2017.12.01

“ネギに土をかけるだけの機械”って何!? マニアックすぎる農機具の世界

こんにちは! ライターの社領エミと申します。 普段WEBを中心にインタビュー記事、レポート記事などを執筆している私ですが、このたびヤンマーさんのY MEDIAに寄稿させていただくことになりました! いつもとはだいぶ違ったテイストの記事となりますが、何卒よろしくお願いします。

 

突然ですが、こちらの写真を見てください。

なんの変哲も無い畑ですよね。
ではみなさん、この畑に張ってあるビニールのトンネルはどうやって作られているかご存知ですか?

 

実は……。

 

一般人の私が全然見たことない機械で、

 

土に棒を差し……

 

 

ビニールを張り……

作られているのです!! 知らなかったですよね〜!?

農業では、このトンネルマルチ支柱打込機 うち丸をはじめとし、私たちが全く知らないマニアックすぎる機械が多く活躍しています

 

農業機械のパンフレットを見てみたんですが、『人参を作るための機械のページ』だけでもおびただしい量の機械……!

↑こ、これが全部人参のため〜!?

 

 

人参って、こんなに沢山の機械が関わって育てられてたの!?

私たちはいつも人参を食べていますが、不思議なことに「どのように作られ、収穫されているのか」をあまり知りません。

しかし、今こそ知るべきではないでしょうか? 目の前にある野菜が、多くのマニアックすぎる機械の力を借りて作られているという事実を……!

 

というわけで今回は、農業機械の工場に行って驚愕のマニアックすぎる機械をたくさん見てきました!

 

まったく見たことない & 知らない機械たちが、私たちがいつも口にする野菜に深く関わっていることがとても新鮮で面白かったです。皆さん、とくとご覧あれ!

工場にやってきた!

はい! というわけで、静岡県にあるニューデルタ工業株式会社にやってまいりました〜!

ニューデルタ工業株式会社は、ヤンマー株式会社の管理機を製造している会社。

本日は、ヤンマーアグリジャパン株式会社西浦さんにご案内いただきます!

西浦 雅宏(にしうら・まさひろ)
ヤンマーアグリジャパン株式会社 農機推進部 関連商品推進グループ 課長

「西浦さん、今日はよろしくお願いします! 私たちが知らないマニアックな機械を沢山紹介してくださ〜い!」

「はい、よろしくお願いします。では手始めにこちらはいかがでしょう……。先ほどのビニールトンネルをはがすだけの機械、『トンネルマルチはぎとり機 MKF 75C』です」

は、はがすだけ〜〜〜!? マニアックすぎるでしょ! はがすのも機械でやるんですね!?」

「大きな農家さんだと、手作業でやるにはかなり無理があるので。……やっぱり、こういう機械って皆さんにあんまり知られてないんでしょうか?」

「失礼ながら、全く知らなかったです」

 

「そうだったんですか……。それなら、ここには社領さんの知らない機械が沢山あると思います。ほかにもいろいろお見せしますね」

さまざまな「うねを作るためだけの機械」

工場の敷地内にある、小さな畑にお邪魔させていただきました。

「たとえば、畑にある”うね“」

「あー、畑でよく見る部分ですね。なぜか盛り上がってるとこ」

「このうねを作るための機械があるんですが、ご存知ですか?」

「え!? これって機械で作ってたんですか!?」

「はい。こちらが、『うね立て機内外盛整形器PSC-RKを装着した管理機YK450RK』です」

「何て?」

↑これが、『YK450RK+内外盛整形器』だ!

「し、知らなかった……! うねって、こんな風に作ってたんだ! 」

「しかしこれだけではありません。実はこのうね立て機、簡易的なものから本格的なものまで、さまざまな種類がありまして…」

多すぎちゃう…!?

「作物や地域によって、うねが高いもの、低いもの、広いものなど、必要なうねの種類が違うのでその分機械も必要なんです」

「めちゃめちゃマニアックだな……!」

「その中から2つご紹介させて頂きます。まずは、ものすごく高いうねを作るための機械、ロータリー一体型整形機 ダブルアタッカー2型981MK』です!」

「おおお、本物の農機だ……!! でかい! 重い! すごい〜!」

このように、エンジンを掛けてハンドルを持つだけで力強くカチカチのうねを作ります!

出来上がったうねを直に触ってみたんですが、コンクリートかと思うくらいの固さでした…!

「うねがカッチカチだったら何か良いことがあるんですか?」

「いえ。重要なのは、カッチカチになるほどの威力だから作ることができるうねの高さです。うねが高いほど水はけがよくなるので、作物もうまく育つんですよ。このうねはイチゴ用のうねで、高さがあるのでイチゴが垂れても汚れないんです」

「なるほどなぁ。ていうかさっきから名前めちゃめちゃかっこいいですね、『アタッカー』って!」

「土にパタパタとアタックしてしっかりとしたうねを作るので、アタッカーと呼ばれます」

「ちょっと触ってみてもいいですか?」

「ああああああああ!!!」

※写真は加工しております。安全面に配慮したうえ、特別な許可を取って撮影しています。絶対にマネしないでください。

 

「めちゃめちゃ力強いですね!」

「ほかにも、このようなうね立て機があります」

「これもうね立て機なんですか? 出来上がりの想像が全くつかないです」

「実はこちら、とてもハイブリッドな機械でして。見てください」

うね立てとビニール張りを同時に行っている……!

