佐藤 崇徳 様
北海道 別海町
- Profile
- 1974年、北海道別海町生まれ。帯広畜産大学別科(草地畜産専修)を卒業後、実家で就農。2013年に経営を後継する。経産牛100頭、育成牛80頭、草地40ha。JA道東あさひの組合員18戸を構成員とする西春別TMR(混合飼料)センターの(有)ウエストベース取締役。同センターは1700haの草地を管理し、構成員18戸に毎日180トンのTMRを配送している。
北海道別海町は国内最大の生乳生産量を誇る酪農王国。精鋭の酪農家が結集する一大産地にあって、とりわけ高い生産性を維持しているのが株式会社オークリーファームの佐藤崇徳さんだ。
一頭当たりの乳量は1日40kgを超える。その秘訣は「牛にとってよりよい環境づくり」。そのために牛舎を清潔にするだけではなく、IoTやロボットを活用して牛の健康状態を把握し、適切な飼養管理につなげている。
北海道 別海町
佐藤さんに乳量を上げるこつをたずねると、「よりよい環境づくり」という答えが返ってきた。「うちは水槽を毎日洗っている。結局水を飲まなければ、餌を食い込めないから。だからきれいにしないといけない」。
牛の寝床に敷き詰める敷料は製造会社に依頼し、1立方メートルのおがくずに対して15kgの石灰を混ぜている。「石灰には殺菌作用があるから、乳房炎が減った」。
牛舎に入ると、特有の臭気はほとんどない。中央の通路は床が清掃されている。「誰でも汚いところでは仕事をしたくない。牛も同じだと思うから」と佐藤さん。
牛舎内の各所にはカウブラシが設置され、牛が回転するブラシを体に擦り付けるのを楽しんでいる。ブラッシングされた清潔な肌は体熱を放出させるので、牛はヒートストレスから解放される。
牛舎の中央には給飼通路があり、その左右のうち片側は搾乳ロボットがあるフリーストールであり、もう片側は乾乳と分娩、育成といったそれぞれの乳牛の場所となっている。
搾乳ロボットとは、乳牛が搾乳室に入室すると、センサーで乳頭の位置を確認してブラシで洗浄し、それが終わるとティートカップと呼ばれる機器を装着して搾乳を始めるロボット。一連の作業が終わるとティートカップは外れ、牛は勝手に退室する。
ロボット化により搾乳の作業人数は家族四人から佐藤さん一人だけで済むようになった。といっても佐藤さんは搾乳するのではなく、牛や機械の監視をしている。加えて以前であれば搾乳回数が1日当たり平均2回だった。それが搾乳ロボットを導入したことで平均3.5回に増えた。かつては人手がまわらず、十分に絞り切れていなかったわけだ。
それにしても、なぜ乳牛は人に追い立てられなくても、搾乳ロボットまでやって来るのか。理由は、飼槽では濃厚飼料の一部だけを与え、残りを搾乳室で食べられるようにしていること。このため牛はエネルギーを取ろうと、自ら搾乳室にやって来るようになる。搾乳室では個体ごとの乳量の実績に応じて、濃厚飼料を与える量を調整しているという。分娩後は1日当たり4kgから始め、30日目で8kgに達するように設計している。その後は乳量に応じて調整する。乾乳前14日からは段々と減らしていき、乾乳予定日に0.5kgになるようにしている。
乾乳期に入ると、収穫時期や発酵品質の観点から最も良質と思える粗飼料を与えるという。「お腹に胎児がいてルーメンの容積が小さくなっている中、どれだけ食わせられるかは非常に大事。このときに食わせられないと、分娩後もきちんと食ってくれなくなり、乳量が伸びていかない」そうだ。
佐藤さんは生産性を上げるためにさまざまなデータを取っている。たとえばロボットが搾乳した生乳はすぐさま自動的に計量し、その成分が分析される。また牛の首にはセンサーを取り付け、活動量と反芻の回数も計測している。一連のデータは個体にひもづけされ、事務所のパソコンで閲覧できる。「そこから気づくことは多い」と佐藤さん。一例を挙げれば、ある個体について生乳の電気伝導度が上昇していたり、搾乳量が減少したりしていれば、乳房炎の疑いがある。あるいは活動量が上がり、反芻の回数が減れば、発情している可能性が高い。
酪農にとって発情の時期を見極めることは非常に大事だ。乳牛は平均して21日周期で発情する。もしその時期を見逃すと、種付けするタイミングを失してしまう。結果、次の発情まで21日程度待たねばならない。それだけ餌は無駄になるし、生産効率は下がっていく。
牛舎の中央通路では頻繁にオランダの餌寄せロボットが行ったり来たりしている。代理店によると、このロボットを導入した農家では、毎日の餌寄せは人が3回だったのをロボットで6~8回やるようにした。結果、牛群全体の乾物摂取量が6%増、乳量が3%増となり、とりわけ初産牛と高泌乳牛の乳量が上がったという。
ほかに乳量を上げる工夫としては大型と小型の扇風機を設置している。大型は舎内に空気の流れをつくり、小型は風が届きにくい場所に向けている。府県では一般的な手法だが、北海道でも最近になって暑さが厳しくなってきたことから使い始めた。北海道でも扇風機を入れる酪農家は増えているが、佐藤さんが違うのは冬でも大型だけは稼働させること。「暑い空気は畜舎の上空にあるので、それを下方におろすため冬でも回している」とのこと。
酪農業といえば家族総出でほぼ年中無休で働いているのが実態である。佐藤さんはロボットを導入したことで、働き手は以前であれば家族四人だったのが、いまでは搾乳や餌やり、繁殖管理などの主な作業はほぼ一人で済むようになったそうだ。そんな佐藤さんが望むのは自分も含めて家族そろって休める日を持てること。
「そのためには最低限の雇用労働力が必要なので、ロボットを現状の2台から4台に増やすことを考えている。4台になれば、従業員を一人か二人雇えるかなと。そうなれば自分も休める」。遠からぬうちにロボットを増やし、それを実現するのが佐藤さんにとっての当面の目標となっている。