ヤンマーテクニカルレビュー

4ストローク中速ディーゼル機関における過給技術(二段過給システムとその応用)

Abstract

Two-stage turbocharging has the potential to improve engine efficiency through its use in conjunction with an advanced Miller cycle to overcome the trade-off between fuel consumption and NOx emissions. Yanmar has released the 6EY26W, a marine propulsion engine that uses the two-stage turbocharging system to improve specific fuel oil consumption (SFOC) by 8g/kWh while also satisfying the IMO NOx Tier 2 regulations. This article describes this new development in turbocharging for four-stroke medium-speed diesel engines and how it can be used to comply with IMO NOx Tier 3 regulations.

1.はじめに

舶用ディーゼル機関へのニーズとしては、低燃費化、高出力化、低質油対応、低騒音化等、過去から現在にかけて様々である。中でも重要な要求品質である燃費の変遷について、ヤンマーの4ストローク中速ディーゼル機関を例に紹介すると、1960年から2016年にかけて、50g/kWh以上の燃費を低減してきている。燃焼最高圧力(Pmax)の増加やガス交換仕事の向上が燃費低減に大きく寄与しており、これらを支えるのが過給技術である。

過給システムの種別
図1 過給システムの種別

過給機自体には高圧力比化、高効率化、タービンの低イナーシャ化が常に求められる。システム全体については、動圧・静圧過給方式、ツインターボ(同一の過給機を二台並列に搭載した)過給方式が具体的に挙げられ(図1)、用途に応じて使い分けされている。ヤンマーでは、準静圧型のMPS(Mono-pipe Pulse System)過給方式を新たに開発し、補機関において負荷投入性を維持しながら低燃費化を図った例や、ツインターボを主機関に搭載し、加速性能を改善した例がある。

近年では、環境規制の強化、中でもIMOによる段階的なNOx規制の施行に対し、高過給化が進んでいる。そのメリットを最大限に活かす低NOx化技術が早閉じミラーサイクル1)であり、IMO1次規制(以降、1次)対比20%のNOx削減率となるIMO2次規制(以降、2次)対策に多く使われている。一般に、NOxと燃費はトレードオフの関係にあり、NOxを低減すると燃費は悪化する。従って、低NOx化技術の開発においては、このトレードオフを打破することが極めて重要であり、早閉じミラーサイクルと高圧力比形過給機の組合せは、これに適応したものである。さらに、低NOx化・低燃費化のポテンシャルを高める、機関性能マッチングの自由度を拡げるためには、過給度をより上げることが考えられる。これに対して注目を浴びてきているのが、型式違いの過給機を二台直列に搭載した二段過給方式であり2)3)、圧力比は6レベルから最大で12まで、報告されている(過給機メーカーより)。

本稿では、4ストローク中速ディーゼル機関における過給技術の最新動向として、ヤンマーの「二段過給システム」について解説し、IMO3次規制における応用例を紹介する。

2.二段過給システム

2.1.コンセプト

まず図2に、給気弁閉タイミング(以降、IVC)とNOx低減率との関係を示す。IVCを早める(進角させる)につれて、1次仕様(図中、“Tier1”)を基準として、NOx低減率は増加していく。早閉じミラーサイクルでは、給気行程においてピストンが下死点に到達するまでに給気弁を閉じるため、それ以降のピストン下降に伴い、シリンダ内に充填された空気が膨張し、温度が低下する。結果、圧縮端温度(燃焼前の雰囲気温度)が低下し、燃焼温度が低下することから、NOx低減が実現される1)

給気弁閉タイミングとNOx低減率の関係
図2 給気弁閉タイミングとNOx低減率の関係

一方、給気弁を早く閉じると、筒内圧力の低下に伴い、燃費の悪化を生じるケースがある。この問題を解決するために過給機に対しては高圧力比化が要求され、短い期間で多くの空気を供給することになる。これを表したのが図3(Pmax一定を条件とした際のIVCと過給機圧力比との関係)である。

給気弁閉タイミングと圧力比の関係1)
図3 給気弁閉タイミングと圧力比の関係1)

