2024.04.30
“ヤンマーらしさ”について社員が改めて考える 「人」が起点のブランディングと“HANASAKA”の関係とは?
多くの企業が積極的に取り組んでいるブランディング。消費者の認知度や信頼度を高め、企業の価値向上を図るため、さらには、社員同士の連帯感やモチベーションを高め、パフォーマンス向上を図るためにも不可欠な戦略の1つです。
ブランドは、製品やサービス、社員一人ひとりの行動、社会問題への取り組みなど、企業が提供する価値と、それを介してお客様との間で培われる信頼によって創られていきます。一方で、そのブランドを維持・発展させるには、そこに関わる社員=人財が欠かせません。そのため、ブランディングにおいては、「お客様とともに」と「社員とともに」という両方の視点を持って活動する必要があるとヤンマーは考えています。
ヤンマーでは今、「お客様とともにヤンマーの価値を創り出していく」ブランディングに注力しているところですが、今回のY mediaでご紹介するのは、それを土台から支える社員を対象とした活動のひとつです。「人の可能性を信じ、挑戦を後押しする」という、創業時より受け継がれてきたヤンマーの価値観「HANASAKA」を浸透させるため、海外の主要拠点で実施してきたワークショップの話題を中心に、その企画や運用に携わる、ヤンマーホールディングス株式会社 ブランド部 コーポレートブランド室の社員に話を聞きました。
ヤンマーホールディングス株式会社 ブランド部 コーポレートブランド室
右:佐々木 正博(ささき まさひろ)
左:澤田 真帆(さわだ まほ)
主にブランディングの企画業務を担当するブランド部・コーポレートブランド室所属。「HANASAKA」などのヤンマーにとって重要なブランディング施策を担当。
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
ヤンマーの強みは何か?ブランドとしての根幹を自問。
――ヤンマーのブランディング活動について、教えていただけますか??
佐々木:ヤンマーは、食料生産とエネルギー変換の分野で、人々の暮らしに役立つ製品やサービスを提供してきた会社です。創業時より、「燃料報国」という理念のもと、“資源の乏しい日本において一滴の燃料も無駄にせず、社会の発展に寄与する”という想いでディーゼルエンジンの製造を基盤に、様々な産業機械の製造へと事業領域を拡大してきました。2016年には「A SUSTAINABLE FUTURE ― テクノロジーで、新しい豊かさへ。―」というブランドステートメントを掲げ、その理念に基づいたビジョンを実現するために活動しています。
一方で、100年の間にはグローバル化や多角化が進みました。同じヤンマーグループであっても、エリアや事業によって外向きのイメージにバラつきが見られ、ブランドの統一化を図ることが課題の1つとなりました。その対応策が、2012年より開始したプレミアムブランドプロジェクトです。現在も、プロジェクトの総合プロデューサーを務める佐藤可士和氏をはじめ、外部のデザイナーなど様々な方に加わっていただいたそのプロジェクトは大きな反響がありました。
プレミアムブランドプロジェクトでは、ヤンマーグループが世の中に存在する意義や、社会的使命を表した「ミッションステートメント」の制定や、ブランドイメージの統一を図るなど、社内への浸透という点においては成功しました。ただ社員が考える「ヤンマーらしさ」という点は、深掘りするまでには至らず、事業間によってイメージにバラつきがあったので、これを打開したいという思いが強まってきました。
こういった背景から、改めてヤンマーというブランドのあり方や考え方、ブランディングの進め方を問い直し、「ヤンマーらしさ」を社員が自分ごととして考え、お客様とともにヤンマーの価値を創りだしていこうとしているのが今の活動です。
<プレミアムブランドプロジェクトの取り組み>
佐藤可士和が語る「次の100年に向けて踏み出した“はじめの一歩”」
https://www.yanmar.com/jp/about/ymedia/article/flyingy_sato_kashiwa.html
TALK ABOUT “A SUSTAINABLE FUTURE”
https://www.yanmar.com/jp/about/ymedia/article/asftalk_yamaoka_sato.html
――「ヤンマーらしい」というのはどういうことを指し、どのような特徴を持つブランディング活動なのでしょうか?
