2017.05.26

ニーズのその先を超えていく。 時代の要請に応えて生まれた8LV型マリンディーゼルエンジン

いよいよ開催される世界最高峰のヨットレース「第35回アメリカズカップ」。ヤンマーはOfficial Marine Engines Partnerとして大会を全面的にサポートしています。

ヤンマーとアメリカズカップとの関係は、過去にコチラの記事でもご紹介しましたが、今大会も、ディフェンディングチャンピオンのオラクル・チーム・USAのオフィシャルテクニカルパートナーとしてチームの伴走艇に「8LV型マリンディーゼルエンジン」と「ZT型ドライブシステム」を提供しています。トップチームに認められたパワー、耐久性、信頼性、環境性能を高く評価され、アメリカズカップを観戦するゲスト用のVIPシャトル艇のエンジンにも搭載される予定です。

この「8LV型マリンディーゼルエンジン」は、370馬力というクラス最高峰の出力、なめらかな加速性を両立しながらコンパクトな設計、低騒音・低振動を実現。ヤンマーの持てる技術を結集した“プレジャーボートの次世代エンジン”です。
今回は同機の開発メンバーを取材しました。厳しさを増す排ガス規制など、時代の要請に応えながら進化してきた技術力。晴れ舞台で活躍するこのタイミングで、開発のインサイドストーリーに迫ります。

志賀健治
ヤンマー株式会社 エンジン事業本部 小形エンジン統括部 開発部 舶用技術部 第一技術グループ

1986年入社。小型エンジンの開発を担当後、1991年から大山崎の研究所で、排気エミッション低減の研究に従事。2000年に長浜工場に戻り、舶用エンジンを専門に開発。

緒方智邦
ヤンマー株式会社 エンジン事業本部 小形エンジン統括部 開発部 試験部 第五技術グループ

2006年入社。大学で内燃機関係を学び、ヤンマーに入社。以来、長浜工場の試験部門に所属し、10年間にわたり、舶用小形エンジンの試験を担当。

※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。

排ガス規制を機に、さらなる性能を追及

ヤンマーが手がけてきた直列6気筒の6LP型マリンディーゼルエンジンは、1997年の量産開始以来、需要の多い300馬力クラスのプレジャーボート用エンジン市場で、主力の製品でした。しかし2012年から始まったEPA(アメリカ環境保護庁)の排ガス3次規制に対応するためには、これまでのような機械式の燃料噴射ではなく、コモンレールシステムを搭載した電子制御式のエンジンが必要でした。3次規制に対応し、かつさらなる高性能を追求すべく開発されたのが、8LV型マリンディーゼルエンジン(8LV)です。

新たな課題を克服したV型8気筒のマリナイズ

8LVのベースエンジンにはV型8気筒4.5Lが選ばれており、船に乗せるための設計(マリナイズ)が必要です。プレジャーボート用のエンジンは限られた船内スペースに搭載されるため、過給機や冷却装置といった付属品をすべてエンジン側に取り付けなければなりません。そのためこれらの部品のレイアウト検討をはじめ、エンジンのサイズや重量が増えることによる振動、騒音などを軽減する設計が求められます。こうしたマリナイズの技術は、ヤンマーが長年培ってきたものですが、今回はベースエンジンが、直列6気筒からV型8気筒に変わったため、すべてを一から見直す必要がありました。

設計を担当した志賀さんは当時の苦労をこう振り返ります。

主流となる30フィートクラスのプレジャーボートには、2機2軸といって、エンジンが2つ並びます。直列6気筒に比べ幅の広いV型8気筒を、従来のスペースにどう収めるかが一番の課題でした。

従来はエンジン横に取り付けられていた冷却系や電装系の装置を上部に配置。上からカバーをかぶせるなどの工夫を施し、強度や振動の問題をクリアしていきました。

さらなる高出力を求めた、370馬力への挑戦

一方で、連結させるドライブの高容量化要望に対応するためエンジン自体の高出力化も検討されました。

開発当初は350馬力が目標でしたが、開発を進めるなかで370馬力でまで上げられるのではという予測が出てきました。

と語るのは試験を担当した緒方さん。

実際にテストした結果、達成できる目処が立った。みんなが“これで実現できる”と勢いづいたのを覚えています。

エンジン本体への熱や応力による付加の検証や、過給機とのマッチングなどを行い、テストを繰り返しながら完成に近づけていきました。

8LVの電子制御システムはエレクトロニクス開発センターが担当。エンジンの状態をリアルタイムでディスプレイに表示するコントロールシステム「VC10」やジョイスティックの操作で旋回や真横への動きを可能にした操船システム「JC10」などに対応しました。また、ドライブや減速逆転機などのパワートレイン系もオールヤンマー製とすることで高い信頼性と推進効率を実現しました。ヤンマーが持てる技術をすべて注ぎ込み開発された8LVは、3年半の開発期間を経て、2011年1月、次世代を担うエンジンとして誕生したのでした。

チャンピオンチームも認めた高性能

実際に乗船されたお客様から、「静か」「振動が少ない」「操船しやすい」といった評価の声をいただいている8LV。志賀さんは、

常にお客様に喜んでいただける商品開発をしていきたいと思っています。その意味で、今回は良いエンジンができました。開発に携わったみんなが、8LVは胸を張って出せる商品だと思っています。

と自信のほどを覗かせます。

また2013年には、世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」で、目下2連覇中のオラクル・チーム・USAの伴走艇に8LVが採用されており、その性能の高さを示しています。

舶用プレジャー部門は、ヤンマーの技術の最先端でありたいと思っています。これからも、お客様が潜在的に持っている悩みやニーズを技術で解決するとともに、その技術を産業用に展開していきたいですね。

と緒方さん。メンバーの熱い想いとともに、限界への挑戦はまだまだ続いていきます。


 

新型エンジンの開発にはさまざまな苦労がありましたが、メンバーが最もこだわったのは信頼性でした。限界設計をせずに各装置の余裕値を上げたのは、止まれば命にかかわる舶用エンジンで、何があっても動き続けるという最も重要な性能を守り抜いたからに他なりません。

「ヤンマーとして出す以上、そこは譲れません」

力強い二人の言葉には、ヤンマーの思想が息づいていました。

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