2023.07.21
企業がワーク・ライフ・バランスを実現させるメリットとは?取り組みの事例も紹介
働き方改革の推進に伴い「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向けた企業の取り組みが注目を集めています。メディアでも目にすることの多い言葉ですが、改めてその意味を聞かれるとうまく説明できないという方も多いのではないでしょうか。
今回のY mediaでは、ワーク・ライフ・バランスの意味を改めて解説しながら、企業が取り組むメリットについて、ヤンマーの事例を交えながらご紹介します。
ワーク・ライフ・バランスとは?
ワーク・ライフ・バランスとは、仕事(ワーク)と生活(ライフ)の調和を表す言葉で、仕事と生活のバランスを取り、その両方を充実させることでより良い働き方・生き方を目指そうという考え方に基づくものです。
仕事と生活は、互いが密接に関わり影響しあっています。たとえば、仕事で大きな失敗をしてしまった日は、何となく気が休まらなかったり、反対に翌日にずっと楽しみにしていた旅行を控えている日などは、やる気がみなぎっていつもよりもスピーディに仕事をこなせたりするということもあるでしょう。
仕事が充実すれば、私生活の満足度が高まり、私生活が充実すれば、仕事への活力が湧いてくるものです。そのように考えると、ワーク・ライフ・バランスは、仕事の充実と生活の充実の掛け合わせによって生まれる「相乗効果」とも言えるかもしれませんね。
ワーク・ライフ・バランスが注目される背景
ワーク・ライフ・バランスの概念が誕生したのは、1980年代後半のアメリカです。当時のアメリカでは、働く女性が増加したことをきっかけに、仕事と家庭の両立が叶う、いわゆる「ファミリーフレンドリー」な職場が求められるようになりました。
1990年代以降になると、女性の社会参加や少子高齢化、長時間労働の是正などを背景に、日本でもワーク・ライフ・バランスが注目を集めるようになります。
2007年に策定された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、ワーク・ライフ・バランスが重視される背景として「我が国の社会は、人々の働き方に関する意識や環境が社会経済構造の変化に必ずしも適応しきれず、仕事と生活が両立しにくい現実に直面している」とした上で、次のように述べています。
仕事と生活の調和と経済成長は車の両輪であり、若者が経済的に自立し、性や年齢などに関わらず誰もが意欲と能力を発揮して労働市場に参加することは、我が国の活力と成長力を高め、ひいては、少子化の流れを変え、持続可能な社会の実現にも資することとなる。
先ほど、仕事と生活はどちらも大切な存在で、互いに影響しあっていると述べましたが、実社会では、経済的な不安から結婚や出産を諦めてしまう人や、仕事に追われて心身の健康を崩してしまう人、仕事と介護の両立に悩み離職してしまう人など、仕事と生活のバランスに悩みを抱える人は決して少なくありません。
仕事と生活の両立が難しいために、「結婚をしない」「子どもを生まない」という選択をする人が増えれば少子高齢化が進み、日本の働き手が不足します。また、子育てや介護をするために離職を選ぶ人が増えれば、経済が衰退してしまいます。
ワーク・ライフ・バランスの実現は、個人の幸福だけではなく、日本の出生率の上昇や経済の発展にも大きく関わっているのです。
企業がワーク・ライフ・バランスを実現させるメリット
「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、ワーク・ライフ・バランスが実現した社会の姿を、
国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会
と定義した上で、具体的には次のような社会を目指すべきだと述べています。
・就労による経済的自立が可能な社会
・健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
・多様な働き方・生き方が選択できる社会
これらの内容を見るとワーク・ライフ・バランスの実現は、一見、企業で働く社員のための取り組みのように思えるかもしれませんが、それだけではありません。
ワーク・ライフ・バランスに取り組むことは、次のように企業にとっても多くのメリットがあるのです。
・社員の心身の疲労回復やモチベーションの向上
・社員の離職率の低下や優秀な人材の確保
・コスト削減
・残業代の削減や生産性の向上
・企業イメージの向上
ここでは、ワーク・ライフ・バランスの実現による、企業のメリットについて確認していきましょう。
企業のメリット|①社員の心身の疲労回復やモチベーションの向上
仕事と生活のバランスが取れ、生き生きと働ける環境は、心身の疲労を回復し、意欲を高めます。休日にしっかりと休息を取ることができれば、頭が冴えた状態で仕事ができます。また、家族と過ごす時間が、翌日の仕事に対する活力に繋がることもあるでしょう。
