“A SUSTAINABLE FUTURE”
ヤンマーが100年先の未来を見据え、新たに発信したブランドステートメントです。地球環境にグローバル経済、自然も人々の暮らしも急激に変化している激動の時代に、人がいつまでも豊かに暮らせて、自然がいつまでも豊かであり続けるという、人と自然が共生する、持続可能な社会の実現は誰もが望むことでしょう。一方で暮らし方、考え方が多様化した時代でもあります。望む理想の社会のあり方や、実現に向けた提案も人それぞれ。
Y MEDIAではヤンマーが考える”A SUSTAINABLE FUTURE”実現のために、私たちがどのような取り組みを行なっているかをご紹介していきます。初回はヤンマー株式会社代表取締役社長・山岡健人と、2012年よりヤンマーのブランド戦略の総合プロデューサーを務めるクリエイティブディレクター/SAMURAI代表・佐藤可士和氏による対談をお届けします。
「新しい豊かさ」は、人も豊かに、自然も豊かに
“A SUSTAINABLE FUTURE”には、「テクノロジーで、新しい豊かさへ。」という副題も掲げられています。ブランドステートメントの生みの親とも言えるお二人に、そのあるべき姿を尋ねると、まずは「新しい豊かさ」についての話題からスタートしました。
――”A SUSTAINABLE FUTURE”が指し示す未来について、あらためてお二人の言葉でうかがいます。どのような未来をイメージされているのでしょうか?
佐藤可士和(以下、佐藤) ”SUSTAINABLE”というとどうしても地球環境のことに寄り過ぎたイメージを持たれがちですが、人間の豊かさと自然の豊かさが両立してこそのSUSTAINABLE。社長からはそこにこだわってディレクションいただきました。
山岡健人(以下、山岡) ヤンマーの創業者・山岡孫吉の言葉に「燃料報国」があります。発動機による省力化で農民を豊かにすることから起こった考えですが、少ないエネルギーで豊かな社会を実現するという考え方は、まさに今回のブランドステートメントにもつながります。あらためて紐解いて読んでみると、燃料を節減しただけではなく、それによって楽な生活を、人間の豊かさを実現して社会に報いるメッセージがちゃんと入っているんですね。それを可士和さんに一言で、スローガンに。
佐藤 だから「新しい豊かさ」はかなりポイントで。これからは「新しい豊かさ」自体を考えていかないといけないと思うんですよ。豊かさの概念は、人や国、時代によって変化しますよね。ヤンマーはテクノロジーというソリューションを持ちながら、未来に向けての豊かさを考えていく。
その中でも人間の豊かさと、自然の豊かさ~それこそ地球の”SUSTAINABLE”~、を両立させるのはある意味、人類にとってももっとも重要なことのひとつですよね。社長とお話してきた中で、地球のためにと人間が犠牲になるのは違うのではないかと。環境のことを考えるとどうしても人間の豊かさがおざなりにされてしまう傾向がある。今回、ヤンマーの理念として根付いていた考え方を、次の100年のためにまとめ直した感じですね。
――必ずしも環境の側面を切り捨てるのではなく、人間の豊かさと両立させる。
佐藤 その通りです。
山岡 地球の資源を大いに消費してかまわない、そういった考え方も方向転換してきました。経済成長の中で環境汚染が問題になり、食材でも化学物質にまみれたものが世に溢れたり。地球の資源にも限りがある中で、テクノロジーを使って自然と人間がともに豊かさを保つためにはどうしたらいいのか。私たちにできることはあるかと考えていると、燃料報国とブランドステートメントがマッチしていた。
――ヤンマーが掲げるブランドステートメントと社会に対する問題意識が合致していたんですね。
佐藤 創業100周年を経て次の100年のためにと起こしたプレミアムブランドプロジェクトが2012年から始まりました。ビジュアルアイデンティティを見直し、FLYING-Y BUILDING、YF2112というビジョンの発信と、ヤンマーの未来に対する想いを積み重ねてきましたが、4年目の表明としてより具体的にどういう未来を目指していくのかを伝えるタイミングが丁度来たのだと思います。
