されているケースも少なくありません。
バイオマス発電の仕組み|②熱分解ガス化方式
熱分解ガス化方式では、バイオマス燃料をそのまま燃やすのではなく、高温・低酸素の環境で蒸し焼きにして得た燃焼ガスによってガスタービンを回し、発電を行います。燃料となるのは、間伐材、残材、可燃ゴミなど、直接燃焼方式と同様です。
水分を含んだバイオマス燃料を一度ガスに変換することで、燃焼温度が高くなり、規模の小さい発電所でも安定した発電が行えます。
バイオマス発電の仕組み|③生物化学的ガス化方式
生物化学的ガス化方式では、家畜の排せつ物や食品廃棄物、生ゴミ、下水汚泥などをメタン発酵させ、発酵によって生じたバイオガスを利用してガスタービンを回し発電します。
廃棄物を減らせるだけではなく、メタン発酵によって生じた残りカスも再生敷料や肥料として活用できます。
バイオマス発電のメリット
バイオマス発電の燃料は、現存の生物に由来しており、生態系を壊さない範囲で利用すれば、再生可能エネルギーとしてさまざまな可能性を秘めています。ここではバイオマス発電のメリットをご紹介します。
バイオマス発電のメリット|①カーボンニュートラルである
脱炭素社会の実現には、二酸化炭素の排出量を減らすことが大切です。しかし、長年化石燃料に頼ってきた私たちにとって、二酸化炭素を完全にゼロにすることは容易ではありません。
そこで、CO₂の排出量を減らすだけではなく、植物などに吸収される量を増やし、差し引きゼロにする「実質ゼロ」の状態を目指そうという動きが広がりました。これが先ほどもご紹介したカーボンニュートラルの考え方です。
光合成によりCO₂を吸収して成長するバイオマス資源を燃料とした発電は、カーボンニュートラルの特性があり「京都議定書」における取扱上、CO₂排出量を排出しないもの*とされています。
*出典:資源エネルギー庁ウェブサイト「バイオマス発電の特長」
カーボンニュートラルに向けて個人や企業ができることとは?脱炭素社会への取り組みを解説
バイオマス発電のメリット|①安定的に発電できる
バイオマス発電の燃料は、主に未活用の廃棄物です。そのため、太陽光発電や風力発電のように自然環境によって発電力が不安定になることはありません。燃料を安定的に確保できれば、天候に左右されることなく発電量をコントロールできます。
バイオマス発電のメリット|②廃棄物の再利用・減少に繋がる
食品廃棄物や建築廃材などは、利用されなければ廃棄物となります。本来捨てられるはずだった廃棄物からエネルギーを得ることで、廃棄物の有効活用や資源循環型社会の構築につながります。
バイオマス発電のメリット|③地域活性化に貢献できる
バイオマス発電は、活用する資源によって発電方法が異なり、さらにその資源は国内のあちらこちらに点在しています。そのため、バイオマス発電所も各地域の資源や特徴を活かし、小規模分散型で建設されています。
地域の特徴を活かしたバイオマス産業が広まれば、電力の地産地消が進みます。バイオマス資源を活用した新たな産業や雇用が生まれることで、地域経済の活性化に寄与できると考えられています。
バイオマス発電の発電量
続いて、日本国内のバイオマス発電の発電量について確認してみましょう。自然エネルギー財団による「日本のバイオエネルギーの発電量」では次のように報告されています。
バイオエネルギーの総発電量は、2019年度で313.6億kWh、2020年度は361.3億kWhであり、約15%増加していることがわかった。この増加は、バイオマス専焼の発電所によるものであり、基本的にはFITによる支援を受けたものであると考えられる。
出典:「自然エネルギー財団 日本のバイオエネルギーの発電量」より
固定価格買取制度(FIT)による発電量の増加
脱炭素社会を目指す上では、バイオマス発電をはじめとした再生可能エネルギーの普及がカギとなります。そこで再生可能エネルギー発電を行う事業者の増加を目指し、2012年に導入されたのが、固定価格買取制度(FIT)です。
FITとは、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度で、買い取り費用の一部は賦課金として電気利用者から徴収します。
