2022.02.28
黄色のトラクターが登場!? ヤンマーのロボットトラクターが空港で大活躍!
ヤンマーの事業フィールドは、大地・海・都市、つまり「地球全体」です。ヤンマー製品といえば、「大地」だと農業機械、「海」だとマリンプレジャー、「都市」だと建設機械などを連想されるのではないでしょうか。しかし、ヤンマー製品は、意外なところでも活躍しています。「ここにもヤンマー!?」な製品を2回に渡ってご紹介します。第一弾は、ヤンマーの公式SNSでもひときわ注目を集めた、黄色いボディが特徴の『ロボットトラクター「YT488A」空港仕様』です。
2021年、珍しいカラーのトラクター、「黄色のロボットトラクター」が誕生
ヤンマーの代名詞的存在である、赤いトラクター。ところが最近、なんとも珍しい「黄色いトラクター」が登場したのをご存知でしょうか。
このトラクターは、自動運転機能が備えられている最新鋭の機種で、「ロボットトラクター(以下、ロボトラ)」のひとつ。正式な機種名は「YT488A ロボット仕様」で、農地用のトラクターと同じ名前です。しかし、この写真をよく見ると、ノーズ部分に「航空局」という文字が見えます。そう、この「黄色いロボトラ」は、空港専用の特別モデルなのです。
空港では安全確保のため、航空法にもとづいた厳格な整備が行われています。それは飛行機だけではなく、広大な滑走路エリアも同様。少しのアスファルトのくぼみ、伸びた草等が事故に繋がる可能性もあり、手を抜くことは許されません。
この空港専用「ロボトラ」は空港の緑地部分の草刈りに特化した改良がなされています。2021年11月に第一号として鹿児島空港に2台納入されました。
今回はこのロボトラの特長と、改良する中での苦労話などについて、開発チームの黒田晃史さんにお話を聞きました。
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
「黄色いロボトラ」の開発担当者に聞く
―― 黒田さんはトラクターの開発に長く携わられてきたそうですね。
黒田さん:私は1993年にヤンマーに入社し、主に農業用トラクターの走行制御の開発を担当してきました。今回納入したロボトラの実証試験を2018年から、鹿児島空港で実施しており、納入まで携わりました。
―― 空港整備に「ロボトラ」を導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
黒田さん:もちろん、自動運転、複数運用という形でも使えますから、省力化のメリットは大きいと思います。それと同時に、技術伝承にも役立つと考えています。このトラクターは乗りながらも、自動で運転できますので、経験の浅い人に、短期で技術を覚えてもらうこともできると思います。
―― 今回、農業用の「ロボトラ」をベースに改良を施されたということですが、農地と空港の環境の違いや、開発に関しての工夫、苦労話などをお聞かせいただけますか?
黒田さん:農地と空港の大きな違いは、空港には「領域」というものが無い点です。
通常ロボトラは、作業する田んぼや畑の畔(あぜ)に沿って一周させて、トラクターに領域を学習させることで、自分の走る経路を計算しています。
ところが空港の場合、畔も無いですし、領域という概念も無いわけです。また、作業範囲の中には、空港の敷設物である照明や風向塔といったものがあります。その中で、領域をどのように定めれば効率よく作業できるのかを考えるのが、難しかった点のひとつです。
―― 領域を学習させるために、なにか工夫をされましたか?
黒田さん:最初は図面上で計画を立てて、そのあと空港の緑地帯に行くわけですが、現場では、メジャーで寸法を測ったり、角に人を立たせたり、目印にパイロン(カラーコーン)を置いたりしてから、ロボトラを一周走らせて調整していきました。
―― ほかには、どのような課題がありましたか?
