ヤンマーエネルギーシステム株式会社 開発部
ヤンマーテクニカルレビュー
300kW級高効率バイオガスコージェネシステム「BP-G」の開発
Abstract
The BP-G is a high efficiency biogas co-generation system designed to operate on biogas with a methane concentration of 55 to 65% produced from sewage sludge or food waste. The BP-G has an output of either 275kW (50Hz systems) or 325kW (60Hz systems), an efficiency of 37.0%, and NOX exhaust emissions of less than 600ppm.
High efficiency and reliability are achieved through the following features:
① Use of an existing high-performance Yanmar gas engine modified to operate on biogas
② Stable and best performance despite fluctuation of volume and composition of biogas
③ Highly reliable electronic control system already proven in existing EP-G (natural gas) systems
1.はじめに
ガスエンジンコージェネレーションシステムは、エネルギー有効利用、CO2の削減、経済性向上の観点から導入が進んでいるが、2011年に発生した東日本大震災以降、これらに加えて節電、ピークカット運用、電源セキュリティ、事業継続計画(BCP)への対応力向上、およびエネルギー分散化(ベストミックス)への対応が求められるようになった。
エネルギー分散化への対応の1つとして再生可能エネルギーがあるが、これについては2012年7月より再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が開始され、さらに2015年6月の閣議決定では、2030年度の電源構成比率における再生可能エネルギーの割合を22~24%とするといった政府目標が決定(1)したことにより、バイオガス発電市場の拡大は、大いに期待されることになった。そのような社会インフラの安定と資源循環型社会を実現すべく、バイオガス専焼の300kWクラス高効率ガスエンジンコージェネレーションシステムBP-Gを開発したので、これを報告する。
2.開発の経緯
ヤンマーエネルギーシステム(株)は、バイオ市場において表1に示すように小形クラス(25kW)のマイクロガスコージェネとして、CP25BG(50Hz、60Hz)を既に発売しており、現在までに500 台を超える導入実績(H27年度ベース)を有している。これに新たなシリーズとして、300kWクラス(50Hz地区向けでは275kW、60Hz地区向けでは325kW)のBP-G発電装置を新規開発し、市場投入することで出力ラインナップを拡大し、CPと合わせて国内バイオ発電装置NO.1メーカーの地位を確立することを狙いとし、開発を開始した。
性能については、下水汚泥や食品残渣系等から生成されるバイオガス(メタン濃度:55~65%に相当)の高度利用の為に高発電効率の実現と共に、バイオガスならではのカロリー変動にも安定追従し、環境負荷低減にも寄与することを目指した。さらに、電源セキュリティ向上の為の、システムダウン回数の低減により安定した電源供給を行なう為、容易に停止しないシステムを目指した。
表1 バイオガスコージェネラインナップ(2016年5月現在)
3.バイオガスコージェネレーションシステムについて
3.1.バイオマスのエネルギーへの変換方法
図1にバイオマスからバイオガスを生成するための変換方法の概要を示す。
バイオマスは生物由来の資源を意味し、このバイオマスをエネルギー変換するには図1に示す様に様々な方法がある。例えば、木質ペレット等を直接燃焼し、熱や電気を取り出す直接燃焼方式や、バイオマスに熱を加えることで液体燃料やガスに変換し、エネルギーとして利用する熱化学的変換方式及び、微生物の働きを利用し、メタン等に改質する生物学的変換方式等がある。そしてこの生物学的変換方式の中で、特にメタン菌の作用を利用してメタンを取り出す嫌気消化方式(下水場の汚泥や食品工場の残渣物を原料としている)が一般的である。今回開発したBP-Gではこの変換方式により得られたメタンガスを燃料としている。
3.2.バイオガスコージェネシステムフロー
図2にバイオマス~バイオガスコージェネとしてのシステムフローを示す。
原料としては、3.1節で先述したように食品の残渣物や下水汚泥があり、これをタンク内に入れて、メタン発酵させてメタンガスを生成するが、これにはコージェネに悪影響を及ぼす硫化水素やシロキサンが含まれており、これらを事前に除去する必要がある。その為、燃料生成フローには脱硫装置やシロキサン除去装置を設置し、コージェネの運転に影響を与えない信頼性と耐久性を確立したシステムとなっている。
4.開発の内容(製品の特徴と採用技術)
4.1.BP-G外観、主要目
図3にBP-Gの外観、図4に内部レイアウトを、表2に主要目を示す。