次に、早閉じミラーサイクルの種別について、給気弁開閉線図(図4)で説明する。各社、表現は其々であるが2)3)、下死点付近を2次仕様のIVC(図中、“TIER2”)とした場合、下死点よりも段階的に早く閉じるようにしたのが、ストロングミラー、エクストリームミラーである。1次仕様から20%の低NOx化を狙った2次仕様では、一段過給(過給機一台)で高圧力比化を図っている。その2次仕様での圧力比は、過負荷も含めると高い機関で5.5レベルにあり、過給機メーカーの設定にもよるが、一段過給での限界に達していた。従って、1次仕様から30、40%と、さらなる低NOx化を狙うためにストロングミラー、エクストリームミラーを採用する場合には、6以上の圧力比が要求されることから、二段過給(過給機二台)が必要になる。これらをヤンマーで総称したのが、「二段過給システム」である。

早閉じミラーサイクルの種別
図4 早閉じミラーサイクルの種別

図5にNOxと燃費のトレードオフ線図を示し、二段過給システムのコンセプトを番号順にまとめる。ストロングミラーあるいはエクストリームミラー+二段過給の適用により、燃費を悪化させないでNOxを一旦低下させて(①)、2次規制値内で燃料噴射時期を進角することにより(②)、超低燃費化を実現させる(③)、言わば2次対応技術の進化版である。IMOによるEEDI(Energy Efficiency Design Index)低減技術の一つとしても、期待できる。

二段過給システムのコンセプト
図5 二段過給システムのコンセプト

2.2.舶用主機関への適用

当社6EY26W形主機関(図6)に、二段過給システムを適用した4)。図7に、機関の片端に配置させた各二台の過給機と空気冷却器(以降、A/C)のレイアウトを示す。二段過給では、低圧段過給機(以降、L.P.-T/C)、高圧段過給機(以降、H.P.-T/C)の各圧力比を低く設定できるため、給気温度の上昇が一段過給に比べて抑制されることになる。従い、二段過給用の各A/Cの容量は、一段過給用より小さくて済む。二段過給のメリットがここにもあり、特に二段過給と同一の圧力比を持つ一段過給と比較すると、トータルでの過給機効率が一段過給のそれを上回ることになる。なお、次節でも述べるが、給気温度の上昇はミラー度の強化によるNOx低減効果を損なうことになるため、A/Cを外すことは考えにくい。

供試機関の主要目・外観
図6 供試機関の主要目・外観
6EY26W形試験機におけるレイアウト
図7 6EY26W形試験機におけるレイアウト

2.3.機関性能

(1)性能シミュレーション計算による検討

今回作成した1次元の性能シミュレーションモデル(一例)を図8に示し、図9a)に定格負荷における圧縮端温度、同b)に25%負荷における空気過剰率(overall)の計算結果を示す。a)は図2の一つの裏付けにもなり、 IVCを早めるほど圧縮端温度が低下している。給気圧力としては高いレベルにあるものの、A/Cにより給気温度の上昇が抑制されると共に、ミラー度の強化により断熱膨張割合が増えていることが要因として考えられる。b)の縦軸は、横軸のIVC(+二段過給)に対し、各々、2次仕様(“0”degCA+一段過給)との空気過剰率の差を表す。二段過給の適用により、低速域の空気量をリカバリーできるミラータイミングを検討することが本計算のネライであった。主機関としては、低速域の排気色や加速性能を確保しておくことが低燃費化技術の条件となる。

6EY26W形計算シミュレーションモデル(下図;二段過給システムの模式図)
図8 6EY26W形計算シミュレーションモデル(下図;二段過給システムの模式図)
圧縮端温度への影響
図9a) 圧縮端温度への影響
空気過剰率への影響
図9b) 空気過剰率への影響
(2)実機試験結果

実機による二段過給試験では、同一空気流量で2次仕様と比較して、1以上高い圧力比が得られた。一段過給では達することができないレベルであり、これにより高度のミラーサイクルが可能となった。

次に、NOxと燃費のトレードオフ線図(図10)を示す。NOxはE3モード値を、燃費については主機関のEEDI対象になることと、実用域である75%負荷を表記しており、図中、点線で囲んだポイントが同一の燃料噴射時期に該当する。二段過給システムの適用により、大幅な燃費低減を実現させることができている(③)。図11には、加速性能の試験結果を示す。動圧過給方式の採用とH.P.-T/Cの低イナーシャ性により、二段過給システムの方が2次仕様よりも給気圧力の立ち上がりに優れており(下図)、ストロングミラーではあるが、2次仕様と同等の加速時間(低速域から定格回転速度に到達する時間;上図)を達成することができている4)

なお、エクストリームミラーとMPS過給方式との組合せによる燃費データが図10の④である。さらなる低NOx化とガス交換仕事の向上が加わり、2次仕様と比較して10g/kWh以上の低減効果を得ている。但し、極低負荷域での性能悪化を同時に確認しており、エクストリームミラーにおいては、可変バルブタイミング機構の採用を検討する必要がある。

