2022.07.25
Jリーグ「セレッソ大阪」の挑戦と野望、「CO2ゼロチャレンジ」はサポーターと共に次なるステージへ
サッカーと二酸化炭素(CO2)――あまりピンとこない繋がりかもしれませんが、サッカーの試合では、一定量のCO2が排出されています。
Jリーグ「セレッソ大阪」は、11年前から地元・大阪を拠点とするヤンマーエネルギーシステム株式会社、大阪ガス株式会社との協働で、ホームゲームでのCO2排出を実質ゼロにする「CO2ゼロチャレンジ」と称する環境プロジェクトに積極的に取り組んできました。
昨年は省エネ設備を備えた新スタジアムもオープン。SDGs(持続可能な開発目標)の広がりなどで、世の中の脱炭素社会への関心が高まる中で、3社の取り組みは新たなステージを迎えています。
同プロジェクトに携わる、株式会社セレッソ大阪・事業部長の猪原尚登さん、Daigasエナジー株式会社※・ビジネス開発部 空調企画チーム リーダーの葉山武彦さん、ヤンマーエネルギーシステム株式会社・エネルギーソリューション営業本部ソリューション戦略部部長の足立聡さんに、取り組みの詳細や今後の展望について伺いました。
※Daigasエナジー:業務用・産業用顧客に対して大阪ガスのガス・電気販売、機器販売、メンテナンス、エンジニアリング、施工、エネルギーサービスなど各種サービスを行うDaigasグループ基盤会社
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
意外と大きい、サッカーの試合での環境負荷
みなさんは、サッカーの試合でどのぐらいのCO2が排出されているかを考えたことがありますか?
ヤンマーエネルギーシステムの調べによると、セレッソ大阪の1シーズンの全ホームゲームで排出されたCO2は、ピーク時の2013年で約1400トン。これは一般家庭378世帯分の1年あたりのCO2排出量に相当します。
新型コロナウイルスの影響を受け観客動員数に制限が設けられていた2020~2021年は、CO2の排出量は年間500トン程度に抑えられていますが、それでも一般家庭135世帯分の1年あたりのCO2排出量に相当します。
スタジアムでの照明や空調、水供給、売店での調理、ゴミの廃棄などのほか、観客のみなさんの移動に伴うエネルギー消費が意外にも多くのCO2を排出しているのです。
観客のみなさんの移動による環境負荷は「多くの人に来てもらいたい」という主催者側にとっては、なかなか削減できないところ。そこで、セレッソ大阪では「CO2ゼロチャレンジ」活動において「カーボンオフセットマッチ」を実施し、観客のみなさんに向けて、環境問題への関心を促すPR活動に注力しています。
サッカーの試合をサステナブルに
「“カーボンオフセットってなに?”というところからのスタートで、まずは1試合やってみて、少しずつ環境に対する考え方を学んでいくという感じでした」。猪原さんは、プロジェクト開始当初のことを振り返ります。
「カーボンオフセット」とは、森林整備やCO2排出削減活動によって削減されたCO2排出量をクレジット化した国が認証する「J-クレジット」を活用し、あるプロジェクトのCO2排出を相殺(オフセット)する仕組みのこと。それにより、地球温暖化防止を促進することを目的としています。
セレッソ大阪の最初の「カーボンオフセットマッチ」は、2011年7月31日に行われた「鹿島アントラーズ」とのホーム試合。クレジットは、ヤンマーエネルギーシステムの省エネ型GHP(ガスヒートポンプエアコン)を採用いただきCO2を削減することで得たものが使われました。今でこそ、多くのサッカー試合でこの仕組みが使われていますが、当時はまだ珍しく、セレッソ大阪はその先駆者となったのです。
この試みは2012年以降にも継続され、大阪ガスも参画します。「弊社もJ-クレジットを保有していたので、それを何か環境貢献活動に有効活用したいという思いがありました」(葉山さん)。
その後、大阪を拠点とする3社がタッグを組んで、「CO2ゼロチャレンジ」を正式に立ち上げ、年間約20試合に及ぶホームゲームで排出されるCO2を実質ゼロ化する活動を本格化させました。
世の中の流れが変わってきた
PRにはセレッソ大阪に在籍する清武弘嗣選手などトップ選手を起用した動画の放映、新聞広告の打ち出しに加え当日の試合開始前には、「CO2ゼロチャレンジ」と書いたフラッグをフラッグキッズが持ってピッチに入場しました。
