土井邦夫
ヤンマー株式会社 アグリ事業本部 開発統括部 農業研究センター 主席技師
1988年入社。3年ほどコンバインの開発に従事した後、約25年間田植機の開発を担当。2009年頃より田植機の先行技術開発に携わり、現在はトラクター・コンバイン・田植機全般に関わる。
2017.05.31
低コスト・省力化を実現し、農林水産省の「最新農業技術・品種2016」に選出されたヤンマーの「密苗」技術。苗箱数や資材費、作業時間の大幅な削減、稲作における省力・低コスト化、ハウススペースの余裕増加に伴う規模拡大、収益増加を実現しています。全国各地で行ってきた展示会での実演では、多くの方に興味深く観覧いただいています。
今回Y MEDIAでは、密苗技術の開発と、密苗に最適化された田植機の開発に携わったメンバーにインタビューを敢行。アグリ事業本部より、密苗技術の確立に尽力した土井さん・澤本さん、新型田植機「YR-Dシリーズ」に追加された「密苗仕様」の開発を担当した三宅さん・中村さんにお話をうかがいました。
土井邦夫
ヤンマー株式会社 アグリ事業本部 開発統括部 農業研究センター 主席技師
1988年入社。3年ほどコンバインの開発に従事した後、約25年間田植機の開発を担当。2009年頃より田植機の先行技術開発に携わり、現在はトラクター・コンバイン・田植機全般に関わる。
澤本和徳
ヤンマー株式会社 アグリ事業本部 開発統括部 農業研究センター 栽培技術グループ グループリーダー
2016年入社。前職では石川県農林総合研究センターに勤務し、密苗の研究に従事。密苗の栽培においては2012年のスタート時から携わる。
三宅康司
ヤンマー株式会社 アグリ事業本部 開発統括部 農業研究センター 先行開発グループ 主幹技師
1999年入社。入社以来、田植機の開発を担当している。2012年より先行技術開発に従事し、その後、商品開発部にて新型田植機(YR)を立ち上げる。
中村翔一
ヤンマー株式会社 アグリ事業本部 開発統括部 農業研究センター 先行開発グループ
2011年入社。入社以来、田植機の設計に従事する。密苗仕様の田植機においては、三宅主幹技師とともに最終設計を担当した。
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
「種をたくさん播く(まく)ことで苗箱の数を減らして、コスト削減できるのでは?」――。
ヤンマーの密苗、密苗仕様の田植機開発は、農作業の効率化・省力化に高い関心を持つ生産者の声からはじまりました。しかし、播種(はしゅ)を増やそうとすると、苗を小さく取って植えられる田植機が必要となるため、現行の田植機の性能では不十分だという状況がありました。そこで、ヤンマーが密苗に対応した田植機の開発を、石川県農林総合研究センター(以下、石川農研)が栽培技術の確立を担当することで合意。発案者である同県の農事組合法人 アグリスターオナガ、株式会社ぶった農産とともに、2012年に共同研究をスタートさせました。
最初の年は、専用機がなかったため、ヤンマーの従来からある田植機を最も少量のかき取りに設定して予備試験を実施しました。予備試験で、事業化に向けて手応えが得られたことから、翌2013年にヤンマーが本格的に改造した播種・田植機を使用。石川農研で200g・250g・300gの3パターンで播種・育苗・田植機を実験しました。
2013年以降も植え付けの条件や欠株の発生率などを栽培の視点で研究を続け、生育・収量・品質とも慣行栽培と比べても遜色のない結果が得られるようになりました。
当初は石川県内のみで行っていた密苗の実証試験も、2016年には青森から鹿児島までの全国各地342ヶ所、51品種にまで広がりました。
密苗に対する高い評価に加え、YRシリーズの発表もあり、お客様からの反応は上々。販売会社の方々からは『こんなに楽しい春はなかった』と言われるくらいの盛り上がりでした。
各販売会社での実演会も大盛況で、密苗技術への関心の高さがうかがえました。
実証試験のモニターをされたお客様で『田植機を購入するよ』『来年はすべて密苗に切り替える』という方が何人もいらっしゃって、非常にうれしかったです。
密苗技術の実証実験とともに、密苗に対応した田植機の開発にも取り組みました。小さな面積を正確にかき取るため、田植機の爪の小型化と苗箱の横送り回数の最適化に着手。爪の強度を保つために、鉄を熱して部品の強度を上げる「焼き入れ」工程を見直し、従来は最大26回だった苗の横送り回数を30回に新規設定しました。
予想を上回る密苗の反響の大きさゆえに、大変だったこともありました。お客様がお使いの田植機に取り付ける「キット」の形で販売しようという計画でしたが、市場での反響があまりに大きかったため、本機を工場で組み立てて出荷する「仕様」も設定されることが決定したのです。
設計し直さなければいけない部分もあり、つくり込みには苦労しました。
対応に追われましたが、市場にいくと販売店が自信を持って密苗技術と対応田植機を勧め、お客様も満足されている様子が伝わってきました。
現場のニーズからスタートしたというのが、密苗が成功した大きな要因だと思います。そこに、機械を作るヤンマー、栽培のデータを取る試験場があり、三位一体で取り組んだことで、短期間での開発、現場での普及につながりました。
と、プロジェクトを振り返る澤本さん。最後に土井さんは
農家さんと一緒にモノをつくっていくスタイルができたことが大きな収穫でした。会話の中には新しい技術開発のヒントになるものがたくさんあり、今は新たな構想も色々浮かんでいます。
と語りました。
ヤンマーの先端技術や新製品で、現場に新たなソリューションを提供する日は近そうです。