テクノロジーはソリューションの軸であり、 ソリューションはテクノロジーだけではない
ブランドステートメントの副題に込められたもうひとつのキーワードが「テクノロジー」。ヤンマーを語る上で欠かせないテクノロジーが、「新しい豊かさ」にどのような役割を果たすのでしょうか。
――豊かさの価値観や社会環境が変化している一方で、テクノロジーによるヤンマーのソリューションは100年前も今も変わらないように見受けられます。
山岡 テクノロジーに対する考え方は変化しています。「燃料報国」を掲げた頃のテクノロジーといえば、エンジンの燃料噴射技術のことでした。現在は環境を守るためにエンジンを含めた作業機に対する規制も強まる中、これまでどおりのやり方には限界が訪れます。ヤンマーはそういう環境変化の中でも生き残らなければなりません。
私たちの事業領域はエンジンだけではありません。ロボティクスの技術、農業のノウハウ、エネルギーを効率的に活用するエネルギーシステム。そしてわくわくするようなプレジャーボートのようなプロダクト。テクノロジーの形は必ずしもいつも一緒というわけではない。
佐藤 どんどん変化する。ヤンマーはどうしても、トラクターや建機等、プロダクトで捉えられますが、「テクノロジー」という軸でくくると、農業や建設業、それらの業界に対してのソリューションを提供しているわけです。物だけをつくっているわけではないんです。また、社会に対するソリューションを提供するという意味では、テクノロジーを軸にしつつも、それだけが課題解決の方法ではありません。
――ヤンマーの活動には、製品に紐づく農業やマリンなどの事業領域だけではなく、「次世代育成活動」、「文化醸成活動」という社会貢献的な領域も含まれています。
山岡 創業者による、「美しき世界は感謝の心から」というもうひとつのスローガンがあります。感謝する心によって美しい世界が生まれるという、独特の哲学が当初からあったため、山岡育英会という教育に関する基金は1950年の創立以来65年が経過しています。文化醸成活動の側面ではやはりスポーツ。セレッソ大阪につながるサッカーの文化は、元々従業員のための福利厚生で、サッカーボールを追い駆けることによって、国内外を問わず、社員みんなが仲良くなってほしいということが原点だったのです。それが徐々に規模が大きくなり、釜本邦茂さんやネルソン吉村さんが加わり、日本でも名門と呼ばれるサッカーチームにまで成長しました。
今では東南アジアの農村で農業のソリューションを提供しつつ、インドネシア大学の学生が運営するボランティア団体を通して、地域の貧しい家庭の子供を対象にサッカースクールを開催したり、ベトナムではナショナルチームのフィールドの芝を整備したりしています。企業の社会貢献はレゾンデートルのひとつです。
――お二人のお話をうかがっていると、今回ブランドステートメントの下に提示された四つの目指す社会(「省エネルギーな暮らしを実現する社会」「食の恵みを安心して享受できる社会」「安心して生活・仕事ができる社会」「ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会」)に対する考え方が腑に落ちます。いずれもテクノロジーだけではないソリューションがあってはじめて、実現する社会です。
佐藤 そうですね。創業の精神には、「燃料報国」だけでなく「美しき世界は感謝の心から」もある。100年前と今だと時代や環境はだいぶ違いますが、当時の豊かな暮らしに対してソリューションを提示してきた。だからこそもう一度見つめ直し、ヤンマーがどういうことをやろうとしているのか、現代版にアップデートしたのがブランドステートメントにはじまるブランドのビジョンなんです。
ブランドステートメントとともに歩む、ヤンマーの未来予想図
自然だけではなく、人も豊かになる社会へ。テクノロジーを軸に、さまざまなソリューションを。”A SUSTAINABLE FUTURE”というステートメントに込められた意図が見えてきました。最後にこのメッセージが世の中にどのような影響を与えることを期待しているのかを聞きました。
――100年先の目指す世界をイメージされることはありますか?
