ヤンマーアグリイノベーション株式会社 代表取締役社長 橋本康治
2016.11.10
担い手不足や高齢化、気候変動や食糧危機など、数々の問題を抱える今日の農業。50年後、100年後の存続が危ぶまれるなか、ヤンマーは持続可能な農業のあり方を見つめ直し、その手段として「儲かる農業」に着目、自ら実践しています。そのモデル事業のひとつが、前回ご紹介した、兵庫県養父市における「にんにく産地化プロジェクト」です。
前回はその全体像を探るべく、農業事情に明るい若き女性実業家にして元ギャル社長として知られる藤田志穂さんと、ヤンマーアグリイノベーション株式会社代表取締役社長・橋本康治さんの対談を行いましたが、今回は養父市のヤンマーファームに舞台を移し、プロジェクトリーダーである同社の井口有紗さんにお話を聞きました。現場ならではのお話から、「儲かる農業」への実践的アプローチを掘り下げます。
さらに記事後半では、「やぶ医者にんにくはおいしいの?」という疑問に対する答えを求め、プロの料理人によるやぶ医者にんにく試食会も実施。大阪新阪急ホテル調理長・佐々木剛さんによるスペシャルレシピを、藤田さん、橋本さんに味わっていただきました。
ヤンマーの考える「儲かる農業」。現場取材でより詳細に迫った後編、早速お届けします。
※インタビュイーの所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
ヤンマーアグリイノベーション株式会社 代表取締役社長 橋本康治
ヤンマーアグリイノベーション株式会社 井口有紗
藤田志穂
千葉県出身。1985年生まれ。高校卒業後ギャルのイメージを一新させる「ギャル革命」を掲げ、19歳で起業、ギャルの特性を活かしたマーケティング会社を設立し2008年末に退社。現在はOffice G-Revo株式会社を設立し、高校生の夢を応援する食の甲子園「ご当地!絶品うまいもん甲子園」を企画し、全国の高校生との交流を通じて、人材育成や地域活性化等を行っている。
藤田志穂オフィシャルブログ「ギャル社長はどこへいく!?」
http://ameblo.jp/fujitashiho
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
やぶ医者にんにくについて橋本さんのお話をうかがってたら、どうしても現地を見たくなって、連れてきてもらいました。
やっぱり現場を見ないと!
自治体、地元企業と未経験の方々とのブランド野菜づくり。一年で出荷できるなんてすごいです!
まず機械や肥料など必要なものは全部こちらで提案して、土づくりのところから一つひとつ手順を説明しつつ、一緒に作業しながらノウハウを身につけてもらいました。はじめの頃はみなさん「とにかく全部不安です」と、何をするにも恐る恐る……という状態でしたから。
初めてなら無理もないですよね。不安を取り除くために、心がけたことはありますか?
「肥料の撒き方はこれでいい?」「防除剤の薄め方はこれくらい?」と、経験者だったら適当なさじ加減でやってしまうことも全部不安なんだとわかって、その都度「大丈夫ですよ」と言ったり、一緒に作業したりして安心していただけるように努めました。2、3ヶ月に一度のペースで次に控えている作業に関する勉強会を開きました。これも安心材料になったのではないかと思います。
まさに手取り足取りという感じですね。今回うかがったタイミングでもありますが、10月頃に植え付けをしたあとはどういった作業が控えているんですか?
6月の収穫期までは、病気対策と草むしり。収穫したあとは1ヶ月にわたる乾燥を経て、選別・包装などの出荷作業が控えています。特に生育期間中の病気には神経を使いますね。水はけが悪いと根腐れを起こしやすくなるので、葉っぱの状態を注意深く見ながら、必要に応じて防除剤を施します。
にんにくってスタミナ満点の丈夫な作物というイメージでしたが、意外とデリケートなんですね。
そうなんですよ。実際、一部の畑で病気が発生してしまったんですが、その時、地元のヤンマーの代理店の方が農家さんを1軒1軒回って、防除のアドバイスをしてくれたんです。長いお付き合いで信頼関係ができているので、何か問題が起きても、すぐに農家さんへ情報共有していただけました。地域に密着した代理店のすごさを実感しました。
全国に販売網を敷いているヤンマーさんならではのチームワークですね。
私たち自身、ヤンマーを支えてくれている代理店さんとの結びつきを改めて実感しましたね。ほかにも、グループ企業のヤンマーアグリジャパン株式会社に土壌診断を依頼し、土づくりのアドバイスを受けるなど、いろいろな場面でヤンマーのノウハウを活用しました。
植え付けから収穫、出荷作業まで、試行錯誤のなかで進んだ初年度のやぶ医者にんにくプロジェクト。井口さんをはじめとしたヤンマーのサポートのもと、最初は不安ばかりを口にしていたという地元企業や農家のみなさんでしたが、一度流れをつかめば、今度は反対にヤンマーをぐいぐいリードしてくださるようになりました。そこに行き着くまでには、双方にさまざまな気づきや学びがあったようです。
みなさん、最初は不安でいっぱいの様子だったというお話でしたが、井口さんから見て、ここが変わったなぁと感じる部分はありますか?
