SOLUTION 03 / Cultivation Technology 育てる技術

生産者の負担を減らし、
経営に安定を
新しい農業のカタチ
「スマートグリーンハウス」

中央研究所 研究企画部&バイオイノベーションセンター
農作物を栽培するハウス内で、環境の自動制御を実現。さらに、農業熟練者の暗黙知を形式知化するとともに、データを蓄積・活用し、品質の向上や出荷日のコントロールを可能にすることで、農業経営全体の安定化を目指しています。

ISSUE

熟練者による暗黙知をデータ化・蓄積・
活用し、“見通しのつく農業経営”を
実現するために

植物工場や温室などで環境を管理し、より質の高い農作物栽培を目指す施設園芸農業。人々の暮らしに欠かせない食分野を支える重要な産業ですが、収益の見通しのつきにくさもあり、数多くの農家から経営難航の声が挙がっていました。また熟練者の感覚に頼る面が多く、新規就農者の参入が難しい現実もあります。

そこでヤンマーでは、施設園芸での農作物の栽培を効率化・最適化することを目指し、「スマートグリーンハウス」の開発プロジェクトをスタートしました。生産者の負担を減らし、安定した生産・経営へと導くために、さまざまな強みを持つ企業と協力してイノベーティブにプロジェクトを進行。ハウス内の温度・湿度・水やりの量などの環境条件を、作物や品種ごとに定義された"栽培のレシピ"の中からユーザが遠隔で選択することで、自動制御を可能にしました。これらは新規就農者のサポートとなることはもちろん、生産者の負担の減少や作物の多収化にも直結。データ活用によって将来への見通しのつく農業経営の実現にもつながります。

SOLUTION

環境をすべて自動制御、蓄積したデータで出荷日のコントロールも

スマートグリーンハウス内には、多数の「無線センサ」を設置。温度・湿度・照度・二酸化炭素濃度などの環境センサ情報および電力センサ情報を測定し、データは「エッジコンピュータ」に集約されます。さらにこのデータは「クラウド」に蓄積される仕組みになっています。従来の施設では、1コンピュータで1機器を制御し、多数の環境条件を個別に管理。それぞれの機器が有線のため、配置や数が制限されることもありました。しかしスマートグリーンハウスでは、1コンピュータで多数の機器を制御する事で配線を減らしつつ、エッジコンピュータと機器の通信を無線化しデータを自動集約。事前に設定した栽培のレシピにあわせて、環境の制御から水やりまでが自動で行われるため、ハウスに何度も出向く必要もありません。

すべてが新しいシステムであったため、開発段階では知見が少なく、製品を通じてお客様に提供できる“価値”についても社内で議論を重ね、新たに創造していきました。またIoTとAIに関してはプロフェッショナルであった開発担当者たちですが、農業に関してはまったくの初心者。“どんな作物を、どう世話すればいいのか?”といった疑問や課題を、植物や農業の専門家であるヤンマーの「バイオイノベーションセンター」のメンバーや協力企業と連携しながらひとつひとつクリア。数えきれない試作を繰り返しながら、現在のスマートグリーンハウスのプロトタイプを生み出したのです。

こうしてテスト稼働が始まったハウス内では、トマトの栽培を実施。その成熟度を独自に定義し、データとして蓄積する取り組みがなされました。蓄積された成熟度データと数万枚にもおよぶ画像を基に、カメラ画像からトマトの成熟度を推定するアルゴリズムを開発。データが増えることによってインテリジェント化が進み、温度や湿度を調整し、高い精度で出荷日をコントロールすることが可能になります。その他にも、環境の自動制御の精度向上や省電力化など、あらゆる課題の解決にもつながります。今後は大学などにもハウスを設置して、データの蓄積と活用法の研究を進めていきます。

RESULT & FUTURE

熟練者でなくても効率よく
多収化を可能に

生産テストを行い、その効率や精度を高め続けるスマートグリーンハウス。実際のハウスを見た生産者や農業試験場の方々からは「新しくて、おもしろい!」というお声をいただいています。 現在もさらなる効率化や最適化を進めるべく、現場で手間になっている工程や作業を洗い出し、一歩進んだ解決策を生み出し続けています。これまでに、作物の花の間引きなどの作業をアラートし、スムーズに作業を進めていく仕組みを開発。また、バイオイノベーションセンターでは、育て方に関する研究と苗の品質を上げる研究を進めています。実用化に向けて育てることができる品目を増やすため、さまざまな作物や品種の収量や採算性を検証中。ハウスに適しており多収化できる品目を見つけ出す取り組みも行っています。さらに商品化に向けて、コストダウンにも取り組んでいます。実際の現場での稼働が始まってからも、随時アップデートを続ける予定です。

FUTURE食のバリューチェーンを整え、
豊かな未来の創造に寄与

「スマートグリーンハウスで農作物を育てる工程だけでなく、将来的にはその前後にある苗の入手や販路の確保までをサポートし、農作物が売れる仕組みを“つなぐ”ことを目標にしている」と語る開発チーム。他企業とも協力しながら、生産者の負担を小さくし、安心して農業経営を行うことができる未来を創り、消費者がその恵みを存分にたのしむことができる「食のバリューチェーン」を整えていきます。

スマートグリーンハウスの開発をはじめ、私たちヤンマーが行う農業やエネルギーの無駄をなくしていくさまざまな取り組みは、持続可能なよりよい未来を創出するためのパズルの1ピース。私たちの生活を取り巻くさまざまな分野で“最適化”に取り組んでいくことで、新しい街づくりへ寄与していきたいと考えています。

※所属は2020年4月時点の情報です