エンジン事業本部 小形エンジン統括部 開発部
ヤンマーテクニカルレビュー
排出ガス規制に適合したマイクロコージェネレーション用ストイキガスエンジンの製品技術紹介
Abstract
Yanmar has completed development of its new 4GP98S series of 40 kW class gas engines and the new models have commenced production for use in micro co-generation. The new gas engine uses stoichiometric combustion and a three-way catalyst to satisfy market and customer requirements. Stoichiometric combustion enables higher output relative to engine displacement than Yanmar’s previous small gas engines, while use of the three-way catalyst removes more than 90% of CO, NOx, and HC emissions. Other features include improvements to the cylinder head and piston, and precision control of the fuel supply system. These technologies enable the 4GP98S series to satisfy both customer requirements and strict exhaust gas emission regulations, thereby expanding the potential markets for the new models.
1.はじめに
マイクロコージェネレーションは、排熱を利用することで、燃料の持つエネルギーを電気だけでなく熱(温水)としても回収できる、総合効率の高いシステムである。加えて、系統電源からの受電量を低減することができるため、契約電力低減によるコスト削減や、非常時のお客様の事業活動継続に貢献することができる。これら省エネ効果による低コスト化、電源セキュリティの向上の観点から、病院、飲食店、店舗、工場といった様々な業種のエネルギー需要家向けに、マイクロコージェネレーションの導入が進んでいる。
当社においても、マイクロコージェネレーション用の新規ガスエンジン4GP98Sシリーズを開発し、下記の日程で量産に移行した。
<量産開始日程>
北米市場向け:2015年12月~
国内市場向け:2016年3月~
本報では、お客様の要望ならびに排出ガス規制に対応するために採用した技術および当該エンジンの商品力について紹介する。まず、お客様の要望および対応する排出ガス規制を以下の①~④にまとめる。
<お客様の要望/排出ガス規制>
①排出ガス規制対応(国内・北米)
②システムサイズダウン
③高出力化(排気量当たりの出力向上)
④信頼性の確保
まず、4GP98Sシリーズが搭載されるマイクロコージェネレーションを、より多くのお客様にご利用頂くためには、各市場の排出ガス規制に対応する必要がある。特に、シェールガス革命によりニーズの拡大が見込まれる北米市場では、国内規制よりも厳しいEPA排出ガス規制がその対象となる。また、マイクロコージェネレーションは屋外・屋内を問わず設置を要望されることから、搬入性の向上や設置スペースの削減につながるサイズダウンが求められている。その一方で、お客様のエネルギー需要に十分に応えるため、出力・信頼性は従来と同等のレベルを確保しなければならない。
当社のマイクロコージェネレーション向けガスエンジンでは、耐久性を確保しやすいリーン燃焼を採用していたが、4GP98Sシリーズにおいては、②のシステムサイズダウン及び③の高出力化の要望を満足するため、ストイキ燃焼を採用した。加えて、①の北米EPA排出ガス規制に適合するため、従来のガスエンジンに採用されてきた酸化触媒に換えて、三元触媒を採用した。
④の信頼性の確保については、燃焼形態の変更により熱、筒内圧の影響を色濃く受けるシリンダヘッドやピストン周りの部品に対策を織り込むことで対応した。
2.商品概要
まず、当社のマイクロコージェネレーション向けガスエンジンのラインナップと、本報で紹介する4GP98Sシリーズの位置付けを図1に示す。
