写真:農機に乗る南野拓実
MINAMINOREPORT#3
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南野拓実が、

最新の農機に

「乗って」「触って」

見えてきたもの。

南野拓実が、

最新の農機に

「乗って」「触って」

見えてきたもの。

写真:ドローンを操縦する南野拓実

農業の世界にはさまざまな課題があり、そこに立ち向かおうと戦っているプロフェッショナルたちがいることを知った南野。※前回の記事はこちら。

スマート農業の専門家に話を聞いて農業のいまに強い関心を抱いた。その南野が次に選んだアクションは、実際に農業を行なっている現場を見て、そして体感すること。そのために向かったのは、ヤンマーアグリソリューションセンター仙台から車で1時間ほどのところにある大きな農場だった。

写真:水田

1.スマート農業を実践する農家
の方に話を聞く

あたり一帯に広がる水田。山々の緑と水に囲まれ、自然と調和が取れた農業地帯の中に、大きな農業機械が1台止まっている。ヤンマーが誇る最新機種「YT5113Aロボットトラクター」だ。南野は幼い頃を過ごした大阪府和泉市で、よく農業機械が道路を走っているところを見ていたが、ここにある農業機械は、当時南野が見ていたものとはあまりにも異なっていた。

YT5113Aロボットトラクター

「めちゃくちゃカッコよくなってる」。

ロボット農械とも言われるこの機械は、“スマート”農業という言葉には似つかわしくないほど無骨で、異様な存在感を放ちながら水田に佇んでいた。南野がその農機を見つめていると、後ろから2人の男が話しかけてきた。スマート農業で未来を作ろうと挑戦する若き農業従事者の黒澤哲哉さん、そしてその取り組みの伴奏者として後方支援しているヤンマーアグリジャパン涌谷支店の戸堀勝俊だ。

ロボットトラクターを見て会話している風景

黒澤さんは、このあたり一帯の農地を管理し、お米や野菜などを生産しているという。そこで南野はリアルな農家の人たちの声を拾おうと黒澤さんに質問を投げかけた。

「なぜこのような大きな農業機械を導入したんですか?」

この問いに対し、黒澤さんは、次のように答えた。

写真:黒澤さん

「これまでの農業は、担い手不足に陥っていました。若い世代がなかなか入ってこないし、入ってきても、すぐに辞めてしまうんですよ。一昔前は、長靴を履いて、重い機械を背負って作業していたんだから、仕方ないですよね。では、若者が興味を示す世界にするためにはどうしたらいいか。一番良いのは、遊び感覚で仕事ができることです。今はこの機械のように、自動運転技術で田んぼを耕してくれたり、ドローンを使いながら、遊び感覚で肥料を散布したりと、楽しみながら農作業ができるようになりました。このようにスマート農業を活用して、魅力的な世界を作るのが我々の世代の使命かなと思っています。」

サッカーも同じだと感じた。南野は“サッカーを続けるための秘訣は何か”と聞かれたら、いつも「楽しむこと」と答えている。南野は幼少期から今にいたるまで常にサッカーを楽しんできた。サッカーがあるから毎日が楽しみだったし、楽しいから大人になった今でも続けられている。南野は、スッと何かが腑に落ちたように感じた。

写真:南野拓実の会話風景

南野が黒澤さんの話に頷いていると、隣にいたヤンマー社員の戸堀が、農業の課題についてこう話し出した。

写真:戸堀さん

「農業の担い手不足という課題は、実は、お客さんをサポートする側である私たち機械メーカーも同じなんです。広くムラなくサポートをするためには、最終的には人が必要です。農業に関わる人の数を増やすこと。これは農業全体の課題なんです。だから若い世代の人たちに、今の農業はこうだよというのを示していきたい。」

そう、担い手を増やすことは、農業の世界に関わる人たちの共通の悲願なのだ。

写真:南野拓実、黒澤さん、戸堀さん会話風景

2.農機に「乗る」「触る」

「ちょっと乗ってみますか?」

ヤンマー側からこう切り出すと、南野は遠慮しながらも「いいんですか」と、少し緊張した表情でYT5113Aロボットトラクターに乗り込んだ。

写真:YT5113Aロボットトラクターに乗る南野拓実➀

南野が運転席に座り、タブレットを操作すると、すぐに自動運転は始まった。南野は自動で動くトラクターに身を任せ、不思議そうにあたりを見回している。思ったより安定した乗り心地に少し安心したようにも見えた。そして運転席後方の窓を覗きながら、本当にまっすぐに走っているのかを確認する。

