2018.02.02

協働でカイゼンを展開し、開発したサトウキビ収穫機HS2000

タイの砂糖生産量は世界第4位、輸出量は世界第2位を誇っていますが、その生産量の大部分は小規模農家により成り立っています。甘味原料およびエタノール原料としての需要は増加傾向にあり、サトウキビ収穫をはじめとする機械化一貫体系への事業拡大を図るため、2015年より開発がスタートしました。2017年2月にはその第1号機が契約・納品され、今後さらなる拡販を目指しています。
2015年にプロジェクトが発足し、2017年より本格生産が開始されたサトウキビ収穫機HS2000。今回は、本機開発を担当された北岡さん・松岡さんと、生産立ち上げに尽力された萩原さん・西村さんにお話を伺いました。

松岡 功治
ヤンマー アグリ事業本部※1開発統括部試験部 評価グループ(岡山)
2001年入社以降、作業機台車やクールコンテナなどの設計に従事。2010年よりYHコンバインの設計も経験し、HS2000の試験を担当。生産立ち上げ直前は、4ヶ月間にわたりタイでの現地試験を担当。

北岡 治正
ヤンマー アグリ事業本部※1開発統括部 第二商品開発部 普通型グループ
2011年入社以降、コンバインの設計に従事。2015年から文明農機に駐在し、HS2000のエンジン周辺の設計を担当。HS2000の生産が立ち上がった後は、ヤンマー農機製造岡山に戻りサポートを継続している。

萩原 拓治
文明農機※2製造部 生産部資材課 部長
1993年文明農機に入社し、サトウキビ・タバコ関連機器の開発を担当。1995年に一度退社し、2008年に復帰。以降、生産管理や資材関連の業務に従事。現在は生産に関わる全般を担当。

西村 和明
ヤンマー アグリ事業本部※1生産統括部 グローバル生産推進部
1993年セイレイ工業(現ヤンマー農機製造)入社以来、コンバインの生産に従事。2017年4月から文明農機に駐在し、工場の改善活動に注力しHS2000生産に当たっての基盤づくりを担当した。

※1 4月2日付けでアグリ事業本部を持株会社であるヤンマーホールディングス株式会社の100%子会社として、新たにヤンマーアグリ株式会社を設立。
※2 4月1日付けで文明農機株式会社の製造事業をヤンマー農機製造株式会社へ、販売事業をヤンマーアグリジャパン株式会社へ事業譲渡を実施。

※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。

すべてがゼロからのスタート

「私たちヤンマーの開発メンバーはサトウキビ収穫機に携わった経験がなく、文明農機も大型のサトウキビ収穫機を扱ったことがなかったので、初めてだらけの開発でした」

 

と話す北岡さん。

HS2000に搭載するのは200馬力近い高出力エンジン。これに対し、北岡さんがこれまで担当していたコンバインは最大でも100馬力程度。この桁外れのエンジンを搭載したHS2000設計の中で北岡さんが最初に直面した課題は、ヒートバランス。収穫作業中の埃の多さは想像以上で、作業中に吸入口のメッシュに詰まる埃を頻繁に取り除かなくてはいけなかったのです。
ここで生きたのが、文明農機のこれまでの経験。ファンを逆転させて逆向きの風を作り、目詰まりしたメッシュの埃を吐き出させるという方法でした。ラジエーターに作用するエンジン冷却ファンを吐き出し方向にしたのも文明農機のノウハウからでした。
こうした問題を解決しても、次から次へと試練が待ち受けていました。

松岡さんは、

「タイで作業試験をしていると、私たちの持つ常識は全く通用しなかったですね。例えば…、作業部分を土に潜り込ませながらサトウキビを収穫していくのですが、ほ場の中に直径30cmくらいの切り株が幾つもあるんです。サトウキビが密集している中を進んで行くので、気付かずに切り株に機械をぶつけて壊すことが度々ありました」

 

と語ります。
タイではそれが特別変わったことではなく、収穫方法を変えることもできないため、本機の強度を上げ、保護装置を採用しました。これにより、切り株にぶつけても保護機能が働き、機械を破損から防ぐことができダウンタイムの大幅な短縮が可能となりました。
そして、松岡さんがタイで課題を洗い出し、日本側の開発チームが直し、またタイで松岡さんが確認するというトライアンドエラーを、4ヶ月間にわたり行いました。

カイゼンを繰り返して実現した効率的な生産

HS2000の設計が完了し、次に待っていたのは工場内のカイゼンでした。

「HS2000の生産の話をいただいたとき、20台/年というのは正直無理な数字だと思っていました」

 

と、萩原さんは言います。
これまで生産現場で働くベテラン従業員に支えられてきた文明農機でしたが、生産・組み立てのノウハウの多くがそれぞれ個人のものとなっていました。
そこで西村さんが最初に取り組んだのが、工場内の見える化でした。文明農機は2014年にヤンマーグループの仲間入りをしたばかりでヤンマーの部品管理システムなどがまだ導入されておらず、工場内の部品管理も個人のノウハウに頼った部分が多かったのです。

西村さんは、

「文明農機に駐在して初めの頃は、部品を探すだけで半日かかることも珍しいことではありませんでした。そこで、部品の保管場所が誰でも分かるように部品棚を作り、そのロケーションを見える化させることから始めました」

 

と話します。

文明農機のベテラン従業員も最初は半信半疑でしたが、ヤンマー農機製造の手法を取り入れて協働でカイゼン活動が展開されました。生産に必要な部品は極力システムで管理し、工場内に保管された部品は誰でも迷うことなくピックアップでき、スムーズな生産が行えるようカイゼンが繰り返されました。誰もが効果を実感できるようになると、生産現場の方々も積極的にカイゼンに取り組み始めてくれたのです。これまでの個人に頼っていた部分をすべて見える化し、システム化された工場を目指し全員で取り組みました。

「アグリ事業部やヤンマー農機製造、文明農機にも協力いただき工場の『最適化』ができたことで、今はその数字を現実的な数字として捉えられるようになりました」

 

と萩原さんは語ります。

工場の改善活動をリードした西村さんは、

「文明農機の皆さんが、私たちの提案を最初から受け入れてくれたことに今でも感謝しています。皆さんが自ら動いて熱心に取り組んでくれたからこそ、この短い期間で生産立ち上げができたと思っています。これは文明農機の社風で、私たちも見習わないといけないと感じています」

 

と話してくれました。

お客さまからの評価を受けるのはこれから

2017年5月には生産が軌道に乗り始め、ヤンマー開発メンバーは岡山へ戻っていますがHS2000のサポートを継続しています。

北岡さんは

「今はまだ生産が始まったばかりなので、実際にお客さまに使ってもらい、評価をいただくのはこれからです。初めてつくった機械なのでご指摘いただくところは多いと思いますが、それを素直に受け止めて対応していきます」

 

と語ってくれました。
また、松岡さんは

「HS2000の第1号機を購入いただいたお客さまは、周りからヤンマーを買った理由を聞かれると『機械を買ったのではなくヤンマーのサービスを買った』と答えているそうです。これは、日頃からYSPの営業・サービス社員がいかに頑張っているかという成果だと思います。これからも、彼らを裏切らないお客さまに利益を生み出す機械を作っていきたいですね」

と、ものづくりへの熱い思いを語ってくれました。

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