ヤンマーホールディングス株式会社 技術本部 中央研究所
ヤンマーテクニカルレビュー
未利用熱エネルギーからCO2フリー電力へ変換
~ループ型サーモサイフォン式熱交換器を応用したkW級熱電発電システムの開発~
Abstract
In order to enable the reduction of CO2 emission, Yanmar has been studying the power generation that uses exhaust heat generated from various industries. Thermoelectric power generation is suitable for the practical exhaust heat power generation because of compact size, no moving parts and workability. To generate kW-class electric power, it is necessary to use a heat exchanger with high heat transport capacity. In this article, as a technology of exhaust gas heat recovery, a thermoelectric power generator using a loop thermosiphon heat exchanger to recover the heat from exhaust gas with high durability has been developed.
1.はじめに
カーボンニュートラル実現に向けて、省エネルギー化やCO2排出削減技術の社会実装が急務です。エネルギー変換分野では、様々な省エネルギー対策のうち、未利用熱エネルギーの有効活用が選択肢のひとつとして知られています(1)。未利用熱エネルギーの代表例である産業分野の排熱(未利用熱)に着眼すると、省エネ法の規制が適用されるエネルギー使用量の高い事業者は、kW級の省エネルギー化が求められます。しかしながら、排熱利用による燃料または電力使用量の低減、すなわち省エネ性、排熱発生源への適合性、導入費用の投資回収、すなわち経済性を満足するソリューションの提供は難しく、実用化が進んでいるとは言えません。
排熱を有効活用しCO2フリー電力に変換する熱電発電は、コンパクトで可動部がなくシンプルな構造であり、排熱ダクトへの施工性に優れる点から、適合性、経済性の成立に有望と考えられます。このような特徴を持つ熱電発電へ熱輸送能力に優れた熱交換器を応用すると、kW級の発電が可能となり、省エネ性も成立されます。そこでヤンマーは、ループ型サーモサイフォン式熱交換器を応用したkW級熱電発電システムを開発しています。本稿では、熱電発電システムの社会実装に求められる性能の観点から、開発した技術を紹介します。
2.熱電発電システムの社会実装で求められる性能
省エネ性の成立には、エクセルギー※1の低い排熱から熱を回収し、kW級の電力へ変換する技術が必要です。次に、適合性の成立には、排熱ダクト等の限定的な空間でも容易に設置可能なコンパクトで施工性に優れるシステム構造が必要です。最後に、経済性の成立には、10年以上の耐用年数を実現し、商用電力に比した高い経済効果が必要です。次章より、まずは熱電発電の原理を説明したうえで、省エネ性、適合性、経済性を成立させるための技術を説明します。
- ※1エクセルギーとは、一定の外界条件のもとで、与えられたエネルギーから理論上取り出しうる最大の仕事量のことです。
3.省エネ性、適合性、経済性を成立させる技術
3.1.熱電発電の原理
熱電発電は、ゼーベック効果※2を応用した発電方法で、図1に示すような異種金属あるいは半導体からなる熱電素子に基板を介した温度差を作用させて起電力を得る方法です(2)。熱電素子、基板、電極が一体化されたものを熱電モジュールと呼びます。熱電モジュールの発電出力は作用する温度差の二乗に比例するため、排熱から熱電モジュールへの熱輸送が設計の勘所となります。
- ※2異なる2種の金属を結合し、二つの接点を異なる温度に保ったとき、両接点間に電位差が発生します。これを熱起電力と呼び、熱起電力が生じる現象をゼーベック効果と呼びます。
3.2.ループ型サーモサイフォン式熱交換器を応用したkW級熱電発電システム