4GP98Sシリーズ開発により、従来機の4.4Lクラス(4GPF106シリーズ)の出力帯を3.3Lクラス(4GP98Sシリーズ)のエンジンでカバーすることが可能となった。これにより、お客様のご要望であるシステムサイズダウンが可能となり、搬入性向上や設置スペースの低減に貢献することができた。また、40kWクラスのガスエンジンとしては、当社で初めてEPA排出ガス規制値を満足したことで、従来よりもさらに多くのお客様に当社の製品をご利用頂くことが可能になった。
次に、4GP98Sの外観を図2に示す。ストイキ燃焼と三元触媒の適用に併せて、後処理系部品はもちろん、シリンダヘッド、ピストン周り、および燃料系部品を中心に刷新した。
3.適用技術
3.1.ストイキ燃焼
前述の通り、4GP98Sシリーズでは、新たにストイキ燃焼方式を採用した。
従来のヤンマー小形ガスエンジンに採用されているリーン燃焼は、理論空気量以上の空気をシリンダ内に吸入する。一方でストイキ燃焼では、吸入する空気を理論空気量相当にとどめた分、筒内により多くの燃料を供給し、燃焼させることが可能なため、排気量当たりの出力を向上することができた(図3)。
その一方で、エンジン部材が受ける熱的・機械的な負荷は従来のリーン燃焼エンジンと比較して過酷になる。そこで4GP98Sシリーズにおいては、主に以下3点の改善策を織り込むことで従来エンジンと同レベルの信頼性・製品ライフを確保した。
<熱的・機械的負荷への主な対策>
①シリンダヘッドの冷却性改善
②動弁系部品の材質最適化
③ピストン構造変更
これらの改善策の適用においては、図4に示すように、対策案についてCAEを用いた検討を行い、事前に効果を検証した上で実機による確認を行った。これにより、短期間でお客様が求める信頼性の確保を実現することができた。
3.2.三元触媒
図5に示すように、三元触媒は理論当量比(ストイキ)近傍において、NOx、CO、およびHCを90%以上浄化することが可能である。先に紹介したストイキ燃焼の採用と関連部品の変更により、規制に定められた排出ガスレベルに合わせて三元触媒の仕様を決定した。図2に示すように、4GP98Sシリーズでは三元触媒の前後に酸素センサを装備し、理論当量比付近の非常に狭い範囲に当量比を保つよう、燃料系部品をフィードバック制御する。これらにより、三元触媒に含まれる助触媒の酸素吸蔵機能を有効に活用することが可能となり、排ガス浄化性能を高く保っている。このようなハード・ソフトの最適な組み合わせにより、EPA排出ガス規制への対応が可能となった。
4.商品力
4.1.環境性能
図6に排出ガス値を評価した結果を示す。従来のリーン燃焼ではNMHC+NOxがEPAの規制値を超過する。今回、ストイキ燃焼と三元触媒の適用によりNMHC+NOxを大幅に低減し、小形ガスエンジンとして初めて北米19kW以上出力帯市場への参入が可能となった。加えて、ストイキ燃焼の採用による排気温度上昇により、マイクロコージェネレーションパッケージの総合効率も、従来機より約3ポイント向上(85% → 88%)させることができ、環境性をさらに向上させている。
4.2.ダウンサイジング
従来のリーン燃焼からストイキ燃焼への燃焼方式の変更で出力密度を向上させ、図1のように4.4Lクラスのエンジン出力(発電出力で35kW)を3.3Lクラスでカバーすることが可能となった。これにより、これまで4.4Lクラスのエンジンを搭載していたマイクロコージェネレーションパッケージの底面積を27%サイズダウン(図7)することができ、お客様にとって設置に必要な面積の低減という大きなメリットを提案することが可能となった。
4.3. 長寿命
ストイキ燃焼化に伴い、熱的・機械的負荷が増大し、シリンダヘッド、ピストンや動弁系の耐久性低下が懸念された。これらに対しては、3.1節で紹介した技術を適用することで、お客様のライフサイクルコスト低減に寄与するロングライフの提案を実現している。
5.おわりに
当社では北米向け/国内向けマイクロコージェネレーション用ガスエンジン4GP98Sを開発した。燃焼形態を従来のリーン燃焼からストイキ燃焼へと変更することにより、お客様のご要望である高出力化とダウンサイジングの実現、および三元触媒の新規適用によりEPA排出ガス規制に適合したエンジンとなり、より多くのお客様に当社の製品をご利用頂くことが可能となった。
これらの技術をひとつの足がかりとし、今後もヤンマー小形ガスエンジンを通じて社会の省エネルギー化に貢献して行きたいと考えている。
最後に、本4GP98Sシリーズエンジンを開発するに当たり、多大なご支援とご協力を頂きました関係各位の皆様方に感謝申し上げます。
著者
エンジン事業本部 小形エンジン統括部 開発部