2024.06.06

イノベーションを育むーヨーロッパ発の酒米プロジェクト

欧州での日本酒の需要はかつてないほど高くなっています。日本の伝統的な飲み物への関心はパンデミック後の2021年に記録的なレベルまで回復し、世界の日本酒市場は2028年までに107億ドルの価値に達すると予想されています。東京オリンピック、電子商取引(EC)の売上増加、欧州での日本食レストランの増加などの要因により、日本から欧州に出荷される日本酒の量は前年に比べて増加し続けています。

酒米プロジェクトはヤンマーの革新的なソリューションです。欧州の気候に適した酒米の品種を開発し、「地元」産の日本酒という新たな体験を消費者に届けます。欧州で生産された酒米で日本酒を造るヤンマーの取り組みにより、欧州での日本酒に対する需要が高まるかもしれません。

日本の魂、ヨーロッパの食材

ヤンマーはイタリア北部のイタリア稲試験場(IRES)と提携しました。ここで、ヤンマーは、IRESの責任者であるマッシモ・ビローニ氏と共に、イタリアのこの地域独特の土壌と気候条件に適した新しい酒米品種の開発に着手しました。

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ビローニ氏は、「農学者や専門家との協力は非常に重要でした」と語っています。種まき、施肥、雑草の防除、収穫のプロセスを適応させる方法を研究することで、新しい品種が丈夫に育つことを確かめました。

ヨーロッパの日本酒が非常にユニークである理由は、テロワールとして知られる環境要因の独特な組み合わせにあります。米の品種に影響を与えるイタリアの土壌と気候条件が日本の醸造技術と組み合わさることで、魅力的な新製品が生まれます。ミラノの酒ソムリエ協会会員であるジョルジョ・マッジョーニ氏は、この日本酒を「イタリアの食材を使った日本の魂だ」と述べています。マッジョーニ氏は新しい米の品種に大きな期待を寄せており、その米で造られた日本酒がヨーロッパ市場で展開され、消費者に新たな文化をもたらすと信じています。

新しい米の品種を開発するプロセスにはいくつもの困難がありました。イタリアの環境は日本とは大きく異なるため、イタリア特有の土壌や気象条件に適応させる必要がありました。しかし、徹底した研究と高度な技術によって、ヨーロッパの農家が利用できる2つの新しい酒米品種が誕生しました。それがEuSake01とEuSake02です。その後、ヤンマーは精米パートナーと協力し、新しい米を酒造りの基準に合わせて加工することができました。ビローニ氏はこの成功を「ヤンマーのおかげで、私たちは新しい酒米品種を開発しているだけでなく、より持続可能な酒造りも進めています。」と述べています。

地産地消

新品種の栽培に成功した後、ヤンマーは地元の醸造者に働きかけ、地元産の酒米を使った日本酒造りに着手しました。

そのひとりが、フランスのペルサンにある酒蔵「レ・ラルム・デュ・ルヴァン」のオーナー兼主任醸造者であるグレゴワール・ブフ氏です。ブフ氏は地元の食材を使えることを大いに歓迎しました。

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「日本酒を飲むとき、ただ飲み物を飲んでいるのではなく、歴史や、日本の文化遺産そのものを飲んでいると感じます」とブフ氏は言います。酒造りのプロセスは、米、水、酵母、酵素、そして適切な温度の絶妙なバランスで成り立っているとブフ氏は説明します。

重要なのは、日本産ではなくヨーロッパ産の米を使用しても、レ・ラルム・デュ・ルヴァンで造る日本酒の品質が損なわれないということです。ブフ氏は、新しい品種は優れた日本酒を生み出し、顧客に新たな飲酒体験を提供するだろうと述べています。ブフ氏のビジネスにとってもメリットがあります。地元の生産品に地元の食材を使用することで、より持続可能で環境に優しいビジネスモデルが実現します。同時に、伝統的な日本酒市場を補完する幅広さと多様性も生まれます。

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「これはヨーロッパの酒造りの将来にとって極めて重要なことです」とブフ氏は言います。

食品・飲料生産のための持続可能なソリューション

酒米プロジェクトは、日本からヨーロッパへの酒米輸送に伴う環境・経済問題にも取り組んでいます。過去5年間で、日本酒1瓶(720mL)あたりの配送料は573円から903円へと1.5倍に上昇しました。また、炭素排出量の点では、ヨーロッパへの輸送では酒米1トンあたり約149トンのCO2を排出します。飛行機輸送の場合は7,491トンになります。このプロジェクトは、ヨーロッパ産の酒米品種を栽培することで、日本からの輸出依存を減らし、日本酒造りによる環境負荷を低減します。ヤンマー・リサーチ&ディベロップメント・ヨーロッパの研究者であるカロリーナ・ファブリ氏は次のように述べています。「持続可能性に配慮したプロジェクトに携われるのは素晴らしいことです。」

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イタリアの気候に適した2つの新しい米の品種を導入できたため、他のヨーロッパの環境での栽培に適した品種も開発できる可能性があります。

この取り組みは持続可能で環境に優しいだけではありません。消費者にとって魅力的な商品を開発し、選択肢を増やすとともに、このおいしくて感動的な日本の飲み物の魅力を広げることにつながるのです。