企業のメリット|②社員の離職率の低下や優秀な人材の確保
時短勤務やフレックスタイムなど、勤務時間を社員の都合にあわせて選択できれば、出産や介護といったライフイベントによる離職を防ぐことができます。柔軟な働き方が実現すれば、有能な人材を確保しやすくなり、企業の生産性も向上します。
企業のメリット|③コスト削減
在宅勤務をはじめとしたテレワークは、企業のコスト削減に貢献します。自宅で働く社員が増えれば、通勤や出張に伴う交通費の削減が見込めます。賃料、デスク、日用品などの費用も大きく減少するでしょう。
企業のメリット|④残業代の削減や生産性の向上
少ない時間で成果を出すためには、一人で仕事を抱えるのではなく、社内の知識や情報を見える化し、チームで分担しながら仕事を進めていく必要があります。業務の属人化を防ぐことで、業務量の偏りがなくなり、社内全体の生産性も向上するでしょう。定時退社が普及すれば、残業代の削減にも繋がります。
企業のメリット|⑤企業イメージの向上
近年投資の世界では、環境や社会に配慮した企業に投資をする「ESG投資」が注目を集めています。ESGとは「環境(Environment)」「社会(Social)」「統治(Governance)」の頭文字をとったもので、「社会(Social)」には、ワーク・ライフ・バランスの推進をはじめとした労働環境の改善が該当します。ワーク・ライフ・バランスの実現は、「社員を大切にする」という優良企業のイメージを育て、金融市場や投資家からの信頼を得ることにも繋がります。
ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて企業が取り組めること
ここまで、ワーク・ライフ・バランスが求められる背景や企業にとってのメリットについてお伝えしてきました。しかし、「ワーク・ライフ・バランスを推進したいけれど何から始めて良いのかわからない」と感じる方も少なくないでしょう。ここでは、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて企業が取り組めることについて具体例を挙げながらご紹介します。
企業が取り組めること|①育児休業
子どもが1歳になるまでの間、希望する期間の休業を取得できる制度です。共働き家庭が増えたことを背景に、近年は、女性だけではなく男性も育児休業を取得しやすい職場環境を整えることが求められています。令和4年10月1日には、育児・介護休業法により、男性の育児休業取得の促進を目指して新たに「産後パパ育休(出生時育児休業)」が施行。この制度により、出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割して休業を取得できるようになりました。
出典:育児・介護休業法について_厚生労働省より
企業が取り組めること|②時差通勤
コロナ禍においては、通勤時の混雑を緩和するために、時差通勤を取り入れる企業も増えてきました。出勤時間を遅くしたり、早めたりすることで「朝早めに出勤して夜は育児に参加する」「子どもを保育園に送ってから出勤する」など社員のライフスタイルにあわせた柔軟な働き方ができます。満員電車による心身の疲労を緩和できるというメリットもあります。
企業が取り組めること|③短時間勤務
1日の労働時間を短縮して勤務できる制度です。従来多くの企業では、フルタイムで勤務ができる人材を正社員として採用してきました。しかし現代では、子育てや親の介護、傷病治療などさまざまな事情で、フルタイムでの勤務が困難になり、離職という選択肢を取らざるを得ない人が増えています。短時間勤務を導入し、1日の勤務時間を短縮することができれば、仕事と生活の両立が叶い、フルタイムで働くことが困難な社員の雇用を守ることができます。
企業が取り組めること|④フレックスタイム
あらかじめ働く時間の総量(総労働時間)を決めた上で、働く時間帯を社員が自由に選択できる制度です。働く時間帯を自分で選ぶことができれば、子育てや介護と両立しながらフルタイムで働けるという人も増えてくるでしょう。短時間勤務に比べて収入が少なくなる心配もありません。企業によっては、「10時〜15時は必ず勤務しなければならない」といった「コアタイム」が定められていることもあります。
企業が取り組めること|⑤テレワーク(在宅勤務・モバイルワーク・施設利用型・ワーケーション)
インターネットなどの情報通信技術を活用した、場所や時間にとらわれない新しい働き方です。企業のオフィスではなく自宅で仕事をする「在宅勤務」、新幹線や飛行機など移動の合間に業務を行う「モバイルワーク」、企業の本拠地から離れた場所に設置されたサテライトオフィスや民間のコワーキングスペースなどで仕事をする「施設利用型テレワーク」の他に、リゾート地や出張先で仕事をする「ワーケーション」などが該当します。
企業が取り組めること|⑥副業の解禁
社員のスキルアップを目的に「副業」を解禁する企業も増えてきました。副業先で得たスキルや人脈が本業に活かされれば、企業にとっても大きなメリットになります。「社員のやりたいことを応援してくれる企業」というイメージが定着すれば、優秀な人材の確保や社員の離職率の低下にも繋がります。
