寺井 しま(てらい しま)
ヤンマーマリンインターナショナルアジア株式会社
生産統括部 バイオ生産部 部長
10歳と8歳の二児の母
2022.09.09
産休・育休後に職場に復帰したあと、忙しい子育てをしながら、また仕事に打ち込んだり、キャリアアップしたりすることは可能なのだろうかー。育休や時短制度など働きやすい環境は整ってきているものの、このような不安を抱く人は多いのではないでしょうか?
ヤンマーには、1年間の産休・育休の取得や、復帰後は時短勤務を活用できる制度があり、多くの社員がこの制度を利用して、子育てをしながら仕事を続けています。最近では、制度を活用する男性も増えてきました。
仕事と家庭を両立しながら自分らしいキャリアを築いていくことは、男女問わず大切なこと。今回は、産休・育休を取得して職場に復帰した後、現在も子育てをしながら着実にキャリアを積み上げている社員に話を聞きました。
寺井 しま(てらい しま)
ヤンマーマリンインターナショナルアジア株式会社
生産統括部 バイオ生産部 部長
10歳と8歳の二児の母
池田 秀紀(いけだ ひでき)
ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
特機事業部 開発部 アプリケーション技術部 陸用グループ グループリーダー
9歳と0歳の二児の父
中野 梓美(なかの あづみ)
株式会社ヤンマービジネスサービス
総務サービス部 GAセンター ビジネスサポートグループ
10歳と7歳の二児の母
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
―産休・育休取得の前後で、お仕事の状況はどのように変わりましたか?
寺井:私は入社以来、技術系総合職として、植物プランクトンの培養や牡蠣の種苗生産技術の開発などの、研究開発の業務に従事してきました。
産休前は現場に出て、海に入って試験をし、大学の先生との共同研究のために出張もしていました。妊娠してお腹が大きくなってからも、出産直前まで現場で働いていましたね。
産休後は1人で黙々とできるような分析業務を担当することになりました。そのときは「今まで現場に出ていたのに…」と物足りなさを感じることもあったのですが、その後2人目の子を妊娠、出産、2回目の産休を取るまで、自分のペースで業務を進めることができて、結果的にすごくよかったです。
2回目の産休から1年で復帰した後も、現場ではなく社内での仕事がメインです。3年ほど前に管理職になったのですが、効率的に仕事をして誰よりも早く家に帰ることを心掛けています。
中野:私は事務系総合職として入社し、大形舶用エンジンを取り扱う営業部で初の女性営業担当としての業務や、中央研究所での採用活動や人員管理など、人事・総務の業務を担当しました。営業時代は、出張や飲み会も多かったですね。
産休・育休は、1人目は1年3カ月、2人目は9カ月取得しました。復帰した後も出産前と同じ人事・総務の仕事を担当し、労災事故防止など安全衛生の仕事にも関わりました。
現在は、株主総会や取締役会の運営、働き方改革に伴うDX(デジタル・トランスフォーメーション)などをメインに担当しています。
池田:私は9歳と0歳10カ月の子どもがいて、妻は他の会社で産休・育休を利用した後、今は時短勤務で働いています。
下の子が産まれて数ヶ月後に、私も育休を取得しました。制度を利用して少しでも育児に参画したいと思ったことがきっかけです。妻も育休中でしたが、上の子の外遊びに付き添ったり、下の子の世話をしたりして過ごしました。
実家が近くないので、基本的に何かが起きても自分たち2人だけで対処しています。私も、保育所に子どもを送っていくなど、できる範囲で子育てをやっていますが、基本は妻に任せっきりになってしまっていて……。
私の仕事は開発部で、主にエンジン以外の周辺機器設計などを担当しています。2人目の子どもが生まれるころに管理職となり、部下を持つようになったので、なかなか早く帰れなくて。夜遅く家に帰ってご飯を食べて、後片づけをして、洗濯物を干して、12時を過ぎて寝ようとすると、子どもの夜泣きが始まって……みたいな生活です(苦笑)。
―産休・育休を取られる際、復帰後のキャリア形成について不安はありましたか?
寺井:復帰したら職場ががらっと変わっていて「浦島太郎」状態になるのでは…という話がたまにありますが、私の場合は、仲間の異動も少なく、育休中も職場のメンバーと定期的に会って仕事の話を聞いていたため、あまり不安はなかったです。
中野:私も同感で、人事異動や組織変更など「えっ、そんな状況になっていたんだ」と環境の変化に驚くことはありますが、それは後々理解していけば対応できるレベルのことだと思っていました。
毎日子育てに忙殺されていた人間が、うまく仕事モードに切り替えられるかな、という不安感はありましたが、「なんとかなる」という感じでしたね。
池田:私も「育休」は特別ではなくて、「人がいなくなる」という面では部署異動と一緒かな、と思っています。
上司からしたら、長い間一緒に働いて、知識も技術もある人が、半年~1年休んだからといって、他の部署に異動されたら困るというか、何も気にせず戻って来てほしいと私は思いますね。
―実際に仕事に復帰してみて、子育てとの両立はいかがですか? また、キャリア観に変化はありましたか?