セレッソ大阪の取り組みは注目を集め、2014年に開催された「カーボンマーケットEXPO」で「カーボンオフセット大賞経済産業大臣賞」を受賞。当時セレッソ大阪のアンバサダーを務めていた現社長の森島寛晃さんは受賞に際し、「クラブの価値を高めるもの」と喜びを表しました。
また、EXPO会場で行われた特別セッション「JリーグVS地球温暖化」の中では、「環境面が整ったからこそ、日本のサッカー界もレベルが上がっていっていますので、『周囲の取り組みによって自分たちの環境がある』ことを、少しでも知っていただきたいですね」とコメントしています。
その後数年間は、環境問題への関心が下火となり、3社の活動も停滞した時期がありましたが、2020年に日本政府が「2050年カーボンニュートラル宣言」を打ち出すと、一気に流れが変わります。
「われわれも含めた企業が、『なにかしないと』という話になってきましたね。世の中の意識の流れが変わってきたので、これまでの活動を再活性化しようということになりました」(足立さん)
CO2を減らそう。新スタジアムも省エネ型
セレッソ大阪の環境活動が新たなステージを迎える中、3社が見据える次のチャレンジは、「CO2排出をいかに減らすか」(葉山さん)。CO2をクレジットで相殺する前の段階を強化するということです。
そんな中、昨年7月にオープンしたのが「ヨドコウ桜スタジアム」。ホームスタジアムの「キンチョウスタジアム」が第3期改修工事を経て、リニューアルされたものです。ここにも、CO2排出を減らすための工夫が随所に見られます。
照明はすべて、エネルギー効率の高いLED。太陽光パネルを使って発電しているほか、空調はCO2排出の少ない天然ガスを利用したもので、ヤンマーエネルギーシステムの超高効率ガスヒートポンプエアコン(GHP XAIR)など省エネ型の機器が多く導入されています。
「リニューアル前のスタジアムは20年以上も前の設備なので、(新スタジアムは)エネルギー効率が大幅に改善されています」(足立さん)
スタジアム内では、ゴミの分別も強化しています。そのPRのために、ペットボトルを回収してリサイクルし、サポーター向けのグッズを作ることも考えているとのこと。
「サポーターのお得になるような活動から始めて、選手にもSNSなどでPRしていただいて、ゆくゆくはみなさんの日常生活にもゴミ分別やリサイクルの意識が更に広がったらいいな、と思っています」(葉山さん)
また、観客のみなさんの移動によるCO2排出の削減も課題です。
「僕らはたくさんの人に試合を見に来てほしいので、その移動手段を車ではなく、公共交通機関にするだけでもCO2排出削減の一助になるのではないかと思います。」(猪原さん)
セレッソ大阪は地域の公共財 「もったいない」文化をネットワークに
サポーターへの働きかけに加え3社が視野に入れているのは、地域ネットワークの拡大です。
大阪には「もったいない」精神があり、昔からモノを大切にしてきた文化があるため、今はこの「もったいない」つながりで、パートナー企業と一緒に環境活動ができないか模索中だといいます。
「関西には会社規模にかかわらず技術力の高い地元企業がたくさんあると思いますが、その技術を活かす方法が分からなかったり、PRが苦手だったり、という企業も多いと思います。今は3社でやっていますが、参画する地元企業がもっと増えて、これらの企業の強みを取り入れながら本活動がより良いものになっていくといいですね」(葉山さん)
足立さんによれば、「これから環境への取り組みをしていない企業は、おそらく淘汰されていく時代」。それはサッカークラブも同様で、サステナブルな視点はなくてはならないものです。
「『セレッソ大阪は環境に取り組んでいるクラブだ』ということを発信することで、それに賛同する企業パートナーが新たについてくださることも期待したいです。しっかりPRしていきます」(猪原さん)
猪原さんによれば、セレッソ大阪の果たす大切な役割は「地域の公共財」。「環境への取り組みをしていかないといけない立場でもあると思います。セレッソが取り組んでいくことで、いろんな企業や地域の方を巻き込んでいって、地域全体で環境問題に取り組んでいくことが、クラブの存在意義にもなると思います」(猪原さん)
クラブの長期存続に向けセレッソ大阪の新ステージ。これをサポートするために、サポーターのみなさんにも個人レベルでできることがたくさんありそうです。スタジアムまで公共交通機関を利用したり、ゴミを分別したり、電気のスイッチをこまめに切ったり…と、身近なところから始めてみてはいかがでしょうか。
[取材] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 八月朔日仁美