ヤンマーエネルギーシステム株式会社 開発部
ヤンマーテクニカルレビュー
世界トップクラス発電効率をめざして
~EP420Gの商品開発~
Abstract
Gas engine cogeneration systems are a clean and energy-efficient means of burning city gas (made up mainly of natural gas) to generate electric power, with the excess heat being used for purposes such as heating water.
Yanmar Energy System Co., Ltd. supplies gas engine cogeneration systems with generation capacities ranging between 5 and 800 kW, with the recently developed EP420G achieving world-leading electrical generation efficiency for its output class of 42.6%. This contributes to the system offering outstanding life cycle value※1 to users. With recent years having seen a growing need for business continuity planning (BCP) measures that can deal with power outages caused by earthquakes or typhoons, the system also helps customers to improve resilience by serving as a distributed energy system.
- ※1ライフサイクルバリューは、製品が生涯(Life Cycle)を通してお客様へ提供する価値(Value)であり、ヤンマーはLCVの向上に取り組んでいます。
1.はじめに
EPGシリーズは、ガスエンジンを原動機とするコージェネレーションシステムです。2003年の発売以来およそ600台販売しており、お客様の省エネルギー化、および事業継続計画(BCP)対応として活躍しています。今回開発したEP420Gは同出力クラスで世界トップクラスの発電端効率42.6%を実現しました。これにより、お客様の更なる省エネ性改善が可能となりました。
2.ガスエンジンコージェネレーションシステムの概要、および実績
ガスエンジンコージェネレーションシステム(以下、ガスコージェネ)の概要を図1に示します。ガスコージェネとは、主に天然ガスを燃料としてエンジンを運転、発電し、その際に生じる熱も同時に回収・利用する熱電併給システムです。従来の火力発電等では40%程度のエネルギーが電力として利用可能ですが、需要地にガスコージェネを設置することで、電力と熱の両方を有効利用することが可能になり燃料が持っているエネルギーの約75%~80%を利用できます。これにより、省エネルギーによる経済性向上、CO2排出量の削減が可能になります。(1)
また、2020年に国会で可決、成立したエネルギー供給強靭化法においても、より災害に強い電力網の形成が求められており、ガスコージェネは耐震性のある中圧供給の都市ガスを利用するため災害に強いシステムを構築できます。特に、停電対応(BOS:ブラックアウトスタート)仕様ガスコージェネは、商用電力系統の停電時に重要負荷へ40秒以内に電力供給可能であり、信頼性の高い事業継続計画(BCP)を立案することが可能になります(1)(2)(3)。
2011年に発生した東日本大震災において商用電力系統に停電が発生した際にもガスコージェネはお客様へ電気と熱を供給しつづけ、大災害時におけるエネルギー供給システムとして非常に有効であると評価されました(4)(5)。
3.EP420G概要
図2にEP420Gの外観、表1に主要目一覧、および従来機種であるEP370Gとの比較を示します。発電効率は、EP370Gから1.6%pt向上させ、同出力クラスにおいて世界トップレベルとなる42.6%を実現しました(図3)。これまでEPGシリーズが受け入れられてきた病院や商業施設のお客様においては高い発電効率が求められており、更なる高効率を実現したことで、お客様のLCV向上へより大きく貢献できる製品となりました。また、停電発生時における電力負荷投入量も従来機種から増加し、BCP対応性を向上させました。
表1 EP420G主要目
項目 | 単位 | EP420G | EP370G(従来機) | |
---|---|---|---|---|
周波数 | Hz | 50 | ||
定格出力 | kW | 420 | 370 | |
エンジン型式 | - | AYG20L-ET | AYG20L-SE | |
エンジン回転数 | min-1 | 1500 | ||
発電効率 | % | 42.6 | 41.0 | |
総合効率 | 蒸気+温水回収仕様 | % | 76.9 | 73.8 |
温水回収仕様 | 78.4 | 75.0 | ||
負荷投入量(率) | kW(%) | 126(30) | 111(30) | |
騒音値 | dB(A) | ≦75 | ||
NOX(O2=0%) | ppm | ≦200 (脱硝装置不要) |
||
機器本体の外形寸法※ (蒸気+温水回収仕様) |
全長×全幅×全高 | mm | 7,734×2,200×3,627 | 7,735×2,200×3,630 |
