2021.07.16
食のチカラで、生産者を全力応援!
2020年7月、食関連事業と住宅設備事業を展開するヤンマーマルシェ株式会社がスタートしました。ヤンマーは創業から100年以上、独自のエンジン技術を基盤にさまざまな産業へ事業を展開すると同時に、農業・漁業の分野で食づくりに携わる生産者と深く関わってきました。そして現在、「日本と世界が抱える食料問題」を解決するため「ヤンマーにできることは何か?」を考え、新たに食関連事業への挑戦をはじめました。
今回は、ヤンマーマルシェ株式会社 代表取締役社長・山岡照幸に、ヤンマーが挑戦する食関連事業への思いを語っていただきました。
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
創業者の思いを継ぐ、ヤンマー100年の使命
ヤンマーの創業者である山岡孫吉は、「農家の過酷な労働負担を機械の力で軽減したい」という思いから、世界初の小型ディーゼルエンジンの実用化を成功させました。
創業者精神を100年以上受け継いできたヤンマーは、ディーゼルエンジンの製造を通して、農業・漁業の就労者の課題を解決してきました。
そして創業100周年を機に、ヤンマーは「生産者と消費者をつなぐ活動」をはじめました。
山岡:「生産者の課題を解決する」という思いは変わらないのですが、時代を経て、課題の内容が変わってきたのです。かつては重労働からの軽減のため機械化が大きな課題だったのですが、時を経て、収益性や持続性といった事業課題が出てきました。具体的には、「商品を消費者に知ってもらいたい」「販売先を見つけたい」「商品価値を高めたい」といった課題もあれば、後継者不足や異常気象といった課題など、多岐にわたります。長年、お客様に寄り添ってきたヤンマーとしては、機械だけでなく「“食”のバリューチェーンをトータルでサポートすることで生産者の課題を解決したい」と考えるようになりました。
2013年、ヤンマーは「食の産業と、豊かな暮らしに貢献する」ために、「生産者と消費者をつなぐ活動」として「プレミアムマルシェ」をスタートさせます。プレミアムマルシェは、栽培方法や鮮度などこだわりのある農漁業生産者の想いを、「ストーリー」とともに直接消費者に届ける活動でした。
2020年「食関連事業」に挑戦する、その思いとは
プレミアムマルシェの活動を経て、2020年7月、ヤンマーマルシェ株式会社がスタート。ヤンマーが「食関連事業」に取り組むのには、創業者精神に繋がる大きな理由がありました。
山岡: 先ほど述べたように、生産者の環境が変わってきたというのが1つ。その他には、昨今報道などでも大きく取り上げられているフードロスの問題もあります。日本での食品ロスの原因は大きく分けて2つあります。1つは小売店での売れ残りや規格外品といった事業系食品ロス。もう一つは家庭での料理の食べ残しなどの家庭系食品ロスです。業界の構造により、生産者は収益拡大という課題を抱えている一方で、規格外となる生産物を多く廃棄せざるを得ない状況にあります。また、グローバルに目を向けると、世界人口の増加があります。国連では、現在の世界人口77億人、2050年には97億人、2100年には109億人に増えると予測しています。「今、飢餓の人口が8億人」と言われています。世界の状況を考えると、食料が足りません。地球環境の変化による収量減少や食品残渣など、さまざまな問題が絡み合い、非常に危機感を感じています。
ヤンマーは、ディーゼルエンジンを作ってきた会社です。創業以来「一滴の燃料も無駄にせず、社会の発展に寄与する」という思想を、次のフィールドである「食で挑戦したい」と考えたのです。
食料は、人が生きていくために欠かせない燃料。農業・漁業に関わってきたヤンマーは、これまで積み重ねてきた技術とノウハウを活かし、持続可能な社会を目指して「食料を余さず、使い切る」という、新しい事業に取り組みはじめました。
山岡:使われずに捨てられるとか、採れすぎて捨てられるとか、そういったことを1つでも減らしていきたい。例えば、一つの野菜、一粒の穀物、お肉や骨についても「余さず使い切る」ということにチャレンジすることで、「食の恵みを安心して享受できる社会」を実現し、最終的には「飢餓の問題を解決する会社にしたい」と思っています。