企業から個人目標や取り組みについてもサポート
ワーク・ライフ・バランスを実現させるためには、そこで働く社員一人ひとりが個人目標を持ち、理想に向かって努力していかなくてはなりません。しかし、パートナーや周囲の協力が得られず、一人で育児や介護といった負担を抱えてしまっている状況では、前向きな目標を持つことは難しいでしょう。
社員一人ひとりが個人目標を持ち、理想のワーク・ライフ・バランスを実現するために、企業はどのようにサポートするべきなのかをご紹介します。
個人へのサポート|①1on1ミーティングを行う
社員と1対1で話す機会を設けることで、社員が抱える悩みや課題に気付きやすくなります。「仕事や生活の課題や困っていること」「理想の働き方や1日のスケジュール」など、社員が本音で話せる環境を整え、一緒に個人目標を設定できるようサポートしていくことが大切です。
個人へのサポート|②支援制度の周知
社内にワーク・ライフ・バランスに関する支援制度がある場合は、公平にその情報を発信しましょう。男性の中には、「キャリアに影響が出る」「前例がない」といった理由で育児休業の取得を諦めてしまう人が少なくありません。「誰でも利用できる」というイメージが広まれば、育児休業を取得する男性も増えるはずです。
個人へのサポート|③メンタルヘルスケアの促進
真面目で責任感の強い社員ほど、ストレスを溜め込み心身の健康を崩してしまう傾向があります。休業や離職を未然に防ぐためにも「ミスが目立つ」「身だしなみが整っていない」「表情に活気がない」など些細な変化を見逃さないことが大切です。社員自らがストレスに気付いて対処できるよう「メンタルヘルスケア」に関する情報を積極的に提供しましょう。社内にメンタルヘルスに関する相談窓口を設置している企業もあります。
ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた、ヤンマーの取り組みや事例
「A SUSTAINABLE FUTURE」をブランドステートメントに掲げるヤンマーでは、在宅勤務制度やフレックスタイム制度など多様な社員一人ひとりが、ライフイベントやライフスタイルに合わせて、働き方を柔軟に選択できる制度を導入しています。ここからは、私たちヤンマーのワーク・ライフ・バランスに関する取り組みをご紹介します。
ヤンマーの取り組み|①男性の育児休業の取得推進
共働き家庭が増え「男性の育休」に注目が集まる中、ヤンマーでも仕事と生活の両立を目指したワーク・ライフ・バランスの一環として社員の育休取得を推進しています。
育休の取得は、職場の協力があってこそ。2015年に入社した小倉さん(TVモニター)は、2018年に31日間、2020年に68日間の育休を取得。1回目の育休取得の際、勇気を出して上司に相談したところ「取っていいよ」とスムーズに受け入れてもらえたそうです。チームのサポートのおかげで「育休後の業務にも問題なく復帰できた」と語ります。
Y mediaでは、育休制度を利用したヤンマーの男性社員3名に「育休取得の良かったことや課題、これからの働き方」について取材した記事を公開していますので、ぜひご覧ください。
●この取り組みをもっと詳しく見てみよう!
ヤンマーの取り組み|②産休・育休後も活躍できる環境づくり
本人やパートナーの妊娠出産は、人生の大きな転機です。産休・育休や時短制度など働きやすい環境は整ってきているものの、産休・育休後のキャリアに不安を感じている人は少なくありません。
ヤンマーには、1年間の産休・育休の取得や、復帰後は時短勤務を活用できる制度があり、多くの社員がこうした制度を活用しながら仕事を続けています。
Y mediaでは、産休・育休を取得して職場に復帰した後、現在も子育てをしながらキャリアを積み上げている社員3名を取材。産休・育休後での仕事の変化から、仕事と子育てを両立するために大切にしていることまで、復帰後のキャリア形成についてお話を伺いました。
●この取り組みをもっと詳しく見てみよう!
ワーク・ライフ・バランスの実現は個人と企業の成長に繋がる|まとめ
「理想のワーク・ライフ・バランスとは?」この問いには、100人いれば100通りの答えがあります。職場の環境や家族との関係、ライフステージなどが変わると、自ずとその答えも変わってくるでしょう。
最後になりましたが、ワーク・ライフ・バランスの実現は、「仕事と生活の割合を均等にすること」でも「家庭だけを大切にすること」でもありません。
ワーク・ライフ・バランスの本質は、仕事と生活の調和。それは「仕事も生活も相乗効果でより良いものにしていこう」という前向きな姿勢です。
Y mediaではこれからも、ワーク・ライフ・バランスをはじめとした働き方に関する情報やインタビュー記事を発信していきます。仕事と生活、どちらも大切に。ワーク・ライフ・バランスの実現に向けてできることを、私たちと一緒に考えてみませんか?