2022.11.30
新規就農から3年で実現した高品質・高収量の野菜を生み出す土づくりとは?
「うまげな(立派な)ナスができてるけど、どなんしょん?(どうしてるの?)」
香川県高松市で農業を営む柏雅登(かしわまさと)さんは、そんな声を掛けられることがあるそう。柏さんは、大きくて、光っていて、ひと目で美味しいことが分かるナスをはじめ、にんにく、里芋、ラディッシュ、菜の花などを育てている専業農家です。
農業を始めたのはたった3年前。
高校、短大と農業学校に通い、養鶏場で19年働いたあと、かねてから興味があった農業をするために独立しました。理由は「自分で何かをやりたいと思ったから」。特別なきっかけがあったわけではないそう。両親が稲作をやっていたため、土地と機械は手元にありました。
それにもかかわらず、独立して3年経った今、野菜の収量は安定して「収入もまあまあ」と語る柏さん。新規就農者の約3割が5年以内に離脱すると言われる状況の中、就農3年目にして安定した農家生活を送ることができているのはなぜでしょうか? 野菜作りの秘密を伺いました。
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
ヤンマーが提案する土づくりとの出会い
養鶏場を辞めた柏さんは、まずは菜の花と好物であるナスの栽培を始めました。続いてラディッシュやカブ、里芋にも挑戦。1年中、野菜が収穫できるよう、特定の野菜の専門農家にはなりませんでした。1年目は自分なりのやり方で野菜作りにいそしみました。
柏さんの野菜作りへの考え方に変化があったのは、2年目のこと。前年の収穫が終わり、いざ次の野菜を育てようにも「(土に混ぜる肥料)をどなんしたらいいのか、何を入れたらいいのか、分からんかった」といいます。そこで、養鶏場で働いていたころから農業機械でつながりがあった、ヤンマーの鍋嶋雅彦(なべしままさひこ)さんから、土づくりや農業資材に詳しい同社の増田尚登(ますだなおと)さんを紹介してもらいました。これが、柏さんが新たな土づくりを試すきっかけとなりました。
柏さんが取り組み始めた農法は 『カルテック農法』 と呼ばれ、根本的な考え方は、有機物と乳酸菌を使ってよい作物が育つ生き生きとした土づくりをめざすこと。この農法で重要なのは、根張りがよく、ふかふかの土を育てる乳酸菌入りの土壌改良資材「ラクトバチルス」と、pH値の調整をしつつ不足しがちなカルシウムを補う「畑の大将」の2つだけ。その手軽さに惹かれ、この資材を使って試してみることに決めました。
一般的に、肥料などを変える際は畑の半分くらいで試してみるもの。しかし、柏さんは一気にすべての畑を変更しました。「増田さんの説明を聞いたとき、不安や違和感なくスッと頭に入ってきて・・・、うまいこといく時はいつもそんな感じかなぁ。」と、あっけらかんと語る柏さん。その選択が、後の充実した収穫量と秀品率の高さへとつながっていることを思うと、まずやってみることも時には大事なのかもしれません。
水溶性カルシウムがナスを見違えるほど美味しくした
「ラクトバチルス」と「畑の大将」とを使うカルテック農法は手間がかからないだけではなく、農作物の美味しさも向上させます。秘密は、野菜を育てるのに不可欠な「カルシウム」。カルシウムは野菜の細胞を強くします。食事に例えるなら「窒素が肉、カルシウムが野菜」の役割を果たすのです。
火山帯にある日本の土地はもともとカルシウムが不足しています。畑に石灰をまく農家が多いのは、そのためです。一般的には、カルシウム不足を補うために化学肥料を入れますが、それでは必要以上の成分も追加されてしまいます。これが野菜を規格外に肥大化させる要因になるのです。一方、カルテック農法は土壌自体を改良する農法であるため、不足した養分だけを加えます。無駄な肥料がないため野菜が変に大きくなることはなく、密度が上がります。必要な栄養素のみが農作物に吸収され、骨太で日持ちする水々しい野菜を育てるのです。
2年目、柏さんの畑では、立派なナスが育ちました。1年目と比べて収穫量が増え、捨てる量は激減。「コンテナ10個(約2000個分のナス)くらい穫ったら、仕分けの時に捨てるんは5個くらいになった」とのこと。しかも、味も美味しくなったといいます。「前のナスは食べた時にピリピリしよったんです。今のナスにはアクがなくて、トロける感じです」。味の変化に本人も驚いたようでした。
4年目を迎える現在にあたり、「農法を変えたことでかなり出来栄えが良くなり成功だった。今後も続けていく」と、満足そうに語ってくれました。
新規就農からたった3年で、高品質、高収量を実現し専業農家として活躍する柏さん。最後に今後の目標を伺いました。
今後の柏さんの目標は?
「畑を増やそうとは思わないけど、ニンニクなど単価が高くてたくさん収穫できるものは増やしていきたい」。移動の手間などを考え、畑の数や広さは変えずに収益を上げていきたい柏さん。今の畑は、隣接する農家がなく、カルテック農法を好きに試せる絶好の環境のようです。
販路については、地元のスーパーから関西地方に出荷できる仕組みも利用しています。地元スーパーの産直募集のチラシを見つけ自ら出品を決意したそう。販売価格と出荷数量は自ら決められる上に、地元のスーパーに持っていくだけで出品できる手軽さが気に入っているとのこと。なるべく無駄を省き、美味しいものを作ることに集中するための工夫ともいえます。
農家のなかには、柏さんのように一人で作業をしている人も少なくありません。なるべく作業を楽にすることも、持続可能な農業のためには必要でしょう。トラクターインプルメントの自動施肥機に対応する「畑の大将(白)」もあるそうです。使用する資材・肥料が少なく経済的で、初心者でも取り組みやすい『カルテック農法』は、忙しい農家の強い味方になるはずです。
「今後、カルテック農法で栽培した農作物の魅力が消費者の皆さんにもしっかりと伝わることが大切だ」と語る柏さん。安全で美味しい野菜を求める方が増え、農家の方々がより稼げるようになり、環境負荷も軽減していく。そんな好循環を生み出していくことこそが、ヤンマーの使命です。
[取材] 佐藤紹史 [編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