電動パワートレイン

電動化技術の課題と克服(建機・充電ソリューション)

建設機械業界において、電動化技術の普及は重要な課題となっています。しかし、その実現には多くの障壁が存在します。今回、ヤンマーパワーテクノロジー株式会社の電動化推進部に所属する岡部眞季氏に、建設機械の電動化における課題とその解決に向けた取り組みについてお話を伺いました。

世界各国で加速する建設機械電動化の潮流

私は日本、韓国、ヨーロッパ、アメリカを始め、グローバルに電動化を推進するビジネスディベロップメントグループの課長として業務を行っています。電動化の動きは世界的に進んでいますが、特にヨーロッパが先行しており、2025年から2030年にかけて、オスロ、コペンハーゲン、ロンドンなどの主要都市でカーボンニュートラル化が進められ、オランダ全土ではゼロエミッション達成が目標とされています。

この流れの中で、都市部の公共工事では電動建機を使用する事業者のみが入札可能という案件も出てきています。こうした差し迫った要求に応えるため、各国の建機メーカーは電動機械の開発に積極的に取り組んでいます。

また、政府の支援策も進んでいます。一例として、北米のカリフォルニア州やオランダ、日本で補助金プログラムが実施されており、これらの施策は建設機械の電動化を後押しする重要な役割を果たしています。

充電インフラ不足と複雑な規制への対応が課題に

電動建機の導入において、エンドユーザーが最も懸念するのが充電インフラの確保です。電動建機の使用には充電が不可欠ですが、森林や高速道路、郊外での作業など、充電設備が整っていない現場が多く存在します。そのため、ユーザーが充電環境がある場所へ機械を運搬した上で充電する必要があります。この問題は業界でも認識されており、可搬式充電器などの解決策が提案されていますが、実際に販売されている事例は少なく、電動建機の普及を妨げる要因の一つとなっています。

一方、OEMメーカーにとっての課題は、電動建機に関する規制や政策の複雑さです。特に欧州各地域では、規制や補助金制度、電動化専用の入札案件が増えつつあります。各メーカーは積極的に情報収集を行っていますが、従来はディーゼル機械向けの規制調査が主流だったため、電動建機の規制調査まで手が回りにくい状況です。また、電動化の規制内容は排気ガス規制とは性質が異なるため、その把握が困難になっています。

これらの要因により、開発段階での課題も生じています。地域ごとの補助金を考慮した価格設定、入札案件の需要予測、規制のスケジュール立案などを踏まえた売上見込みの設定が難しくなっています。結果として、投資回収の見通しを立てにくく、社内承認を得るハードルが高くなるという問題も発生しています。

急速な技術変化への対応により、開発環境での課題も

技術面において、最も深刻な問題は規制の厳格化のスピードにメーカーの開発が追いついていないことです。電動建機の量産がフルラインでは進んでいないため、電動建機の入札案件で指定された出力や機械サイズが市場にない場合、OEM メーカーのディーラーやサードパーティーが既存の建設機械のエンジンを取り外し、バッテリーに置き換えて対応しています。しかし、この方法ではエンジンを廃棄せざるを得ないため、無駄なコストが発生するとして問題視されています。

もう一つの重要な課題は、電動化部品のサプライヤーに建設業界に関する知見やノウハウが不足していることです。電動化技術分野には新興企業が多く、従来の産業機械の常識が通用しないケースが少なくありません。特に信頼性評価が適切に行われていないことが多く、OEM メーカーが独自に様々な評価を実施する必要が生じています。これにより、開発プロセスの長期化とコスト増加が起きています。さらに、寄せ集めの部品でプロトタイプ機を製作した結果、量産対応ができない事例も多く見られます。

また、特に開発経験を重ねた OEM メーカーが直面する問題として、サプライヤーからの急な生産中止やモデルチェンジの通知があります。産業機械業界では、メーカーが生産終了までは同じ性能・形状の製品を納入し続け、生産終了後も最低 10 年は補給部品を供給し続けるのが常識とされています。しかし、電動化業界では、特にバッテリーセルの進化が速く、フォーマットが突然変更されて生産停止になることが頻繁に起こるため、OEM メーカーは対応に苦慮しています。数年おきに代替品や次世代バッテリーパックへのモデルチェンジによる再評価が必要になるケースもあります。

ヤンマーパワーテクノロジーの課題に対するアプローチ

ヤンマーパワーテクノロジーは、OEMメーカーやエンドユーザーが直面する様々な課題に対して、多角的なアプローチで解決策を提示しています。

パワートレインの設計・評価においては、YPTの100年以上にわたる産業機械向けパワートレイン提供のノウハウを活かし、OEMメーカーの迅速な開発をサポートしています。具体的には、産業用品質基準に基づくコンポーネントおよび部品レベルの評価、各種作業機の負荷パターンに合わせた電動モーターのチューニング、各コンポーネントを統合制御するECU(電子制御ユニット)の提供などを行っています。これにより、OEMメーカーは安心して電動パワートレインを使用でき、一部の設計や評価をヤンマーへ委託頂くことで開発の効率化が図れます。また、産業用機械に求められる品質レベルのコンポーネントを手間なく入手できるメリットがあります。

電動化部品の量産維持に関しては、当社は標準化による供給期間の延長や、生産中止時に向けたバックアップサプライヤーの確保など、サプライヤーのトラブルに対する一元的な対応を提供しています。これにより、OEMメーカーは一度量産したものを再設計する必要がなくなり、再評価も最小限に抑えられます。さらに、当社内でのフィールドトラブルの横展開を通じて、品質向上のメリットも享受できます。

充電インフラ不足の課題に対しては、グループ会社のHimoinsa社が販売する可搬式バッテリーシステム「EHRシリーズ」を提供しています。既に販売実績のあるこのシステムにより、エンドユーザーの不安を軽減し、電動建機の普及促進につなげることができると考えています。

電動建機に関する情報収集の困難さに対しては、当社が調査した規制や認証に関する最新情報を定期的に共有するという取り組みを行っています。従来からエンジン関連で年1回実施している世界の規制事情のアップデートと同様に、電動建機についても分かりやすくまとめたプレゼンテーション形式で各国の情報を提供することで、OEMメーカーの理解度向上に貢献しています。

Eネイティブマシン台頭の可能性

現行の電動建機は、エンジン向けに設計された製品にバッテリーを搭載しており、スペースも限られているため、十分な容量のバッテリーを搭載できておりません。また、油圧機器を多く使用しているため、電気エネルギー効率が低下しているという問題も存在します。

この問題点の解決策として、電動自動車の流れと同様に、建設機械でもEネイティブマシンの登場が予想されており、それに近いコンセプト機を展示会等で紹介するメーカーも出てきています。Eネイティブマシンとは、バッテリーを主体とした電動化に最適化された設計を行い、油圧システムをできる限り排除し、フル電動化を図った機械のことを差します。このアプローチにより、稼働時間の延長や実用性の向上が期待できます。Eネイティブマシンに採用される電動コンポーネントは、センサーによる検知や自動制御との親和性が高いため、排出ガスがなく静音性に優れた機械という価値だけでなく、新たな付加価値を生み出す可能性もあると考えています。

今後も変化し続ける電動化トレンドに対し、多角的なアプローチを行い、建設業界の持続可能性と効率性に貢献することを目指しています。

岡部 眞季OKABE Masaki

ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
電動化推進部 ビジネスディベロップメントグループ課長

2008年入社。産業用ディーゼルエンジンの海外営業を14年担当、うち5年間はオランダに駐在も経験。2022年より電動化推進部でのビジネスディベロップメントを任される。

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