中野:1人目の出産後、仕事自体は復帰前とあまり変わらなかったのですが、正直子育てと両立させるのは体力的にかなりしんどくて……。ほぼワンオペレーションで育児をしていたため、仕事中よりも子どもを迎えに行ってから寝かしつけるまでの方が大変でした。
子育てで手一杯で、復帰してから1、2年ぐらいはキャリアを考える余裕はありませんでした。
ヤンマーでは、毎年4月に自分のキャリアをどうしたいかをキャリアシートに書き込むのですが、なかなか明確なビジョンが描けずにいました。
寺井:中野さんと同じく、私も子どもが小さいときはキャリアのことは考えられなかったですね。復帰して時間刻みで仕事を終わらせて、夕方4時ごろには帰らなくちゃいけない、という中で、日々こなさなければいけないことを着実にこなすだけでした。
子どもが生まれる前は、100パーセント自分の時間だったので「やりたいことをやる」というスタイルでしたが、子育てと仕事を両立しなければならない中で、時間をかけて完璧を目指していくには限界があります。仕事をうまく進めていくためには、業務の効率化を考えたり、分担したりするなど「チームで仕事をする」ことの大切さを実感しています。「できることをする」みたいな考え方に必然的になっていったのかな、という気がしますね。やりたくても時間がないし、できる範囲で貢献できることを考えるようになりました。
池田:私の妻も寺井さんと同じようなことを言っていますね。「やりたいことをやる」と「できることをする」の違いがキャリアによって変わることを、上司と部下のお互いで理解することが大切なのかもしれません。
職場では、30代前半ぐらいまでの人たちは共働きが多いし、男性も育休を取ったりしていて、家庭への関わり方の意識が変わってきているイメージです。
私自身は、昔はどんどんキャリアアップしていきたいという思いがあったのですが、今は自分に与えられた様々な課題をしっかりやり遂げるという方向に、ここ数年で考え方が変わりましたね。
―子育てに少し余裕が出てきた後、お仕事やキャリア観はどのように変わっていったのでしょうか?
中野:2人目の出産後も、数年間は子育てに忙殺されていました。
でも、それから3、4年経って、子どもが保育所や小学校に入学したあたりで、今後のキャリアについても考える余裕ができ、将来の目指す姿や次のステップを徐々に思い描けるようになってきたと思います。
今は管理職を目指してステップアップしていきたいと考えています。
寺井:2人目の出産後に戻ってきたときは、ちょうど新規事業として立ち上げた生食用の牡蠣の販売事業がもう少しで形になるところでした。
食品の安全衛生という新しいことを学んで、社外からもいろんな技術を取り込み、販売に至るまでの様々な業務を担当しました。その中で、仕事がだんだん増えて、できる範囲で出張も行くようになりました。そうして、自分が貢献できる業務や仕事を見つけていったという感じですね。
新規事業を1つの形にしたということが評価されて、管理職に就任しました。
―子育て中はキャリアを考えられないくらい大変だったのに、キャリアをさらに積んでいこうと思われた原動力はなんだったのでしょうか?
寺井:入社以来、蓄積してやってきたプロジェクトがどんどん花開いて…という流れの中で、やっぱり自分で最後まで見届けたいと思ったのに加え、熟練の先輩たちが退職されたこともあって、「私がやっていかなきゃいけない」という、使命感もありました。
中野:私の場合は好奇心かな、と。自分自身がドキドキ、ワクワクしながら経験を積んでいきたいという気持ちが強いタイプなので、出産、育児、仕事と、いろんな経験を常に求めていることがキャリアを積んでいきたいというモチベーションになっていると思います。
―産休・育休後もキャリアを築いていくために大切だと思われることはなんですか?
中野:今、後輩に向けてなにかアドバイスするとしたら、仕事のみのキャリアイメージのほかに、ライフプランを含めたキャリアイメージを描いておけば、将来柔軟に対応できるのではないかと思います。
実際にそういう事態に直面してみないと分からないことが多いのですが、仕事において少しブレーキをかけなければならない時期が来るかもしれない、というイメージを持つことです。
特に出産・育児に関しては、男性・女性関係無く仕事のセーブが必要な時期がくる可能性があるということを、その人自身だけの問題としてではなく、会社(上司や同僚など)全体の課題として認識することができれば、休暇後、職場復帰した社員もキャリア形成がしやすくなるのではないかと思います。
また、仕事にブレーキをかけるのはマイナスなことではなく、育児に比重を置くことで育児に関連する数々の感動・失敗・学び等の得難い経験をすることが出来ます。そうして得られたプライベートの充実感が、結果として仕事のモチベーションにつながるのではないかと思います。
寺井:会社として女性が職場でもっと活躍できるようにするには、実は男性が育児に参加しやすい環境を整備することが必要だと思います。
子どもが生まれたら定時にはしっかりと帰れるようにするなど、もっと育児をする男性に配慮することで、会社で働く奥さんの負担は軽減され、お互いが仕事と育児を両立しやすくなります。
ヤンマーでは共働きの社員が多く、男性でも育休を取得する方が少しずつ増えているなど、個人の家庭に対する意識はもちろん、社風が変化しつつあると思います。
[取材] 岡徳之 [構成] 山本直子