佐々木:ヤンマーらしさの源は「人」です。ヤンマーには、「HANASAKA」というヤンマーの企業活動の礎になっている価値観があります。「人の可能性を信じること」「挑戦を後押しすること」と表現しており、 「可能性に賭けてチャレンジするぞ!やるべきタスクはこれだ!」と課題を与えて無理やり焚きつけるのではなく、「きっとできると思う。やりたいように進んでみて。支えるから」と温かく信じて待つようなイメージですね。その人自身が課題に気づいて動き出す、その自発性や自主性を尊重するプル型のアプローチとでも言うのでしょうか。企業としてそういった「人」を信じて後押しすることが未来を拓くことと捉え、社内も社外も関係なくあらゆるステークホルダーと一緒になってブランドを作り上げていきましょう、というのがヤンマーのブランディングのスタンスです。
個々の自発性や自主性を引き出す源泉がHANASAKA。
――具体的な活動事例として「HANASAKAワークショップ」という取り組みがあるそうですが、ワークショップ実施の目的について教えてください。
澤田:HANASAKAについて個々人で考えてもらい、それぞれが自分の言葉で表現してもらう事で、個人の自発性や自主性を引き出すことを目的としました。HANASAKAの考え方を自分事化できる人が増え、組織内に広く浸透すればするほど、いきいきした表情でのびのびと働く人が増えると思います。それは外から見ても魅力的な組織に見えますし、そこに共感した人がヤンマーグループにジョインしてくれることもあると思います。なので、社内にも社外にも、ヤンマーというブランドの魅力を強化し、発信していく上で、HANASAKAという根幹の部分は欠かせないという認識です。
アンバサダーがHANASAKAを「Lead」・「Report」・「Support」
――「HANASAKAワークショップ」について、どのような形式や規模で実施されているのか教えてください。
澤田:ワークショップは、これまでに日本、アメリカ、シンガポール、オランダ、中国の5箇所で実施しました。ヤンマーは海外にも多くのグループ会社があるので、それぞれの地域の主要拠点となっている国で開催しました。各国、各社でHANASAKAを広めていく役割を担った「アンバサダー」という方々を対象に、ワークショップを実施し、これまで総数16カ国、86名の方に参加してもらっています。
本社のコーポレート部門が活動を先導するのではなく、アンバサダーを主体に各国、各社でそれぞれに活動を進めることが、自発性や自主性を尊重するHANASAKAのあるべき姿だろうという考えのもと、「Lead」「Report」「Support」の3つの活動をお願いしています。
Leadは文字どおりHANASAKAを広めるリーダーとしての活動。Reportは、各国のHANASAKAに関わりの深い人や取り組みを映像や文章でまとめ、発信していく活動。そしてSupportは、そのような人や取り組みを支援する活動です。
――人によって捉え方や解釈に幅があるHANASAKAを、ワークショップでは具体的にどのように伝え、アンバサダーの3つの活動へと結びつけてもらうのでしょうか?
澤田:ワークショップの目的としては大きく2つあって、HANASAKAを自分の言葉で定義して、より自分事化してもらうことと、ワークショップ後のアンバサダーとしての活動準備をしてもらうことにあります。
参加者にはまず、HANASAKAを説明するコンセプト動画などを見てもらったうえで、HANASAKAを自分が思う言葉や写真で言い換え、そのように言い換えた理由を共有します。このプログラムでは、自分にとってのHANASAKAの定義が明確になるだけでなく、共有によって多彩な気づきが得られる点が特徴です。
――ワークショップ後は、アンバサダーにどのように活動してもらうのでしょうか?
