ヤンマーテクニカルレビュー

高出力・低燃費ディーゼル機関6/8EY33シリーズの紹介~お客様のLCV向上の実現~

Abstract

The development concepts behind the EY series are "raising life cycle value for the customer" and "harmony with the global environment". The EY33 draws on Yanmar’s accumulated development experience and the latest simulation techniques to provide the highest power and best fuel economy of any engine in the EY series. The new engine also improves life cycle value for the customer, with better component durability that has made it possible to lengthen maintenance intervals by 1.5 times compared to the previous model. As an environmentally friendly engine, the EY33 is contributing to the achievement of a sustainable society through its compliance with the latest exhaust gas emission regulations.

1.はじめに

舶用大形ディーゼルエンジンにおいては「Life Cycle Value(LCV)の向上」と「地球環境との調和」をコンセプトとした、低燃費で耐久性に優れたEYシリーズの開発に取り組んできた。

この度EYシリーズに加わったEY33形機関は、弊社が製造するディーゼルエンジンにおいて最大出力となるフラッグシップエンジンであり、これまでのEYシリーズの開発で培った技術の集大成として、高いレベルの燃費性能と耐久性を実現すると共に、NOx(窒素酸化物)、CO2(二酸化炭素)の排出量低減を図ることで、最新の環境規制に適合した地球にやさしい機関として開発した。(図1、表1)

図1 6EY33形補機関外観
図1 6EY33形補機関外観

表1 舶用補機主要目

表1 舶用補機主要目

2.製品技術の紹介

2.1.高出力・コンパクト

EY33形機関ではボア径が同じ従来機関N330形機関と機関サイズは同等としながら平均有効圧力を約18%増加させ、30%以上の高出力化を達成し、1気筒当りの出力は同クラスの中速機関では世界最高レベルを実現した。

高出力化により、従来機関では8気筒で対応していた出力に対して、EY33は6気筒で対応でき、機関設置スペース、機関質量の大幅な低減を実現できた。(図2、図3)

図2 従来機関との出力比較
図2 従来機関との出力比較
図3 従来機関との外形比較
図3 従来機関との外形比較

2.2.低燃費の実現

低NOx化と低燃費化の両立という課題に対し、EYシリーズではミラーサイクルカムと高圧力比対応過給機を組み合せた、高圧ミラーサイクルシステムを採用している。(図4)

図4 高圧ミラーサイクルシステム
図4 高圧ミラーサイクルシステム

高圧ミラーサイクルシステムは吸気弁を早いタイミングで閉じるミラーサイクルカムにより、圧縮行程終わりの給気温度を低減してNOx生成を抑制する一方で、吸気期間の短縮に対し良好な燃焼に必要な空気量をシリンダに供給できる高圧力比過給機を組合せることで、NOx規制対応時の燃費低減を実現する技術である。

EY33の燃焼諸元の決定においては、他のEYシリーズ機関の開発で蓄積した試験データに加え、実機での燃焼観察結果のフィードバックにより精度を高めた3次元の燃焼シミュレーション(図5)により、NOxや黒煙の発生を抑制する最適諸元へのマッチングに成功し、従来機関に対して5%以上の燃費改善を達成した。(図6)

図5 燃焼観察結果フィードバックによる3次元燃焼シミュレーション精度向上
図5 燃焼観察結果フィードバックによる3次元燃焼シミュレーション精度向上
図6 従来機関との燃費比較
図6 従来機関との燃費比較

2.3.耐久性・信頼性向上

高出力化を実現しながら、長期間に渡る高い信頼性と耐久性の向上を実現する為、本機関の開発では3次元設計データを活用した高度な数値解析を用いて、部品設計諸元の最適化を図っている。(図7)

図7 高度な3次元数値解析に基づく信頼性・耐久性向上
図7 高度な3次元数値解析に基づく信頼性・耐久性向上

又、低質油燃料の使用においても長期間の信頼性を維持する為に、燃焼室の汚れを抑制するテクノロジーと汚れに強いアプリケーションを採用(表2)することで、部品の長寿命化を実現し、主要部品のメンテナンスインターバルを従来機関に対して1.5倍に延長した。

部品の耐久性向上は、摩耗による潤滑油消費量の経年劣化の抑制にも繋がり、燃費性能向上と合わせて、お客様のLCVの向上に貢献する。

表2 燃焼室汚れに対する技術織込み

表2 燃焼室汚れに対する技術織込み

2.4.地球環境との調和

最新の舶用排気ガス規制であるIMO(国際海事機関)のNOx3次規制対応では、ヤンマー製SCR(選択触媒還元)装置に対して最適マッチングを図り、長期間にわたる使用での信頼性を確保した。又、舶用での規制が強化されるSOx(硫黄酸化物)対策では、低粘度となる傾向がある低硫黄燃料運転に対し、プランジャー部と駆動部を別体構造とした自社製のPF型燃料噴射ポンプを採用することで、プランジャー隙間からの燃料漏油が潤滑油に混入しない構造とした。更に、環境負荷物質の使用削減を目的として、定期的に交換が必要なクランクピンメタル、ジャーナルメタルは鉛レスのアルミメタルとし、排気温度計には水銀レスのデジタル式を採用している。

3.おわりに

EY33形機関は2015年4月にコンテナ船の補機関として初号機を出荷し、現在まで大きな問題もなく順調に稼働している。実船での運転性能、部品耐久性の定期的な調査を継続実施しており、長期間の使用における信頼性・耐久性の検証を進める。

更に、2ndステップの開発フェーズとして、既に要素技術を確立している2段過給システム、可変動弁機構などの技術を組み合わせて、引き続いて性能・品質の向上を図り、お客様のLCVを大きく向上させる取組みに着手する予定である。

著者

エンジン事業本部 特機エンジン統括部 開発部

伊藤 雅寛

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