2024.11.08
なぜ水素エネルギーに注目が?脱炭素社会へ向けた取り組みと背景に迫る
地球温暖化の加速にともない、世界中の国や企業がカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めています。その実現のためには従来の化石燃料から、CO2を出さない(排出量を抑えた)クリーンエネルギーへと置き換えていかねばなりません。
さまざまな代替エネルギーの検討や研究が進むなかで、有力な選択肢のひとつとして注目を集めているのが「水素」です。
ヤンマーでは、持続可能な社会の実現のために、2050年までに環境負荷フリー・GHG(Greenhouse Gas)フリー企業を目指す「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」を制定しています。その取り組みの一環として、早くから水素の可能性に着目。約10年近く前から船舶用の水素燃料電池システムの開発や社会実装に向けた実証実験に取り組んできました。今回は、水素エネルギーの基本的な仕組みやメリット、世の中への普及の現状などについて解説します。
水素エネルギーの作り方と主な利用方法
水素エネルギーとは、水素を酸素と化学反応させたときに得られるエネルギーのことで使用してもCO2を排出しない「次世代のエネルギー」と期待されています。水素の製造方法としては、水の電気分解はもちろん、石油ガスや天然ガスなどの化石燃料の改質等があります。
では、それらの資源から水素はどのように生み出され、どうやってエネルギーに変わるのでしょうか?
実は、自然界に存在する水素はごくわずかであるため、まずは水素自体をつくる必要があります。その製造方法によって3種類の水素に分類されます。
・グレー水素
石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料から製造される水素を、グレー水素といいます。元の資源には炭素が含まれており、製造時にCO2が排出されるため、環境負荷が高くなります。
・ブルー水素
ブルー水素は、化石燃料からの製造時に排出されるCO2を回収して地中に貯留する技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)と組み合わせることにより、環境負荷が抑制されています。
・グリーン水素
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー由来の電力によって水を電気分解して製造した水素をグリーン水素といいます。製造時にCO2を排出しないため、環境負荷が最も小さくなります。
現状は生産量の確保やコスト面を鑑み化石燃料をベースにつくられたグレー水素が多く使われていますが、今後はいかにグリーン水素の割合を増やしていけるかが脱炭素社会実現の鍵となります。
つくられた水素は、さまざまな分野で活用することができます。
例えば、自動車やバス、船舶などの身近な乗り物では、「燃料電池」や「水素エンジン」などを搭載することで、エネルギー利用時にCO2を排出しない動力源として環境負荷を低減することができます。
水素エネルギーに注目が集まる理由は?
さまざまなクリーンエネルギーのなかで、いま水素に注目が集まる理由は大きく3つあります。
①地球上にたくさん存在している。
②再生エネルギー(太陽光・風力・地熱など)の電力で水を電気分解して作ることができる。
③利用時(発電)において、CO2を出さない。
このように、次世代エネルギーとして、水素は大きな可能性を有しています。
乗用車や船、工場にも。進む水素燃料電池の開発
では、水素エネルギーは現在どのような場所で使われ、今後はどこまで活用の場が広がっていくのでしょうか?
例えば水素燃料電池は、トラックやバス、船舶、鉄道などの動力、さらに工場やビルへの電力供給用としてもすでに活用され始めています。
しかし、現時点ではまだグリーン水素の供給量が少なく、コストも割高であることから、全てを一気に水素エネルギーへ置き換えることは難しいでしょう。そこで、まずは特にCO2排出量削減におけるインパクトの大きい領域、つまり、より多くの化石燃料を使用しているところから代替していく必要があります。例えば、運輸部門であれば、乗用車、次にトラック、船舶の順でCO2を多く排出しています。
出典:国際エネルギー機関(IEA) – Global CO2 emissions from transport by subsector, 2000-2030
水素社会の実現に向けたヤンマーの取り組み
ヤンマーでは約10年近く前から船舶用の水素燃料電池システムの研究開発を進め、すでに商品化しています。まずは沿岸を航行する旅客船や作業船、貨物船などから適用範囲を拡大し、船舶の脱炭素化に貢献しようとしています。
また、2023年9月には、岡山県に「YANMAR CLEAN ENERGY SITE」を開設し、水素関連技術の開発と実証を進めています。
その成果の一つが、船舶用の水素燃料電池システムで培った技術や知見を活かし開発された、陸用のコンパクトな水素燃料電池システムであり、2024年に商品化しました。発電出力35kWの出力帯では最小クラスの設置面積を実現し、電力需要や水素利用可能量などに合わせた出力制御や、最大16台の一括制御による複数台運転にも対応しているため、脱炭素化の目標に合わせて増設することができます。
世界の現状と、水素エネルギーの課題
さまざまな領域や場所での活用が期待される水素エネルギーですが、もちろん課題もあります。たとえば、コスト面や規制の問題。また、国内では水素エネルギー自体の認知度がそこまで高くなく、そもそもクリーンエネルギーの導入候補に挙がりにくいという課題もあります。逆に言えば、水素エネルギーが積極的に選ばれるようになり水素の製造量が上がっていけば、必然的にコストも下がっていきます。また、国や業界団体等が安全性を担保しつつ規制緩和や標準化規格を策定することで、多くの企業が水素を活用した事業に参画しやすくなり、さらに水素の需要量が増加するでしょう。
なお、世界に視線を移せばヨーロッパ、中国、韓国などは「水素エネルギー先進国」として、近年さらに普及が加速しています。国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、2022年の燃料電池自動車の国別シェアは韓国が41%でトップ。2位はアメリカで21%、3位は中国で19%となっています。ちなみに、日本は4位(11%)です(※1)。
世界に先駆け燃料電池の量産商用化を実現した日本ですが、ここ数年は欧中韓に遅れをとってしまっているのが実情です。特にヨーロッパでは脱炭素化に向けた需要を背景に大規模な水素プロジェクトが続々と組成されており(※2)、このままではこの分野における日本の国際競争力は数年後には失われてしまうかもしれません。
日本が再びこの分野で存在感を示すために重要なのは、多くの企業・団体が水素エネルギーの研究開発や商用化に取り組むこと。そして、水素が現在の化石燃料のように、一般的なエネルギー源として社会に浸透していくことです。それが、カーボンニュートラルの実現、サステナブルな社会へとつながっていくことでしょう。
※1 出典:IEA(国際エネルギー機関) – Share of fuel cell electric vehicle (FCEV) and hydrogen refuelling station (HRS) stock by region, 2022
※2 出典:NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構) – 欧州における水素関連動向について
監修:ヤンマーホールディングス株式会社 技術本部 丸山剛広
取材・文:榎並 紀行(やじろべえ)