ヤンマーテクニカルレビュー

プレジャーフィッシングボート「EX30B」の紹介
~釣り機能と居住性を両立したフィッシングクルーザーの開発~

Abstract

The EX Series, which takes advantage of Yanmar's expertise in diesel engines with a single shaft, was released for recreational fishing. The first model, the EX35, was released in 1995. The development concept of the EX35 was "hull for fishing + bridge for pleasure", and at this point the focus was on suitability for fishing.

Then, market demand shifted from fishing to occupant comfort. The EX33A, featuring a large cabin, was released as part of the Wide EX Series. This gave rise to the second golden age of the EX Series. Shifting to passenger comfort was a turning point, but the EX Series has continued to earn a favorable reputation, due partly to the recovery of the economy.

In 2014, the long-awaited EX30B installed with the 8LV350J electronically controlled engine was released. In addition to its suitability for fishing, the eco-friendly EX30B achieves perfect livability. This review is an overview of the newly designed boat.

1.はじめに

EX30Bは、「幅広EXシリーズ」の最小モデルではあるが、「最小モデルだから仕方がない。」ではなく、「最小だからこそ、逆にその優位性を活かしたオンリーワンモデルにする。」が開発コンセプトであった。
それを達成するために、以下の基本設計方針を立てて開発着手した。

  • (1)ワンクラス上の釣り機能と乗り心地の実現 ⇒ 新船型と新推進方式の採用
  • (2)極限の静粛性の実現 ⇒ 電子制御エンジン「8LV350J」の搭載
  • (3)ゆとりあるキャビン空間の実現 ⇒ 個性的なニューデザイン

いずれも、非常にハードルの高いテーマであった。

2.商品の概要

EX30Bの概要は以下の通り。

2.1.スタイリング

EX30B外観
図1 EX30B外観

2.2.主要諸元

表1 主要諸元

全長 9.57m
全幅 3.2m
全深さ 1.82m
総トン数 5.4トン
航行区域 限定沿海/沿海
最大搭載人員 10名

表2 搭載機関

エンジン型式 8LV350J
最大出力:kW/min-1(PS/rpm) 257/3800(350/3800)
定格出力:kW/min-1(PS/rpm) 234/3683(291/3683)
据付方式 防振
セット質量:kg (3818)
操舵機 静油圧式
リモコンハンドル ワンハンドル(電子式)
燃料タンク:ℓ 500
バッテリー 145G51×1、115F51×1
PTO:mm 400
プロペラ 3翼一体アルミブロンズ
船尾方式 ブラケット式 内ペラ/内舵方式
船速:ノット 30.0
航続時間:h 6.7

3.技術の織り込みと効果

3.1.新推進方式と新船型の採用

一般的に艇長を小さくすると、船体長さ方向の運動性能が悪化する。それは上下方向の運動周期が短くなるとともに移動量が大きくなり、乗り心地が悪くなる。それを克服するために、本艇には従来の[外ペラ・外舵]方式ではなく、[内ペラ・内舵]方式を採用した。

船体形状比較
図2 船体形状比較

船型的にも、最適なチャインラインとフィンキールの組み合わせに加え、独特なアウターチャインによる新形状のフレアー採用により大幅なパンチング衝撃の低減に取り組んだ。その結果、船首上下加速度を25%低減でき、波の中でも非常にソフトな乗り心地を実現した。

航行中の操船席上下加速度
図3 航行中の操船席上下加速度

また、本方式を採用することで「幅広船型」であっても運動性能を悪化させることなく、平面的に十分なデッキ広さを確保できた。(図4)同時に、ウォークアラウンドタイプのサイド通路と最適な高さのブルワークを確保することでワンクラス上の釣り機能を達成した。

船尾デッキ
図4 船尾デッキ

3.2.電子制御エンジン「8LV350J」の搭載

電子制御エンジンは、過去何度か商品化を試みたが国内市場においてはなかなか理解が得られなかった。そこで今回は、商品企画段階において営業部門と協働し、そのよさをアピールすることで商品化にこぎつけた。

振動・騒音においては、「8LV350J」固有の高いレベルのエンジン性能により大きな成果が得られた。特に、騒音レベルにおいては、「EXシリーズ」独自の二重床を含めた防音構造とのマッチングで、ディーゼルインボード艇では脅威の「57dB(A)」(停船時)を達成した。

防音二重構造
図5 防音二重構造
騒音レベル(操船席)
図6 騒音レベル(操船席)

