ヤンマーテクニカルレビュー

【Topic2】バイオガス対応デュアルフューエル機関の燃焼改善に関する研究

Abstract

As the biogas produced by methane fermentation contains a high fraction of carbon dioxide, it is necessary to understand the effect this carbon dioxide has on the ignition and combustion characteristics of diesel pilot-ignited dual-fuel natural gas engines when they are run primarily on biogas. This study admixed carbon dioxide into the engine intake mixture to investigate its effect on combustion characteristics and engine performance parameters such as thermal efficiency. The article also discussed measures for improving combustion and engine performance. This work achieved brake thermal efficiency equivalent to that of the original dual-fuel engine fueled with natural gas even when carbon dioxide was present in the same ratio as in actual biogas.
This article also describes a facility that has installed the biogas dual-fuel engine that was developed using the results of this study.

1. はじめに

バイオ燃料はその成分に炭素を含んでおり、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しますが、この炭素は生物由来で自然界を循環することから、カーボンニュートラルな燃料と定義されます。水素やアンモニアなどの炭素を含まないカーボンニュートラル燃料と比べると化石燃料に近い特性をもち、GHG低減手段として大きな役割を果たすことが期待されています。生物資源を原料とするため、十分な供給量の確保が課題とされていますが、特に食物と競合しない下水汚泥や食品残渣などをメタン発酵させることで得られるバイオガスの有効活用は、環境問題への有望な対策の一つであると考えられています。
ヤンマーは、バイオガス対応デュアルフューエルエンジン(以下DFエンジン)を開発しました。本稿ではバイオガス対応DFエンジンに関する燃焼技術開発についての解説と、実際に竣工した施設について紹介します。

2. エンジンにおけるバイオガス利用の課題とデュアルフューエルエンジンの特徴

メタン発酵由来のバイオガスの代表組成例と変動範囲を表1に示します。バイオガスの主成分はメタン(CH4)とCO2で、一般に供給される都市ガスと比べ、不活性なガスであるCO2が多く含まれるのが特徴です。バイオガスはガス組成の変動に伴い、単位体積あたりの発熱量や理論空気量もあわせて変動し、これらの変動はエンジンの運転条件にも大きく影響します。そのため、バイオガスをエンジンの燃料として用いるには、不活性ガス量が燃焼に与える影響度合いを把握し、適切な運転条件を与えることが重要となります。

表1 メタン発酵由来のバイオガスの主なガス組成

バイオガス 都市ガス(13A)
CH4 [vol.%] 50.0~65.0 89.6
メタンを除く炭化水素(C2H6,C3H8等)[vol.%] 10.4
CO2 [vol.%] 35.0~50.0 -
N2, O2, H2 [vol.%] 0.2以下 -
低位発熱量 [MJ/m3N] 17.9~22.3 49.4
理論空気量 [m3N/m3N] 4.76~6.19 16.8

また、特に着火エネルギの小さい火花点火機関においては、ガス組成の変動幅がエンジン制御で対応できる範囲を超えてしまい、最悪の場合には始動不能などの問題が生じる可能性があります。このような問題を解決する手段の一つとして、DFエンジンを利用すること挙げられます。
DFエンジン構造を図1に示します。ディーゼル燃料とガス燃料の2種類の燃料供給系を併せ持つことを特徴としています。ディーゼル燃料のみで運転するディーゼル運転モードと、ガス燃料を主燃料とするガス運転モードの2つの運転モードが存在し、任意に切り替えて運転する事が出来ます。ガス運転モードでは微量のディーゼル燃料を火種として噴射するため、ガス運転モード専用のμパイロットディーゼルインジェクタを備えています。燃焼が不安定となる冷機時や始動時はディーゼル運転モードで運転し、燃焼状態の安定を待ちガス運転モードに切り替えることで、燃料組成変動の大きいバイオガスに対して、安定した運転が可能です。

図1 DFエンジンのヘッド構造
図1 DFエンジンのヘッド構造

3. デュアルフューエルエンジンにおけるバイオガス燃焼の適正化

3-1. 実験装置

バイオガス対応DFエンジンの開発では、初めに試験用の単気筒エンジンを用いてバイオガス利用を模擬した先行実験を行いました。単気筒エンジンは気筒数が少ないことで装置の規模が小さく、準備や実験にかかる時間が短く済むということから、今回のような先行実験に適しています。