↑ビニールの端を土の中に巻き込みながら進みます! 器用な作りだ〜!

「たまに見たことある『ビニールを張った畑』って、ひとつの機械で作られてたんですね!? すごい〜! 完全に手作業かと思ってました!」

「手作業をなるべく機械化して農家さんの省力化に努めるのが、我々農機メーカーの仕事です!」

ネギに土をかけるだけの機械

「ところで社領さん、『白ネギ』の白い部分って土に埋まってるから白いというのはご存知でしたか?」

「え!? そうだったんですか!?」

「実は、成長するごとに根元に土をかけられて、地中に埋まった部分が白くなるんです」

「普通に白い部分が伸びてくるのかと思ってました、全く知らなかった……!」

「そしてこれが、そのネギに土をかけるための機械……YK650SK-Dです」

ネ、ネギに土をかけるためだけの機械……!?

↑ネギにかけるための土が左右から噴き出しています!

「うわ〜!! ほんとに土をかけるだけだ〜!!

 

「地味に見えるかもしれませんが、威力はすごいですよ」

「いやいや、ほんとですか? けっこう小さい機械だし……」

「ほんとだ……!!」

※写真は、土の飛び具合をわかりやすく伝えるため加工しております。実際には機械の後方より土の飛びを確認しております。危険ですので、絶対にマネしないでください。

「これが実際の白ネギ畑です。こんな広い場所でネギ一本一本に土をかけていくのは、手作業だとなかなか大変でしょう」

 

「確かに! 白ネギ農家さんには欠かせない機械なんですね。いやしかし、私白ネギ大好きなんですが、まさか『ネギに土をかけるための機械』があったとは……」

なんとも癒される野菜収穫機

「では最後に、野菜収穫機をご紹介しましょう。普段食べているたまねぎやキャベツがどのように収穫されているかはご存知ですか?」

「全っ然、想像つかないですね……!」

「主だった野菜には、それぞれの野菜専用の収穫機があるんです。たとえば、大根収穫機はこちら!」

「かっこよすぎるでしょ……!? モビルスーツじゃないですかこれ!?」

「かっこいいんですよ。では、動くところを見てみましょうか」

今回の取材では野菜収穫機はなかったので、別の動画にてご紹介します!

大根ってこんなに角栓みたいにスッポンスッポン収穫されてるんですか〜!?

「はい。これ一台で、大根の引き抜きから葉切りまで行います! ほかにも、先ほど話に上った白ネギなんかはこの機械で……」

「うわ、F1みたいですね!」

「こんな風に収穫されます」

「器用に抜き取るでしょう?」

「うわー、ネギってこんな風に収穫されてたんですね! なんか……なんか……!」

「そのほかにもたまねぎや人参、にんにくなど、多くの野菜は機械で収穫されてますよ」

「全然知らなかった……全部手で引っこ抜いてるのかと思ってました、機械って思ったよりなんでもできるんですね!」

どうしてこんなに種類があるの?

というわけで、数々のマニアックな機械をご紹介いただきました。

しかし、農機具を実際に目にした私はまだまだ聞きたいことがてんこ盛り!
ここからは開発の中野さんにもご参加いただき、お話をお伺いすることに。

中野 将憲(なかの・まさのり)
ヤンマー株式会社 アグリ事業本部 開発統括部 第四商品開発部 主幹技師

「今日は色々な機械をご紹介いただきありがとうございました! まだまだ機械がありそうですが、ヤンマーさんの農業機械って全部で何種類くらいあるんでしょうか?」

「全部ですか。そうですね、……数え切れないな……」

数え切れない…!?

「実は、管理機は主に本機とアタッチメントで構成されていて、その組み合わせによって多くの種類が生まれるのです。本機にアタッチメントをつけることで、さまざまな作業が可能になるんです。」

「それぞれモデルチェンジを重ねているので……具体的な数はわかりませんが、もの凄い数になるかと」

「そんなに沢山の種類が必要なんですか!」

「農家さんや地域によって欲しい機械にバラつきがあるんです。◯センチ幅のうねがいいとか、◯列に玉ねぎを植えたいとか。水はけの悪いところでは高いうねが主流だし……」

「細かく対応しているうちにすごい数になったんですね」

「はい。ただ、なるべく複数の作業が1工程でできるようにと努力しています。例えば今日ご紹介した『うね立てマルチ』なんかもそうですね。 あれはもともと『うねを立てる機械』『ビニールをかける機械』で分離していたものなので」

↑序盤で紹介した『うね立てマルチ』。ふたつの作業をいっぺんにできるのは努力の結晶なのだ。

「そういえば、ネギ揚土は見られましたか?」

「見ました! すごい勢いで土が出てました!」

「あの土の出方はかなりこだわりました。ネギに土をかけすぎると成長が止まるので、適量をかけるようにとか。さまざまな土を飛ばす高さ・距離に対応できるカバーの構造とか」

「ほうほう」

「あと、これ。この『ハイブリッド爪』は、正回転と逆回転で違う機能になるんです。これは『傑作』です!」

こちらが、中野さんが開発に携わり、「傑作」と言わしめたツメ。細かな角度・大きさにこだわり、回転の方向によって違う機能を持たせることに成功した新商品です。

↑穏やかな目の奥に、機械に対する愛が燃えている……!