山岡 自分たちの事業領域では農業機械や建設機械のロボット化、コンピュータ制御を進化させ、労働力を省力化する未来は常に考えています。ゲーム感覚で無農薬で美味しい野菜を育てたり、バーチャルリアリティによるシミュレーションが進めば、人間はもっと想像力豊かな、クリエイティブな面を伸ばすことができるでしょう。
――実際に研究開発は進んでいますか?
山岡 はい、イタリア・フィレンツェの大学と進めているロボット工学の共同研究など、研究所や大学との協力関係は強めています。
佐藤 ”A SUSTAINABLE FUTURE”の理念に異議を唱える人はそんなにいないと思うんですよ。そこでヤンマーはテクノロジーを軸にやっていきますと表明することで、「だったらうちともやりましょう」と、手を挙げて一緒に取り組んでいただける企業が出てくる。そういうことが重要なんです。
――たしかにヤンマーのソリューションだけで実現はできないかもしれません。
佐藤 目指している社会を提示することと単に「トラクターをつくってます」「ボートをつくってます」というメッセージでは、受け止められ方もずいぶん違いますよね。社会に対してきっちり宣言することで、「じゃあ一緒にやりましょう」、「これだったら協力できますね」、「もっとこういうこと一緒にやりませんか」というコラボレーションが発生する。そこからまた新しいテクノロジーが生まれたり、新しい事業領域が生まれたり、企業の活動として、全体として何かいい方向に進んでいくのが理想的だと思うんです。
山岡 お客様に対しても想像力や欲求をかき立てるような提案が求められます。単にトラクターやコンバインなど、自分たちのプロダクトを持っていくだけではそこで終わってしまうんです。カタログに載るスペックだけではなく、我々が持っているテクノロジーにはこんなものがあります、バーチャルだとこのように見られます、お客様の要求を汲み取って「こんなものがあるなら欲しいな」と結びつけるようなことが必要です。
自分たちのやりたいことはステートメントとしてしっかり伝えて理解してもらいながら、これをいろんな企業や機関と協力して進めていくのがいちばんいいのではと思います。
――企業がブランドステートメントを発することには、このような効果もあるんですね。
佐藤 そうです。なぜブランディングが大事かといえば、何かをつくってますというだけではなくて、何のためにやっているのかを理解してもらわないと、コラボレーションのしようもない。
――社内の方には、ブランドステートメントをどのように受け止めてほしいとお考えですか?
山岡 それがいちばん大切なんです。ブランドステートメントをみんなが理解して、「じゃあこんなこともできるのでは?」と、社内からいっぱい提案が出てきて。「私はこういうことのために働いてる」と、ワクワクするような気持ちになってほしい。
今回こうしてきっちりと発信することで、外部の方からもヤンマーが目指しているブランドの意味を理解して頂けると思います。一人ひとりがお客様に会った時に、自らの言葉で話して行動で示してほしいと思います。
佐藤 今回僕がお手伝いしたことは、元々ヤンマーがやってきたこと、考えてきたことを現代にアップデートし、一つの言葉に集約させたことです。だからここからがスタートです。社長の言葉で語っていただくことからはじまって、社員一人ひとりがこれを理解して、誇りを持ってコミュニケーションできるようになることが、ブランディングとしては理想形です。ここまでできれば方向がブレないので、無駄なことをしなくなり、パワーが最大化するはずなんです。集団で進んでいるわけですから、ブランドステートメントはまさに「イチ、ニ、イチ、二」という、掛け声みたいなものかもしれません。
創業者の言葉に重なり、今まさに時代が直面する課題にもあてはまる。 “A SUSTAINABLE FUTURE”というブランドステートメントは、ヤンマー100年の理念と実績をアップデートし、次の100年へ進む道しるべとなります。
それぞれの事業や活動の現場でどのように実践されていくのか。Y MEDIAもまた、この記事をスタート地点とし、さまざまな形でみなさまにお届けします。