ヤンマーパワーテクノロジー株式会社 特機事業部 開発部
ヤンマーテクニカルレビュー
デュアルフューエルエンジンの紹介 第2報
~脱炭素社会にむけた取り組み~
Abstract
The shipping industry has been studying alternative fuels and technologies able to replace petroleum-based fuels as part of its efforts toward decarbonization. In the transitional period to 'carbon neutrality', LNG is a leading contender among such alternative fuels, already used in an increasing number of onboard systems and the subject of ongoing technology development. Yanmar has been developing dual-fuel engines able to run on both gas and diesel fuel. The first such dual-fuel engine, the 6EY26DF, was described in an earlier article in the April 2019 edition. This follow-up report describes subsequent technology developments and the work being done to address its technical challenges.
1.はじめに
海運業界ではカーボンニュートラルに向けた取り組みが進んでいます。国際海事機関(IMO)の海洋環境保護委員会(MEPC)では2018年に開催されたMEPC72において、温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに対2008年比で半減させることが採択され、現在はより野心的な目標を見据えた討議が進んでいます。また国内に目を向けると2020年3月に国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップが策定されています。このような情勢の中、海運業界では船舶用エンジンに用いる石油系燃料に代わる新しいエネルギ源として、水素やアンモニア、またバイオメタノールといった新燃料の検討や開発を進めています。とりわけLNG(液化天然ガス)を含むガス燃料はカーボンフリーではないものの、従来の石油系燃料と比べてGHGであるCO2に加えてNOXやPMといった大気汚染物質の排出量が低いこと、また技術開発が進んでおり直ぐに実用化が可能であることから、新エネルギへの移行に向けた過渡期における代替エネルギ源の一つとして期待されています。
ヤンマーパワーテクノロジー株式会社は、ディーゼル運転に加えてLNGによるガス運転が可能なデュアルフューエルエンジン(以下DFエンジン)を開発し、本誌2019年春号(1)にて紹介しました。本稿では、DFエンジンの技術や技術課題への取組みについて続報として紹介します。
2.DFエンジンの混焼モード運転
一般的にLNGバンカリング※1の前後などガス熱量や圧力の変動が大きい条件では、ガスはエンジンの燃料としては使用することができないため、ガス燃焼装置(GCU)を用いて焼却処分されます。ヤンマーのDFエンジンではガスモード運転、ディーゼルモード運転に加えて、ガス燃料とディーゼル燃料の供給を協調させた混焼モード運転を搭載しており、適切なエンジン制御に基づき、扱いにくい条件においてもガスを燃料として有効利用することができます。
図1は 混焼モード運転時におけるガス燃料とディーゼル燃料の供給比率を示します。エンジンの調速制御はディーゼル噴射量で行っているため、ガスの発熱量や圧力が変動してもエンジンの回転速度は乱れずに、安定した運転を可能としています。
- ※1バンカリング:船舶の燃料タンクへ燃料を供給することを指します。LNGバンカリングでは引火等の防止策としてLNGの供給前後に不活性ガスを用いて供給ラインのパージが必要となります。そのため、供給前後においてはガス熱量や圧力が変動し易くなります。(図2はTruck to Ship方式によるLNGバンカリング例)
3.DFエンジンの技術課題