持続可能な社会を目指して、地域の農業・漁業を応援
ヤンマーが続けてきた「生産者と消費者をつなぐ活動」は、地域と都市を「食」を通して“人とモノ、文化”を循環させる活動とも言えます。
山岡:食のニーズはますます多様化してきています。これは「地方にとっては大きなチャンス!」ではないでしょうか。ありきたりの大量生産の食品ではなく、消費者は「より自分に合ったものを、必要な分だけ、必要な時に」を求めています。
ヤンマーは、“魅力ある地域の食文化”を伝えたいと思っています。生産者が作る“食材”だけでなく、それらを使った郷土料理を“食品”としてお届けすることで、より付加価値を高めることができます。また、郷土料理のおいしさを知って、その土地に興味を持っていただき、旅行に訪れてもらえればうれしいですね。
作物についても、土地の水や風土、品種によって作れる・作れないがあります。「この食材は、ここでしか収穫できない」そういった情報を提供することで、付加価値を高めることができます。他にも、料理や用途に合わせた切り口もあるでしょう。牛丼の米、おにぎりの米、カレーの米、糖質の低い米など、新しい米の価値を提供することも可能です。
ヤンマーマルシェでは、地域の食文化を広めるだけでなく、生産者の販路や商品価値を見つけたり、消費者に地域の加工品を届けたり、「生産者と共に魅力ある食産業と食文化を創造」し、持続可能な社会の実現を目指しています。
山岡:消費者の信頼を得るためには、食品の規格基準の準拠はもちろん、食品の移動を把握するトレーサビリティなども重要です。こういった取り組みは、生産者や中小企業にとってハードルが高いのです。ヤンマーマルシェでは、農薬や添加物の有無をはじめ、こだわりを持った生産者の土づくりや栽培方法などもトレーサビリティに組み込んで、こだわりのある消費者に伝えていきたいですね。
歩みはじめた食関連事業
まずは「ヤンマーマルシェ」オンラインショップがスタート!
ヤンマーマルシェの挑戦は、歩み始めたばかりです。生産者の抱えるさまざまな課題を一つずつ解決するために、継続してきた「生産者と消費者をつなぐ活動」を、さらに進化させてスタートします。
山岡:まずは、生産者のこだわりの野菜などが購入いただけるオンラインショップをスタートいたします。その食材が一番美味しい時期に食べていただけるよう、食べごろ・旬の見える化や食材の美味しさを最大限に引き出すレシピなどの情報と併せて提供します。
また、ヤンマーマルシェでは、お米由来の「ライスジュレ」という食品素材を食品メーカーなどの事業者・一般消費者に販売してきました。今後はライスジュレを使ったオリジナル食品の販売にも挑戦していきたいと思います。すでに百貨店の協力を得て、ライスジュレを使ったバナナスムージーやシフォンケーキ、ライスジュレのテスト販売を行い、大好評をいただきました。バナナスムージーやシフォンケーキは、お家でも楽しめるようにキット販売も行いました。
コロナが落ち着いてきたら、「食の体験イベント」をぜひ!やりたいですね。こだわり食材を集めたマルシェ(市場)や産地でのアウトドアダイニング、漁港での地引き網体験など、アイデアはいっぱいです。
明るい、日本の農業・漁業の未来へ
「美味しくて、安心・安全な食品を、無駄を抑えて提供する」。ヤンマーマルシェの事業フィールドは、世界を見据えています。地域の食文化を都市へ、そして、日本の食文化を世界へ。ヤンマーマルシェの食関連事業は、生産者と共に、未来へと羽ばたきます。
山岡:食は、人を楽しませることができる、人を幸せにすることができる、素晴らしい仕事だと思っています。若者が憧れるかっこいい職業として、アーティストやクリエイター、料理人などがフィーチャーされますけど、農家や漁師もフィーチャーされて欲しい。私の夢でもありますが、「若者のなりたい職業」の上位に生産者がランクインする。「生産者がヒーロー」になるような、未来を創りたいと思います。