廣野教授の研究活動についてうかがいました
- Q1:専門分野を志望された経緯をお聞かせください。
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子供の頃から小動物、特に魚類を飼育するのが好きだったので、大学受験の際に関連する進学先を検討し、宮崎大学に進学しました。学部生の頃、親しくなった先輩の影響で魚病学の研究に取り組むことになり、魚に病気を起こす細菌の病原性因子を遺伝子レベルで解析する研究で、当時宮崎大学も参加していた鹿児島大学大学院連合農学研究科で博士の学位を取りました。遺伝子解析やPCR分析が広く始まった時期です。
ヒトの分野だと、免疫・細菌・ウイルスなどをそれぞれ専門とする研究者が分業していて、そういう人たちが協力して治療法や予防法を作っていきますが、水産の分野では研究者の数も限られているので、魚病の研究者はすべてのことに対応する必要があります。なんとなく魚病の全体像が分かっても治療には繋がらないので、水産向けワクチンの研究を進める必要があり、1994年に東京水産大学に来た頃から魚の免疫研究に取り組みました。
魚の免疫を研究するためには、遺伝子の配列や抗体など多くの情報が必要な状況でしたが、その頃ヒトゲノムプロジェクトの推進により、大量遺伝子解析の価格破壊が起こりました。それこそ一人分のヒトゲノムを解読するのにかつては約3000億円もしたのが驚くほど安価でできるようになり、農学の分野への展開が可能となって、
当時は片っ端から免疫に関係する遺伝子を探しては力ずくで解析しました。その後は遺伝子配列だけではなく、ゲノムまで全部解読するような時代になってきました。ワクチンの研究などを通して特許も取得しました。
研究室に配属される学生達には、『みんなは今から定年まで50年近くあるので興味深いことをやるべきだし、楽しくなければ研究テーマの変更や就職も考慮すべきだ』 ということをよく言っています。
- Q2:ゲノムが解読できれば次はどういうステップになるのでしょうか?
- ゲノムの解読ができても、それぞれの遺伝子機能はまだよくわかっていないものもあります。魚の場合は脊椎動物なのでマウスというお手本があり、哺乳類同様に魚類でも展開できる研究アプローチが結構ありますが、私が研究を行っているエビは節足動物で無脊椎動物なので、生物学的にショウジョウバエが近いのですが、やはり全然違うものです。エビには2万種類以上のmRNAがあり、その半数以上は遺伝子配列が登録されているものとの相当性はみられず未知の状態なのです。わからないことがあるというのは、研究していてワクワク感があります。
- Q3:エビの研究に着手されたきっかけについてお聞かせください。
- ODA(政府開発援助)での資金援助や物資の供与だけでなく、きちんと人材育成を図りながら課題を解決していこうということで、外務省関連のJICA(独立行政法人国際協力機構)のプロジェクトとして2011年頃からスタートしました。以前からエビの養殖が盛んだったタイで、現地が抱えている課題に取り組むために、タイの大学でエビの研究をされている先生と、海洋生物の遺伝子解析などを手掛けていた東京海洋大の先生などとタッグを組むことになりました。タイ側の若手研究者がこちらに来て勉強し、私たちも現地で指導確認を行うなど人的交流も行いました。
最初はエビか…と思ったのですが、不明な点が多いことがかえって興味深くのめり込んでいきました。
- Q4:養殖についての研究はどのように取り組まれていますか?
- 20年ほど前、助手だったころに、定期的に開催されていたシーフードショーで、展示だけでなくセミナーを合わせて開催したいということで、養殖全般を研究されていた教授を通して協力依頼がありました。現在も年に数回のペースで続いているのが陸上養殖勉強会で、学会や研究会ではなく、参加している民間の方々のアイデアも取り入れるために勉強会ということにしました。当初は養殖全般が対象でしたが、2013 年からは対象を陸上養殖に絞っています。魚は多種多様なので、養殖のモデル種というものはありませんが、欧米で養殖といえばサーモンが筆頭です。飼育しやすいのでニジマスも基礎研究では使われています。養殖対象種類は海藻類も含めると百種類以上あり、代表はブリですが、簡単には飼育できないので関連する研究は限定的で、タイやヒラメを使うことが多いです。今では大手商社も陸上養殖を手掛けるようになり、ブームが到来したと思っています。
また、本来1㎏の産出に2~3㎏のCO2を必要とするのですが、早くから陸上養殖に取り組んでいるある先進的地域では、オートメーション管理で水の濾過循環に多大な電力を必要としているため、1㎏の産出に25㎏ものCO2を排出している地域もあるので、SGDsの目標や環境面からも産出方法について考え直すタイミングではないかと考えています。