黒田 興広さん
(ヤンマー造船 商品統括部 商品開発部 舟艇グループグループリーダー)
2018.10.19
<開発担当者>
黒田 興広さん
(ヤンマー造船 商品統括部 商品開発部 舟艇グループグループリーダー)
木村 行彦さん
(ヤンマー造船 商品統括部 商品開発部 舟艇グループ)
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
10年前、釣りを目的とするフィッシングクルーザーに、初めて快適な居住性を設けたEX33が登場した時は、ヤンマーの船を知る多くの関係者に驚きを与えました。
ヤンマー造船が常に上質の走行性と居住性を追求し続け、長年にわたって培ってきたフィッシングクルーザーの開発ノウハウを注ぎ込んだEX33は、いまもなお好評を得ています。その後、同様の開発コンセプトでデビューを飾ったEX30BやEX38とともに、現在においても主力ラインアップの位置を占めています。
今年の3月に発売開始となったEX34は、このEX33の後継機種として開発されました。したがって、開発にあたってはEX33の船主たちの操船の感想や要望を踏まえて着手されました。
EX34は、「より快適で心地よいクルージング」をテーマに掲げ、EX33の船主たちの貴重な声を的確に反映させた、進化した新型艇です。
たとえば、「走行中に前方からの波がハル(船底)にぶつかる時の衝撃が強い」という声に対して、船首の形状をV型に変更してハルの水線長を拡張し、波が直接ぶつかる部分にはFRPで硬質発泡体を挟んだ新たな部材を採用しました。さらにヤンマー造船では初の試みとなる製造法の「バキュームインフュージョン成形法」を採り入れて高強度・高剛性を確保し、波の衝撃を緩和することで上質の乗り心地を実現しました。
また、「航行スタートの時に船首が浮いて前方が見えづらい」という課題には、船首と船尾の角度が大きくならないようにハルの形状を変え、より安定した航行を生み出しました。
快適で心地よいクルージングを徹底して追及し、開発を統括した黒田さんは
「EX34の設計では、ハルの形状変更や新たな部材の採用がひとつの重要なポイントであり、最も苦労した部分です。最適な形状は机上の計算だけでは完成の域に達しないので、試作機を作って何度も走行テストを繰り返しました」
と、開発の経緯を思い起こします。
これら性能面の改善の他にも、要望の多かった3人乗りフライングブリッジの設置、インバータエアコンの標準装備、内装材の改良や窓への遮熱フィルムの採用など、快適性を求めたさまざまな工夫が随所に凝らされています。
EX34の開発でさらに特筆すべき点は、同社が製造した試験艇の「Wakuwaku-boat」の存在です。平成27年から開発に取り組んだ「Wakuwaku-boat」は、「乗り心地の向上」「魅力的な内装」「心地よい空間」といった市場ニーズにいかに対応するかを実証する役割を担っています。
「Wakuwaku-boatは、お客さまの期待を超える価値の提供を目指し、さまざまな要素技術の開発を行うために作りあげた試験艇です。お客さまが海に出て、ゆっくりくつろげる、たくさん魚が釣れる、そういうところをフィッシングクルーザーに盛り込むためにはどんな技術が必要なのかを検討し、形にしました。お客さまをワクワクさせる技術を盛り込むので、名前もWakuwaku- boatです。実際に完成したWakuwaku-boatでは、波の衝撃や断熱性などの定量的な試験に加え、同社とヤンマー舶用システムのスタッフが乗船し官能評価を実施。非常に良い結果が得られました。」
と、設計を担当した木村さんは語ります。
ハルの新部材や新しい内装材、遮熱フィルムなどは、こうした体感実験を重ねてEX34に結実しました。
EX34は現在、全国各地で開催されている展示会や試乗会においてクルーザーファンの注視の的となり、反響を呼び起こしています。
「いま思えばEX34は、Wakuwaku- boatの新技術を盛り込み過ぎたかなと思うくらい新しい要素が満載で、自信を持ってお勧めできる新型艇です。今後も新しい技術を創造し続け、お客さまも我々もワクワクするような船を生み出し続けていきたいですね。」
とビジョンを語ります。
クルーザーファンの期待の一歩先を歩み、想像の域を超える新たな価値を追求する開発姿勢、それはヤンマー造船が最も重視するフィロソフィーです。
mare vol.39より抜粋