ヤンマーテクニカルレビュー

プレジャーフィッシングボート「EX34A」の紹介
~次世代のフィッシングクルーザー~

Abstract

Recreational fishing boats make up the mainstay of Yanmar’s pleasure craft. This product range has been shaped by market demands, with the focus in recent years being on the development and marketing of fishing boats that deliver a more comfortable experience. This has led to the new category of “fishing cruisers” that continue to grow in popularity.

Yanmar offers three models in this category, all in the 30-38 ft range. The 33 ft model was the first to be developed and, having already been on the market for more than 10 years, is now starting to see a falling off in sales volume.

Yanmar has also been responding to market demand for improved comfort by developing technology for this purpose, some of which was described in a previous YANMAR Technical Review report on “Wakuwaku-Boat Technology”.

This report describes the new EX34 pleasure boat that replaces the EX33 and incorporates the technical developments of the Wakuwaku-Boat.

1.はじめに

『EX33』はフィッシング機能を維持しつつも快適性重視の市場要望に対応するため、クラス最大級のキャビンを搭載して2009年に市場投入された。その後もFB(フライングブリッジ)仕様を追加設定するなどマイナーチェンジを実施し、“フィッシングクルーザー”と呼ばれるカテゴリーを築いた艇である。この艇のモデルチェンジ艇となる『EX34』の開発は、“次世代のフィッシングクルーザー”を商品コンセプトとして掲げられ、更なる快適性・航走性の向上などあらゆる面での性能向上が求められる、非常にハードルの高い商品開発となった。

このため、本艇開発にはこれまでEXシリーズで培ってきた技術に加え、“wakuwaku-boat”での技術開発で獲得した内容を織り込むことを基本設計方針に加え開発に着手した。

  • 航走性能と静粛性の向上
  • 美観・質感の向上
  • 魅力的な装備

2.商品の概要

2.1.スタイリング(図1)

EX34外観
図1 EX34外観

2.2.主要緒元(表1)

全長:10.63m 全幅:3.30m 全深さ:1.90m
総トン数:5.5トン 航行区域:限定沿海/沿海 最大搭載人員:12名

2.3.搭載機関(表2)

エンジン型式 6LY440J
最大出力:kW/min-1(ps/rpm) 324/3400(440/3400)
据付方式 防振
セット質量:kg HT:4890 FB:5070
操舵機 静油圧式
リモコンハンドル ワンハンドル(電子式)
燃料タンク:ℓ 650
バッテリー 12V
PTO:mm 720
プロペラ 3翼一体アルミブロンズ
船尾方式 ブラケット式
船速:ノット HT:33.5 FB:33.0
航続時間:h 7.3

3.技術の織り込みと効果

3.1.航走性能と静粛性の向上

(1)高剛性ハルの採用

パンチング時の衝撃緩和の市場要望は年々大きくなってきており、本艇も例外ではない。本艇では船型の変更を行うのと合わせ、“wakuwaku-boat”の技術開発で獲得した船体構造への変更を行い、高剛性ハルを一部採用した。高剛性ハルの効果については、“wakuwaku-boat”のテクロノジーとして前号のテクニカルレビューで紹介しているが、主な効果は以下である。

  • 衝撃加速度の減衰が速い
  • 騒音レベルの低減

船体剛性を高めるために真空成形工法によるサンドイッチ構造とすることとした。しかし、量産艇において船底外板部へサンドイッチ構造を採用するにあたっては、艤装への配慮(特に現地艤装の考慮)が必要であることから、主にパンチング衝撃を感じやすい船首バース部分に限定して真空成形工法を採用した。(図2)

真空成形工法採用部
図2 真空成形工法採用部
(2)新エンジン「6LY440J」とのマッチング

本艇では、国内向けの電子制御エンジンとしては2機種目となる「6LY440J」を採用した。エンジンの高出力化や静粛性向上だけでなく、電子制御化による黒煙防止やトローリング性能向上などのアプリケーションへの対応、そして船型変更および構造変更を行った船体側とのマッチングにより大きな効果を得ることができた。

