髙岸 勲
ヤンマー株式会社 エンジン事業本部 小形エンジン統括部 開発部 FIE技術部 技術グループ
2007年入社。入社から現在の部署で、産業用ディーゼルエンジン向け燃料噴射装置の設計に従事。
2018.07.25
エコガバナ(電子制御)式ML形燃料噴射装置(以下、MLポンプ)の搭載による燃料噴射量制御の自由度向上。これにより排気量1Lクラスのエンジンでは世界トップクラスのトルク特性と排ガス規制Tier4 Final対応を実現。さらに作業機側とエンジンの「統合制御」が可能となる付加価値を提供。他社を凌駕するエコガバナ式MLポンプが、小形エンジンの新たな可能性を広げます。今回は開発担当者3名に話を聞きました。
髙岸 勲
ヤンマー株式会社 エンジン事業本部 小形エンジン統括部 開発部 FIE技術部 技術グループ
2007年入社。入社から現在の部署で、産業用ディーゼルエンジン向け燃料噴射装置の設計に従事。
岩乃 亮太
ヤンマー株式会社 エンジン事業本部 小形エンジン統括部 開発部 FIE技術部 試験グループ
2008年入社。入社から現在の部署で、産業用ディーゼルエンジン向け燃料噴射装置の開発試験を担当。
中口 健一
ヤンマー株式会社 エンジン事業本部 小形エンジン統括部 開発部 FIE技術部 技術グループ
2016年入社。入社後間もなく、今回の電子制御ガバナの設計を担当。
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
エンジンメーカの多くは、燃料噴射装置(Fuel Injection Equipment、以下FIE)をサプライヤーから調達しています。これに対してヤンマーでは、これまで小形から大形(出力4kW ~4800kW)まで多種多様なエンジン向けにFIEを開発してきた実績があり、この経験を通して培った、エンジン適用技術や使用環境に応じた対応技術の蓄積が豊富にあることが強みです。
「ヤンマーではFIEの自社開発に加え、FIEを自社生産しております。これまでの技術蓄積の活用や臨機応変な生産対応が可能であり、お客様毎の多彩なニーズに対応したエンジンを提供しています。」
ガバナとは負荷が変わってもエンジンの回転速度を一定に保つために燃料の噴射量を制御する装置。機械式ガバナは、遠心力とバネのつり合いにより噴射量を制御するのに対して、エコガバナ(電子制御式ガバナ)は目標の回転速度と実際の回転速度との差をコントローラーで算出し、最適な噴射量を制御します。電子制御により噴射量の制御の自由度が向上するほか、エンジンと車体の「統合制御」が可能となるメリットがあります。
ヤンマーでは1990年代に自社のトラクター「エコトラ」に採用したのを皮切りに、2008年のTier3排ガス規制に対応するため、他社OEM向けのエンジンにも適用を拡大してきました。2012年に始まったTier4Final規制に対応するため、出力19kW以上のエンジンにはコモンレール式FIEの搭載が不可欠となりました。一方、比較的規制の緩い19kW未満のエンジンでは、低コストニーズが強く、現在でもまだ機械式ガバナを搭載した従来式FIEが主流です。こうした流れの中、他社との差別化を図るため、排気量1Lクラスのエンジンでは他社にないエコガバナ式FIEの開発に着手しました。
19kW未満のエンジンに要求される低コストの実現と短期間での開発を推進するため、ヤンマーの既存技術であるエコガバナをMLポンプに搭載することにしました。しかし、エコガバナは一回り大きなエンジン向けに開発されたため、MLポンプに対応したコンパクトなガバナ構造を設計する必要がありました。
「限られたスペース内にリンク機構を収めるために、新たなリンク機構を生み出しました。従来のエコガバナに対して、リンク機構を刷新する必要があるため、レイアウトと部品寸法の検討に試行錯誤を繰り返しました。」
と語るのは設計担当の髙岸さん。
ただ基本構造は決まったものの、FIEの組み立てや部品加工の作業性など、生産上の課題解決は容易ではありません。
「サプライヤーと協議しながら関連部品の大きさや厚みなどを限界まで調整するとともに、木之本工場とも話し合って生産工程を模索するなど、自社生産だからこそできる細かな検討を試作段階から行いました」
と量産化担当の中口さん。
試作段階からのサプライヤー、生産部門との連携により短期間での量産化を実現しました。
エコガバナ式MLポンプは、制御マッチングや信頼性試験を経て、開発着手から約2年間の短期間で開発を完了。
試験担当の岩乃さんは
「FIE単体評価の中で懸念される点や、エンジン評価での問題点をエンジン開発部と共有することで、解決すべき課題を明確化して協働での早期解決につなげることができました。FIEを自社開発しているヤンマーだからこそ短期間で開発ができたと思っています。
商品を使用されるお客様から見れば、私たちは言わば部品(エンジン)の中の部品屋となります。ここでは、徹底的な当たり前品質の追求がお客様の価値向上につながると考えます。これまでのエコガバナで培ったノウハウを活用して、当たり前品質を徹底的に追求しました。」
と胸を張ります。
エコガバナ式MLポンプは、1万時間相当の作動耐久テストにも耐え、2017年6月に量産がスタート。
革新的な技術を提供するわけではありませんが、お客様のニーズに適合し、不具合を出さずに長く使用できるという当たり前品質の追求が、“A SUSTAINABLE FUTURE”が目指す「安心して仕事・生活ができる社会」の実現につながっています。
エコガバナ式MLポンプは現在、他のお客さま向けの新型エンジンでも開発が進み、新たなお客さまの獲得に貢献しています。
当たり前品質を徹底的に追求し、自社で燃料ポンプ噴射を開発する強みを生かして完成させたエコガバナ式MLポンプ。この技術から、ヤンマーエンジンの可能性がさらに広がっています。