最初は勉強会をしていても、「質問すべきこともわからない」ような雰囲気でシーンとしていたのですが、にんにくが大きくなるにつれて、だんだん皆さんのテンションが上がってきて、表情もすごく明るくなりましたね。
農作業をやっていると、すごくやりがいを感じられますよね。農家さんとはレベルが違うかもしれませんが、私も同じような経験があります。農業体験の一環でギャル系の女子高生たちを田舎に連れていって一日中畑の草むしりをさせたら、最初はイヤそうだった子たちが「なんか私、生きてる感じがします!」って目を輝かせちゃって。
にんにくが大きくなるつれて、にんにく生産者という自覚が増していくのを感じました。私たちへの接し方も当初は「指導する人」という感じでしたが、今では「ビジネスパートナー」に近いですね。50年後、100年後も生き残る産地になるよう、農家さんたちにはもっともっとパワーアップしていって頂きたいです。
慣れない作業の連続で、ネガティブになるようなことはなかったんですか?
何回かありましたが……つらい仕事をさせてしまって申し訳ないと思って、「しんどいですよね?」と声をかけた時も、「地域のために誰かがやらなきゃいけない仕事なので頑張りましょう!」と言ってくれて、反対に勇気づけられました。
「会社や自分たちのため」にはじめたことが「地域のため」につながってますよ! 私も経験上、異業種の農業参入って現実的には厳しいのかなと思っていましたが、要所要所でサポートをしてあげれば、地域を引っ張るほどの頼もしい存在になるんですね。なんだかワクワクしてきました!
農業がこの先、100年後も生き残っていくためには、今農家をやっている方たちだけの力では成しえないと思うんです。今までご説明した通り、ヤンマーでは農業経験がない企業に対しても栽培から販売まで一括したサポートが可能です。農機の使い方から施肥の手法まであらゆる側面でレクチャーを行い、高品質な作物を生産できるよう支援しています。私たちの支援により「儲かる農業」のビジネスモデルを確立し、日本の農業を元気にしたいと思っています!
ヤンマーが提唱する「儲かる農業」。やぶ医者にんにくプロジェクトの立ち上げから出荷の現場まで、インタビューと取材を通じて、目指す姿やたどり着くまでの過程が見えてきました。
しかし本プロジェクトはブランド野菜がテーマ。どうしても「その味はいかに?」というところが気になりますよね。誌上で味まではお届けできませんが、今回はすでにやぶ医者にんにくを味わい、実際にメニューにも採り入れていただいたことのある大阪新阪急ホテル調理長・佐々木剛さんにお願いして、やぶ医者にんにくを堪能できる3品を特別にご用意いただきました! あわせてブランド野菜を選ぶ際の、プロの目線についても貴重なお話をいただきました。
大阪新阪急ホテル 調理部調理長 佐々木剛
お待たせしました。ご注文いただいた、やぶ医者にんにく料理です。
さっきからにんにくのおいしそうな香りがぷんぷん漂っていて、待っているのがつらかったです(笑)。橋本さん、どれからいただきます?
じゃあ、この色鮮やかなオムレツからいってみましょう!
何これ! にんにくの風味がありながらも、すっごくマイルド。卵とにんにくの相性がこんなにいいなんてビックリです。
うまい! 早くも一本取られました。
シャリシャリした食感がかすかに。みじん切りしたにんにくですかね?
