2016.12.07

日本初開催! アメリカズカップ・ワールドシリーズ福岡大会 世界最高峰のヨットレースを支える、ヤンマーのマリンエンジン

11月18〜20日、福岡県福岡市地行浜沖で世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」の一次予選、「アメリカズカップ・ワールドシリーズ福岡大会」が開催されました。大会期間中、レース海面前のビーチには1万4000人以上の人々が、また海上には320艇以上のプレジャーボートが集まり、目の前で行われる迫力満点のレースに目を瞠りました。この大会の盛り上がりを支えたのが「オフィシャルトップマリンパートナー」を務めたヤンマーです。

ヤンマーがなぜヨットレースに? 実はレースチームを支えるために、ヤンマーのマリンエンジンが活躍しているのです。日本初開催となるアメリカズカップ・ワールドシリーズ福岡大会を振り返りながら、その役割を見ていきましょう。

世界最古の国際スポーツトロフィーを賭けて戦うアメリカズカップの起源は、1851年まで遡ることができます。今から165年前のこの年、ロンドンで開催された第1回万国博覧会を記念して、イギリス南部にあるワイト島一周レースが開催されました。優勝杯として用意されたのは、イギリス王室御用達のギャラード社で製作された純銀製のカップです。

参加者を広く募ったこのレースで優勝したのが、当時新興国だったアメリカから、ただ一隻だけ参加したアメリカ号でした。優勝杯はアメリカへと渡り、後にアメリカ号の偉業を称えるために「アメリカズ号のカップ=アメリカズカップ」と呼ばれるようになりました。

大英帝国のメンツが丸つぶれとなったイギリスは、なんとかしてカップを取り戻そうとします。そうして始まったのが、一対一のマッチレース方式で争うアメリカズカップというヨットレースで、現在このカップを保持しているのが、ヤンマーが「オフィシャルテクニカルパートナー」としてサポートする「オラクルチームUSA」なのです。

ちなみに、近代五輪が始まったのは1896年。日本がまだ江戸時代だった頃から続いているアメリカズカップは、その長い歴史の中で数々の名勝負を生み出してきました。最近では何と言っても前回、2013年にアメリカのサンフランシスコ湾で行われた第34回大会で、ディフェンディングチャンピオンであるオラクルチームUSAが、もう1敗もできない崖っぷちの窮地から防衛を果たすという、スポーツ史に残る大逆転劇を成し遂げています。

 

このサンフランシスコ大会が始まる約1年前、ヤンマーに1本の電話がかかってきました。電話の主はオラクルチームUSA。内容は「レーシングヨットをサポートするチェイスボート(伴走艇)用に、ディーゼルエンジンとドライブユニットを用意してほしい」というものでした。

レーシングヨットの規格は時代とともに変化しています。サンフランシスコ大会からはハイドロフォイル(水中翼)とウイング(硬質翼)を装備したカタマラン(双胴艇)が導入され、スピードが飛躍的にアップ。最高速度はそれまでの8ノット(時速約15km)程度から、一気に30ノット(時速約55km)以上になりました。当然、レーシングヨットの性能に見合ったチェイスボートが必要となります。そこで白羽の矢が立ったのが、過酷な環境下で長時間の使用に耐えられるヤンマーのマリンディーゼルエンジンだったのです。

ヤンマーのアメリカズカップストーリーはここから始まります。そしてオラクルチームUSAが防衛に成功したことで、両者の間には強い信頼関係が生まれ、2017年にバミューダ諸島で行われる第35回大会に向けて、引き続き強力なタッグを組むことが決まりました。

バミューダ大会に向けて、オラクルチームUSAが求めたのは最高速度45ノット(時速約84km)のチェイスボートです。ヤンマーはこのハイレベルなオーダーに、マリンディーゼル8LV370とZTドライブシステムの2台を搭載することで応えます。そしてチェイスボート「YANMAR1」は、最高速度53ノット(時速約98km)を記録! 現在、ヤンマーのエンジンドライブを搭載した3艇のチェイスボートが、オラクルチームUSAの活動を支えています。

「YANMAR1」 も姿を見せたアメリカズカップ・ワールドシリーズ福岡大会は、世界各地を転戦したシリーズレース(全9戦)の最終戦とあって、どのチームも気合い十分。参加したのは、ソフトバンクチームジャパン、ランドローバーBAR(イギリス)、アルテミスレーシング(スウェーデン)、エミレーツチームニュージーランド、グルパマチームフランス、そしてオラクルチームUSAの全6チームです。

大会期間中は風の強弱や風軸の変化が激しい難しいコンディションでしたが、オラクルチームUSAは第3レースでトップフィニッシュするなど、日本のファンの前で王者の実力を見せてくれ、福岡大会はランドローバーBAR、アルテミスレーシングに次いで3位。ワールドシリーズの総合成績は、ランドローバーBARに19点差の2位でした。

アメリカズカップ二連覇中のチームとあって、メイン会場の地行浜では、スキッパー(船長)のジミー・スピットヒルやタクティシャンのトム・スリングビーなどが、サインを求める観客に取り囲まれる人気ぶり。2010年に最年少スキッパーとしてアメリカズカップを手にしているジミーは、「大勢のファンが応援してくれた福岡は、もう一度戻ってきてレースをしたいと思うほど素晴らしい大会でした」と笑顔を見せた後、「次は絶対に勝たなければいけないアメリカズカップに向けての準備に集中します」と引き締まった表情で話しました。

勝つための準備に欠かせないのが、チェイスボートです。福岡大会に先立ち行われたラッセル・クーツ(オラクルチームUSAのCEO)、ジミー・スピットヒル、荒木 健(ヤンマー株式会社執行役員)の3人によるトークセッションの中で、ジミーがチェイスボートの役割をこう説明しています。

「私たちは現在、より速いレーシングヨットを開発するため、バミューダで実験艇を走らせ、さまざまなデータを収集しています。膨大な量のライブデータは、チェイスボートに乗り込んだデザインチームがその場で集計し、解析しています。実験艇と互角に走るチェイスボートがなければ、レーシングヨットの開発もままなりません。またレーシングヨットが高速になったことで、キャプサイズ(転覆)やクルー(船員)の落水というリスクも高まりました。チェイスボートには、万が一の時に現場へ急行し、救助活動をするレスキューという重大なミッションもあります。私が安心してスピードの限界に挑戦できるのは、チェイスボートに絶対の信頼を置いているからです」とジミー。会見の最後にこんな言葉を口にし、笑顔を見せました。

「I like to go fast. That’s way I like Yanmar.(私は速いのが好きなのです。だからヤンマーが好きなのですよ)」

 


海のF1にも例えられるアメリカズカップ。どんなに優秀なセーラーが揃っていても、レーシングヨットが速くなければ勝つことはできません。開発中のヨットは、最高速度が45ノットにも達すると噂されています。スピード競争では53ノット出るチェイスボートがライバルというわけです。

軽量でコンパクト、かつ環境にも優しいヤンマーの8LVマリンディーゼルエンジンとZTドライブシステムは、三連覇を目指すオラクルチームUSAを支えているのです。

オラクルチームUSAは来年5月に始まる「アメリカズカップ・クオリファイヤーズ」に出場後、6月に行われる「第35回アメリカズカップ」で二度目の防衛(三連覇)に挑みます。