ヤンマーアグリジャパン株式会社 北海道カンパニー アグリサポート部 アグリソリューションセンター
上田和代
2016.08.24
ヤンマーがカフェで「おもてなし」する意味とは?
ヤンマーは2012年に立ち上げたプレミアムブランドプロジェクト以降、さまざまな面でブランドイメージを刷新してきました。施設のリブランディングもそのひとつです。”新しい「農」をクリエイトする”ことを目的としたフラッグシップ拠点、ヤンマーアグリソリューションセンターが、2014年11月に北海道にオープンしました。
これまでは農機販売やメンテナンスを提供する拠点でしたが、今後は用事がなくても気軽に立ち寄れるカフェのような存在でありたいと、施設を一新。農業全般についてお客様が抱える問題に応える場であることを目指しています。デザインを監修されたのは、世界的工業デザイナーである奥山清行氏。
百聞は一見にしかずということで、Y MEDIA編集部はアグリソリューションセンター北海道を取材してきました。今回は施設見学をレポート。通常の見学コースをそのままに、読者のみなさんに疑似体験いただきます。
では早速『ナレッジセンター』から見学をスタート。まずは今回案内してくれた北海道カンパニーのお二人を紹介します。
ヤンマーアグリジャパン株式会社 北海道カンパニー アグリサポート部 アグリソリューションセンター 主任
三浦伸一
上田さんはアグリソリューションセンターのイベントや展示の企画、また集客のための広報活動などをご担当。三浦さんはズバリ、施設見学をメインでナビゲートされており、まさにアグリソリューションセンターのスポークスマン的存在です。今回も三浦さんにナビゲートいただきながら、見学の最後は上田さんにも同席いただき、施設の運営についてのお話をうかがいました。
おっと忘れてはいけません。お二人とともに私たちを出迎えてくれたウェルカムボードは、受付を担当されている佐藤未歩さんによるもの。こちらも見学ごとに手書きされています。小さな心遣いが嬉しいですよね。
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
展示でヤンマーの歴史と今を知る「ナレッジセンター」
――それでは施設見学をはじめましょう! まずは「ナレッジセンター」です。三浦さん、今日はよろしくお願いします。
緊張しますね(笑) 通常はセミナールームで参加者のみなさんにご挨拶と見学の際のお願いをします。その後、トラクターの展示の前で記念撮影して、そのままトラクターの説明をします。
――ではトラクターの展示エリアからお願いします!
目の前にあるトラクターがYT5113。ヤンマーの最新鋭のモデルです。やはり今までにないデザインなので、注目されますね。これも奥山清行さんのデザインによるものです。フェラーリや新幹線のデザインもされているとお話しすると、この斬新なデザインに納得いただけますね。
デザインばかりではなく、居住性や操作性についてもお話します。奥山さんは山形県の兼業農家出身で、開発にも加わっていただいてます。機能面では無段変速ミッションの搭載がポイント。わかりやすくいうとオートマチック車ですね。アクセルとブレーキで簡単に操作できますし、スピード調整もスムースです。見学者には農家の奥さん、子どもさんも多くいらっしゃるので、車のように簡単に扱えることにも興味を持っていただいてます。
――プレミアムストア構想でリニューアルされた施設に、デザイン性の高いYTトラクターが映えますね。
東京モーターショー出展など、露出も多いので「見たことある!」とおっしゃるお客様も増えました。みなさんカッコいいと評価してくださるのですが、トランスフォーマーみたい、仮面ライダーみたい、ガンダムみたいとか感想はいろいろです(笑) 私としても説明しやすいです。
――懐かしいモデルも展示されてますね。
48年前、56年前に発売されたヤンマーのトラクターも並べてます。ほぼ半世紀前のトラクターと紹介するのですが、50年経つとYTトラクターのように進化すると。農業自体が進化したんだと、わかりやすく理解していただけますね。中には旧型のモデルを使用いただいていた方もいらして、懐かしむ姿も見られます。
お客様に「ヤンマーは何の会社ですか?」と聞くと、やはり「農業機械だよね」とお返事いただきます。でも、会社の起こりはディーゼルエンジン。まずはそのことを知っていただくために、自社製エンジンを分解したものを展示しています。
――この施設がアグリソリューションセンターだということもあり、「ヤンマー=農」のイメージのお客様が多そうですよね。
ディーゼルエンジンを発明したのがルドルフ・ディーゼルさん。ディーゼルエンジンの小型化に成功したのがヤンマーの創業者・山岡孫吉。ヤンマーとエンジンの関わりをお話しながら、ここで展示しているのが実はトラクターのところでお話した無段変速ミッションなんですね。少し知識を入れていただくと、見え方が変わってくる。エンジンからしっかりつくってるメーカーというのは他社さんとの違いですし、ぜひ覚えて帰っていただきたいです。
※ヤンマーの歴史について詳細はコチラ
――こちらには土が入ったたくさんの瓶が並んでいます。
ヤンマーでは「土壌診断」を実施しております。お申し込みいただいた農家さんに対し、各地の営業がうかがってサンプルを採取、専門機関を通じてしっかり診断します。ここに展示しているのは全国各地の土のサンプルです。
――壁一面のカタログも、圧巻ですね!
