2023.05.23
ヤンマーグリーンシステムとともに園芸の未来を拓き、持続可能な形で発展させる野口いちご園・野口さんの取り組みとは?
人の可能性を信じ、挑戦を後押しするヤンマーの価値観「HANASAKA(ハナサカ)」。
ヤンマーグリーンシステムでは「植物の持つ生命力を自然に引き出し、地球環境にやさしい新たな技術を共に創造する人たちを応援する」活動を、HANASAKAな取り組みとして行なっています。
HANASAKAとは?
そこで今回は、ヤンマーグリーンシステムとともに園芸の未来を考える「HANASAKA(ハナサカ)なヒト」野口一樹さんに、イチゴ栽培や就農を持続可能な形で発展させる活動の背景や現状、今後の展望についてお伺いしました。
野口いちご園・栃木県真岡市
野口一樹(のぐち かずき)
「1年中イチゴで笑顔を届けたい」との想いから 『断熱送風栽培槽 DN-1』を試験導入。 イチゴの周年栽培に挑戦しながら、栃木県の農業を盛り上げるためJAはが野青年部長として就農促進などにも積極的に取り組んでいる。
※取材者の所属会社・部門・肩書等は取材当時のものです。
1年中、栃木県のイチゴで笑顔を届けたい
――「断熱送風栽培槽DN-1」導入のきっかけを教えてください。
栃木県は50年近く日本一のイチゴ産地ということである程度周知されていますが、酷暑期は安定した品質のイチゴが全く収穫できず、“日本一”でありながら、イチゴが無い時期があることを心苦しく感じていました。なんとか、1年中イチゴで栃木県に目を向けてもらえないかと考え、周年栽培に取り組みはじめたのは約6年以上前になります。酷暑期にハウスを冷やすことで解決できるのでは?というアイデアはあったのですが、全体を空調で冷やすと大幅にランニングコストがかかりますし、部分的に水を使って冷やすと、湿度が上がって品質が落ちるなど、さまざまな課題があり実用化には至りませんでした。
そんな時、ヤンマーから「断熱栽培槽」の話を伺いました。開発段階では、冬のイチゴ栽培に暖房を使って成長を早め、春先に冷却して収穫時期を伸ばすことを想定されていたので、当初は酷暑期の活用を提案されたわけではなかったのです。しかし、イチゴの周りだけを冷却するこの断熱栽培槽の仕組みなら“真夏のイチゴ栽培”にも活用できるはず。そう確信し、試してみたいとヤンマーに相談。「やってみよう」と前向きに捉えてくれ、酷暑期の栽培データを取るため、共同試験に取り組むことになりました。
――現在導入から3シーズン目。手応えは感じていますか。
酷暑期に断熱栽培槽を導入するハウスと、しないハウスで収穫率の比較試験をしたところ、1シーズン目からロス率が大幅に減少し、早い段階で想定していた良い結果を得ることができました。ただ当初は、品質を安定させることに注力を注いでおり、コスト面に課題が残っていたので、2シーズン目は温度や時間の設定など、細かな調整を進めていきました。
私は他の作業もあるので、データの収集だけに集中することはできませんが、ヤンマーと連携をとり、フィードバックをもらう形で数値を調整しています。導入初期に2週間に1度のペースでコミュニケーションがとれたことで、信頼関係も深まりました。今では同じ目標に向かう同志のようです。この夏の3シーズン目は、これまで昼間に限定していた検証を夜間にも広げ、品質を保ちながらコストが見合う落としどころを調査する計画です。
――具体的に掲げている目標はありますか。
年間で320日程度は安定してイチゴが収穫できる状態にし、夏のイチゴで冬並みの売り上げを確保することですね。そこまでいけば課題であるランニングコストの回収もできる見込みです。
イチゴはケーキなどの需要もあり、年中求められるものでありながら、国内での収穫量が減少する夏の時期は輸入品に頼っているという現状。季節が逆転している南半球から運ぶため輸送に時間がかかり、イチゴの品質が低下するという課題もあります。季節に関わらず、新鮮で美味しい栃木県のイチゴを年中食べてもらえる状態にすることが目標です。
イチゴ栽培を盛り上げることが栃木県の活性化につながる
――イチゴの周年栽培が叶うことでどんな変化が得られると思いますか。
現状のイチゴ農家は、年間通して収入を得るために、夏だけ玉ねぎや茄子など、別の苗を育てることが一般的となっています。しかし、本来は安定した技術を年間通して活かせる環境を整えることが、産地の魅力を高める武器になると考えています。
この試験導入の成功例ができて、コスト面のハードルも下がれば、栃木県のイチゴ生産量もさらに増加し、県のPRにもつながるのではないでしょうか。イチゴを通して栃木県に目を向けてもらうことができれば、地域が盛り上がり、就農の推進にもつながると考えています。この取り組みが好循環を生み出すひとつのきっかけになるといいですね。
――栃木県の農業を活性化するために取り組んでいることはありますか。
作物の垣根を超えて産地全体を盛り上げていきたいという想いがあるので、JAはが野青年部の部長として雇用の安定化や、新規就農の促進を行っています。作物によっては、季節によって必要な人手が異なるので、産地を連携させ、人の行き来をしてもらうことで、年中通して仕事がある状態を維持できるよう働きかけています。また、新しく栃木県に来て就農された方は、相談する人や、技術を得る機会が限られているので、青年部全体で相談に乗ったり、技術を継承したりするなど、農業・園芸を続けることができる環境作りを心がけています。
――新しい取り組みに挑戦する野口さんの原動力とは?
農業・園芸は「大変」「儲からない」といったイメージを持っている方が多いと思いますが、改善点を見つけて行動すれば、結果が目に見えてすぐ分かる面白さがあります。それをやり甲斐と感じて、新しい取り組みに挑戦すれば責任感も増しますし、うまくいけば収益アップにもつながる。私は今の農業はまだ過渡期だと思っているので、1人が動くことが波動となり、もっと大きく成長できる可能性が十分にあると感じています。農業の価値を発信することが新規就農や後継の育成につながり、産業として魅力的なものになれば嬉しいです。
[取材]福永亜津沙 [撮影]新見和美