代表取締役社長 入野 恒司様
岡山県岡山市
株式会社岡山農栄社
岡山県岡山市
株式会社岡山農栄社
株式会社岡山農栄社(以下、同社)は、その名の通り農業県の岡山に本社を構える農業関連製造メーカーだ。主力の刈払機の他、玄米関連の計量・貯留・選別・輸送機器、野菜の調製機械など、農家の様々な作業を支援する省力化機械を手がける。創業は古く、戦前の1924年に遡る。1950年に創業時の社名「入野鉄工所」を現社名に改め、2024年5月には晴れて100周年を迎えた。業態は研究開発と製造に特化し、製品の直接販売等は行っていない。多種多様な製品が示す通り、農家の小さなニーズにも目を配り、その解決に技術を尽くす。創業以来、農家を支えて堅実に歩み続けてきた同社の理念と実践を、代表取締役社長の入野恒司氏に聞いた。
「農家と共に」をモットーに掲げる同社。3代目である入野氏はその原点をこう語る。「現代でも農作業は重労働ですが、私の祖父で創業者の入野政一が社長を務めていた昭和20年代から30年代は、その厳しさは現代の比ではなかったかと思います。岡山は県南を中心に広い農地を擁する農業県ですので、祖父は農家様の様子をつぶさに見て、その厳しさを肌で感じていたことと思います。残念ながら戦災で当時の資料が失われてしまったのですが、農家様を支援する省力化機械を手がけるようになったのは、そのような祖父の経験が原点にあったと聞いています」。そんな創業者の精神を受け継いで、入野氏は常に率先して農業の現場に足を運び、社員にも職種を問わず現場を訪ねるよう指導するという。
「小ロットであっても、本当に求められる製品で農家様に貢献したい。その想いで研究開発を続けています。当社は『新しい何か』という開発スローガンを掲げていますが、それを実現するためには、やはり現地に足を運び、何かお困りごとはないか、需要はないかを探り続けることが基本だと考えています」。同社の多様な製品の中には、大根の葉とひげ根を連続で効率良く取り除く「大根アジャスター」など、特定の作物の調製に特化したものが複数ある。そうした製品はまさにニーズの深掘りから生まれたものと言えるだろう。
同社の主力製品のひとつに刈払機がある。新製品の背負式IHA260MPは、これまでに培った技術が注ぎ込まれた製品となった。「草刈りは農家とは切っても切れない関係です。当社は刈払機を60年ほどつくり続けてきました。需要が高く、年間稼働率も高い製品ですので、少しでも使いやすいものにすることを常に目指しています。IHA260MPはエンジンの位置を突き詰め、軽く背負える重量バランスに徹底してこだわりました」。IHA260MPは、エンジンを傾けて搭載したことでエンジン重心が背中に近くなるように設計されており、実際の重量よりも軽く感じられる。刈払機は軽くすれば振動が強くなり、振動を抑えようとすれば重くなる。そのバランスに関してIHA260MPはひとつの到達点と言える製品だが、入野氏は現状に満足する考えはないという。
「年中どこにでも生えてくる雑草には多くの農家様が苦労されており、草刈りに費やす時間も相当なものです。その作業を担う刈払機を、可能な限り楽で使いやすいものにすることも当社の使命だと考えています。IHA260MPは幸いにも好評をいただきましたが、どのような技術も陳腐化しますので、常に当社のテーマとして取り組み続けます」。
実直な社風の同社だが、意外な遊び心がうかがえる一面もある。入野氏が「開発部にモノづくりの好きな者がおりまして…」と笑って紹介するのは、社用の3Dプリンタを使用した同社製品の精巧なミニチュアだ。ミニチュアの製造には製品の設計データを使用しており、その形状は実物そのものだが、樹脂素材を使用していることで、角ばったフォルムの機械模型ながら、どことなくおもちゃの可愛らしさが漂う。ユーザーや展示会来場者へのプレゼントとして不定期に配布しており、好評だという。「提案者は開発部の責任者で、『そう言うなら、ちょっとやってみようか』という程度で始めたのですが、展示会へお越しくださったお客様へのプレゼントにしたところ、意外なほどの反響をいただきました。その後は抽選にさせていただくほどで、当社独自のPRツールとして面白いものになりました。提案者に自由にさせているうちに、ほぼ全ての製品がミニチュアにされてしまいましたが、そんな遊び心も必要かと思っています」。
同社はYouTube動画やInstagramを活用するなど、様々な方法でPRに取り組んでいる。いずれも手応えを感じており、さらに注力するという。社内はアットホームな雰囲気で、離職率が低いことが誇りだという入野氏。そんな環境は、様々なものを取り入れ、自由なチャレンジを許す社風あってのことだろう。
思い出深い製品として、入野氏は同社の真空ポンプ式ライスホルダーを挙げる。 「ライスホルダーは玄米の30kg袋のパレット積みを補助する機械です。この作業を人力で行うのは言うまでもなく大変な重労働で、それで腰を痛めて廃業された農家様もおられます。当社では、真空式の前には金属の爪で挟んで持ち上げる仕様のものをつくっていたのですが、爪を米袋に掛けるために多少は腰を屈めるなどの動作が必要になることもあり、改良の余地があると考えていました。そこで技術部の者と現場へうかがい、実際にお客様の声を聞き取りながら工夫を重ね、エアーで米袋を吸い付ける真空ポンプ式の開発に至りました。これが好評を博し、お客様から『紹介してくれてありがとう』の言葉をいただける製品になりました。『今まで2人でやっていたのに、1人でもできるようになって助かったよ』と言っていただけたこともあります」。こんな感謝の言葉を大切にしている入野氏の人柄と、入野氏が率いる同社の誠実さがうかがえるエピソードだ。
「現場で泥だらけになりながら研究して、工夫して、開発した製品がお客様に届く。そして、『良い作物ができたよ』と野菜をいただいたりする。単純ですが、そんなことが仕事の喜びですね」。創業者から受け継ぐ志を「農家と共に」の言葉に込めて、岡山に根を張る100年企業は、今日も実直に歩んでいる。
同社が「入野鉄工所」であった時代に、創業者である入野政一氏の手により、国内で圧倒的なシェアを得た製品が生み出された。近代的米選機の第1号とされる「縦線式米選機」だ。縦線式米選機は開発者の名を冠した「イリノ米選機」の愛称で重宝され、イリノの名を国内農家に広く知らしめた。同社はその誇りを込めて、現在でも社名に「イリノ」の名を併記する。現代の米農家では自動選別計量機が主流となっているが、その原点には、岡山で生まれた「イリノ米選機」の存在がある。