LNG燃料をエンジンで用いることで大きな排気エミッション低減効果が得られます(1)が、一方で、LNGに含まれるメタンが燃焼されずに未燃のまま大気へ放出されることをメタンスリップと呼び、メタンは二酸化炭素に比べ25倍以上の温室効果があるとも言われることから、GHG削減に向けてLNG燃料を用いるにはメタンスリップ削減が重要となってきます。
DFエンジンを含むガスエンジンでは高出力かつ低NOX化のために、適切な空燃比制御(エンジン筒内に投入する空気量と燃料の比)に基づくリーンバーン(希薄燃焼)が多く採用されています。図3のようにリーンバーンは安定して高出力が得られ、また燃焼温度が低下することからNOXの排出量を低減できますが、その代わりに未燃ガスの排出、つまりメタンスリップが増加してしまいます。ヤンマーではエンジン性能とメタンスリップ低減を両立させるために、構造や燃焼の改良によるエンジン本体での低減と、触媒等を用いた後処理装置による低減に取り組んでいます。
3.1 エンジン本体における取り組み
最初にエンジン 本体における取り組みを紹介します。予混合リーンバーン方式においてメタンスリップが生じ易いポイントは次の2点になります。
- 1)吸気管へ供給したガス燃料が筒内に留まらず、吸排気弁が共に開く吸排気弁オーバーラップ時に排気へ吹き抜ける
- 2)筒内で燃焼されずに残存した混合気(ガス燃料と空気)が未燃ガスとして排気される
1)のガス燃料の吹き抜けに対しては、吸気管へ供給したガス燃料をいかに吸気工程において筒内にトラップさせるかが重要となり、そのためには吸排気のタイミングやガス燃料の供給タイミング、供給量を最適化させる必要があります。
ヤンマーでは解析技術を用いて、吸排気タイミングやガス燃料の供給タイミング、供給量、供給方向の検討を行っています。図4は筒内へのガス供給状況について流体解析ソフトを用いた検討例を示しており、ガス供給状況と構成部品形状の最適化を行っています。また図5は検討結果の一つとして、ガス燃料の供給タイミングを変更した際のエンジン性能とメタンスリップとなるTHC濃度について予測と実測の結果を示しており、ヤンマーが持つ設計能力と解析技術により、高い精度で性能予測ができていることが分かります。
2)の未燃ガスの排出については、エンジン筒内の未燃領域の縮小と燃焼反応を活発化させることが重要となります。
筒内には燃焼が行き届かないデッドボリュームと呼ばれる未燃領域があり、その中の一つにピストントップランドとシリンダライナの間に存在するクレビスボリュームがあります。クレビスボリュームの増減と未燃ガスの増減には大きな相関があることが、これまでの実測評価から分かっています。DFエンジンではピストン頂部をフラットな形状とし、トップリングの位置を許容可能な限りピストン頂部に近づけるハイトップ化とすることで、クレビスボリュームの縮小に取組んでいます。
また燃焼反応を活発化させる技術の一つとして、多段噴射技術の研究に取り組んでいます(2)。この取り組みでは、特定の負荷運転条件下で多段噴射を用いることで、熱効率の改善と未燃炭化水素の低減を達成しています。
3.2 触媒などの後処理装置における取り組み
ヤンマーはグリーンイノベーション基金における「次世代船舶の開発プロジェクト」(3)に参画しており、このプロジェクトの一つである「触媒とエンジン改良によるLNG燃料船からのメタンスリップ削減技術の開発」において、関連企業との協業により、2026年までにメタン酸化触媒とエンジン改良の組合せによるメタンスリップ削減率70%以上を実現し、LNG燃料船の更なる環境負荷低減を目指していきます。
4.おわりに
本稿では2019年春号の続報として、DFエンジンの技術紹介と技術課題への取り組みについて紹介しました。LNGは脱炭素化に向けた取り組みとして今後も利用拡大が進んでいくと想定されます。ヤンマーは引き続き技術開発を行い、高いエンジン性能と高い環境性能を両立したDFエンジンの開発を進めていきます。
また得られた技術を基盤の一つとして、カーボンニュートラル実現に向けた新パワーソースの創造実現に向けて引き続き研究開発を行っていきます。
引用文献
- (1)西村 勝博,6EY26DF形デュアルフューエルエンジンの開発~IMO 3次規制対応~, ヤンマーテクニカルレビュー, 2019年4月3日
- (2)Toshinaga,K.and Others., Advanced Combustion Strategy for Medium-Speed Dual-Fuel Engine,2019-262,CIMAC CONGRESS 2019
- (3)ヤンマー「触媒とエンジン改良によるLNG燃料船からのメタンスリップ削減技術の開発」事業がNEDOの「次世代船舶の開発プロジェクト」に採択
https://www.yanmar.com/jp/marinecommercial/news/2021/10/27/99019.html