ヤンマーアグリ株式会社 開発統括部
ヤンマーテクニカルレビュー
密苗+感度アシストによる田植作業の革新的省力・低コスト化技術
Abstract
Dense seedling is a technique for sowing and raising seedlings at high density and with high accuracy. Whereas conventional practice is to sow 100g to 200g of seeds in each tray, dense seedling sows 200g to 300g in each tray. Transplanting such dense seedlings requires precise picking using a special tine mechanism together with an automatic system for adjusting the planting depth. This technology increases revenue by significantly reducing the number of seedling mats required, lowering material costs, saving labor, and increasing the efficiency of rice production. It was recognized in the "Newest Agricultural Technology/Variety 2016" published by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries.
1.はじめに
近年、国内水稲生産の大規模化が進む中、育苗・移植作業が規模拡大の阻害要因となっている。水稲生産の労働費のうち、育苗・移植作業は20~35%と最も大きな割合を占めている。この傾向は、大規模農家になるほど増加している。(図1)また、直接労働時間では約30%が育苗・移植作業で占められている。これらは、規模拡大にとって重要な課題である。(図2)
これまで、上記の課題に対して直播栽培や疎植移植などが取組まれてきたが、収量安定性などに懸念があり水稲作付面積全体に占める割合は小さい。本稿では、労働力を削減でき、慣行移植と同等の管理作業で慣行移植並みの収量確保を狙いとした、密苗移植技術について紹介する。
2.密苗移植技術とは
密苗移植技術とは、高密度に播種した苗を田植機で高精度に掻き取ることで、単位面積当たりの使用苗マット数を減らす技術である。慣行苗では、一般的に1マットあたり100~150g(乾籾相当)の種籾を播種するが、密苗では200g~300g撒く。この高密度で播種、育苗した苗を、田植機で1株あたり3~5本程度になるよう高精度に掻き取る。(図3)そのため、1枚の苗マットから多くの苗を掻き取ることができるため、苗マットの消費量を1/2~1/3に抑制することができる。これにより、資材費の低減や、育苗、運搬、苗補給の手間を減らし省力化が可能となる。
このように、高密度に播種、育苗する栽培技術と高精度に植え付ける移植技術を融合することで密苗移植技術を構築した。
3.栽培技術
密苗の栽培管理は、慣行苗と大きな違いは無い。以下に管理方法を述べる。
- ①種子予措(種子消毒、浸種、催芽)は慣行と同じ
- ②播種から移植適期までの育苗期間は、慣行苗は3~4週間であるが、密苗は2~3週間である。
- ③育苗ハウスでの育苗管理は、短期間で苗丈を得る必要があるため、室温を低くしすぎないように慣行苗以上に注意して管理する。また、固体の密度が高いため蒸散しやすいので、潅水不足にならないよう管理する。
- ④移植時の苗姿は、慣行苗に比べてやや小さい場合がある。一般的に、慣行苗は葉齢2~4葉、草丈10~25cmであるが、密苗は葉齢2~2.3葉、草丈10~15cmである。
- ⑤植え付ける株は、慣行苗より小さく軽いので、浮き苗にならないよう深水や急激な入水を避ける。
- ⑥出穂期や成熟期は、同じ日に移植した慣行苗に比べて1~3日ほど遅れる。
