エンジン事業本部 特機エンジン統括部 開発部
ヤンマーテクニカルレビュー
4ストローク中速ディーゼル機関における過給技術(二段過給システムとその応用)第2報
Abstract
Two-stage turbocharging has the potential to improve engine efficiency through its use in combination with the Miller cycle to overcome the trade-off between fuel consumption and NOx emissions. YANMAR released the 6EY26W with the two-stage turbocharging system as a marine propulsion engine. This attempt to apply a two-stage turbocharging system earned a good reputation. As the next step, YANMAR is proceeding with a project to apply the two-stage turbocharging system to marine auxiliary engines. This report introduces the contents newly developed to apply the two-stage turbocharging to marine auxiliary engines.
1.はじめに
低GHG化社会へのシフトに関心が高まっている昨今、お客様に提供する重要な付加価値として、ヤンマーは常に機関の燃料消費量低減(低燃費化)を追求してきた。“二段過給”は、形式が異なる二台の過給機を直列に接続することにより、一般的な単段過給よりも多くの作動ガスを効率よく吸入し、排出する技術である。この効果によって得られた燃焼改善効果と、給気弁閉時期を従来のミラーサイクルより早期化した“ストロングミラーサイクル”との組合せを「二段過給システム」と呼称し、6EY26W形主機関に適用して実用負荷域全体での大幅な低燃費化を実現した。2014年にはこれを商品化し、一定の評価を頂いている(1)。次なるステップとして、舶用補機関に二段過給システムを展開すべく先行開発プロジェクトを推進中である。本稿では、4ストローク中速ディーゼル機関における過給技術(二段過給システムとその応用)の第2報として、新たに実施した概要を報告する。
2.舶用補機二段過給システムの目標
2.1.低燃費および高出力化の同時達成
舶用補機関(以降、補機関)への展開にあたり、6EY26W形主機関で実現した“低燃費化”に加えて、“高出力化”を二段過給システムの新たな付加価値として設定した。これは環境規制をはじめとした外部環境の変化に基づくものであり、船内装置の増加による消費電力の拡大に対応するための取り組みである。一例としては、IMOによるSOx規制(2)に対して排ガスを浄化するSOxスクラバの搭載によって対応する場合が挙げられる。SOxスクラバの電力を確保するためには補機関の台数追加もしくは大形化によって対応するのが通例だが、限られた船内スペースを有効活用するには補機関の占有スペースを拡大することなく出力を増大させることがより良い対策となると考えられる。従って、補機関に向けた二段過給システムでは、低燃費および高出力化の同時達成を目指した。
2.2.レトロフィット
舶用市場では本年1月より既存船を含めた全船舶の燃料消費実績報告制度(DCS)がスタート(3)しており、機関の低燃費化は顧客ニーズの枠を超え、市場全体の技術課題として認識されている。こうした動きに対応すべく、補機関での二段過給システム開発においては、既存船においても適用できることをコンセプトとして設計を進めた。従って、給排気系統部品(給排気カムおよび過給機、空気冷却器など)を既存品と組換えることによって実装可能とした。また組換えにおいては、過給機2台を機関の片端に集中して配置することで部品点数を削減するとともに、高出力化時に必要な発電機の交換作業を同時に実施できる構造とした。
3.実証機における試験結果
3.1.ウェイストゲートバルブ(WGV)の検討
“低燃費化”と“高出力化”の両立を図るため、ウェイストゲートバルブ(以降、WGV)を新たに導入した。これは市販のバルブ装置をWGVとして採用したものであり、電子制御でリニアにバルブ開度が操作可能である(Figure 1)。二段過給システムでは過給機を2台使用するため、WGVも2通りの取り付けが考えられる(Figure 2)。高圧段過給機側の場合は高圧段ウェイストゲートバルブ(以降、HP-WGV)、低圧段過給機側の場合は低圧段ウェイストゲートバルブ(以降、LP-WGV)と呼ぶものとする。Figure 3の供試機関において2種類のWGVを使用し、機関出力同等においてPressure ratio(給気圧力比;以降、圧力比) を変化させた際の機関性能の挙動をFigure 4に示す。
