営農情報

2017年1月発行「トンボプラス9号」より転載

子実とうもろこし栽培で拓く転作・輪作体系の新たな営農スタイル

水田農業の将来像が見えづらい昨今、水稲だけで、規模拡大をしていくのは難しそうです。そこで選択肢のひとつとして、子実とうもろこし栽培が注目を浴びています。国としては、輸入している約1500万tを、今後、国内生産に切替えることで自給率が上がります。そして農家側には、ほ場の排水性改善、機械の汎用利用、規模拡大、収益増大などを実現してくれる期待感があるといいます。
この新しい流れを受けてヤンマーが開発した汎用コンバインと専用とうもろこし収穫キットの、実用化を目前にしたほ場試験をレポートします。

子実とうもろこしとは・・・?

とうもろこしの実だけを収穫することを「子実とうもろこし収穫」といいます。家畜飼料における濃厚飼料のひとつです。

団塊の世代離農後のほ場増加を見据え、土地利用型の打開策として子実とうもろこしを栽培

小泉 輝夫 様

千葉県成田市
小泉ファーム 代表

日本では、飼料や食品材料用として年間1,500万t前後のとうもろこしが輸入されている。これを国内でつくろうと、提案し続ける方々がおられる。千葉県成田市で子実とうもろこし栽培に取り組む、小泉ファーム代表の小泉輝夫氏もその賛同者のお1人だ。小泉氏は、16代続く篤農家の後継者で、お父様と2人で水稲を中心に経営しておられたが、近年、将来の米需要に不安を感じておられた。そんな小泉氏が出会ったのが子実とうもろこしだ。取り組みには課題もあった。

これまで子実とうもろこし栽培は、北海道などでの栽培事例が多かったが、小泉氏のほ場は中山間地域だ。しかし元々、ほ場の有効活用に前向きな小泉氏は、暗きょを入れて3年前から子実とうもろこし栽培に取り組み始めた。現在、水稲を約50ha(自家栽培約35ha・作業受託15ha)のほか、大豆12ha、子実とうもろこし2haを輪作しておられる。

「ここで育つのか?から始まって、なんとか形になった頃に、ウチで子実とうもろこし普及のイベントをしたんです」。その際、約200人が集まり、小泉氏は子実とうもろこしの将来性を確信した。「団塊の世代が大量離農したら一気にほ場が増えるから、それに対応するには、ほ場を畑地化して米以外の作物も視野に入れないと…。それで土地利用型の打開策として子実とうもろこしの栽培を始めました」。ご自身だけでなく、将来の日本農業のことも考えての取り組みだ。そんな思いから、ヤンマーの実証試験にもご協力いただいている。今回の試験は2度目となる。

小泉氏のほ場は、ほとんどが中山間地域。両側の山の地下水が湧き出す谷地田(やちだ)になっている。

谷地田の子実とうもろこしを、快調に刈取り。小泉氏からは「よし、いける!これはアリだな」

試験当日は朝から霧雨が降るなか、「とりあえずやってみましょう!」という小泉さんの一声で、全員が動き始めた。試験ほ場は、降雨によるほ場のぬかるみが懸念されたが、ほ場端の一部がぬかるんでいただけで、中心部は驚くほど乾いてる。後に述べるが、とうもろこしが排水性改善に役立っているという。そのため、子実とうもろこし収穫キットを装着した汎用コンバインAG1140Rが楽々走行・作業を行うことができた。

小泉氏のほ場は、端の一部を除いて乾いており、大型の汎用コンバインも楽々入れる。

機械には、まずは小泉氏が乗った。快調に刈っていく。機械から降りた小泉氏が「よし、いける!これはアリだな」と、叫んだ。刈り跡を見ても、排出される茎葉やカットされた果穂(かすい=種子の付いている部分)も、うまく細断されておりヘッドロスも少ない。「悪くないと思いますよ。北海道では、海外の機械が多いけど、府県では小回りがきいて耐久性のある国産汎用コンバインで刈りたい。2年前と比べるとかなり良くなりましたね。前回は、エンジンに対する負荷も高かったし、選別もアラが多かったけど、今回は脱こく後の作物も洗練されてきた。今後、農政の動きが変わって、子実とうもろこしがもっとつくりやすくなったときには、導入にGO!サインが出せると思います」。小泉氏の表情は明るかった。

試験では、小泉氏のお仲間がオペレータとして順番に作業を行ったが、ちょっとした各部の調節や、束になって入った茎を取り除く際に、少し止まる以外は快調に収穫していく。その後、茎の挟まりを防ぐための調節を施した後、別の4枚のほ場を収穫。最終的に合計8ほ場の収穫を終えることができた。

収穫前に20.9%だった水分量は、乾燥後には13.0%になっていた(写真右)。
茎葉部等は、機体後部より細断して排出(写真左)。

お手持ちの汎用コンバインで子実とうもろこしの収穫ができる、収穫キットが登場!