写真:YT5113Aロボットトラクターに乗る南野拓実➁

しばらくすると、トラクターが止まり、助手席にいたヤンマーの社員が南野に何かを促した。すると今度は、南野がハンドルを握って運転を始めた。自動運転を止めて、自らトラクターを操縦し出したのだ。いつしか南野の表情からは緊張の色が溶けてなくなっていた。

写真:YT5113Aロボットトラクターに乗る南野拓実⓷

南野が実際にトラクターを運転するのは今回が初めてのことだったが、思った以上に操縦は繊細で難しかったという。事前に通ったタイヤ痕を基準にしながら、まっすぐに運転したつもりだったようだが、後から自分が操縦したところを振り返ってみると、タイヤ痕はくねくねと大きく左右に曲がっていた。サッカーボールは自在に操れても、農業機械はイメージ通りには動いてくれなかったようだ。

写真:YT5113Aロボットトラクターから降りたヘルメットを被った南野拓実

続いて、ドローンを使った肥料の空中散布を体験することとなった。水田のあぜ道に用意されたドローンには、肥料を入れるタンクが設置されている。

「本当にこんなに重たいものを積んだドローンが空中を安定して飛行することができるのかな。」

そんな疑問は一瞬で吹き飛んだ。ヤンマーアグリジャパン アグリサポート部の藤井悠がリモコン操作を始めると、複数のプロペラが同時に大きな音を立てて回転し始めた。

写真:ドローンを眺める南野拓実の後ろ姿

その後ドローンはゆっくりと数メートルほど上昇し、安定した動きで水田の上を飛びながら、水を散布し始めた。その飛行の安定感は想像以上だったようで、南野は地上からドローンを見上げながら「なるほど、これなら農作業も捗りそうですね」と唸った。

写真:ドローンを眺め唸る南野拓実

一通りの農作業を終えた南野に話を聞いてみた。すると南野は、まるでサッカーを終えたばかりの少年のように笑顔でこう話してくれた。

「自分でトラクターを運転してみたら、正確に運転することの難しさがよくわかりました。でもGPSをはじめとした技術を活用すれば、誰もが正確に運転できます。そこに技術の高さと意義を感じました。またドローンも正確に操縦することができるし、何よりラジコン感覚で楽しく作業できることには驚きました。」

写真:ドローンを操縦する南野拓実

続いて、スマート農業がもたらす未来をどのように感じたのかを、南野にぶつけてみた。すると南野は、農業の専門家たちから教えてもらったことを思い出しながら、次のように語った。

「スマート農業によって、生産性が向上するだけでなく、子どもたちが農業の現場を見て“かっこいいな”と興味を持ってくれそうですよね。また今までやってきたハードな作業が自動化・省力化されることにより、農業のハードルが下がり、農業を始めてみようと想う人が増えることに大きな意義があることを知りました。農業は、これまでの大変なイメージを覆し、楽しんでやれるところまで進化しています。それを知ることができたのが、僕にとっては大きなことでした。」

3.1日を終えて、
高まった使命感について

夕暮れ時になり、身近な農業のいまを知るための1日は、ようやく終わりを迎えようとしていた。南野は1日を通じて何を感じたのだろうか。南野は、目の前に広がる水田に目をやりながら、何かを自分に問いかけているように見えた。

「もっと知りたい、もっと感じたいという好奇心を刺激されました。そして、まだ知らない世代の若い人たちに知ってほしいという気持ちがすごく強くなりました。」

「いま自分にできることはなんだろう」

そう考えて1日をスタートした南野は、ようやくその答えを見つけ出そうとしていた。

写真:南野拓実

自分に問いかける人が増えれば、その人の数だけ、未来のアクションが生まれる。これから未来に向けて、自分ができることは何か。そして人々にどんな行動を促せるのか。

アスリートは、ただの競技者ではない。その存在を通じて、その活動を通じて、多くの人に何かを伝える表現者であるべきだ。そのことに気づいた南野は、農業の課題を広く伝えたいという使命感が芽生えたのだ。

「僕のことを知ってくれている人に対して、知ってもらうために動いてみたい。今日のように活動してみて、多くの人に関心を持ってもらいたいという使命感を得ることができました。今、僕ができること。それは自分の存在を通じて、多くの人に課題を知ってもらうこと。」

A SUSTAINABLE FUTURE 〜テクノロジーで、新しい豊かさへ。

奇しくも、ヤンマーが掲げるミッションステートメントを体感した南野は、再び未来へ向けた新たな一歩を踏み出した。

(執筆:瀬川泰祐)