澤田:「Lead」「Report」「Support」の3つの活動のうち、今回は「Report」に注力しており、各社でのHANASAKAにおける取り組みや浸透活動を、映像として記録し、それらを全社に展開するよう依頼しています。
これにより、各社で取り組んでいるHANASAKAの活動を互いに知ることができ、「それなら、私たちのあの活動もHANASAKAだな」という気づきにつながったりしています。また一方で、「まだまだHANASAKAへの取り組みが足りていないな…」と自分たちの活動を見直すきっかけも生まれます。そして結果的に、また新たなHANASAKAの活動が自発的に広がっていくという相乗効果をもたらしています。
組織の枠を超えたつながりでワンステークホルダーを強化
――ワークショップの参加者からは、どんな反応がありましたか?また、企画・運営サイドとしての感想もお聞かせください。
佐々木:ヤンマーグループの事業は、アグリ事業をはじめ、マリンや、エネルギーなど分野が多岐にわたるのですが、そういった事業の枠を超えたところで一堂に人が集まって、HANASAKAという共通のトピックについて話せたということにはすごくポジティブな反応があり、評価も高かったです。社内で横軸で貫く強いつながりができたという感覚を持った参加者も多かったと思います。
おそらく、Face To Faceの対面形式でやったという部分も大きいです。ここ数年間は新型コロナウイルスの影響で直接会えないという時間がありましたから、やはりみんな、つながりや一体感みたいなところを求めていたのかな…という気がしました。
そういう意味では、冒頭でお話しした社内も社外も関係なくワンステークホルダーとして、全体のつながり強化ができたことが非常に良かったなと感じます。そして、このワークショップから生まれたつながりが、グループの創造性を高めるきっかけになり、企業の価値や強みになっていけば嬉しいですね。
――HANASAKAワークショップも含め、今後のブランディング活動について、どのような展望があるか教えてください。
ワークショップを実施する前は、海外の人にとってのHANASAKAはとても日本的な価値観で、共感してもらえないのでは…という不安があったのですが、嬉しいことに、毎回どこもポジティブな反応や前向きなサポートの姿勢が見られました。
実際にヨーロッパの拠点では、さっそく社内でHANASAKAの理解を深めるイベントを開催したようで、HANASAKAのロゴがデコレーションされたケーキを社員に提供するなど、各国のアンバサダーが、工夫して社内でのHANASAKAの浸透活動を進めてくれています。
そういったHANASAKAを体感できる機会を全社に展開していくため、今回実施したHANASAKAワークショップは、日本でも各地で開催予定です。
また、ワークショップに参加できなかった社員もHANASAKAについて理解し行動できるよう、浸透させていくことが必要だと思っています。
紙媒体・アプリなど、多様なタッチポイントを展開。
社内コミュニケーション構想について
他にも、HANASAKAを社内に浸透させる取り組みとして、制作しているのが「HANASAKA BOOK」と社内コミュニケーションを担当する部門が構築・運営を行う従業員向けスマホアプリ「HANASAKA APP」です。
「HANASAKA BOOK」は、四半期に1回のペースで発行している紙媒体です。工場で勤務する社員の中には社給のパソコンをもっていない人もいるので、そういった社員にもHANASAKAを感じてもらえるよう、あえて冊子を制作して配布しています。
「HANASAKA APP」は、「HANASAKA BOOK」よりも、さらにHANASAKAを身近に感じてもらうことを目的とした社員向けのスマホアプリです。自身のデバイスにアプリをダウンロードすることで、日常のふとした瞬間でもHANASAKAを感じてもらえるようなコンテンツが発信されています。
どちらのコンテンツも、ヤンマー社員の「HANASAKA」な姿や、一人ひとりが感じている「HANASAKA」に、定期的に触れられるような内容になっていて、社員全員が「HANASAKA」について考え育くむこと目的としています。
また、「MEET HANASAKA」では、ヤンマーと親和性のある外部有識者を招き、HANASAKAをテーマに対談を実施しました。初回は、ヤンマーのブランドマーク「FLYING-Y」の生みの親でもある佐藤可士和氏をゲストに迎え、「HANASAKAの理念が誕生した背景や″A SUSTAINABLE FUTURE″との関連性」についてお話いただいています。
このように、社員がHANASKAについて触れる機会を着々と増やしており、また、商品開発の面では、実際にその商品を使う立場のお客様と一緒に開発を進めるというようなことも検討しています。一人ひとりが主体的に動き、そのベースには互いに人を信じ合い、支え合う環境がある。結果として、そういった環境が活性化されることで、新たな挑戦や価値の創造へとつながっていく。そんなHANASAKAを源泉とした流れがいくつも生まれることで、ヤンマーグループとしての創造性や価値を高めていき、社内も社外も関係なくあらゆるステークホルダーと一緒になってブランドを作り上げていきたいと思っています。