- ※給気フードは除く
4.EP420G開発
4.1.高い発電効率の実現へ向けて
EP420Gのエンジンは従来機種であるEP370Gのエンジンをベースとして開発を行いました。高い発電効率を実現するための適用技術を表2に、結果を図4に示します。これによりEP370Gと比べて1.6%ptの発電効率向上を実現しました。
表2 高効率実現に向けての適用技術
課題 | 手段 |
---|---|
高効率の実現 | 高出力化 |
ピストン、副室形状の最適化 | |
高効率過給機の採用 | |
ノッキングの抑制 | 吸排気タイミングの見直し |
高圧力比過給機の採用 | |
大気汚染物質の抑制 | 燃焼マッチング |
①高効率の実現
一般的にエンジンは、出力が大きいほど、排気量が多いほどエンジンの効率は向上します。今回はベースエンジンがあるため排気量はそのままで、出力を上昇させる事でエンジンの高効率化を図りました。加えて、高効率過給機の採用、およびピストン燃焼室、副室形状を変更し燃焼の最適化を行いました。
②ノッキングの抑制
出力を上昇させる事は、ノッキングが発生しやすくなる課題があります。回避する手段として、吸排気タイミングの見直し、および高圧力比過給機の採用により、ミラーサイクルを最適化する事でエンジンシリンダ内の圧力、温度の低減を図りノッキングを抑制しました。
③大気汚染物質の抑制
大気汚染物質である窒素酸化物(NOX)の排出量はエンジンの効率と相関があり、エンジンの効率を上げようとすると、NOX排出量が増えます。一方で、大気汚染防止法、および各自治体での条例によってNOX排出量の基準が設けられており、エンジンの高効率化とNOX排出量の削減の両立が課題でした。EP420Gは東京の条例で定められている200ppm以下(O2=0%)を脱硝装置無しで達成することを目標として、幅広い運転領域で超希薄燃焼を実現しました。これにより、長期間運転を継続しても基準メンテナンス間隔内であればNOX基準以下を達成しました。
4.2.BCP対応性向上の実現に向けて
4.2.1.負荷投入量の改善
エンジン効率向上の手段として、吸排気タイミングの見直し、高圧力比過給機の採用を行ったことで負荷投入性の確保が難しくなりました。それは無負荷状態から負荷が急増した時に一時的に燃焼室内が空気不足となり燃焼性が低下したためです。改善のための適用技術を表3に示します。これらの適用により従来機と同等の負荷投入率を確保し、負荷投入量を増やしました。
表3 負荷投入性改善の適用技術
項目 | 狙い |
---|---|
燃焼室、および副室への燃料投入量制御の最適化 | 空気過剰率の調整 |
点火時期制御 | 負荷投入時の状況に合わせて点火時期を調整し負荷投入しやすい状態へ制御 |
4.2.2.遠隔監視による発電機コンディションの維持
EP420Gはこれまでの機種と同じようにRESS(Remote Energy Support System)により遠隔監視を行っています。図5に遠隔監視のサンプル画像を示します。現地サービスマンへ運転状況を情報提供する事で、故障発生時に速やかに対応する事だけではなく、異常の予兆をつかむ事ができるシステムを構築し、機器の安定運転を実現します。
5.おわりに
EP420Gは世界トップレベル発電効率を目指し開発を行い、発電端効率42.6%を実現することができました。高効率のシステムをお客様へ提供する事で、省エネルギー化が可能となりLCVの向上に寄与できる商品であると確信しています。今後も、お客様の課題に対するソリューションを提供できる商品開発を続けていきます。EP420Gは東京ガス株式会社、東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社、ヤンマーパワーテクノロジー株式会社と共同開発を行いました。未知の課題が多い中、商品化に至れたことをこの場を借りて謝辞を表します。
参考文献
- (1)コージェネ財団.“コージェネの特徴”.コージェネ財団ホームページ. https://www.ace.or.jp/web/chp/chp_0030.html
- (2)経済産業省 資源エネルギー庁.“「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ①法改正の狙いと意味”.経済産業省 資源エネルギー庁ホームページ.
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/denjihokaisei_01.html - (3)コージェネ財団.“国土強靭化政策に貢献するコージェネレーション-国土強靭化基本計画の改定におけるコージェネの位置づけ-”コージェネ財団ホームページ.
https://www.ace.or.jp/web/info_general/images/20190704111800_1.pdf - (4)内閣官房.“震災時も発電し続けた仙台マイクログリッド”.内閣官房ホームページ
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/minkan_torikumi/3_3/0304.pdf - (5)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構.“ケーススタディ:東日本大震災直後の仙台マイクログリッドの運用経験” 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ホームページ
https://www.nedo.go.jp/content/100762722.pdf - (6)月間「クリーンエネルギー」別冊天然ガスコージェネレーション機器データ2021.日本工業出版.P12-P17