ヤンマー汎用コンバイン用 子実とうもろこし収穫キット

セット内容

  1. 基本キットは、大豆キットの有無でお選びください。
  2. デバイダキットは、汎用コンバインの仕様によってお選びください。
商品名 型式 小売価格(税抜) GC950
GC980
AG1100 AG1140R
1.基本キット (大豆キットをお持ちの場合) C1140K ¥303,000
(大豆キット未所有の場合) C1140K,B ¥370,000
2.デバイダキット 標準ヘッダ(2.1m用) D1140 ¥390,000
ワイドヘッダ(2.6m用) D1140,W ¥465,000
スーパーワイドヘッダ(3.0m用) D1140,W3 ¥540,000
3.カバー(送塵下部) 1S7321-92300 ¥3,000
  • 別途、取付け工賃が必要となります。

【組み合わせ例】

1.AG1140R 標準ヘッダで大豆キットをお持ちの場合

商品名 型式 小売価格(税抜)
1.基本キット C1140K ¥303,000
2.デバイダキット D1140 ¥390,000
合計 ¥693,000

2.AG1140Rワイドヘッダで大豆キットをお持ちでない場合

商品名 型式 小売価格(税抜)
1.基本キット C1140K,B ¥370,000
2.デバイダキット D1140,W ¥465,000
合計 ¥835,000
  • 一部地域において輸送費等により価格が異なる場合があります。

【作業上の注意点】

  • 収穫するとうもろこしの水分や草丈に合わせて、本機を調整する必要があります。
  • 高水分のとうもろこし25%以下、作業速度0.8m/sを限度としてご使用ください。

子実とうもろこし栽培のメリット

排水性改善から連作障害の回避、手間の軽減まで、とうもろこしは栽培することによるメリットが多いのも魅力だという。

1. まず注目したいのが、ほ場の排水性改善。

「ここはほ場の下から水が湧くから、米以外の栽培は難しい。でもウチは大豆もつくってます。もちろん暗きょも入れてますけど、とうもろこしを大豆の前につくることで、とうもろこしの根が深く入ってほ場をさらに乾かしてくれる。今年はとうもろこし後に植えた大豆がいちばん良い出来なんです」。確かにこのほ場を見ると、とうもろこしが排水性の改善に有効な作物だということがわかる。

2. 次に連作障害の回避や土壌物理性の改善。

「とうもろこしはイネ科なんで、大豆の前に入れると連作障害の回避に役立つ。あと、ほ場を乾かすことで土壌の物理性が改善されます」。つまり輪作作物として、ほかの作物に好影響を与える。

子実とうもろこしを入れた輪にしたイメージ
輪作作物の収益向上が期待できる。

3. そして、管理の手間がかからないのも良い。

小泉氏は、播種床をつくり鎮圧した後は、土壌処理を1回行うが、それ以降は収穫まで作業は何もしていないという。「畦畔の雑草管理に2回来ただけ、中耕も追肥も一切やってません」。

子実用とうもろこし体系概要(一例)

4. また、ほ場の畑地化で、機械の汎用利用を可能にする。

小泉ファームでは、水稲を乾直で栽培しており、その際に使う播種機を、大豆やとうもろこしでも使っている。さらに今後、とうもろこしに対応した汎用コンバインを使えば、収穫機も活用できる。

5. さらに基本的な部分で、国産とうもろこしには、Non-GMO(非遺伝子組み換え)という付加価値がある。

飼料用としてもそうだが、今後、食用として流通し始めた際、大きな魅力になるはずだ。このように子実とうもろこし栽培には多くのメリットがある。

今のところ乾燥貯蔵、流通販売などの課題もあるが、小泉氏をはじめ勇気あるプロ農家や有志の方々には、今後も、とうもろこし栽培を組み込んだ、新しい営農スタイルの確立を目指して欲しい。

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