振動感覚レベルにおいても、従来にはない高いレベルの結果が得られた。全ての回転域においてもまったく共振がなく、振動からくるストレスもほとんどなくなった。

また、電子制御エンジンの採用により、様々な面で商品力を向上させることができた。ひとつは、コントロールシステムとして「VC10」を採用することで、リアルタイムにエンジン情報が得られるようになった。それにより、ユーザーは常にエンジンの状態が把握できるようになり、安全性が大きく向上した。同時に、メーター類に視認性の高い「Livorsi製」メーターを採用したことにより操船席廻りのデザイン性が大きく向上した。特に、後者は見た目で商品価値アップに直接繋がるもので、コントロールレバーの外観、操作性のよさとの相乗効果で、商品力向上に繋がっている。

カウンター部
図7 操船席部

2つ目は、加速性の良さである。コントロールレバーの動きに対する船体の加減速時のレスポンスは、従来機械式のエンジンでは考えられないレベルの高さである。この追従性能も、操船者にストレスを与える大きな要因であるが、それがまったくなく非常に操船性の良いボートになった。

また、一般的に急加速と排気黒煙は反比例するが、排気黒煙もまったくない。それに加え船体軽量化も功を奏し、燃費も良いという環境にやさしい商品にすることができた。

8LV350J外観
図8 8LV350J外観
従来艇との燃費比較(単位:mile/L)
図9 従来艇との燃費比較(単位:mile/L)

3.3.ゆとりあるキャビンの実現

「幅広EXシリーズ」として平面的に広さを確保できたのは前述したとおりであるが、同時にフロント窓を前傾させることで、ゆとりあるキャビン空間が実現できた。

この前傾フロント窓には2つの大きな問題があった。ひとつはユーザーの嗜好性を左右するスタイリング、もうひとつはFRP船の工法であった。前者は、市場調査を実施した販売店にトータルデザインを提示することでクリアした。後者はフロント窓、およびサイド窓を別部材のフレーム一体構造にすることにより、FRP成形時のアンダーカットを克服した。

キャビン部
図10 キャビン部

上記形状を採用したことによって、最小モデルながらも大人が十分立てる個室トイレ、人が横になれるバース空間(図11)を確保しながらも、キャビン容積は33ft艇比98%を達成した。

バーズ部
図11 バース部

フロント窓を前傾させることで、航走時前方視界も大幅に向上した。合わせて新推進方式の採用により、航走トリム角を最小限に抑えたことに加え、窓からの視界性の良さが加わり、操船中もまったくストレスのないゆとりのあるキャビンが実現できた。

従来艇との操船席での視界性比較
図12 従来艇との操船席での視界性比較

4.評価と実績

4.1.釣り機能の継承

フィッシングボートとしての最低必要条件は、ウォークアラウンドデッキ、広いリアデッキスペースであるが、シリーズ最小モデルでありながらワンクラス上の釣り機能を継承できたことは高く評価されている。いずれの釣り機能要素も航走運動性能を低減させる要因であるが、この課題を克服できたことは大きい。

4.2.快適性の向上

快適性に関しては前述したように、8LV350Jの静粛性がもっとも大きな要因であるが、中央研究所と協働してきたEXシリーズの船体防音構造とのベストマッチングで、ディーゼルインボード艇では今までにない静粛性を達成した。

EXシリーズとしては新推進方式である「内ペラ・内舵」方式採用による乗り心地向上に加え、快適性においても大きな評価を得ていることが受注に繋がっている。

4.3.居住性の追及

2009年に発売した幅広シリーズの「EX33A」の開発以降、居住性、つまりキャビンスペースとシートレイアウト、バーススペースと広いトイレ、空調等のテーマについて取り組んできた。今回、最小モデルということでこの居住性の真価が問われたが、試乗会等におけるユーザーの反響も非常に大きい。

2014年9月からプロモーション活動を実施し、同年12月1日に発売した。既に、15隻出荷し、2015年度も29隻のフル生産予定である。

5.おわりに

EX30B艇の開発において、電子制御エンジンの搭載、および従来国内市場には少ないデザインの採用といった今までにないハードルの高い課題であった。それを解決するために、商品企画段階において営業的な理解が必要であったが、営業部門と協働して達成できたことは大きな成果である。

今回の開発商品化は、ミッションステートメントにある「6.当たり前を疑え。創意工夫せよ。」を実践できたと思うが、今後もヒット商品を継続開発できるよう努力していきたい。

著者

ヤンマー造船株式会社 商品統括部

椎名 眞也

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