排熱発電では、比較的低いエクセルギーに起因する発電出力の低さが課題のひとつです。すなわち、排熱から熱電モジュールへ熱輸送させるためには、高い熱輸送能力を持つ熱交換器が必要となります。そこで、顕熱型の熱交換器と比較して高い熱輸送能力をもつ潜熱型のループ型サーモサイフォン式熱交換器を採用しています。ループ型サーモサイフォン式熱交換器は、図2に示すとおり、閉じた系の中で冷媒が蒸発、凝縮のサイクルで還流するため、動力を有さずに熱輸送することができます。なお、蒸発部と凝縮部に高低差や傾斜を設けることで、液と蒸気の水頭圧差を利用して駆動力を促進することが可能です。
図3にループ型サーモサイフォン式熱交換器を用いた熱電発電ユニットの概略図を示します。図2の蒸発器、凝縮器に該当する部分を、それぞれ排ガス熱交換器、ヒーターと呼びます。排ガス熱交換器を排熱ダクトへ挿入し、内部冷媒の蒸発現象により熱を回収します。排ガス熱交換器内部の蒸気がヒーター内部へ移動し、ヒーター内部の蒸気が凝縮する際の潜熱により、ヒーターを介して熱電モジュールへ熱を与えます。ヒーターの両面に複数の熱電モジュールを貼り付けており、さらにその外側からクーラーで挟み込む構造になっています。クーラー内部に冷却水を通水することで、熱電モジュールの冷却面温度を維持することができます。図3の熱電発電ユニット1台で2kW級の発電出力を実現していますが、図4に示すように、熱電発電ユニットを複数台連結することにより、発電出力を増大することができます。発電した直流出力を汎用パワーコンディショナで交流出力に変換し系統連系することで、商用電力使用量ならびにCO2排出量を縮減することができます。例えば、熱電発電ユニットを複数台連結した10kW級発電システムの場合、年間稼働時間を7,200時間、CO2排出係数(3)を0.000453t-CO2/kWとすると、CO2排出削減量は年間約33tとなります。また、温水需要がある場合は、熱電発電ユニットで回収した熱を利用して、温水として出力することもできます。
3.3.施工性に優れた熱電発電システム
図5に熱電発電ユニットの構造図を示します。ヒーター、熱電モジュール、クーラーは筐体によりパッケージングされており、冷却水を供給するのみで利用できます。また、排ガス熱交換器を排熱ダクトに挿入する際は、図5の排熱ダクトフランジを排熱ダクトへボルト固定するのみで設置できます。
3.4.サンドイッチ型伝熱構造による耐用年数向上
本ユニットは、ヒーターを介して熱電モジュールへ熱輸送し、余剰熱をクーラーで放熱していますが、図6(a)に示すように、これら3つのコンポーネントの単純配置では高温側の熱膨張で系が1次曲げ変形します。開発した熱電発電ユニットは、図6(b)に示すように、中央にヒーター、その両側に熱電モジュール、さらにその外側にクーラーを配置したサンドイッチ型伝熱構造となっており、これより、熱電モジュールに加わる過大な応力を緩和し、1次曲げ変形を抑制して耐用年数を向上させることができます。なお、熱膨張をサイクル的に与える耐久試験を実施しており、10年以上の耐用年数を実現し、商用電力に比した高い経済効果を実証しています。
4.おわりに
ループ型サーモサイフォン式熱交換器の応用やサンドイッチ型伝熱構造により、2kW級熱電発電ユニットならびに複数台連結による発電出力の増大化、施工性に優れた構造、10年以上の耐用年数を実現し、省エネ性、適合性、経済性に優れた熱電発電システムを開発しました。10kW級の熱電発電システムを導入すると、年間CO2排出量を約33t削減できます。2050年のカーボンニュートラル実現に向け、熱電発電システムを社会実装し、産業分野の省エネルギー化ならびにCO2排出量削減に貢献します。
謝辞
本報の一部は、2018~2020年度に実施した環境省委託事業「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」によるものです(4)。この場を借りて深く御礼申し上げます。
参考文献
- (1)国立研究開発法人,新エネルギー・産業技術総合開発機構,これからの未利用熱活用に向けて,INCHEM TOKYO 2019特別講演会資料
- (2)舟橋良次,他3名,日本熱電学会,熱電変換技術の基礎と応用-クリーンなエネルギー社会を目指して-,シーエムシー出版,2018
- (3)環境省,温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度,電気事業者別排出係数関連ページ,電気事業者別排出係数,令和2年度実績,一般送配電事業者代替値(https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc/denki)
- (4)環境省委託事業,令和2年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業,サーモサイホン式熱交換器を用いた高出力省スペース熱電発電システムの開発・実証 委託事業,成果報告書