約200種類置いてます。ここは情報発信基地なので、カタログはもちろん、スタッフが最新の情報をお伝えできるように準備しています。ニーズありきのものですので見学の時は深く触れませんが、何かお悩みがあってお越しいただく方には、これだけ種類があれば何かしら興味をお持ちいただけます。カタログをきっかけにコミュニケーションが発展することもありますね。
国内で唯一ジョンディア社製品を扱う「大形農機センター」
――さてナレッジセンターを離れ、お次は「大形農機センター」です。こちらはどのようなエリアなのでしょうか?
1972年より輸入販売契約を結んでいるジョンディア社製農機の組み立て工場です。組み立て工場というとラインを組んで小さい部品から組み上げるイメージがありますが、ここでは日本の国内基準に合わせた改装作業と品質を担保するためのメンテナンスを行っています。
雪の北海道では欠かせない「全天候型多目的ハウス」
――続いては「全天候型多目的ハウス」。こちらでは名前のとおり、雨天時でも試乗体験ができます。
北海道ならではですが、雪の時期の試乗はほぼ叶いません。しかしその時期でも試乗したいというニーズはありました。メインは試乗ですが、販売促進用モデルハウスとしても利用しています。
見学の目玉! 悠々試乗体験ができる「デモンストレーションフィールド」
いよいよお待ちかね、施設見学でももっとも盛り上がる「デモンストレーションフィールド」での試乗体験! ……のはずだったのですが、取材当日はあいにくの空模様で、圃場を使うことができませんでした。そこで今回は特別に、農業大学の学生向けに行ったGPS自動操舵研修時の動画をご提供いただきましたので、ご覧下さい。
――今日は残念ながら試乗できなかったのですが、通常見学時の試乗はどのように行われているのですか?
まずはデッキで希望者を募りながら注意事項を説明します。操作方法ですが、基本はGPS自動操舵システムをプログラムしておきます。ある程度のコース取りが済んでいる状態にしておき、スピードを変えたり、バックしたり。手を離してもアクセルワークで進めるようになっています。はじめてトラクターに乗る方には「座席が高い!」「思ったよりスムースに動く!」と驚きとともに感心いただきますし、すでに他社さんの製品を使用されている農家さんにその違いを感じていただけるのも、私たちとしては嬉しいですね。
……こぼれ話ですが、デモンストレーションフィールドのデッキにはトイレが備え付けられています。この個室トイレ、天井が吹き抜けになっていて、開放感がすごいです(笑) ご来場の際はぜひ、ご利用ください。
デジタル管理で農作業の手を止めない「北海道流通センター」
――施設見学コースとしては最後のポイント、「北海道流通センター」です。
ヤンマー製品の部品を扱うセンターは、ここ北海道のほか、東北、関東、近畿、中国、九州と全国に6箇所あります。道内の拠点であれば、午前中に発注を受けた部品がこちらに在庫があれば、翌日に届くスピード感で進めています。ヤンマーとしては「お客様の作業の手を止めない」ことをずっと目標としてきて、その実現に大きく貢献する重要な機能だと考えています。
見学を終えて ~アグリソリューションセンター北海道が目指すもの~
約1時間半、たっぷり施設を案内していただきました。再びナレッジセンターに戻り、カフェエリアにてインタビュー。上田さんにも参加いただきながら、アグリソリューションセンター北海道の今とこれからについて、お話いただきました。
――ヤンマーの拠点でカフェ、字面だけだと違和感ありましたが、本格的なコーヒーの味にびっくりしました。
美味しいと言っていただいてます。リピーターのお客様がいる団体さんでは、はじめての方に「ここのコーヒー美味しいから」と勧めてくださることも。
――こだわりの味ですよね。
オープニングの展示会の時に、札幌近郊にある自家焙煎のコーヒー屋さん・徳光珈琲さんにカフェの運営そのものから相談しました。その流れでイベント用に当日限定ということでオリジナルブレンドをつくっていただいたのですが、とても好評で。日々の見学でもお出しできるように仕入れることになりました。
――見学を通じて知識を吸収したり、ワクワクする体験をして、興奮や疲れもあると思うんですよね。その時に美味しいコーヒーで一休みできるのは嬉しいです。
普通のショールームとは違う、くつろいでいただく場所を目指しています。見学ツアーの最後だけではなく、札幌に買い物に出たついでに立ち寄っていただくなど特に用事がなくともご来店いただく方も増えてきています。お茶して世間話をして、新しい製品やグッズをご覧いただいて、お帰りになる。
――そこは目指しているコミュニケーションの場としての機能の、ひとつの成功例ですね。1年半運営されて、これまで年間1,500人ほどだった来場者が、1年半で1万8千人を達成するなど大幅に増えましたが、振り返ってみていかがですか?
