ヤンマーが取り組む排ガス規制

カテゴリ:建機の環境改善

排ガス規制対策 排気ガスにはどんな種類あるのでしょう。人体や環境に及ぼす影響は?ヤンマーが取り組んでいる排ガス規制と対策についてもご紹介します。

排ガスの種類と影響

●ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの違い

ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと比べると、熱効率が高く燃料消費量が少ないため、二酸化炭素(CO2)の発生が少なく、またその燃焼特性から一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)の発生も少ない優れたエンジンです。
しかし、窒素酸化物(NOX)や、粒子物質(PM)が多いことが難点です。NOXやPMは、大気汚染の原因物質として大きな社会問題となっており、呼吸困難や気管支炎などの健康に与える影響が懸念されています。
そのため建設機械を製造・生産したり使用する際は、環境や、人体への悪影響などを十分に配慮する必要があります。

種類 特徴 人体への影響 ディーゼルエンジン ガソリンエンジン
窒素酸化物
(NOX
  • 燃料に限らず、物が高温で燃えると必ず発生する不快な臭いの褐色のガス。
  • 窒素酸化物(NO,NO2 など)の総称。
  • ディーゼルエンジンの排出ガスに多く、このガス自体も有害であり、さらに光化学反応でオキシダントを発生します。
  • 大量に吸うと、目、鼻、のどの粘膜が強く刺激され、目まい、頭痛、吐き気を起こします。5~10時間で肺気腫を起こすこともあります。
  • 微量でも長期間、吸い続けると、慢性気管支炎、胃腸障害、歯牙酸食症、不眠症などを起します。
燃焼温度が高いため排出量が本来は多いが、後述で取組んでいる対策などにより、少なくなってきている。 排出するが、後処理技術により排出量が少なくなってきている。
炭化水素
(HC)
  • 燃料の不完全燃焼で発生。ディーゼルエンジンでは少なく、ガソリンエンジンの数分の1です。
  • これ自体での直接の害は不明。(100ppm以下では無害といわれます)
  • 光化学反応でオキシダントを発生します。
光化学スモッグ
(光化学大気汚染)
  • 目がチカチカする
  • のどが痛む
  • 胸が苦しくなる
  • 脱力感、悪寒
  • しびれ、頭痛
空気が充足した状態で燃焼するため、排出量が極めて少ない。 排出するが、後処理技術により排出量が少なくなってきている。
亜硫酸ガス
(SO2)
  • 燃料中の硫黄(S)が酸化されて出来ます。硫黄は低質油に多く含まれます。
    自動車の排ガスよりも、工場排煙の影響が大きいといわれます。
  • 自身でも有害であり、光化学スモッグの原因にもなる困り者です。
  • 1 回だけの短時間接触でも鼻、のど、目に刺激を与え、やがて激しい咳、呼吸困難を起こし、50~100ppm(※1) で1時間位、400~500ppm だと、短時間で死亡する。
  • 慢性毒性では慢性気管支炎、胃腸障害、鼻咽頭炎、結膜炎を起こします。
- -
一酸化炭素
(CO)
  • 燃料が不完全燃焼を起こした時に発生する、無色無臭だが毒性が高く最も危険なものです。
  • 大気中のCO は自動車のガソリンエンジンが最大の排出源で、ディーゼルエンジンからの排出は微量です。
  • 人体に最も大切な酸素を運ぶ血液中のヘモグロビンと結合しやすく、結合してしまうと酸素を運ばなくなって呼吸障害を起こします。
  • はじめは頭が重く、頭痛、めまい、嘔吐くらいから、やがて手足のマヒ、けいれんを起こし、突然意識不明になり死に至ります。死ななくても、重症では脳中枢がマヒして再起不能になります。
空気が充足した状態で燃焼するため、排出量が極めて少ない。 排出するが、後処理技術により排出量が少なくなってきている。
黒鉛・スス
(PM)
・浮遊粒子状物質
・粒塵
  • 粉塵…鉱物質の固形微粒子
  • ヒューム…ガス状態から凝結した固化体
  • ミスト…液状に凝結して空中に分散
  • 煙…燃焼によってできた微粒子の炭化物
  • いずれも空気中に漂っているので、視界を妨げる他に、目やのどの粘膜を刺激したり、有害物質を運んで肺の中にたまったり、血液などに溶けて全身に回ったりしていろいろの害を起こします。
NOXとトレードオフの関係にあり、低温で不完全燃焼になると排出量が本来は多いが、後述で取組んでいる対策などにより、少なくなってきている。 問題にならない程度の排出量。
中でも、健康上最も危険なのは…鉛
  • ガソリンの場合、オクタン価を高めるために加えられる4エチル鉛が大気中に排出されます。
  • 鉛は、長期間にわたって骨などに蓄積され、軽くても口内炎、激しい腹痛から、末梢神経マヒ、赤血球生成阻害まで、幼児では鉛毒性脳症や脳委縮による知能障害も起こします。
- 環境汚染のため使用が制限されている。1975年以降、現在も自動車用レギュラーガソリンは完全無鉛化されている。
  • ※1ppm(parts par million)
    微量に含まれる物質の量を表わす単位。ppm=100万分率、%=100分率。従って10,000(1万)ppm=1%になります。

排ガスに関する規制

建設機械の排出ガス規制とは、建設機械のエンジンから排出される一酸化炭素・窒素酸化物・炭化水素類・黒煙等の大気汚染物質の上限を定めた規制の総称です。現在日本では、陸内協による自主規制と、国土交通省による排ガス規制、環境省によるオフロード法といった規制と法律が存在します。
この法律により、製造メーカーは基準に達していない機械を販売・製造ができなくなりました。
また、メーカーだけでなく、使用者にも次のような義務が定められています。

