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2019年7月発行「FREY15号」、2019年12月発行「FREY16号」より転載

籾殻を堆肥に変え、米と仲間づくりで年商1億5千万円。おいしい米づくりへのチャレンジに密苗は必要不可欠

新潟市の西蒲区にある新潟ひかりっこ株式会社は、創業時から籾殻堆肥の製造を組み込んだライスセンターを建設し、自社のほ場への使用はもちろん、他の生産者への販売、ほ場へのすき込みなどの請負い、3年間籾殻堆肥を使用した田んぼで育った米を「ひかりっこ米」として買い取り販売している。現在、自社で保有するほ場面積は104町歩。年商1億5千万円。

新潟ひかりっこ 株式会社

斎藤 隆美 様

新潟県 新潟市

Profile
1946年新潟県新潟市生まれ。新潟県立巻農業高等学校を卒業後、土木建築関連の会社にて就労。その後、土木建築の斎藤組を設立。代々継承された土地を兼業農家として守りながら、産廃事業関連、建築機材リース、豚舎改修といった会社を次々と起ち上げる。
2008年、貸し出していたほ場の契約が切れたことをきっかけに親戚7人と28町歩の田んぼから新潟ひかりっこ株式会社をスタートさせた。

専業から兼業、そして農業法人へ

新潟市の農地は、海岸沿いの砂丘部と水田中心の広大な平地部に分けられ、市域の約半分を水田と畑が占めるという、農業が盛んな土地柄だ。そんな新潟市の西に位置する西蒲区、新潟空港から車で約1時間弱のところに、新潟ひかりっこ株式会社がある。代表取締役の斎藤隆美さんは73歳。11年前にこの会社を起ち上げた。斎藤家は代々専業農家として稲作に取り組んできたが、1971年に本格的に導入された減反政策の影響を受けて兼業農家になったという。

斎藤社長は地元の巻農業高校を卒業後、土木建築関連の会社で働き、24歳で「斎藤組」を設立。その後も産廃処理や建築機材のリース、豚舎専門の改修などの事業を起ち上げ、会社を複数経営するなどビジネスマンとしての手腕を発揮している。そんな起業家として活躍する斎藤さんを支える妻の美和子さん(69歳)は、斎藤家が代々引き継いできた10町歩の田んぼのうち3町歩を『かあちゃん農業』で切り盛りし、残り7町歩のほ場は他の農家に貸し出していた。しかし長年貸し出していたほ場が返却されることになり、それならと2008年に親族7人とともに皆の田んぼ28町歩で農業法人をスタートさせた。

「そのとき、うちの母ちゃんに指摘されましてね。10町歩の籾殻の処分にも困っているのに、28町歩から出る籾殻はどうするのかと」。

籾殻は産業廃棄物。農家にとって、その処分にかかる費用は馬鹿にできないほど、頭が痛い問題だった。そこで、このことを後輩に相談してみると、籾殻にAM菌を改良した「環境菌」を入れると60日で堆肥にすることができるという。彼に紹介された菌の培養を専門とする会社に相談し、籾殻堆肥をつくる施設を導入することにした。

斎藤社長の決断の早さには、妻の美和子さんの稲作が脳裏にあったからという。それは、米の味がおいしくなるからと「新潟有機」という肥料を使用していた。その新潟有機を籾殻堆肥に置き換えれば、処分に困る籾殻を有効活用でき、さらにおいしい米がつくれると考えたのだ。だがライスセンターに堆肥施設を組み込むことに、役所はなかなか首を縦に振らなかった。斎藤社長は、これからの農業にはこのくらいの強いこだわりが必要と役所を説得し続け、2008年8月、法人設立と共にライスセンターも竣工した。