①高出力化
本艇では市場要求として船速の向上があったが、他方ではFB部の大型化などで従来艇に比べて質量は増加する傾向にあった。開発当初より新エンジンの搭載は織り込みされていたため、船体の軽量化とあわせて、高出力化と新船型とのマッチングによる船速の向上を目指した。結果として、船速は従来艇より大幅にアップすることができた。(図3)

船速
図3 船速

②静粛性
エンジンの静粛性向上と船体での防音構造、さらには前記の高剛性ハルにより、本艇の騒音レベルは従来艇と比較して2~5dB(A)の低減を達成した。(図4)

騒音レベル
図4 騒音レベル

3.2.美観・質感の向上

従来艇と同様にFB仕様とHT仕様の両仕様の設定することとなったが、今回のモデルチェンジにおいては、FB部分の定員増と合わせデザインの一新が要望された。FBは幅広のハルに負けないボリュームを感じるデザインへ変更するとともに、独立シートが配置できる様に変更を行った(図5)。

FB部シート
図5 FB部シート

一方で、キャビン内部については、現行艇でのシート配置が好評を得ていることもあり、形状の変更は行わずに表皮の色調や材質の変更を行うことで美観性の向上を図った。白色をベースにして黒とダークブラウンでアクセントを付けた清潔感のある内装(図6)にすることができた。

キャビン内
図6 キャビン内
(1)質感の変更

バース部分には、“wakuwaku-boat”での実績から、軽量でありながらしっかりとした剛性を持った素材を量産で採用した。クッション性を持った質感であり、FRP面とは異なった触り心地の良いやさしい空間にすることができた。(図7)。

バース内
図7 バース内
(2)利便性の向上

バース部の敷板やキャビン部の固定シート芯材は、物の出し入れ時に脱着が必要となることから軽量化が求められていた。このため、ハニカム構造を持った素材(図8)を新規で採用することで軽量化を図り、利便性を向上させることができた。

敷板
図8 敷板

3.3.魅力的な装備

室内空間は形状の変更は行わなかったが、より快適な空間とするためシートの変更やクッション類の見直しを行うとともに、カウンター周りでは高級ステアリングの採用、アナログメーターの設置など魅力的な装備を充実させた。(図9)

カウンター回りの装備
図9 カウンター回りの装備

また、今回初めてエアコンを標準装備とした。マリーナステーの要望への対応として電動式エアコンを設定する一方で、フィッシングユースへの対応として主機駆動式エアコンも設定し、使用用途により選択可能とした。

4.評価と実績

EX34は2017年の横浜ボートショーでプロト艇の参考出品を行った。同クラスでのFB仕様は他にないこともあり、市場の反響は好評であった。その後FB仕様を先行して商品化し、2018年のボートショーで発売を開始、翌年にはHT仕様の追加発表を行った。2019年のボートショーでは「ジャパン・ボート・オブ・ザ・イヤー2018(ベストフィッシング部門)」を受賞、本艇がフィッシングクルーザーとして評価された。

2018年の6月に発売して以降、2019年6月までの1年間で17隻を建造しており、以後も好調な受注が続いている。

5.おわりに

現在ヤンマープレジャーボートの主力商品となっているのはEXシリーズである。なかでも“フィッシングクルーザー”と呼ばれる商品群で中核を担う本艇の開発には、今までにない高いハードルの課題も多くあった。また、その課題解決のためには技術開発の継続的な挑戦が必要であることも実感した。本艇での量産には残念ながら採用されなかった技術も多々あるが、今後も市場要求の変化に合わせた商品開発とそれを実現できる技術開発に注力していきたい。

著者

ヤンマー造船株式会社 商品統括部 商品開発部

黒田 興広

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