2024.07.16
農場での循環型ソリューションで持続可能性を推進
ヤンマーのFarm Circulator Solution(FCS)は運搬性の高いコンテナ型ソリューションパッケージです。農場の廃棄物を、エネルギーとバイオ炭や木酢液に変えることができます。持続可能なサイクルを作り出すことで廃棄物を削減し、より環境に優しい農業に貢献します。
持続可能なサイクル
農場での廃棄物処理には、空気汚染、処理コスト、植物の腐敗による影響などの問題や、政府の規制による焼却期間の制限など、様々な課題があります。ヤンマーのFCSを導入することにより、農家は農場で発生する廃棄物を電気、熱、バイオ炭、木酢液などに変換することができます。
FCSは特に、定期的に枝などの廃棄物が発生するオリーブ畑、ブドウ園、果樹園の課題解決につながります。
フィレンツェにあるYANMAR R&D EUROPE S.R.L.(YRE)の再生可能エネルギーグループのグループリーダーであるロベルト・ムッシ氏は次のように話します。「FCSの特長はその循環性です。農業廃棄物は通常は焼却されますが、ヤンマーの技術のおかげで、廃棄物からエネルギーなどを作ることができます。」以下の図のような資源循環サイクルにより、農場全体の持続可能性を向上させ、環境負荷低減を実現することができます。
農業での廃棄物を利用した再生可能エネルギーの開発
YREの研究員であるヴァレリオ・マガロッティ氏は、農業廃棄物をエネルギーと農場用生成物に変換する技術開発において重要な役割を果たしました。この技術は、農場の廃棄物を収集して塊にし、それをペレットに変換して加工することから始まります。これらのペレットはガス化ユニットに投入され、可燃性の「合成ガス」を生成し、発電機に動力を与えます。この発電機は合成ガスで稼働するように改造されたヤンマーのクリーンディーゼルエンジンです。システムは20kWの電気と35kWthの熱を出力し、農場への電力供給と運用コスト削減を実現します。
ガス化のプロセスでは、バイオ炭と木酢液が副産物として生まれます。バイオ炭は植物から生成される炭の一種で、温室効果ガスの削減が期待されています。バイオ炭を土壌改良資材として使用することで、バイオ炭に含まれる炭素を土壌に閉じ込め、大気中へ放出することを防ぎます。木酢液は、植物の成長を促進し、土壌の状態を改善する天然の肥料です。バイオ炭と木酢液、共に環境面で大きな効果をもたらし、持続可能な農業に貢献します。
よりクリーンな燃料を実現するヤンマーの技術
YREの研究員であるロレンツォ・ペッツォーラ氏は、FCSの主なメリットに、複数の価値ある生成物を作り出せることを挙げます。それらを最大限に活用するためには、バランスの取れたシステムを構築し、それぞれの生成物に最適な品質を確保することだとペッツォーラ氏は言います。
チームが対処しなければならなかった問題はガスの品質です。ガスは汚染物質があることによって品質が低下する可能性があるため、自己洗浄触媒フィルターという革新的な方法を考案しました。「これにより最高品質のガスが得られ、顧客にとって最大の価値を提供することができます。」とペッツォーラ氏は話します。
農場の環境的なメリット
FCS導入によりすでに効果を感じているお客様もいらっしゃいます。フィリッポ・レニャオリ氏は、フィレンツェ周辺地域にある185の農場からなる農業組合の会長です。彼は1年前からヤンマーに協力し、持続可能性という観点からFCSが農場にもたらす2つの重要なメリットに気づきました。
1つ目は、木酢液とバイオ炭の使用によって、畑での化学肥料の影響が軽減されることです。レニャオリ氏は畑の一部をヤンマーの試験用に充て、夏の間オリーブの木に木酢液を4~5回散布したところ、オリーブミバエ(Bactrocera oleae)による被害が大幅に減少しました。
2つ目のメリットはエネルギー消費の削減です。オリーブ農業組合は、フィレンツェ郊外のサン・カシャーノ・イン・ヴァル・ディ・ペーザにオリーブオイル工場を所有しています。農業組合の農場のうち約10か所がFCSを設置している工場に廃棄物を持ち込んでいます。工場では、FCSのガス化装置で生成したエネルギーを使用することで、エネルギー消費量を削減しました。レニャオリ氏は、FCSが事業の持続可能性に及ぼす影響を「農家にとっても私にとっても素晴らしいことです。」とコメントしています。
農業以外の分野への活用
ムッシ氏はFCSプロジェクトの将来も見据えています。分散型エネルギーソリューションとしての役割は、農場におけるエネルギーの持続可能性の向上をもたらす鍵となると考えています。さらに、この新しい技術は他の場所でも再現可能であるため、ムッシ氏はFCSが農場以外にも持続可能なソリューションを提供できると確信しています。
FCSプロジェクトはYANMAR GREEN CHALLENGE 2050における取り組みのひとつです。YANMAR GREEN CHALLENGE 20500は、環境負荷フリー、GHGフリーの企業へと変革することを目指しています。イタリアでの導入は、ヤンマーがこのソリューションを改良し、イタリアおよびヨーロッパでその範囲を拡大するための一連の開発計画の最初のステップであり、YANMAR GREEN CHALLENGE 2050を達成するための鍵となります。
廃棄物処理およびガス化ユニットは標準的な輸送コンテナに収納されており、施設間の輸送が容易で、エネルギーと生成物の供給先である農場の近くに設置できます。また、将来的には現行の改良型4TNV98-IGECSディーゼルエンジンを、ヤンマーグループの会社であるRMBのNeotower25.0天然ガス発電機に置き換えていく予定です。Neotowerはすでにガス燃料生成用に最適化されているため、開発が大幅に簡素化される見込みです。
農業以外にも、都市での循環型ソリューションに適用できる可能性があります。これはFCSと同じ原理を適用し、廃棄物をエネルギーに変換して都市内で持続可能なサイクルを作り出すことです。
FCSはすでにイタリアの農業に素晴らしい変化をもたらしており、今後もヨーロッパに長期的かつ持続可能な利益をもたらし続ける力を持っています。