籾殻堆肥で農家のネットワークづくり

籾殻を集積させた中に環境菌と糠などを混ぜ込み、3回ほど切り返しながら発酵させる。発酵が進むと籾殻の温度は約70度に上がり、60日ほどで籾殻堆肥ができる。1回で130トン、それを10回分1300トン製造して袋詰にする。堆肥をつくるのに9割、撒くのに1割。土づくりの基本となる堆肥づくりは、新潟ひかりっこ株式会社の軸となる事業になっている。
「籾殻堆肥はチッソ成分が低いので、元肥を減らすことはありません。しかも、籾殻堆肥を入れていない田んぼに比べると、刈取り時になっても葉の色が鮮やかで、秋落ちすることがありません」。創業から11年間、この堆肥を田んぼに入れて稲作を続けてきたからこそ自信を持って言えるひと言だ。

籾殻堆肥を使えば米の味が旨くなるとわかっていてもなかなか踏み出せない農家も多いなか、評判を聞いて「うちの田んぼにも撒いて欲しい」という要望に応え、新潟ひかりっこ株式会社が堆肥を撒く作業を引き受けている。
「籾殻堆肥を購入した農家の田んぼには、弊社が全部堆肥を撒いています。毎年、1000枚程の田んぼに撒く作業を2人でやっています」。

毎年800キロの籾殻堆肥を3年以上土壌に入れて収穫された米を「ひかりっこ米」として認証し、一緒に流通に乗せる仲間づくりを行っているのも大きな特徴だ。
「市場に出すにはうちの規模だけでは太刀打ちできない。籾殻堆肥を通して高品質の米をつくる農家同士がネットワークをつくり、手を組めば結果的に単独ではできなかった量産化が可能となる。そうなれば、これまで話を聞いてもらえなかったところにも商談に行くことができる」。

実際に「ひかりっこ米」は卸を通し、通販や大手百貨店の店頭に並んでいる。また大手企業の株主優待商品としても取り扱われており、昨年は1400俵、今年は1700俵から2000俵の取引となる見込みだ。

離農で生じた農地の受け皿に

新潟市域の約半分を占める田耕地面積は28,500ha。全国市町村別で1位の面積を誇る『米どころ』を証明するかのような新潟の田耕地面積だが、それでも年々田んぼの面積は減少傾向にあるという。減少率は日本における米の産出額上位県6位の中で最も大きく、農業基盤の脆弱化が懸念されている。
原因は、後継者問題にある。既存農家の廃業、農業就業人口ともに減少に歯止めがかからない。離農などによって生じた余剰農地は、販売農家に集積される傾向にある。

新潟市蒲西区にある新潟ひかりっこ株式会社も、創業時には28町歩の田んぼだったが、12年目を迎える今年度は120町歩で稲作をスタートさせた。この11年間に急激に耕作面積を拡大できたその要因は、新潟市域における農業の現状にある。入社7年目の西村直仁さん(26歳)は、田んぼの見回りをしていると「来年は頼むよ」と廃業を決めた農家から声をかけられることが多いという。西村さんは、「そうした田んぼを弊社が担うことができれば、地域の農業を守ることができる」と熱く語る。

新潟ひかりっこ株式会社には、西村さんのように20代から30代前半の若手の社員が現在6人勤務している。同社では将来を見据え、若手の農業者育成の観点から、新潟県農業大学校の学生を受け入れた研修授業を行っており、そこに参加した生徒が同社に就職するケースもある。「新潟県農業大学校の学生は農業全般の知識はもとより、農作業に欠かせない重機の運転や免許などを取得して卒業するため、弊社では即戦力として活躍してくれるので本当に頼りがいがあります」と斎藤社長は話す。

若手が支える『密苗』技術の導入

同社のほ場は大きく白根ほ場と潟東ほ場に分かれており、若手6人を含む社員9人で管理をしている。年々、ほ場面積は拡大、しかし社員全員の労働力をもっても拡大するほ場をカバーするのは厳しくなっていた。そこで、通常100~150g(催芽籾125~187g)で播くところを、乾籾250~300g(催芽籾312~375g)で播くことで大幅な省力化と低コスト化を図れ、労働軽減などを実現できるというヤンマーの『密苗』の技術導入を検討することにした。