僕の場合は何せ必死です(笑) 人前でしゃべるのが元々苦手で。ようやく少しずつ伝えられるようになってきたかなという実感はありますが、まだまだ改善の余地はあると思ってます。試行錯誤しながら誰でもわかるような説明ができればと。それが理想ですね。
あらためて“ヤンマーのことを知っていただく場”だと思います。ヤンマーとお取引のあるお客様だけではないので。たとえば他社さんのトラクターを使用されている方が、ヤンマーの販売店に来て、製品のことを知る機会はあまり考えられませんでした。しかしアグリソリューションセンターでは、農業に携わる方みなさんにご興味を抱いていただけるソリューションを提供しているので、その機会ができました。展示品を見たり、実際に試乗されて、より深いレベルでヤンマーについて知ってもらえるのはとても嬉しいです。
また、ただの施設見学だったら1回経験したらもういいやってなると思うんです。札幌に来たついでに寄っていただくのも嬉しいのですが、いつでも来たい場所として選択肢に挙がるような施設でありたいです。
――そのためにはどういったことをされていますか?
お客様の声を聞くことを心がけています。
見学中も気づきになる部分が結構あるんですよ。見学後のアンケートにも書かれますし、直接言われることも。糧になりますし、励みになります。
1年半経ってもルーチンワークにならないんですよね。毎回新しいことをやっているような感覚で、それは大変でもあり、楽しい部分でもあります。
――おっしゃるとおり、そのように日々変化がないと、何回も来てもらえないですよね。
立ち上げた当初は「ヤンマーのプレミアム!」と気負い、プレッシャーに感じるところもありました。上質な価値、サービスの提供のためにどうすればいいのかと悩むこともありました。でも続けていくうちに、最近ではお客様に喜んでいただく、ここに来て良かったねと思ってもらえることがプレミアムなのではと感じるようになりました。農家さんには最新の農機を体験いただく。お子さんだったらトラクターに乗れるだけでも十分。その人その人に対してのプレミアムというか。
――とてもいいお話がうかがえました。今後はどういったコミュニケーションを増やしていきたいですか?
少しずつ増えてきていますが、学校の受け入れですね。北海道にとって農業は大きな産業なので、ヤンマーを通して農業に対する興味を持っていただけたらなと思いますね。北海道では農業に関する教育を農協はじめさまざまな企業や団体がされています。私たちも農業機械販売会社として、このアグリソリューションセンターがヤンマーだけでなく農業を知る場所になれたらなと思います。
男の子、女の子に関わらず、トラクターに乗ったことあるないって、その経験だけでも違いますよ。農業に対するイメージや知識に触れていく中で、我々が提供しているプレミアムなトラクターに試乗して、カッコよさ、快適さを体感してくれたら、いろんなところで農業のことを話してくれると思うんです。
施設見学からカフェでのお話まで、盛りだくさんでお送りしました。アグリソリューションセンター北海道の魅力を、少しでもお伝えすることができたでしょうか。ヤンマーのソリューションに触れながら、北海道や日本の農業のことを考える。ここではそんなきっかけづくりが日々、行われています。
本企画、実はこれでおしまいではありません。次回後編では、地域の子どもたちが同施設に社会科見学に来られた模様を取材しました。アグリソリューションセンター北海道が地域の教育へ果たしている役割についてお伝えします。お楽しみに!