2020.09.08

持続可能な農業の未来に向けて取り組むアグリロボティクス

未来の農業では、自動化された農業用ロボット「アグロボット」など高度なテクノロジーが駆使されることで、土壌環境の最適化や作物の監視、収量の最大化、病害対策など、精密農業技術の活用がますます拡大していくことが予想されます。ヤンマーは、自動化と農業機械分野における豊富な経験を持ち、先進的な農業用ロボットの研究分野をリードしています。

農業をとりまく環境の変化

農業ほど重要な経済セクターは考えにくいでしょう。さまざまな課題を抱えながらも、世界中の人々の生活に直接影響を与える産業ですが、気温や降水量の変化が作物の収量に影響を与えています。農家や農業従事者は極端な天候の影響に直接さらされており、食品関連の仕事に従事する何百万人もの人々が気候変動の影響をすでに感じています。

さらに、昨今の消費者は食品生産に使用される化学物質の問題をますます意識するようになり、より美味しく、より高品質な農産物の持続可能な生産が求められています。

これらの問題に、環境負荷に配慮しながら対処する最善の方法を見つけるため、多くの政府が自動化の専門家や技術者を頼り、農家の生活改善、消費者需要の対応など、業界が直面している数々の課題に取り組んでいます。

イタリア SMASHでのスマート農業研究

農業における自動化や技術の向上自体は目新しいものではなく、日々進化しています。新しい点は、食物の病害対策と不安定な気象パターンに関連する問題への対処にテクノロジーが使われるようになったことです。現在、化学肥料の削減や用途の制限を継続的に行い、環境にやさしく持続可能な方法で十分な収量を得ることが重視されています。

一方で、干ばつ、洪水、新種の病害中の発生は、今や世界的な脅威となっており、災害が少ないと言われているヨーロッパでさえ大きな課題に直面しています。イタリアにおいては、気候変動の影響により2018年のオリーブの収穫量が過去25年間で最悪の57%もの落ち込みを見せたと科学者は指摘しています。

イタリア・フィレンツェの丘陵地帯にあるヤンマーR&Dヨーロッパ(以下、YRE)の研究施設では、農業における付加価値向上など次世代の就農者を惹きつける様々なフィールドベースの研究に注力しています。

その中には、10社の技術パートナーと協力して2年間で400万ユーロをかけた「SMASHプロジェクト」も含まれ、作物の遠隔監視、分析、栽培管理技術からなる精密農業のバリューチェーンを開発しています。

ヤンマーR&Dヨーロッパ
ヤンマーR&Dヨーロッパ

SMASHとは「Smart Machine for Agricultural Solutions Hightech」の略で、このプロジェクトにはトスカーナ地方政府が共同出資しています。プロジェクトでは、最新の情報通信技術を駆使して作物や土壌を調査し、収集した情報を分析し、正確で実用的な情報を農家に提供して作物管理をサポートするためのモジュール式ロボットプラットフォームを開発しています。

ヤンマーも多くの役割を担っており、例えば、モバイル操作(精密噴霧を含む)できる多目的ロボットアーム制御システムの開発、位置情報取得技術のためのセンサー統合、および技術パートナーとの協同によりそれらを搭載するロボット車両を制御するための自律走行とソフトウェア開発を行いました。

YREのモデリング・制御エンジニアのManuel Pencelli氏は、作物のチェックと管理、分析用土壌サンプルの採取、および精密な農薬噴霧の正確なターゲット設定ができるアグロボットの試作機を開発しています。

YREモデリング・制御エンジニアのManuel Pencelli氏

「プロジェクト全体を通してたくさんの技術パートナーと協力してきました。車両の構造開発には機械的な専門知識が必要でしたし、互いに通信しあう装置もたくさんあるため、通信技術の専門家が必要でした。実は私たちの出発点はもともと海岸線を移動しながら清掃を行うために作られた自走車両でした」

「SMASHは単一の機械ではなく、それぞれの役割を持ったいくつものデバイスで構成され、それらが、農家を支援するための重要な情報を提供します。」とManuel Pencelli氏は語ります。

SMASHには2つの試作機があり、1つはブドウ用、もう1つはホウレンソウ用です。前者の試作機はすでにピサ州のブドウ園でのテストを実施中で、Manuel Pencelli氏はこのロボットエコシステムを農家に提供できる可能性を実証するために尽力しています。

「SMASHは、ロボット、基地局、ドローン、フィールドセンサーなどのさまざまなデバイスで構成され、それらが互いに連動することで農家を支援する重要な情報を提供しています。実行したい作業をSMASHにプログラムすれば、農家が他の作業をしている間に、SMASHは自律的に働き、作物を監視し、病気を検出し、治療するため、従来に比べ作業時間を大幅に節約することができます。」

マッピングとモニタリング、除草、給餌

SMASHは、モバイルベース、マニピュレーターとビジョンシステムを搭載したロボットアーム、ドローン、および補助基地局で構成されています。農家が直面している環境問題や社会問題を考慮しながら、地理情報学、ロボット工学、データマイニング、機械学習などに関する具体的な識見を提供し、精密農業技術全体で機能するように設計されたシステムだと考えてください。