新潟県農業大学校出身の入社9年目の笹川としきさん(28歳)は規約や作付計画などを担当する、若手のリーダー的存在だ。密苗を導入するにあたって、モニター時の管理やデータ採取の中心的役割を担ってきた。

2年前、密苗のモニターを6反で始めた。しかし当時はほ場が20から48、80町歩と短期間に急激に増え始めた時期で、その危機感からモニター終了後、早々に導入を決断。まずは試験的にと、昨年度は慣行苗と密苗の配分を6:4、今年度は5:5で行ってみた。
「初めて密苗に取り組むことになり正直、半信半疑でした。苗箱での成長は、慣行苗とあまり変わりはみられませんでした。むしろ、田んぼに植付けた苗が少し心もとない感じで、大丈夫かなと心配したほどです。しかし最高分裂期を迎える頃には、通常の稲とさほど変わらない感じで育ってくれたので安心しました」と笹川さん。

密苗の導入を決めてからは、本格的に播種機を入れ替え、指導を受けながら苗起こしから学んだという。「当初心配したのは根上でしたが、通常の苗よりも少し早めに被覆を剥いでかん水すると問題はありませんでした」。初年度は発芽する加減を見ながら、試行錯誤を続けた。現在は育苗から生育状況まで数値化をして管理している。

密苗の特徴でもある苗箱の減少による労力の軽減と時間の短縮は、社員の作業環境の省力化が実感できたという。「慣行苗だと1日当たり2町歩に植付けるのが精一杯。しかし密苗だと専用の機械を使い、同じ条件で2町6反から8反まで植付けることが可能になりました」。

植付けの労力が減少したことで、こんな効果も現れている。例えば、現在、苗を育てるハウスは7棟。全てで10,800枚の苗箱が入る。今年使用した苗箱は12,864枚。4月最初に播いたコシヒカリの苗を田植えしながら、新たに苗箱を敷き直すことができたという。
「密苗専用の田植機に、除草剤や箱施用剤のアタッチメントを付けると、薬を無駄なく効率良く撒いてくれます。人間だと目分量になるので、ひどいときは4箱も残ったりします。密苗を始めてハウスが2回まわせ、資材や労力が削減できたので、その効果を実感しています」。

新潟ひかりっこ株式会社の今年の作付けの状況は、コシヒカリ37.4ha(※1)、コシイブキ17.5ha、ゆきんこ米11 ha、飼料用米ニイガタジロウ12.8ha、晩成品種の新之助16.5ha、キヌヒカリ8.1 ha、ツキアカリ(育成調査用)52 haと、田んぼだけで104町歩。その他に大豆13.5ha、約1町歩の畑では、冬場のほ場の遊びがないように、ほうれん草、そら豆、とうもろこし、食用菊、ねぎを生産。これらの野菜も籾殻堆肥有機質肥料を使用している。

  • ※1現在「ひかりっこ米」の対象となる品種はコシヒカリのみ

来年は確実にほ場が6町歩増えることが決定していて、およそ10町歩は増えると、斎藤社長。今後は密苗でどこまでリスクを負わず、どのくらいの規模までできるのか。そこを見極めながら、第2のライスセンターを建築し、150町歩体制を確立するのが目標だという。
「限りある人的資源でこれだけのほ場拡大ができ、管理ができるのも密苗があってこそ。弊社の未来のチャレンジに密苗は必要不可欠となりました」。

できる限り人工的な作業と農薬を加えることなく、自然にたくましく育つ稲を育てたいと始めた籾殻堆肥有機肥料を使用した栽培手法。今後はさらに地域の農家との密なネットワークづくりを軸に、安定した大規模ほ場経営を目指す斎藤社長。若手社員を信頼した現場主義の取り組みはこれからも続く。

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