上田 輝司 様
福井県大野市
合同会社上田農園 代表取締役社長
福井県大野市
合同会社上田農園 代表取締役社長
密苗の導入で、育苗箱枚数が18枚/10aから9枚/10aになり、慣行栽培の約1/2に。
密苗+GNSSガイダンスシステム+自動操舵補助システムの導入で、田植えが2人から1人作業に。手の空いた1人が代かき担当に。
密苗+GNSSガイダンスシステム+自動操舵補助システムの導入で、2人で約8時間の田植え作業が、1人で約7時間に短縮。
どの分野にも、判断の素早い人がいる。そんな人は、現状や将来が明確に見えていて、新しい技術に出会ったときも、瞬時にその真偽の見極めができる。スマート農業のような新しい分野に取組むには、このような素早い判断が必要なのではないだろうか。
米どころ福井県大野市で、合同会社上田農園の代表取締役社長、上田輝司氏もそんなおひとりだ。7名のスタッフと、80ha強(水稲約50ha、麦・大豆約30ha、その他じゃがいも、さといも、そば等)を作付けしておられる。
そんな上田氏が、GNSS+田植機と出会ったのは約3年前。ようやく今年、GNSSガイダンスシステム+自動操舵補助システムをセットした田植機YR8Dの導入が実現。全面積をこのシステムで移植された。しかも驚くことに、いきなり全面積を、密苗(食用米)で植えられたという。「実は密苗は、去年30~50aやってみて特に問題がなかったから、じゃ今年は一気にやろう!」ということで、すべて密苗にされたのだ。
今年の密苗は、取材当時はまだ結果こそ出てはいなかったが、その効果は素晴らしいものだった。
まず播種量は慣行で乾籾130~140g/1枚だったのが同250g/1枚になり、育苗箱枚数は18枚/10aが9枚/10aに半減した。上田氏によると「密苗なら、苗を満載にした田植機で、30aのほ場がほぼ苗補給なしで終了する」。また「密苗は育苗箱が少ないからハウスも少なくてすむし、労力も楽だし、資材費も減る。それに今までは、毎日約400枚を朝と昼にラック積みする作業があって、そのために他の作業が止まっていたんだけど、密苗にしてからは、毎朝、半分の約200枚積むだけで良い。作業は止まらないし、田植えもスムーズに済むし、なんせ田植機のスピードも速いから、これまで2人で8時30分から5時頃までかかっていたのが、1人で4時に終われる」。大幅な省力化&労力軽減&コスト低減だ。
次にGNSSガイダンスシステム+自動操舵補助システム(以降、同システム)の魅力だが、何といってもハンドルに集中せずにまっすぐ植付けが可能なため、運転と苗補充が1人でできることだ。
そしてもうひとつの大きな魅力だが、ヤンマーが販売提携をしている株式会社ニコン・トリンブル(本社/東京都)の同システムは、取り外しができることだ。上田氏は、それも考えて導入した。現在は田植機から外してトラクターに装着している。そのメリットは「トラクターに同システムを付けても、元々1人作業だから手放し運転に魅力はありません。でも、たとえばじゃがいもを植えるとき、数cmのズレできちんと次の条へ入れる。そういうメリットがあるんです」。
農業に利用されるGNSSは、DGPS(相対測位方式)だが、上田氏が導入されたのは、それにリアルタイム情報をプラスして位置情報を補正する、より精度の高いRTK-GPS(動的干渉測位方式)だ。カタログ上の誤差は2~3cmだが、自動操舵の誤差も数cmあるため、実際は2~10cmほどになるという。しかし実作業ではそれも旋回時にカバーできるため、精度としては十分だ。「ヤンマーさんのトラクターや田植機は、旋回のときはハンドルをいっぱいに切ると自動的に作業機が上がるから、位置合わせで慌てることもありませんし」。本機の基本機能までお褒めいただいた。
メリットは他にもある。驚くのはその相乗効果だ。
「今までは、苗つぎに1人必要だったので田植えは2人作業でしたが、同システムを付けて密苗にしたことで、苗つぎは減ったし直進は機械に任せられるから余裕が生まれ、田植えが1人でできるようになりました。それで手の空いた1人に先に代かきを任せて、その後を順に植えていくようにしたんです」。つまり人員を配置転換し、さらなる省力化を実現したのだ。これは直接的な相乗効果だが、間接的な相乗効果もある。「GNSSと自動操舵だけだと苗つぎは減らない。そして密苗だけだと、苗は減っても手放しはできない。なのでどちらか一方だと、人員削減やスピードアップは実現しなかったでしょうね」。
去年の田植えは2人がかりだったので、結局、人員が少ない代かきに追いついてしまい、田植え要員が待ちになってしまったという。「代かきのスピードを上げるには、人員を増やさないといけない。そこで今年は密苗にして、田植機に同システムを付けることで1人作業を実現しました。で、手の空いた1人を代かき作業にまわしたらスムーズに終えることができたんです」。
さらにほ場の管理も楽になったという。同社のほ場は、全部で約400筆で、田植えを行うほ場は約250筆もあり、それを1人で全部管理するため、これまで植え忘れなどもあったが、今の体制になってからは、代かきの後に田植機が追従するため、植え忘れが発生しなくなったという。そうなると、たとえばこれまで昼休みもバラバラで迎えに行っていたのが、近くで作業するため、まとまって車で帰ることができる。いろんな面で仕事が回しやすくなったという。
このような上田氏の取組みを、周りの人はどう思っているのだろう?「みんな理解していないよ」と、笑う。
少し進みすぎているのかと思うが、そうではない。周辺では自動操舵機能付の田植機も何台か入っている。だが価格的には安いが田植機から外せない。「ウチは価格じゃなくて、ガイダンスも自動操舵も、外して他の機械に取付ける前提で選んでいます。田植えだけでなくトラクターに装着し、大豆やじゃがいもの播種・植付けにも使うし、今はないと困る」。そこでヤンマーをお選びいただいたのだという。取材時は、すでにトラクターに付けておられたが、今後、田植機1台以外に、3台あるトラクターへの装着、さらには防除機への装着も視野に入っているという。そんな上田氏に将来の話をうかがった。
「規模拡大が続きそうなので、現状の機械では間に合わない。今年、同システムと密苗の導入で少し楽になったけど、次はどうしようかと思いますね。確実な面積がわからないから準備ができない。また増えたら、今度は乾直(乾田直播)を含めて考えるつもりで、この秋にはヤンマーさんと一緒にV溝直播機を検討しようと考えています」。上田氏は常に前向きだ。今、機械操作はご子息が担当しておられるが、作業の合間に、若いスタッフにそのノウハウを伝えておられる。
今後はご子息を中心に、新しい体制ができていくのではないだろうか。「私は思い付きで『おっ、あれやろう!』って、言うだけ」と、照れ笑いをする上田氏だが、現状を視野に入れながら、未来を見つめ、迷わず新しい技術を取り入れていく意欲的なその姿は、スマート農業のフロンティアを感じさせる。