Manuel Pencelli氏はSMASHの可能性は無限大と考えています。「ロボットアームで実行できるすべての機能に加え、除草や土を耕すアタッチメントもあります。そして、それらの作業を監視および検出と同時に行うことができます。」

ヤンマーは、アグロボットのソフトウェア開発、その他すべてのコンポーネントの統合とインストールを専門としてきました。SMASHは、ワイヤー、センサー、カメラ、GPSレシーバー、8つもの電気モーターがひしめき合う複雑な電子機器の集合体です。自律走行と優れた走破性がさまざまな地形で確認され、2月下旬のぬかるんだブドウ畑でも機能することが実証されました。

「センサーフュージョンは、このプロジェクトで最も困難なものでした。畑は非常に特殊な環境であり、インフラ、土壌、畑の形状、さらにはアグロボットの周りで働く人など状況が変化していきます。したがって、車両の位置特定、ロバスト性の向上、および物理的制約(速度、ステアリング角度、配置、搭載されたデバイス間の通信など)を理解することは興味深いものでした。これらすべての要素が、車両の動きに影響を与える可能性があります。」とManuel Pencelli氏は話します。

マッピングとモニタリング、除草、給餌

技術システムで高付加価値な生産を支援

YREはこの分野での研究活動をさらに進めるために、フィレンツェ大学の農業学部と協力しています。同大学は、持続可能な作物の管理において豊富な経験を有しており、EUが資金を提供するRheaプロジェクトを完了させました。

Rheaプロジェクトでは、高度なセンサー、強化されたエンドエフェクター、意思決定制御アルゴリズムを備えた小型の異種ロボット(地上および空中)を使用して、作物の品質、人間の健康および安全性を向上させ、生産コストを削減することを目的としています。

Marco Vieri教授いわく「ヤンマーは、真の技術システムによって農家が健全で高付加価値な生産を実現するのを支援するという私たちと同じビジョンを共有しています。」

 農業は人間に食料、飼料、繊維、燃料を提供しますが、農村、文化、歴史の問題も考慮しなければなりません。かつては農作業の年間スケジュールが決まっていましたが、最近では干ばつ、害虫、洪水などのリスクを管理し軽減できるようにするための新しい考え方が必要となってきています。生産量を増やすだけでなく、付加価値を高めるために自動化の拡大を模索する必要がありました。

SMASHプロジェクトでMarco Vieri教授は、最新のテクノロジーを実現するだけでなく、研究には全体的なアプローチが必要であると考えました。

フィレンツェ大学農学部 Marco Vieri教授
フィレンツェ大学農学部 Marco Vieri教授

「ヤンマーは、技術システムで農家が健全で高付加価値な生産を実現するのを支援するという私たちのビジョンに共感し、SMASHにおいてブドウ畑とほうれん草などの園芸畑作物の2つのシナリオに対応したロボットの開発を担いました。私たちは農業機械と新技術の可能性について幅広い知識を持っており、土壌や植物の微生物にとって安全ではない農薬の使用を減らしながら、栄養分と有用菌を活性化させるのに貢献します。」

農家たちは気候、排気、持続可能性をめぐる議論の最前線にいると言っても過言ではありません。イタリアのこの地域におけるブドウ、オリーブ、ナッツなどの高価値作物の栽培においても、科学的データと農家のニーズを結びつけるために、自動化されたコネクテッド農業を活用していかなければいけません。

結局のところ、ロボットは1日24時間稼働でき、サイズが小さいためトラクターよりもほ場への影響が少ないのです。従来のトラクターの数分の1のサイズのロボットを想像してみてください。AIをベースにしたテクノロジー主導の精密農業を今後数年間のうちに提供できる可能性があることは容易に想像できます。ドローンを使用して畑をマッピングし、作物の生育状況を確認することや、あるいはアグリロボットを使用して、作物の収穫、播種、適切な量の農薬や肥料を散布し雑草を処理するなどの用途があります。必要な場所に必要なだけの作業を行うことにより、結果として人件費、資材コスト、CO2排出量の削減が期待できます。

ヤンマーでは、先進的な農業ロボットの研究を進めており、今後の精密農業技術の向上の可能性と潜在的なメリットを示すことに挑戦しています。

畑で作業するロボットトラクターが身近な存在になるかどうかはまだ分かりませんが、土地の品質や作物の収量を持続的に向上させるためにテクノロジーを活用することは間違いありません。

将来畑でドローンが作物の上を浮遊し、農家がロボットを駆使して生育パターンや養分の必要量を識別し、正確に農薬や肥料を供給できるようになれば、ロボットは現在使用されている農業機械に加えて歓迎されるものになるでしょう。

ロボット本体にはSMASHの技術パートナー名が記載
ロボット本体にはSMASHの技術パートナー名が記載

 

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