2019.07.11

高精度の自動運転を実現した「オート田植機」で農業の未来はどう変わる?

「SMARTPILOT」シリーズの自動運転技術を搭載したロボットトラクター/オートトラクターに続く第2弾として、「オート田植機YR8D,A」が市場投入され、この春から実際の現場で稼働しています。

農業人口の減少や高齢化が問題になる農業の現場で、自動運転機能を搭載した「オート田植機」に求められるものは何か。
「オート田植機」をいち早く導入された先進的な農業法人を訪問し、自動運転機能のメリットや操作性の感想、また、そこから広がる新しい農業のありかたをうかがいました。

高精度な「自動直進」と「自動旋回」を可能にした、「オート田植機YR8D,A」

経営体が減少する一方で、出荷量が伸びる農業

農家や法人組織などを含む農業経営体の数は、年々減少傾向で推移しています。農林水産省の「農家に関する統計」によると、ここ13年間で農業経営体は約79万も減少する見込み。また農業従事者の高齢化も進行しており、働き手の65%は65歳以上、40歳以下は10%まで減少しています。こうした現状を背景に、農家の集約や一農家の大規模化が進んでおり、少ない人数での効率的な作業が求められています。

しかしこうした状況下にあって、農業総産出額は、2010年の8.1兆円まで落ち込んだものの、2017年には9.3兆円にまで増加しています。農業人口は減少していますが、一方で、産出額は増加傾向にあることから、農業は今後まだまだ伸びる可能性がある産業だといえます。

※農林水産省「農業センサス」、「農家に関する統計」を基に作成

熟練者でも負担の多い田植え作業を、自動運転により標準化

一般的に田植えは4月~6月に行われます。農家の方々は、苗が植え付け適期にある短期間に田植えを終えなければならず、1日に8時間以上作業することも少なくありません。また田植えは、後工程の管理作業や最終的な収穫作業を効率良くこなすため、真っすぐに行わなければならず、長年の経験と技術が必要な作業。苗の並びは最終的な収穫量に影響するため、田植機の運転は、熟練者であっても神経を使います。こうした課題を改善するために開発されたのが、「オート田植機YR8D,A」です。

「オート田植機YR8D,A」は、全球測位衛星システムGNSSを活用し、高精度な「自動直進」と「自動旋回」を可能にした田植機。誰でもまっすぐな植え付けが可能なうえ、自動運転で長時間労働の負担も軽減しています。

ほ場脇に基地局を設置し、GNSSと連動させることで、誤差数センチの植え付けを可能にしています

次世代の農業経営をめざし、6次産業化を進めるアジチファーム

この新技術をいち早く導入し、田植えの効率を劇的に向上している、農業法人があります。福井県にあるアジチファームは、約60ヘクタールのほ場で、主にお米の栽培を手掛ける農業法人。栽培する品種は米粉米や加工用米、備蓄米、飼料用米などが中心で、一般的な農業法人と違い、主食用米以外のお米の栽培が、全体の95%以上を占めるという特徴を持っています。

また、お米の生産・販売だけではなく、自社製の米粉を使ったパンやピザ、スイーツなどの加工にも力を入れており、それを販売する直売所やカフェなども運営。食品加工や流通販売にも業務を展開する「6次産業化」を積極的に進めています。

アジチファームが経営する「直売所・農家食堂 越麺屋」

農業のIT・ICT化の一環として、オート田植機を導入

アジチファームのもう一つの特徴は、IT化の導入や、現場と事務作業を分離した法人の組織化など、積極的な効率化を図っているところです。「アジチファームでは、従来の家族経営のような熟練者の勘やノウハウに頼った農業経営からいち早く脱皮する試みを続けてきました。オート田植機の導入も、こうした取り組みの一環です」と語るのは、代表取締役社長の伊藤武範さん。2017年からは独自の「ほ場管理システム」を導入し、パソコンやスマートフォンを使ったほ場の管理や、収集したデータの活用も進めてきました。

「熟練のオペレーターが持つ、ほ場ごとの知識やノウハウは、システムによりデータ化できました。あとは、熟練者が持つ田植機の運転や操作といった、技術の部分をどうするかでしたが、オート田植機の導入で、この技術の標準化も図れました」。導入により、これまで4人で行っていた作業を、2人で行うことができ、マンパワーの部分も飛躍的に向上したと喜ばれています。

「オート田植機YR8D,A」で作業していると、道行く農家の方に使い勝手を聞かれることも。周囲の注目も高いようです。

誰でも簡単に植え付けが行え、作業効率も飛躍的に向上

人の技術に頼らない運転や操作を体感しているのが、実際にオペレーターを務めている北村知也さん。アジチファームでアルバイトをする大学生です。

「オート田植機は、既に30日以上は使っていますが、これまでに比べすごく円滑に作業を進められています」と北村さん。昨年までは、1日最高で1.5ヘクタールだった植え付け作業が、今年は1日で3ヘクタールの植え付けをできるまでになったといいます。「従来、機械を停めて行っていた植え付け状態の確認や、ちょっとした水分補給も動かしながらできます。運転に神経を使わない分、苗継ぎや肥料の補充に注意を払うことができるので、ロスもストレスもありません。作業効率は格段に上がりました」と語ります。タブレットによる操作も簡単で、“ほ場登録”などの事前準備も楽に行うことができるので、北村さん自身も「オート田植機YR8D,A」を大変気に入っているようです。

「直進だけでなく旋回も自動なので、植え始める位置のばらつきもありません。メリットは大きいですね」と北村さん

ヤンマーによる、農業のIT・ICT化の推進にさらに期待

「オート田植機YR8D,A」の導入で作業の標準化が進んだ結果、オペレーターの若返りも進んでいるというアジチファーム。これまでは60~70歳代が中心でしたが、20~30歳代の若手のオペレーターも増え、オペレーター不足の解消にも一役買っているといいます。「若い人たちは、タブレットなどを使うということに抵抗がなく、トレーニングも目をキラキラさせながら取り組んでいます。若い世代に新しい農業の魅力を伝えるという意味でも、非常に良い機械だと思います」と、伊藤社長。効率化だけではない魅力も実感されています。

今後もさらにIT、ICT化を進めていきたいという伊藤社長。「オート田植機などを含めた、IT・ICTをより積極的に進め、農業経営を安定させながら、拡大を図っていきたいと考えています。農業のIT・ICT化は始まったばかりだと思うので、ヤンマーさんにはさらなる進化に期待しています」。

「ヤンマーさんには、より長時間動く機械や、圃場間移動の自動化なども進めてほしいですね」と伊藤社長
アジチファームが経営する「越麺屋」では、米粉を使ったパンや、米粉を使ったベトナムの麺「フォー」が人気。

 

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