YESSA 一般社団法人ヤンマー資源循環支援機構

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助成事業

審査・選考のポイント(選考委員インタビュー)
福島 和彦 名古屋大学 大学院 教授

所属機関:名古屋大学大学院 生命農学研究科教授 農学博士
     森林・環境資源科学専攻 森林化学研究室
専門分野:木材化学、バイオマス科学

福島教授の研究活動についてうかがいました

Q1:現在取り組まれている研究テーマはどんなことでしょうか。
学部4年時に卒論研究として「リグニンの形成と反応」というテーマをもらったのですが、以来今日まで一貫してリグニンに関する研究に取り組んでいます。その後「リグニンの不均一な形成と構造」というテーマに移り、「リグニン前駆物質の多様な生合成経路の解明」と、それに伴う「リグニンの不均一な化学構造」といった研究に携わってきました。
Q2:リグニンに関する研究に終始一貫して取り組まれてますが、この中でターニングポイントとなった研究はどういったものでしょう?

それは修士課程の時なので結構早い段階で取り組んだ研究です。木材の細胞壁には細胞と細胞の接着部位である複合細胞間層と複合細胞間層の内側に堆積する二次壁があります。当時、複合細胞間層にあるリグニンと二次壁のリグニンは構造が違うのではないかという論争が世界で活発に行われていました。
我々はラジオアイソトープでリグニンの特定の構造を標識する技術を有していましたので、その所在をミクロオートラジオグラフィーという手法を用いて可視化することができれば、そういった論争に終止符が打てるのではと夢を持ってワクワクしながら毎日研究に没頭していました。

その研究の結果、複合細胞間層のリグニンと二次壁のリグニンとでかなり構造が違うということが判明しました。この研究は指導教官の寺島典二教授(現名誉教授)との共同研究でしたが、その成果は世界的に評価されリグニン研究者としての道を進む足がかりとなりました。

オンラインインタビューの様子。
一つひとつのご回答に先生の「想い」が込められています。

審査・選考のポイントについてうかがいました

Q3:申請テーマを審査する際にどういった点に留意されますか?
まず申請者がしっかりとした研究遂行能力を持っているのかというのが判断材料になります。今までのその研究者の実績(論文等)を参考にしながら、申請書の内容が妥当なのかどうか判断します。それからテーマの評価ですが、それは今の社会のニーズ、世界の情勢に合致しているかということも判断材料にします。
Q4:そうすると、今までに実績の少ない若い研究者が挑戦的なテーマで申請してきた場合、評価は低くなってしまうのでしょうか?
若くて実績がほとんどなくても学位を取得されていれば、学位論文に関わる数編の論文があるはずなので、これらで判断できます。
また今はインターネットで簡単に検索できますので、申請された研究が本当に独自性の高いものか、先行研究がすでになされていないか、また他で遂行している研究の単なる追試ではないか、そういった周辺情報の確認を行います。ただ件数が多いので全数精査する訳ではなく、疑義を感じた場合に行います。
とは言ってもやはり申請書の内容が重要です。何がやりたいのか、目的がはっきりしているのか、あるいは何をどこまで明らかにしようとしているのか、それが明らかになった場合、どういう波及効果があるのかという論法に整合性がとれているかを評価します。
Q5:当機構の申請書は、1,000文字程度で記述するものですが、申請書作成が楽だと言われる反面、簡潔すぎて表現が難しいという意見もありますが、どう思われますか?
目的がはっきりしていて何を解明しようとしているのか明白なのであれば、箇条書きで十分表現できるはずです。逆に構想が頭の中で整理できていなければ、箇条書きで1,000文字程度に申請書をまとめるのは不可能だと思います。申請者、選考委員の双方にとって効率的な申請書だと思います。
Q6:当申請書の他に参考資料が最大2件添付できますが、審査の参考にされますか?
申請書を読んで理解が難しい場合は参考にします。ただし、申請書のみで理解できないようなテーマについては若干評価が低くなるかもしれません。
申請者は、広範囲の分野を5人の選考委員が専門外のテーマをも評価していることを想定して申請書を作成すべきかと思います。
Q7:ご自身の専門分野の応募テーマを評価するポイントは?
専門分野の場合、申請者の実力がある程度わかりますし、現在どういった条件・環境で研究しているかもある程度把握できます。ですので、研究テーマの本質の評価となり、特に新規性、独創性が優先になります。
Q8:専門外の応募テーマについてはどういった視点で評価されますか?
やはり専門的な部分での評価は難しいので、先ほども述べましたが、その研究の背景と今の情勢の中で何が求められているのかに対して、どのような研究を行い、その成果によりどういった波及効果があるのかをわかりやすく説明されていれば理解でき、高評価となります。逆に申請内容が重箱の隅をつついたようなものであれば、専門外の者にとって申請書の意図をくみ取ることができない恐れがあるということです。
専門外のテーマの評価においても、やはり新規性、独創性は重要であり、明確に申請書の中に表現されるべきです。研究者としての自信があれば、必ずそこを強調して記述されると思います。自分のアピールポイントのはずなので、逆に書かれていなければ、その研究には新規性・独創性がないのだと判断してしまいますね。
Q9:申請研究には実用化を睨んだ現実的なテーマと、ずっと先を見据え将来大きく花開くことを期待するテーマがあると思います。どちらのテーマを評価しますか?
非常に難しい問題ですが、やはり持続的な社会の実現を目指すには従来の技術やシステムの延長線上で良いところを伸ばしていくだけでは社会の変革は起こりません。
ただ現場に近ければそれだけ現場の問題・ニーズがダイレクトに把握できているので、それは現実的なテーマとして評価することになりますので、やはり内容ありきだと思います。その方向性が正しくないと審査委員が判断すれば、いくらその社会実装へのプロセスが緻密かつ論理的に記述されていても評価は低くなります。
私はどちらの場合もやはり研究者の実力、過去の実績を判断材料の一つにしますが、例えば地方の農業技術研究所の研究員が申請者の場合は、本人に加えて研究者が所属している組織体の特徴や強みを加味して評価します。
Q10:これから申請される方へ、ひと言お願いします。
社会の要請は2050年二酸化炭素排出ゼロ達成を目指しており、その目標達成に合致した研究をしてくださいと言うことがありますが、若い研究者の皆さんにはできるだけ周囲の雑音を気にせず、自分が興味を持つテーマにとことん集中して全力投球して欲しいと思います。できればそれに加えて「将来の地球のために」といった視点を持って取り組んでいただきたいと思います。
興味のある研究に取り組んでいても必ず壁にぶち当たります。その壁を打ち破るためにもがいて、新たな解決方法を探すために他分野にアンテナを張ったりして、運が良ければ新しい手法にたどり着いたりします。それがブレイクスルーであり、新しい発見につながっていくのだと思います。
Q11:最後にひと言お願いします。
人類が生存していくためにはやはり最初に「食」、そしてそれを支える農林水産業が重要です。これからは、一次産業のカーボンニュートラル、つまり持続可能な農林水産業の実現が求められますが、ヤンマー資源循環支援機構はそれを目指す研究を支援していくという崇高な精神で活動されております。今後も末永く事業を継続していって欲しいと切に希望しています。
福島教授、ありがとうございました。
2021年12月9日取材

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