二段過給システムによる燃費低減効果
図10 二段過給システムによる燃費低減効果
加速性能の比較 4)
図11 加速性能の比較4)

2.4. 実用化に向けて

二段過給システムのレイアウトについて、試験機(左図)と商用機(国内の内航船向け主機関、右図)を対比して図12に、その商用機の外観を図13に示す(“A矢視”は、非操縦側から見たものである)。商用機では、機関全高、メンテナンス性等を考慮し、機関の両端にL.P.-T/CとH.P.-T/C、及び各々のA/Cを配置させるように変更した。なお、商用機での燃費低減効果としては、8g/kWhが得られた。

二段過給システムのレイアウト比較
図12 二段過給システムのレイアウト比較
加速性能の比較 4)
図13 商用機の外観(6EY26W形機関;定格出力1330kW/750min-1

3.IMO3次規制における応用

3.1. IMO3次規制への適用例

4ストローク中速ディーゼル機関のIMO3次規制(以降、3次)対策としては、当社を含め、SCR(Selective Catalytic Reduction;選択式触媒還元)の適用が多い中5)、EGR(Exhaust Gas Re-circulation;排気ガス再循環)と電子制御燃料噴射装置(コモンレール式)に、ミラータイミングと二段過給を組合せた社外事例が報告されている6)7)。EGRで増大するスートを二段過給(空気量増加)により抑制させ、ストロングミラーによりPmaxを低下させるといった内容である。

このように、二段過給システムが機関本体による3次対策のリカバリー技術として適用される一方、SCRシステムとの併用も考えられる。SCR側から見た場合、還元剤として使用される尿素水のコストインパクトをどう抑えるか、次節で詳述する排気温度をどう確保するかが焦点となる。前者については、ECA(Emission Control Area)において1次対比80%のNOx削減が要求される3次に対し、機関出口NOxを削減させることができれば、 SCRにかかる負担が軽減され、尿素水消費量を低減させる等のメリットが得られることになる。これは、二段過給システムを低NOx化技術として応用するものである。

3.2. SCRからの要求事項

燃料油中の硫黄分と酸性硫安生成を回避するのに必要なSCR入口最低必要排気温度との関係を図14に示す5)8)。SCRシステムとの併用においては、触媒の耐久性を確保するために、この関係を満足させる必要がある。二段過給システムを適用した場合、機関出口の排気温度は低下する傾向にあるが、2章で述べた試験結果においては、機関出力が高いことと、主機関特性により問題無いレベルであった。

このケースは、2次規制値を満足して低燃費化させた二段過給機付きエンジンに、SCRシステムを搭載したという想定になるが、目標とする燃費、NOx低減率、用途等に応じて、L.P.-T/CとH.P.-T/Cとの圧力比バランスや、他のデバイスとの組合せを、今後、検討していくことになる。

SCR入口最低必要排気温度8)
図14 SCR入口最低必要排気温度8)

4.おわりに

本稿では、4ストローク中速ディーゼル機関における過給技術として、「二段過給システム」とその応用について述べた。なお本システムは、独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構による高度船舶技術実用化事業の一環で開発されたことを、ここで追記しておく。

お客様の生涯価値向上と地球環境との調和を図るためには、ランニングコストの低減、即ち燃費削減が必要であることは言うまでもない。本システムは、ほんの一例に過ぎず、さらなる低燃費・低NOx化技術を構築し、次世代機関に繋げていきたい。

5.引用文献

  • (1)濱岡,日マリ学誌,45-1 (平成22-1), 18-21
  • (2)T.Behr et al., CIMAC Congress 2013, NO.134
  • (3)S.Risse et al., CIMAC Congress 2013, NO.226
  • (4)髙畑,日マリ学誌,50-2 (平成27-3),93-97
  • (5)濱岡,日マリ学誌, 48-6 (平成25-11),30-35
  • (6)F.Millo et al., CIMAC Congress 2013, NO.74
  • (7)C.Stoeber-Schmidt et al., CIMAC Congress 2013, NO.232
  • (8)佐々木ら,日マリ学誌,43-3 (平成20),382

◇公益社団法人・日本マリンエンジニアリング学会誌(第51巻2号)に掲載された記事を転載し、一部修正を加えたものである。

著者

エンジン事業本部 特機エンジン統括部 開発部

濱岡 俊次

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