ヤンマーテクニカルレビュー

新たな産業用ディーゼル機関4TN107シリーズの開発
~クラストップレベルの低燃費・高出力密度の実現~

Abstract

Yanmar has developed the new 4TN107 series of 4.6 L diesel engines with power outputs up to 155 kW. The new engines provide customers of medium and large off-road machinery with low environmental impact, high performance, and reliable toughness, also complying with EU Stage V and other developed-nation emission regulations.
Class-leading fuel consumption is achieved through the development of a new combustion chamber, use of advanced fuel injection system components, and friction reduction. Class-leading power density of 34 kW/L together with good drivability is likewise achieved through the adoption of two-stage turbocharging.
The designs of the cylinder head and cylinder block draw on Yanmar’s expertise with large and powerful marine engines to ensure that this high power density also comes with high rigidity and reliability.

1.はじめに

脱炭素社会実現に向けた世界的な動きが加速する中で、産業用エンジン業界でも環境負荷低減への期待が年々高まっています。
ヤンマーの産業用エンジン(建設機械、農業機械、マテリアルハンドリング機械などのオフロード機械用のエンジン)は、これまでエンジン出力56kW未満(排気量3Lクラス以下)という比較的小型の機種ラインナップが豊富で、パワフルでありながら高い環境性能を有するエンジンとして、市場から高評価をいただいてきました。
その長年培ってきた技術に更に磨きをかけ、エンジン出力56kW以上の中大型オフロード機械のお客様にも『低環境負荷・高性能・頑丈』という価値を提供するために、この度新たに欧州StageV規制対応4.6Lエンジン4TN107シリーズを開発しました。
本稿では、この4TN107シリーズについて紹介します。

2.製品概要

表1に示す通り、4TN107シリーズは過給システムをシングルターボと2ステージターボの2仕様とすることで、同一排気量で幅広い出力ラインナップを実現しています。また、シングルターボ仕様と2ステージターボ仕様の双方できめ細かな出力設定を取り揃え、幅広い機械の用途に対応することができます。

表1 4TN107シリーズエンジン仕様

Item New engine
4TN107FHT 4TN107FTT
Base Spec Displacement 4.6L(4 cylinder)
Bore x Stroke 107mm x 127mm
Rated Power
(kW/min-1
Base 100/2000 110/2200 141/2000 155/2200
Option 95/2000 95/2200 127/2000 127/2200
Peak Torque 602Nm/1500min-1 805Nm/1500min-1
Main Feature Combustion Direct Injection
FIE Common-rail 2,000bar
Aspiration Single T/C with CAC 2stage T/C with CAC
Valve Train 4valves / cylinder
Emission Parts EGR High Pressure Cooled EGR
ATS DOC/DPF + SCR
Dimension
*w/o ATS, CAC, FAN
L x W x H
(mm)
832 x 650 x 940 832 x 730 x 940
Voltage 12V & 24V
Regulation EPA Tier4 Final / EU STAGE V

図1に4TN107シリーズの構造概要を示します。図中の表は、上から目的・部品名称・特徴を記載しています。製品コンセプトである『低環境負荷・高性能・頑丈』に加え、スマートな車体搭載を実現するための配管レスデザインや、各種オプション対応など、産業用エンジンの市場経験をフルに活かし、Easy Installation(車体搭載のし易さ)を実現しています。

図1 4TN107FTTの技術ソリューション
図1 4TN107FTTの技術ソリューション

3.適用技術

製品コンセプトである『低環境負荷・高性能・頑丈』を実現するための、キー技術を説明します。

3.1.ヤンマー独自の高効率燃焼技術

燃焼室には従来ヤンマーで主流だったOmega bowlではなくStepped bowlを採用しました。Omega bowlタイプは、口元の径を小さくして燃焼室内部流動を重視するデザインであり、機械式燃料噴射装置の時代から、ヤンマーエンジンの優れた燃焼性能に寄与してきました。
しかし従来機以上の高出力密度を実現する上では、燃焼性能をより一層向上させる必要がありました。そこで4TN107では、Stepped bowlと高圧噴射の組合せにより、従来機を超える燃焼効率を実現しました。
具体的には、最高噴射圧2,000barのコモンレールシステムを採用し、高圧噴射された燃料噴霧の運動エネルギによる微粒化・蒸発を促進することにより、従来のOmega bowlほど開口比を抑えずとも混合気形成が可能になりました。その高圧噴射に、ピストン上部に広く空間を持つStepped bowlを組み合わせることにより、図2に示す通り、従来機よりもシリンダ内の空間を有効利用できるようになり、高効率な燃焼状態を実現できました。