  • 定期検査(1年以内ごとに1回)
  • 日常点検
  • 定期点検の教育・講習の励行
  • 運転方法のマニュアルの作成・従業員への教育

もし、不正改造や整備不良によって、排気ガスの状態が悪化しているようだと報告徴収や立ち入り検査がおこなわれます。
排出ガス基準を満たした建設機械には、それを表示するステッカーが交付されています

●現行機種に適用されている規制(2015年3月現在)

●陸内協 自主規制

陸内協排出ガス自主規制2次規制適合エンジン搭載

(一社)日本陸用内燃機関協会 排出ガス自主規制。19kW未満のエンジン単体(ガソリン・ディーゼル)が規制対象となります。現在は2次規制が適用されています。

◆規制の対象
エンジン出力
:19kW未満(ガソリン・ディーゼル)
対象機械:自動車用を除いた建設機械・農業機械・産業機械と呼ばれる各種の搭載用エンジン
対象機種:全ての業種(緊急・非常用・消防用等に使用するエンジンは対象外)

●国土交通省 排ガス3次規制

第3次基準値排出ガス対策型

大気汚染が社会問題となり始めた頃、国土交通省(当時の建設省)は平成3年から直轄工事において「排ガス対策型建設機械」を使用することを決め、平成4年から対象機種の指定を開始しました。(第1次基準)
さらに平成13年からは第2次基準値が、平成18年からは第3次基準が策定され、大気汚染防止に関する社会的要請はますます高まっています。

◆規制の対象
エンジン出力
:8kW~560kW
対象機械:公道を走行しないディーゼルエンジン搭載車両、発電機・コンプレッサー・トンネル対策型機械
対象機種:国土交通省の直轄工事などを請負う業者
所轄:国土交通省

●環境省 オフロード法(特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律)

平成18年10月より建設機械などの公道を走行しない特殊自動車(オフロード特殊自動車)に対して「オフロード法」による排ガス規制が開始されました。2011年度の改正でPM(粒子状物質)の排出量が9割削減されており(2011年規制)、2014年度からの改正により、窒素酸化物 (NOX)排出量が9割削減されます(2014年規制)。

◆規制の対象
エンジン出力
:19kW~560kW
対象機械:特定特殊自動車(公道を走行しない自走車両)
対象機種:全ての業種
所轄:環境省・経済産業省・国土交通省

●海外での規制

アメリカと欧州でも、ディーゼルエンジンに関する排ガス規制が設けられています。
アメリカでは、EPA(アメリカ合衆国環境保護庁)基準があり、欧州(EU)の排ガス規制はStage制で、段階的に厳格になっていきます。

排ガス規制対策

●ユーザーが取るべき対策とは

建設機械は使用状態(燃料・点検整備・運転・使用等)によって排出ガスの性状が変わることがあることから、以下の抑制指針に基づき、排出ガスの抑制に取り組む必要があります。

◆燃料の使用
軽油を燃料とする特定特殊自動車の使用にあたって、燃料を購入して使用するときは、当該特定特殊自動車の製作等に冠する事業者又は団体が推奨する軽油(ガソリンスタンド等で販売されている軽油)を選択する。
◆点検整備の実施
以下の点検及び必要な整備を実施し、当該特定特殊自動車の排出ガスの性状が悪化しないように努める。

  1. 定期点検(1年ごとに1回。定期検査結果の記録は3年間保存。)
  2. 日常点検
  3. 定期検査に関する教育・講習の奨励

◆排出量の抑制のために講ずべき措置
運転、使用などにあたっては以下の項目について適切に措置を選択して実施に努める。

  1. 急発進・急加速・急操作の排除に努める。
  2. 不要な空ぶかしを行わない。
  3. 停止の際はアイドリングストップを励行する。
  4. 作業効率の良い作業手順で作業する。
  5. 負荷のかけすぎとなるような作業は行わない。

●ヤンマーが取り組んでいる対策とは(型式によって異なります。詳しくは取扱説明書をご覧ください)

◆電子制御ガバナ(エコガバナ)
各種センサーのデータを基に、燃料噴射量の最適化制御を行い、始動・加速時の黒煙や、NOX、PMの削減を行っています。

◆EGR(排ガス再循環装置)

EGRとは、燃焼後の排気ガスの一部を取り出し、吸気側へ再度吸気させる装置のことを言います。そうすることによって、混合気の酸素濃度が大気より低い状態になり、燃焼温度が低下します。これによりNOXの発生が抑制されます。

◆コモンレールシステム(燃料噴射装置)

サプライポンプで高圧にした燃料をレール(蓄圧室)内に蓄え、ECU制御のもとにタイミングよくインジェクターから各気筒に適切な噴射量を噴射するシステムです。非常に高い噴射圧力で、1/1000秒の間に数回の噴射が可能です。排気ガスの発生を抑えながら、高出力で低騒音を実現します。

◆後処理システムDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)

排気ガス中に含まれる有害物質を酸化触媒にて分解して、スートフィルターにて捕集し、大気に排出されないようにする機能のことです。排気ガス中のススを捕集し、排気ガスの黒煙を除去することにより、排気ガスはほぼ無色透明になります。
スートフィルターは、自動で再生を行いますので基本的にメンテナンスは必要ありません。