黒田さん:もともと、ロボトラは農業用として開発してきたものなので、作業機、つまりトラクターの後ろで作業をする機械は、真後ろに左右対称の形で付く前提でした。ところが、草刈りに使う作業機はトラクターの右側を刈る形になるので、非対称なんです。作業する経路を再度作らないといけないので、そこが大変でした。
ただ、これは今後、牧草地でも転用できる技術なので、将来の流用も考えながら、開発には力を入れました。
黒田さん:それから、工場側から一番大変だったと聞いているのは、カラーの「黄色」です。ヤンマーは基本的に赤なのですが、今回は、空港の管理面から「黄色」ですべて統一する必要があるということで、その対応がいちばん大変だったと聞いています。でも、出来上がった実物を見ていただいた方々からは、「斬新でいい」という感想をいただきましたし、SNSでの反応も良いみたいなので、努力した甲斐がありました。
―― 飛行機からもトラクターは見えるのでしょうか?
黒田さん:もちろんです。飛行機に乗っている方からも良く見えるので、これを見て「トラクターってかっこいいよね!」と皆さんに思っていただければ、すごく嬉しいですね。
―― 読者の皆さんにも、飛行機に乗る機会があったら探してみてもらいたいですね!
黒田さん:そうですね。今、納入が決まっているのは鹿児島空港、丘珠空港、北九州空港、八尾空港、那覇空港の5つですが、日本には全部で100近い空港がありますので、今回の納入を成功させて、ほかの空港にも広げていけたらと思っています。
―― 「ロボトラ」がもつ将来の可能性について、黒田さんはどのようにお考えですか?
黒田さん:今回、国交省から依頼をいただいた背景には、「省力化をしたい」という以前に、「緑地帯の整備担当等の募集をしても人が集まらない」という事情があったそうなんです。そのためにも、ロボット化というのは不可欠な流れだったと思います。
これは農業でも同じです。いま、農業は従事者の高齢化が進み、数も減ってきていて、共通する部分が多いです。そういったところを持続可能、つまりサステナブルなものにしていくには、こういった自動運転という技術が不可欠だと思っています。
―― 最後に、一言メッセージをお願いします。
黒田さん:今回は私が代表して話をしましたが、私以外にもたくさんの開発メンバーが関わっていますし、ソフトの開発を行った電子制御開発部のメンバー、それから、今回実際に納入するのにあたって、ヤンマーアグリジャパン、空港のある地域を管轄している支社、販売会社の方々など様々なメンバーの協力があって実現できたものだと思っています。
―― 黒田さん、本日はありがとうございました。
これからも持続可能な農業を目指す、ヤンマーのスマート農業
今回はロボトラについてご紹介しましたが、ヤンマーではこれ以外にも様々な場面で、最先端のロボット技術やセンシング技術、ICT技術、位置情報などを生かした製品やサービスを提供しています。
例えば、「リモートセンシング」は、広大な田んぼを上空からくまなく撮影し、微妙な色の違いから生育状況を分析することで田植機やトラクター作業機による可変施肥等の処方に繋げています。
ドローンといえば、空撮用のカメラ付きのものが有名ですが、この技術が農業にも応用されています。
また、ヤンマー製品には、地図サービスなどで活用されているGPS(位置情報)機能と通信機能が搭載されているものもあり、機械の稼働情報と位置情報は常にヤンマーのリモートサポートセンターに送信され、遠隔でモニタリングされています。
これらにより、設定範囲・時間以外で機体の移動があった際には即時に所有者にアラートが発信され、盗難の未然防止に貢献します。また、機械に異常が起きると担当者に自動で連絡が入ることで異常箇所の診断や部品の手配などができ、迅速で確実な復旧作業が可能になるなど、多くのメリットが生まれています。
技術やサービスの進歩により、従来活躍していたフィールドの枠を越え、様々な用途で活躍しているヤンマー製品。空港をご利用の際は黄色いロボトラがいないか、探してみるのも楽しいのでは。
第2弾は、新型コロナウイルス渦中における世界でのヤンマー製品の活躍や、普段は建物に納入されているガス空調システムが、ハウス栽培で活用されている事例をご紹介します。
※リモートセンシング関連サービスは2022年11月30日をもって新規申込みを終了となります。