表2 BP275G(50Hz)/BP325G(60Hz)主要目
BP-G はバイオガスを燃料とした専焼ガスエンジンで発電機を駆動させることによって電気を発生させる発電装置であり、メタン濃度55~65%(19.7~23.3MJ/Nm3)と非常に低カロリーな使用燃料において発電効率37.0%を達成している。また、その時の排気ガス及び、エンジン冷却水の熱エネルギーを回収することで、ボイラ仕様(オプション)においては高い総合効率も実現可能としている。NOxは大気汚染防止法での排出基準値である600ppm(O2=0%換算)以下を遵守。なお、機器構成として、ガスエンジン、発電機、冷却水などのポンプ類、ヒータ、換気ファン、それらを制御する発電機盤があり、全てパッケージ内に配置されている。
4.2.バイオガス(低カロリーガス)対応技術
図5にBP-Gパッケージ内に搭載されているガスエンジン(AYG20L-BT)とガスライン搭載デバイス(スロットル、ガスミキサー、燃料調量弁、ゼロガバナ)、ならびに技術課題と対応を示す。
バイオガスに対応する為の技術課題は大きく2点あり、一つ目はガスが低カロリーであること(運転が困難/効率が低い)、二つ目はそのガスカロリーは一定ではなく、変動する(性能の追従性悪化)ことである。一つ目の低カロリーガスについては、既に海外向けとして実績のあるヤンマー株式会社エンジン事業本部の単室式希薄燃焼ミラーサイクルガスエンジンAYGをベースに、ミキサー、燃料調量弁のデバイス仕様の見直しを行っている。さらに、効率向上の為にエンジンの性能マッチングをすることで、図6に示すように、BP-Gはバイオガスコージェネにおいて他社と比較して、トップクラスの発電効率37.0%を達成している。(図中赤丸)
二つ目のカロリー変動については、エンジン制御として燃料調整弁による空燃比制御を行うことで対応している。図7にエンジン制御の概略図を示す。
バイオガスは燃料調量弁を経由し、ミキサーに供給されて空気と混合する。その後T/C(過給機)で圧縮された混合気はスロットルによって機関回転数のフィードバック制御により調整され、燃焼室内へ入る。空燃比制御は、エンジン入口の給気マニホールド圧力を発電出力に応じた形で一定となるように、燃料調量弁によってフィードバック制御することで行っている。
図8に示すように、この空燃比制御がない場合、バイオガスのカロリーが変動すると、排気ガスのNOx成分が増減し、同時にエンジンの失火、またはノッキング発生を助長するが(図中黒矢印)、本制御を行うことでカロリー変動があってもNOx成分は一定で安定した運転が可能となった(図中青矢印)。
4.3.CP併用によるガスの発生量に応じた最適台数運転
図9にガス発生量に合わせたコージェネ運用イメージを示す。バイオガス発生量は、外気温度や投入する資源によって変化する為、発生最大量に合わせたコージェネ機一台のみで運用しようとした場合、部分負荷での運転が多くなり、発電効率が低下することが懸念される。これに対し、BP-GやCP25BGを組合わせたシステム構成にすることで、バイオガス発生量が少ないときはBP-G一台、多い時はBP-G+CP25BG(複数台)といった運転形態とすることで、常にコージェネとして効率の高い状態で運用することが可能となる。
4.4.現行EP-Gで実績ある高機能制御システムとサービスツールの水平展開
制御システム、市場サービスツールについては、現行EP-Gシリーズ(EP370G、400G、700G、800G)で高い信頼と実績のある自社開発制御システムを本BP-Gへ水平展開した。これによりバイオ市場における300kWクラスのBP-G開発において、信頼性を確保すると共に、同時に開発期間とコストの削減を図ることが可能となった。
(1)出力制限による重故障の回避(温度上昇時レートダウン機能)
発電出力が300kWクラスになると、想定外のシステム停止(重故障停止)により契約電力を超過した場合のペナルティ発生リスクが高くなる。BP-Gでは、従来のEP-Gシリーズ同様に、重故障停止項目を選定し、すぐに重故障停止するのではなく機関に影響の無い範囲で継続運転を可能とする制御フローを採用している。図10にその制御を模擬した試験結果を示す。例えば夏場に外気温が高温になった際、一時的に部品温度等が上昇する場合を想定する。このような場合に、本制御システムでは一部の項目に対し、重故障させずに一時的に出力を低減することで機関への影響を回避し、温度の低下を確認したら徐々に出力を回復させる制御を行なう。これによりシステムの計画外停止の減少が期待できる。
(2)市場サービス対応支援
カスタマーサポート部員が現地でシステムの計測値モニター、記録を行える既存ツールに BP-G仕様版を追加した。図11に画面サンプルを示す。これにより現地での故障診断、制御系動作確認の迅速化が期待でき、リモートサポートセンターでの24時間遠隔監視と併用して、より良い客先対応が可能となっている。
5.おわりに
これまで述べてきたように、BP-Gはバイオコージェネレーションシステムとして、再生可能エネルギー利用、高効率、CO2削減、電源セキュリティの向上等、お客様の価値(LCV:ライフサイクルバリュー)の創出に繋がる機器である。このようなコージェネレーションの普及によってミッションステートメントにある、“エネルギー変換の分野でお客様の課題を解決し未来につながる社会とより豊かな暮らしを実現する”ことに貢献できると信じている。
参考文献
(1) 経済産業省 「長期エネルギー需給見通し」 2015年7月16日公表