2014.11.19

佐藤可士和が語る「次の100年に向けて踏み出した“はじめの一歩”」

ヤンマーは2012年に創業100周年を迎えました。創業者・山岡孫吉がはじめた山岡発動機製作所は、いまでは世界で約1万5千名の従業員が、活躍するヤンマーグループへと成長しました。

私たちは100周年を期して、自社が社会に存在する意義や使命をあらためて見直し、「ミッションステートメント」にまとめました。このミッションステートメントの実現に向け、店舗での販売やサービスはもちろん、社員の日々の活動まで企業と社会のあらゆる接点をブランドコミュニケーションの機会と捉えて活動していく「プレミアムブランドプロジェクト」を昨年立ち上げました。

2014年11月19日、新社屋「YANMAR FLYING-Y BUILDING 」をお披露目しました。この新社屋は、プロジェクトの一区切りであり、私たちが次の100年に向けて新たな一歩を記した証でもあります。次の100年に向けた新たな取り組み「YF2112」。

クリエイティブディレクターをお願いしている佐藤可士和さんに、ミッションステートメントの実現に向けたブランドの歩みを語っていただきました。

すでに存在した「プレミアム」を見える形に

――2013年、プレミアムブランドプロジェクトのクリエイティブディレクターに就任された際、山岡社長からのオファーは「ヤンマーをプレミアムブランドにしてほしい」だったそうですね。

佐藤可士和(以下、佐藤) いきなりプレミアムでしたからね。正直かなりびっくりしました。それまでヤンマーといえば農機の会社、ヤン坊マー坊ぐらいのイメージしかなかったので突然プレミアムと言われても、まったくピンとこなかった。ところが社長の話をじっくり伺っているうちに、印象が180度変わりました。むしろ、既にプレミアムな企業じゃないかと思ったのです。

――佐藤さんの目には、ヤンマーのどこが「プレミアム」に映ったのでしょうか。

佐藤 プレミアムとは何か。一般には高級なイメージとして語られることが多い言葉ですが、突き詰めるなら、“唯一無二の価値を提供できること”だと思います。企業活動に当てはめるなら、他社が真似のできない技術を使い、社会にイノベーティブなソリューションを提供することでしょう。そう考えれば、ヤンマーが持っているテクノロジー、エンジニアリングに関する総合的な技術は、まさにプレミアムと呼ぶのがふさわしい。ところが残念なことに、その価値が外部にはまったく伝わっていませんでした。社外どころか社内での認識もあやふやなように感じました。

――社内的な目標として「自社をプレミアムにする」と掲げるのはイメージできますが、外部に対して「我々はプレミアムなんだ」とアピールするのは、かなりチャレンジングではないでしょうか。

佐藤 「うちはプレミアムだ」なんて、普通は自分から言いませんよね。だからこそ『プレミアムブランド』を打ち出す意味があると考えたのです。ミッションステートメントを何度も読み返して、ヤンマーが社会に対して提示しようとするソリューションを理解していくうちに、食料生産とエネルギー変換の問題をテクノロジーで解決できる企業は、これからの時代において間違いなくプレミアムな存在になると確信しました。そしてプレミアムはインパクトの強い言葉です。大人しい社風に新しい風を吹き込む意味でも、あえて『プレミアムブランド』で社内外を統一する戦略を取りました。賛否は当然ありましたが、結果として多くの人の目に留まり、また、社内でも否応なく意識することになったと感じています。

ヤンマーの「プレミアム」=テクノロジーを見せるメディアをつくる

ヤンマーの持つ「プレミアム」を世の中に伝える。最初の課題となったのがBtoB企業特有のコミュニケーションの壁でした。一般消費者との接点が少ないために、刷新したブランドイメージを伝える術がありません。佐藤さんの視線は“メディア”に向かいました。

――どちらかと言えば、これまで一般消費者を対象とした企業の仕事に携わってこられた佐藤さんにとって、ヤンマーのような典型的なBtoB企業のブランドメッセージを世に伝える手段はどのようなものだったのでしょうか?

佐藤 基本的にはBtoB、BtoCで意識を変えることはありません。ただヤンマーの場合は、タッチポイントをどこに置くかがクリティカルな課題だと考えていました。街中にショップがあるわけではないし、自動車のように製品が一般の人の目につくところにあるわけでもない。農機がある場所といえば、当たり前の話ですが農地です。ボートがあるといっても、これも港マリーナなどに行かなければ見ることはできません。「プレミアム」を伝える“メディア”を何にするのか。これが決定的に重要だと考えました。

軸足は「農」に置くべきであり、ここがブレてはいけない。けれども、斬新なイメージを打ち出したい。それを伝えるためのメディア。メディアとは、メッセージを伝えるための媒体であり、一般的にイメージされるテレビや印刷物、Webなどに限る必要はまったくありません。ヤンマーのようなメーカーなら、自社製品こそがメディアであるべきでしょう。そこで奥山清行さんにお願いして、ヤンマーが提案する農業の新しい姿を象徴するトラクターのコンセプトモデルをつくってもらったのです。コンセプトモデル自体はいますぐ実用化されるものではないですが、デザインにも技術にもヤンマーの持つ先進性、テクノロジーが落とし込まれています。

――佐藤さんによるヤンマーの新しいロゴ、「FLYING-Y」もそのひとつですよね。

佐藤 社名の由来であるオニヤンマの羽をイメージし、頭文字の「Y」をモチーフに、新しいアイデンティティとなりうるようなものを開発しました。また、もう一つのメディアとして農業ウエアを打ち出すことも決めました。ウェアのデザインは滝沢直己さん。にお願いしましたが、滝沢さんなら、単にファッション性だけを求めるようなことは絶対にないと考えました。実際に彼は北海道まで出向き、農家を訪ね歩いてヒアリングを繰り返したうえで、デザイン性と農作業における機能性を高い次元で両立させています。

ヤンマーの新しいコンセプトを、一番に理解してもらうべきは既存のお客様です。結果的に奥山さんがデザインしたトラクターも、滝沢さんがデザインしたウエアも、顧客の方々から高く評価していただき、ヤンマーの新しいイメージを伝えることにつながりました。もちろん、今までヤンマーのことをよく知らなかった人たちからの反響も大きかった。