正解です。にんにくのみじん切りをバターで炒めて香りを出し、卵を加えて包み込む、いたってシンプルなにんにくオムレツです。ちなみに、添えてあるサラダのドレッシングはアイオリソースといって、すりおろしたにんにくとマヨネーズを和えたものです。よろしければ、そちらもぜひ。
たしかににんにくの風味がほんのり。野菜の味を引き立てる名脇役ですね。
つづいてはにんにく入りのグラタンです。熱いうちに、どうぞ召し上がってみてください。
では、お言葉に甘えて……。ん? もしかして、この口の中でとろっとろにほぐれていく物体がにんにくですか?
ヤバいです、これ! にんにくのとろとろ感とホワイトソースが混ざり合って、とてつもなくクリーミー! にんにく独特の臭みもまったくと言っていいほどない。
にんにくを丸ごとおいしく味わってもらうためにつくりました。生のまま使うとにんにくの臭みが強く出てしまうため、あらかじめオーブンでローストして臭みを飛ばしています。にんにくだけではちょっと寂しいので、今回は角切りのパンとベーコンを入れてみました。
ちょっと、ビール飲みたくなりますね(笑)
最後はガーリックライス! 開けた瞬間、ものすごくいい香りが……。
いい香りすぎて、クラクラしてきた……。
おいしーーい! ごはん粒がにんにくにコーティングされてて、めちゃくちゃ食が進みます。底のおこげと、上にのっているフライドガーリックのカリカリ感もたまりません!
当ホテルのステーキハウスでも大変人気で、お店では鉄板でそのままお出ししているんですが、今日は香りの演出効果をねらってホイル包みにしてみました。にんにくの香りを最大限に引き出すために、フライドガーリックは少なめの油でじっくりと焼き上げています。
シンプルだけど、手間がかかっているんですね。このガーリックライスが食べられるなら、にんにく臭いオンナになってもいい(笑)。
試食した二人のハイテンションな感想で、やぶ医者にんにくのおいしさの一端が伝わったでしょうか? 実際にやぶファームまで足を運ばれたこともある佐々木料理長。やぶ医者にんにくの特徴だけではなく、ブランド野菜を選んでもらうためのヒントまで語ってくださいました。
いやあ、やぶ医者にんにくをこんなに素晴らしい料理に変身させてくださって、本当にありがとうございます! 実際に使用されて、特徴はどう思われますか?
丸みを帯びた味わいというか、非常にマイルドで使いやすいですね。にんにくはご存知のとおり辛味も伴いますので、いつもは入れすぎないように量を加減していますが、その点このにんにくなら多めに入れても大丈夫という安心感があります。量が増えればそのぶん栄養価もアップしますし、召し上がる方にとっても都合のよいにんにくではないでしょうか。
プロの料理人にそう言っていただけると、ますます自信を持っておすすめできますね。佐々木さんには一度、養父市のヤンマーファームにも来ていただいているんですよね。
ええ。やっぱり産地を見たり生産者のお話を聞いたりすると、メニューを考える時にイメージを膨らませやすいんです。それに、料理の付加価値も高めやすくなるんですよ。たとえば、黙ってにんにくオムレツを出されるのと、にんにく産地のストーリーを添えて出されるのとでは、印象が違ってくるでしょう。おもてなしの一環として、やぶ医者にんにくのようなストーリーの詰まったおいしいブランド食材と付き合っていきたいですね。
おいしいにんにく料理をいただけた上に、ビジネスのヒントまでいただいちゃいましたね。
なんだか身体の奥底からパワーがみなぎってきています。これは間違いなく、やぶ医者にんにく効果ですね(笑)。
前後編にわたり、やぶ医者にんにくプロジェクトを通じてひとつの形になりつつある、ヤンマーが考える「儲かる農業」についてレポートしました。ナビゲーターとして出演いただいた藤田志穂さんの視点を通じ、プロジェクトのさまざまな側面が伝えられたのではないでしょうか。
ブランドステートメントである“A SUSTAINABLE FUTURE”の実現に向け、みなさんに「儲かる農業」を提案したい。農業の問題に正面から取り組むヤンマーの姿勢を少しでも感じていただけたのではないでしょうか。農業は危機的状況にあると言われておりますが、100年先の未来に向けて、今後も私たちは挑戦を続けます。みなさんが、もしお店でやぶ医者にんにくを見かけたら、ぜひ手にとってみてください。そしてこのお話を思い出していただけると幸いです。