両者とも圧力比と燃焼圧は正比例の関係にあり、過給圧が低くなると燃焼圧も同様に低下する。単段過給の機関では、WGVによる圧力比の低下は燃焼圧の低下を伴い、最終的にBSFC(燃料消費率)が悪化する。LP-WGVにおいてはこの単段過給における現象と同様の変化を確認できるが、HP-WGVはバルブ開閉による圧力比の変化に関係なく、BSFCがほぼ一定の値を示した。ここで、HP-WGVでのGas exchange work(ガス交換仕事)の結果を見ると、圧力比が低くなるほど仕事量が増大する傾向にあり、即ち給排気ポンピングロスを改善していることが分かる。この改善が燃焼圧低下を補ったため、HP-WGVではBSFCの悪化が無かったものと考えられる。なお本試験においては、圧力比の低下に伴うNOx排出量の低減も確認することができた。
3.2.二段過給システムとHP-WGVの組合せによる“低燃費化”と“高出力化”の両立
本プロジェクトでは、3.1節で述べたHP-WGVによる機関のポンピングロス改善効果を利用してガス交換サイクルでの効率向上を実現することにより、出力サイクルにおいて燃焼サイクルを変化(燃焼最高圧を増加)させることなく、軸端出力の増大に成功した(Figure 5)。Figure 6に6EY18ALW形供試機関での実証試験結果を示す。ベース仕様では負荷に対して直線的に燃焼最高圧が増加しているが、二段過給システムとHP-WGVを併用した場合、高負荷域において燃焼最高圧の増加傾向を緩和している。これによりBMEP(正味平均有効圧)を10%増大させるとともに、全負荷域にて5~10g/kWhの燃費低減を達成した。纏めると、二段過給システムに対して新たに導入したHP-WGVを併用することで、“低燃費化”と“高出力化”という付加価値を両立することが可能となった。またこの組合せによる高出力化は、燃焼最高圧の増加を伴わない特徴から、ピストンやクランクなどの機関主要部品において発生する負担を従来並みに留めることができる。
4.今後に向けて
4.1.他機種への展開
二段過給システムとHP-WGVの組合せは、原理的には他のEYシリーズ機関にも適用が可能である。ただし、低圧段過給機にのみHP-WGVの使用に起因する従来とは異なる要求が生じる。慣例的な過給機のコンプレッサマップ上に、二段過給システムの低圧段側の作動線を描いたものがFigure 7である。単段、多段過給に関わらずHP-WGVを使用しない場合での作動線は直線傾向になるが、HP-WGVを使用する機関では高圧段と低圧段過給機とで圧力比のバランスが変わるために、作動線は緩やかな曲線を描いている。言い換えると、低圧力比域では高風量側へ、高圧力比域では低風量側へ作動線が移動するため、これに対応したワイドレンジな作動域を持つコンプレッサを準備する必要がある。
4.2.IMO TierⅢ規制への対応
二段過給システムを採用した主機および補機関はIMO TierⅡ規制に適合した機関であるため、TierⅢ規制に対応するにはヤンマーSCRシステムと組合せることになる。一方で市場動向を考慮すると、環境規制適合のための船内装置の追加が今後も継続するものと考えられることから、機関およびSCRシステム全体の小型化、あるいはSCRを使わないIMO TierⅢ規制対応技術を検討しておく必要がある。これには、高圧SCRシステム(4)(5)や、水添加による低NOx燃焼技術(6)(7)が挙げられる。両者とも2ストローク機関では商品化された例が存在するが、4ストローク機関では未だ適用例は少ない。ところが、二段過給システムとHP-WGVの組合せによって実現した、給排気圧の高圧化、燃焼改善効果から、4ストローク機関適用時での有意性を見出すことができた。その一例として、二段過給システム搭載補機関で水エマルジョン燃料(以降、WEF)を使用した際のBSFCとNOx排出量の関係性をFigure 8に示す。WEFは燃料消費質量流量の20%に相当する水を燃料に添加したものを使用した(燃料:水=80:20)。その結果、WEFを使用しないベース機関とBSFCが同等レベルにて比較したとき、30%のNOx低減効果を確認することができた。ただし、IMO TierⅢ規制のNOx排出量に対応するには、45%以上のさらなるNOx低減が求められる。
5.おわりに
6EY26W形主機関にて大幅な低燃費化を実現した二段過給システムにHP-WGVを組み合わせることで、レトロフィットを可能にしながらも、”低燃費化”と”高出力化”を同時に達成させることができた。各耐久性の評価やワイドレンジ型コンプレッサ開発などの残項目があるが、お客様に付加価値を提供できる技術の一つとして、実用化を目指していきたい。
参考文献
- (1)「平成30年度省エネ機器・システム表彰」において「日本機械工業連合会会長賞」を受賞 一般社団法人 日本機械工業連合会ホームページ
- (2)“SOx規制への対応について” 国土交通省ホームページ
- (3)“国際海運からの温室効果ガス削減対策(IMOにおける審議の動向)” 国土交通省海事局海洋・環境政策課 平成30年8月
- (4)澤田 他. Journal of the JIME Vol.53 No.1 pp21-24
- (5)Daniel S. etc. CIMAC2019 congress No.081
- (6)Chikara M. etc. CIMAC2019 congress No.137
- (7)東田 他. Journal of the JIME Vol.52 No.4 pp113-116