「農業の特性上、多くの機能をひとつにまとめるのは難しい。ですが、ひとつひとつの機能が限定される分、それぞれのクオリティにはとてもこだわって開発しています」

高齢化する農業、これからどこをめざすのか

「というか今日見せていただいた作業って、全部手でやるとなると死ぬほど大変ですよね……!

実は先ほど、機械の真似をして自分でもうねを作ってみたんですが……

機械が15メートルうねを作ってるあいだ、手作業で作った私のうねはおよそ50センチしかできませんでした!

しかも汚い……うねに見えない……。 腕も腰も超しんどかったのにこの出来!

「実際に手作業でうね作りを体験してみて、農機具ってすごいなと……農家さんの時短にもなるし省力化もできるし、私たちの食べているほとんどの野菜に関わっているし、本当に大切な機械なんだなぁと思いました」

「ありがとうございます。実はそもそも、日本の高度経済成長を支えたのは農家……ひいては農機具という見方もできるんですよ」

「え! どうしてですか?」

「昭和30年以降に農業機械が急速に普及したことで、日本に多くいた農家さんの体力・時間面に余裕ができ、働きに出る農家さんが増えたんです。高度経済成長を支えたのは、兼業農家さんだとも言えるんですよ。」

「ぜ、全然知らなかったです! 確かに、それまで手作業でやっていたことが機械で賄えたらかなり余裕が生まれますね。しかし最近、気になることがあるんですが…… 農家さんってどんどん高齢化してますよね? このままだと、日本から野菜が消えちゃわないかと心配です……!」

「よくご存知ですね。確かに高齢化は進んでおり、現在、農家の平均年齢は67歳なんですよ」

「67歳!? 定年超えてるじゃないですか! 80代の人とかもいるってこと!?」

「はい。80代の方も、新しくトラクターを購入してバリバリやってらっしゃったりしますよ」

「いやー、元気ですね……!」

「そうですね。農家さんは皆元気でパワフルです!」

「また、『離農(りのう)』される方も増えてはいますが 、離農された方の田畑を吸収する形で耕作面積を増やして大規模に農業をされる『担い手農家』さんが増えているので、作付け面積はそれほど減少してはいないですね」

「そっか、1戸あたりの耕作面積はむしろ増えているから大丈夫なんですね。安心した〜!」

「はい。我々農機メーカーは、そのような日本の農業を支えている『担い手農家』さんをサポートするのが仕事です。作業を効率的に行う機械の開発はもちろんですが、ソフト面でのサポートも行っています。たとえば、農作物の生育をドローンで空撮し、生育状況を把握すると同時に追肥等の提案をしたり、農家さんの収量アップを目指した土づくりの提案をしたり」

「ドローンも農業界に参入してるんですか!? 歩き回って作物の様子を見ることすら省力化されるのか……!」

「そうですね。農家さんのさまざまな課題を解決していくことが、我々の使命だと思っています!」

「次世代を見据えたアツすぎる使命……! 貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!」

取材を終えて

↑取材中にお見せいただいた、ニューデルタ工業内にある組み立てラインにて。

 

みなさん! マニアックすぎる農機具の世界はいかがでしたでしょうか。

個人的にはとても楽しかったです!
いつも手に取っている大根や白ねぎ……農機具に少し触れただけなのに、野菜を見る目が大きく変わりました。明日からスーパーに行って野菜を見るたびに「お前、あの機械に引っこ抜かれてきたのか……」と愛おしく思うことができそうです。

しかし、私たちが農業から離れ、パソコンの前に座っている間に、農業はこんなに進歩していたとは……!

私たちからすれば一見とてもマニアックに見える農機具の世界。しかし、このような機械の存在が私たちの食生活を支えているんですね。

この年にもなって、そんなごく基本的なことを初めて知るとはお恥ずかしい限りですが……私と同じような価値観を持つ若者ってきっと少なくないはず。この記事が、そんな人たちが少しでも野菜や農業に興味を持つきっかけになれば幸いです!

 

それでは! 社領エミでした。

社領エミ(しゃりょう えみ)
1990年兵庫県生まれ。面白くて変なことを考えている会社・株式会社人間の「書けるムードメーカー」。WEBを中心に記事を書いている。
Twitter:@emicha4649
株式会社人間:http://2ngen.jp/

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