図2 燃焼室の温度分布
図2 燃焼室の温度分布

3.2.高出力密度・高効率燃焼を実現する過給技術

4TN107シリーズはシングルターボ仕様と2ステージターボ仕様という過給システムの異なる2機種をラインナップすることにより、幅広いパワーレンジを実現しています。両仕様の外観およびシステム構成、性能を図3に示します。
2ステージターボ仕様は、型式が異なる2台の過給機を直列に接続する2段過給システムを搭載し、燃焼に必要な吸入空気量を十分に確保することにより、高い出力密度(排気量当りの出力)を達成しています。出力密度の向上は、狙いの出力をより小さなエンジン(つまり小さな機械損失)で達成することと同義であり、ダウンサイジング効果による低燃費化が実現できます。
一方で、高過給エンジンの一般的な懸念事項として、過給機の応答遅れ(いわゆるターボラグ)が挙げられます。建設機械をはじめとするオフロード機械では、激しい負荷変動が想定されるため、エンジンの定常的な性能だけでなく、応答性も機械ユーザの作業効率に直結する重要な要素です。
4TN107FTTは、大小2台の過給機の組み合わせを最適化することにより、急峻な負荷変動時にも必要空気量の確保が可能になりました。そこに、従来機でのオフロード市場経験で培った調速ガバナ(燃料噴射量を制御して所望のエンジン回転速度を保つ機能)マッチング思想を組み合わせ、様々な市場環境を想定したテストおよび改善を重ねました。
その結果、オフロード機械に求められるパワフルな動的特性を有しながら、高出力密度・高効率燃焼を実現できました。

図3 4TN107シリーズの過給システム
図3 4TN107シリーズの過給システム

3.3.主体部構造

低燃費・低エミッションの高出力密度エンジンを製品として具現化するためには、頑丈なエンジン主体部構造も必要不可欠です。高出力を実現するために多量の空気をエンジンに送り込み、低燃費・低エミッションを実現するために多量の燃料を瞬時に完全燃焼させる必要がありますが、その爆発荷重に耐えられる強度や、内部部品温度を適正に制御するための冷却技術が重要な要素です。
そこで4TN107シリーズの主体部には、産業用エンジンのノウハウだけでなく、ヤンマー自社の舶用大型エンジン(~4,800kW)の設計思想を応用し、オフロード機械に求められる信頼性を実現しました。具体的な特徴を図4に示します。
舶用エンジンで一般的な各気筒独立のシリンダヘッド構造の思想を取り入れ、産業用エンジンに求められるコンパクトで組立性良好な多気筒ヘッドに、剛性と冷却性能の高さを持たせる設計にしました。
シリンダブロックは、農業用トラクタ(エンジン自体が車体フレームの一部となり荷重を直接受ける場合がある)への搭載を想定した高剛性な構造体の内部に、前述の各気筒独立冷却を実現するためのウォータレール構造や、エンジンの摩擦損失低減を狙ったオフセットクランクを織り込んでいます。

図4 シリンダヘッド / シリンダブロックのデザイン
図4 シリンダヘッド / シリンダブロックのデザイン

4.エンジン性能

4TN107シリーズは、欧州StageVをはじめとする先進国排ガス規制を十分に満足する低エミッションを実現しながら、34kW/Lというクラストップの出力密度と、図5に示す低燃費を達成しました。
4TN107FTTは、各種低燃費アイテムの採用や、ヤンマー独自の燃焼技術により、4TNV94FHT(ヤンマー産業用エンジンの既存機種中で最も高出力)対比で、定格燃費・最低燃費ともに5%以上改善し、また広範囲で低燃費を実現しています。

図5 4TN107FTT・4TNV94FHTの燃料消費率マップ
図5 4TN107FTT・4TNV94FHTの燃料消費率マップ

5.おわりに

本稿執筆時点では、4TN107シリーズ採用のオファーを続々と頂戴しており、環境負荷低減に向けた従来以上の機運の高まりを感じております。
脱炭素化に向けた動きが世界的に加速しているいま、中大型 オフロード機械の環境負荷低減に、エンジンはどのような貢献ができるか。ひとつのソリューションとして、自信を持って4TN107シリーズをご提案する一方で、世界中の動力源を必要とするお客様に、最適なソリューションを提供するための挑戦を、これからも続けていきます。

著者

ヤンマーパワーテクノロジー株式会社 小形事業部 開発部

小浦 真裕

ヤンマーパワーテクノロジー株式会社 小形事業部 開発部

長縄 宏明

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