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助成事業

審査・選考のポイント(選考委員インタビュー)
後藤 貴文 北海道大学 教授

所属機関:北海道大学 大学院環境科学院 生物圏科学専攻
     北方生物圏フィールド科学センター
専門分野:家畜生産生態学

後藤教授の研究活動についてうかがいました

Q1:専門分野を志望された経緯をお聞かせください。

海外青年協力隊として海外にも行きたかったのが、大学の農学部で畜産を学ぶきっかけです。進学後ボート部に入部し筋トレをする中で筋肉の発達に興味を持ち、家畜の筋肉がどのように成長するのかを解剖学的知見から解明する研究室に進みました。キャンパス内で3年ほど助手を務めた後、農学部附属農場で17年間大学牧場の現場にいました。
当時地元でも課題となっていた耕作放棄地の対策として、和牛に雑草を食べさせてみましたが思うように肥育できませんでした。
そんな中、代謝プログラミングという胎児期や新生児期に栄養状態を変えて放牧をする実験を始めたところ、体重や肉質に変化が見られ、いかに栄養価の低い放牧条件下で、どのように肥育効率をあげられるかについて取り組むようになりました。また、放牧肥育の過程で脱柵や逃亡に対する管理方法として、発信機での個体位置確認や個別自動給餌にも取り組み、広域な山間地での多頭管理のためGPS等の衛星データを利用した測位やリモートセンシングでの放牧牛測位や放牧地バイオマス測定など、データをAIで解析する放牧管理飼育試験にもつながっていて、スマホ一つでウシ飼いができるようにすることを目指しています。

ご自身の研究を熱く語る後藤教授。
ウシのモデルがどっしりと佇んでいます。
Q2:研究HPで紹介されている、「販売におけるエシカルなダイレクトマーケットの構築」とはどういったことでしょうか?
倫理的にどうやって育てられたかをきちんと公表して販売できる市場を構築することです。つまり私たちの目指す飼育は、日本の限界集落、離島、および中山間地域にある耕作放棄地などの未利用植物資源を有効に活用して、草からタンパク質を作るという、人間にはできないシステムで作った牛肉だと表示することです。しかしながら、実験レベルでは可能であってもまだまだ普及レベルにはありません。野菜と違って牛肉生産の現場では病気の抑制や治療に抗生物質の使用が一般化しているのが現実で、生産方式も商品価値に変えることが必要です。例えば、牧場全体における温室効果ガスやウシのゲップによるメタン排出量と、牧場で栽培されるカーボン固定効率の高いススキをバイオマスとして栽培し、飼料や敷料として活用することでゼロカーボンを目指す牧場もあります。ただし、草食動物に大量の穀物濃厚飼料を与えているという点ではアニマルウェルフェアの面で課題があります。とはいえ、ウシは一度トウモロコシの味を覚えると結構好んで食べるようになりますね。
Q3:専門の代謝についての研究は当初から取り組まれているのですか?
学部生のころはニワトリを対象としていましたが、大学院進学以降はウシが対象になりました。研究室では他にブタの筋肉研究も扱っていたので対応していました。食用の家畜は身近で、かつさまざまな実験の後、食味の検証もできるのがいいですね。
Q4:学外ではどういった取り組みをされていますか?
家畜に関する多くの学会に所属しており、家畜感染症にかかわる獣医とのタイアップや、小児科医や産婦人科医の多く所属する学会などでは、ヒトと同じ10ヶ月の妊娠期間であるウシでの代謝プログラミングが人間の妊娠期の栄養プログラム研究に適用できる共通点もあるのではないかとの検討も進めています。

審査・選考のポイントについてうかがいました

Q5:審査にあたって重点を置かれていることは何ですか?
重箱の隅をつつくのではなく、事象の根幹や仕組みを変えるような実験・研究であるかというところを見ています。物事の大きな捉え方の中で実証するために、どういったプロセスでアプローチするのかが記載されているとストーリーとしてわかりやすいですね。廃棄物の代用利用などは、すでに多くの実験がありますが、ものが違うだけといった場合があり、大切ではあっても面白みに欠け、あまり評価ポイントにはしません。例えば、霜降り肉の肉質を上げるために添加剤を与えるなど現状を少し改善するものではなく、それよりも、生産システムの観点を変えるようなオリジナリティのあるものを評価しています。これは専門分野に関係なく同じです。
Q6:企画書の作成にあたってどのような点に気を付ければいいでしょうか?
導入部の書き方について、大きなバックグラウンドで大事だと思わせ、いかにわかりやすく訴求するかということで、最初の背景から導かれるテーマの設定が大事だと思います。最初から格式高く入るのではなく、わかりやすく導入につながると共感できるものがあります。
Q7:参考資料の使いかたについてはいかがですか?
参考資料は非常に重要ですね。導入部ではあまり印象的でではなかったものの、参考資料を見て趣旨がよく理解でき熱意が伝わってきたものもありました。申請書の1枚に図を入れるのは文字数の点でも厳しいので、量の問題ではなく2〜3枚で図を入れて補足してもらえたらと思います。実際に参考資料を見て評価が変わったものもありました。独自性のある企画書も理解はできますが、参考資料は有効に活用してほしいと思います。
Q8:これから申請される方へ、ひと言お願いします。
導入部と、なぜ自分がその研究に着眼しているのかということを大切にしてほしいですね。特に若い方々には助成の申請に留まらず、今後の社会に向けて自分が何をなすべきか、どういう風に貢献できるかということを考えて、社会情勢の中での自分の立ち位置を考えてほしいと思います。自分が貢献できるものがわかってくると研究や仕事に対する取り組み方も変わってくると思います。
後藤教授、ありがとうございました。
2023年11月14日取材

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