このように、密苗は慣行苗に比べて、育苗期間が短くなる以外、大きな違いは無い。育苗期間が短くなることで、播種、移植作業を分散して取り組みやすくなり作業効率が上がることが期待できる。
4.移植技術
密苗移植においては、超少量に掻き取るため以下の特徴を有する。
- ①1株が小さいため浮き苗、転び苗が発生しやすい
- ②1株を小さく掻き取るため掻き取りの精度を要する
これらに対応した田植機について述べる。
4.1.感度アシスト機能
密苗は、1株の大きさが慣行苗の1/2~1/3の大きさであり床土が少なく軽いため、植付深さが不安定であると浮苗や転び苗となり欠株に繋がりやすい。そのため、従来の田植機で密苗移植を行う場合、オペレータが田面の状態に応じて細かな調整をする必要があったが、調整の難しさと操作の煩わしさにおいて課題があった。そこで、植付深さを機械で自動調整する「感度アシスト機能」を搭載した。感度アシスト機能の詳細構造を以下に述べる。
従来の田植機では、機体後方の植付部中央下部に設けたフロートが田面の凹凸を検知する。凹凸の高さに応じてフロート角度が変化するが、その角度が一定になるよう植付部を昇降させ、田面に追従するよう制御される。しかし、田面の状態(硬軟、水の有無)によっては、同じフロート角度であっても田面に対するフロートの沈下量が異なるため、植付部の田面に対する高さが変動し、結果として苗の植付深さが変わってしまう。(図4)そのため、オペレータは田面に残るフロート跡を目視で確認しながら、植付深さが一定になるようにフロートの目標角を決定している。これは、熟練オペレータでも難しい調整である。密苗は、浮苗・転び苗になり易いため、慣行苗以上に気を使って調整する必要があり、オペレータに負担がかかることが想定された。
そこで、田面の状態に応じてフロート目標角の調整を自動で行う「感度アシスト機能」を開発、採用した。この機能を実現させるにあたり、フロート近傍に田面位置を検出するレーキセンサを設けた。レーキセンサで田面位置を検出することで、田面に対するフロート沈下量を判定し、それに応じたフロートの目標角を自動で制御する仕組みとした。(図5)これにより、オペレータは田面の状態に応じた調整を頻繁に行うことなく、安定した植付深さで作業することが可能となる。
4.2.植付アーム・横送り機構
苗の使用枚数を減らすためには、1株あたり3~5本の苗本数を確保した上で、小さく精密にかき取る必要がある。しかし、従来の植付爪で密苗移植を行うと、掻き取り量と爪幅のバランスが悪いために苗が崩れる懸念があり改善が必要であった。そのため、従来の田植機に比べて苗を掻き取る爪幅と、その相手部品である掻き取り口の幅を密苗に合わせて狭くした。(図6)
また、爪幅の狭小化と合わせて苗の横送り量を少なくした。爪幅に対する横送り量が多いため、1株あたりの苗本数が多くなることがある。そのため、密苗に適した少ない送り量を新たに追加した。
5.密苗導入における効果検証
5.1.資材費・労働力の低減
資材費・労働力を1/2~1/3に低減する効果が期待できる。(図7)
また、参考までに実際の苗マット使用量の実証試験結果を示す。使用枚数は平均で7.6枚、全体の8割が8枚以下であり、低減が確認できた。(図8)
5.2.慣行同等の収量
全国の342経営体、242ha、51水稲品種の圃場で実証試験を行った結果、慣行同等の収量を確認することができた。(表1)
表1 密苗と慣行苗の収量(抜粋)(ヤンマー社内調査による)
6.おわりに
今回、高密度に播種・育苗する栽培技術と高精度に植え付ける移植技術を融合した密苗移植技術開発を行い、以下の効果が確認できた。
- ①使用苗マット数が従来の1/2~1/3に減少し、資材費・労働力が低減できる
- ②慣行移植と同等の管理作業が可能である
- ③慣行移植と同等の収量を確保できる
この技術は、2016年の農林水産省「最新農業技術・品種」に指定され、全国的な普及に到っている。また、この技術に対応したYRDシリーズ田植機は、2016年に市場投入しており、ユーザや販売店の聞き取り調査では、密苗の評価だけでなく、その操作性においても高い評価をいただいた。
今後については、農業生産者の収益性に影響するLCC(ライフサイクルコスト)を低減し、LCV(ライフサイクルバリュー)を向上させる技術開発を行い、国内・海外の農業生産者が、安定して収益を向上できるように貢献していきたい。