3-2. CO2が燃焼に与える影響調査

バイオガスに含まれるCO2がエンジンの燃焼に与える影響を図2に示します。図2(a)はCO2混合割合に対する熱効率の変化を示したもので、CO2混合割合の増加に伴い熱効率が低下する傾向となっています。図2(b)は各CO2混合割合での筒内圧力および燃焼率を示しており、CO2混合割合の増加に伴い着火後の燃焼速度が低下していることがわかります。バイオガスに含まれるCO2が燃焼速度の低下を招き、エンジンの熱効率低下の要因となっていることが分かりました。
火花点火式エンジンの場合、燃焼速度低下を対策する手法として点火タイミングを早める事が有効です。DFエンジンのガス運転モードでは、ごく少量噴射する点火用のディーゼル燃料(パイロット燃料)が点火の役割を果たします。そこで、パイロット燃料の噴射タイミングの影響について調査しました。実験結果を図3に示します。図3(a)より、熱効率が最大となる噴射タイミングはCO2混合の有無によって大きく変化しないことが分かります。図3(b)はCO2混合割合36%におけるパイロット燃料の噴射タイミングと各質量燃焼割合に達するクランク角度の関係を示しています。ここでは投入燃料の10,50,90%が燃焼したクランク角度をMFB10,50,90と定義しています。これら指標のうち、MFB10は燃焼開始を示す指標であり、MFB10が小さい=着火タイミングが早いと言い換えることができます。パイロット燃料の噴射タイミングを一定時期よりも早めた場合、MFB10は増加し着火が遅くなっていることがうかがえます。噴射タイミングが早すぎると、筒内の状態がパイロット燃料の自着火に必要な圧力温度に達していないことに加え、パイロット燃料が周辺空気と混合され希薄化することで、自着火に必要な圧力および温度が更に高くなり、かえって燃焼開始が遅くなったと考えられます。この結果から、CO2混合によって低下した燃焼速度は、パイロット燃料の噴射タイミング変更だけでは改善出来ず、別の燃焼改善手段が必要である事がわかりました。

図2 CO2混合が熱効率および燃焼率に与える影響
図2 CO2混合が熱効率および燃焼率に与える影響
図3 CO2混合が熱効率および燃焼クランク角度に与える影響
図3 CO2混合が熱効率および燃焼クランク角度に与える影響

3-3. 燃焼改善

前節の結果を受け、別の燃焼改善手段について調査を行いました。個別の効果検証により、給気温度を昇温することが燃焼改善に特に効果的であることがわかりました。(個別の効果検証については参考文献を参照ください。)
図4に給気温度がエンジン熱効率に与える影響を示します(CO2混合割合45%)。標準の給気温度に対して+10,+15,+20℃の3水準で比較を行いました。その結果、給気温度を昇温させることでパイロット噴射時期の進角が有効に働くようになり、+20℃で天然ガス同等の熱効率を達成する事が出来ました。給気温度を昇温させることで筒内の温度が上がり、ディーゼル燃料がより早期に着火出来るようになったためと考えられます。

図4 給気温度がエンジン熱効率に与える影響
図4 給気温度がエンジン熱効率に与える影響

4. 事例紹介:御笠川浄化センターについて

ここでは、弊社初のバイオガス対応デュアルフューエルエンジンである6EY26LDFの導入事例を紹介します。
2023年4月より福岡県御笠川浄化センターにおいて、「御笠川浄化センター消化ガス発電施設」が稼働されました。図5に示す概要図のように、下水の処理過程で生じる下水汚泥を発酵させて得られる消化ガスを燃料とし、発電用のDFエンジンで発電を行います。本施設では図6に示す6EY26LDF(990kW×2台)により発電を行い、年間の発電量は一般家庭約2000世帯分に相当する約600万kWhと見込まれています。約600万kWhは約2292tonのCO2排出量の低減に相当します。

図5 御笠川浄化センター概要図
図5 御笠川浄化センター概要図
図6 6EY26LDF外観
図6 6EY26LDF外観

御笠川浄化センターにおける6EY26LDFの運転パターンの例を図7に示します。機関始動からディーゼル運転モードで暖機運転し、一定の条件を満たした後にガス運転モードに切り替えられるため、ガス組成変動による始動不良の問題を回避し、安定した始動が可能となっています。なお、本設備で発電された電力は「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」に基づく固定価格買取制度(FIT制度)を利用し売却されるために、エンジンの運転モードがガス運転モードの状態においてのみ送配電の系統に接続される仕様としています。

図7 始動運転パターンの例(イメージ)
図7 始動運転パターンの例(イメージ)

5. まとめ

本稿ではバイオガス対応デュアルフューエル機関の開発について紹介しました。デュアルフューエル機関の特徴を活かすことでバイオガス利用時の課題を解決し、安定性の高いシステムをお客様にご提供できました。GHG排出量低減の観点からバイオガス利用技術はますます重要性を増すと考えており、今後もお客様の要望に寄り添った製品をご提供出来るよう、日々努力して参ります。

6. 参考文献

  • (1)本田祐介,壽和輝,湯川洋史,右田一雄:バイオガス対応デュアルフューエル機関の燃焼改善に関する研究,内燃機関シンポジウム,20214873,(2021)

著者

ヤンマーホールディングス株式会社
技術本部 中央研究所
基盤技術研究センター 燃焼グループ

本田 祐介

ヤンマーホールディングス株式会社
技術本部 中央研究所
基盤技術研究センター 燃焼グループ

壽 和輝

ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
特機開発部大形エンジン技術部設計第2G

湯川 洋史

ヤンマーエネルギーシステム株式会社
エンジニアリング部

右田 一雄

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