対象となるのは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスのいずれかを使った発電で、国が定める要件を満たす事業計画を策定し、その計画が認められると、一定の期間その時点での電力の買取りが保証されます。
こうした支援のもとで、2012年以降、バイオマス発電は大きく成長しました。自然エネルギー財団の統計においても、2019年度から2020年度の総発電量の増加の要因は「バイオマス専焼の発電所によるものであり、基本的にはFITによる支援を受けたものである」と述べられています。
バイオマス発電の課題と今後
固定価格買取制度(FIT)の導入により広がりを見せるバイオマス発電ですが、今後国内でさらなる普及を目指す上で、解決しなければならない課題も存在します。
バイオマス発電の課題|①コストがかかる
バイオマス発電は、人件費や運搬費用など再生可能エネルギーの中でもとりわけコストが高いという指摘があります。太陽光、風力、地熱発電などは適切な場所に施設を設置すれば、あとは太陽や風のエネルギーによって自動的に発電できる仕組みになっていますが、バイオマス発電においては、資源の確保から運搬、加工まで、すべての工程に人の手を介在させる必要があります。
たとえば、木材を使ったバイオマス発電(木質バイオマス)では、林地から出た残材の運び出しを行う手間や、木質ペレットや木質チップに加工する手間など、燃料費一つをとっても非常に多くのコストがかかります。資源エネルギー庁の資料では、バイオマス発電にかかる費用の約7割を燃料費が占めている*と報告されており、コスト低減に向けた道筋の明確化が急務となっています。
*出典:資源エネルギー庁「持続可能な木質バイオマス発電について」
バイオマス発電の課題|②発電効率が良くない
バイオマス発電には、エネルギー変換効率が悪いという指摘もあります。発電効率とは、エネルギーをどれだけ電力に変換できるかを示す割合のことで、数値が高いほど発電効率は良くなります。バイオマス発電の仕組みでも触れたように、水分を含んだバイオマス燃料は燃焼温度が上がりにくいという性質があります。特に燃料を直接燃やしてタービンを回す「直接燃焼方式」では、その傾向が顕著です。バイオマス発電の全体の発電効率は約20%と低い水準に止まっており、発電効率約55%の化石燃料の代替としてはまだまだ心もとない印象です。
ヤンマーの取り組み!「食品残さ」を熱と電気に交換する資源循環型バイオガス発電
ヤンマーでは、さまざまなバイオマス資源を用いたエネルギー変換に挑戦しています。2002年からは、畜産や食品系廃棄物から発生するバイオガスを用いたコージェネレーションシステムの開発をスタート。現在では、多くの企業に導入され、廃棄物の低減や省エネルギー、CO₂の削減に貢献しています。
Ymediaでは、そんなヤンマーの「バイオガスマイクロコージェネレーション『CP25BG』」を導入いただいた(株)大和川食産を取材。野菜の切れ端など、毎日約10t出る「食品残さ」を活用し、資源・エネルギーの循環型事業を進める、代表取締役の西村社長にお話を伺いました。こちらも併せてご覧ください!
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バイオマス発電の仕組みを理解して循環型社会の形成を|まとめ
建築廃材や食品廃棄物など、本来捨てられるはずであった生物資源を活用したバイオマス発電。その仕組みからは、かけがえのない資源を大切にする「MOTTAINAI(もったいない)」の精神や地球へのリスペクトを感じます。
しかし、バイオマス発電の仕組みを理解しないまま「バイオマス発電なら環境に良いに決まっている」と判断するのは少々危険です。バイオマス発電が他の再生可能エネルギーと大きく異なるのは、燃料となる資源を必要とすること。発電の仕組みに加えて、資源調達や運搬、加工の段階でも、「CO₂の削減に繋がっているか」立ち止まって考えることが大切です。
Y mediaではこれからも“A SUSTAINABLE FUTURE”の実現に向けたヤンマーの取り組みを発信していきます。限りある資源を大切に。そして、持続可能な社会の実現に向けてできることを、私たちと一緒に考えてみませんか?